樋口(1998)による〔『石油の謎をさぐる』(17-19p)から〕


『 石油はその生い立ちからたまり方まで今なお多くの謎に包まれています。これから章を追ってその謎に迫りたいと思いますが、この章ではまずその全体を概観することにします。

1-1 石油とは何か−難しい石油の定義−
 石油というと私達は身近なガソリンとか灯油などを思い浮かべると思いますが、実はそれらは地下から産出される原油≠精製して作った石油製品であり、原油そのものはほとんど一般の人の目に触れる機会はありません。一般には石油という言葉はこの原油から石油製品まで含めて非常に広い意味で使われており、それだけに大変にあいまいな言葉ですが、この本では主として石油イコール原油という意味づけで使うことにします。
 地下から出て来る原油については一応次の様にいうことができます。天然に産出して地表の条件のもとで液状を呈する炭化水素の混合体
 炭化水素というのは炭素と水素の化合物ですが、分子量、化学的構造などから様々のタイプのものが知られていて、どの範囲のものが石油と言えるかを決めるのはなかなか容易ではありません。また液状を呈するというのも正確ではありません。石油のことを英語ではペトロレアムと言いますが、この言葉には本来液体だけでなく気体・固体・半固体のものも含まれています。従っていわゆる天然ガスも広い意味では石油の一部になります。さらに色や透明度なども出てくる場所、深さ、出来た時代などによっていろいろに変化します。原油自体が一定した化合物ではなく、非常に多くの種類の炭化水素を主成分とする複雑な化合物であるためです。こう述べて来ると早速訳がわからなくなったと思われる方が多いでしょうが、どんな大学者でも「石油って何ですか」と聞かれて明快に一言で答えられる人は多分いないと思います。

 原油の中で確認されている炭化水素は350種ほどあると言われていますが、それらは化学構造によって6つのグループに分けられます。また原油の分類法には組成による方法もありますが、一般には重量による方法が用いられており、アメリカ石油協会(API)によって提案されたAPI度が広く実用化されています。
 API度=(141.5/60゚Fの時の比重)−131.5
 つまりAPIの数字が大きい程油は軽くなる訳で、一般に34以上を軽質油、30以下を重質油、その中間を中質油と呼んでいます。比重が1の時はAPIは10度になり、逆にAPIが40度ならば比重は0.82となります。原油の中には炭化水素以外の硫黄・窒素・酸素・金属成分など様々な化合物が含まれ、その割合によって性質が変化します。
 要するに原油とは非常に多様性を持ったもので、その定義を一口で述べるのはほとんど不可能といえる様なシロモノなのです。』