田口(1998)による〔『石油の成因−起源・移動・集積』(14-16p)から〕


1−6 ケロジェン起源説
 図1-2(略)は、ある時点における堆積盆の一断面を例にしてケロジェン起源説にもとづいた三位一体機構論の概念を図示したものである。石油鉱床の形成には
@ 石油根源岩の形成と石油根源岩からのオイル・ガス生成
A 生成したオイル・ガス排出(1次移動)
B オイル・ガスの貯留岩というトラップへの集積(2次移動)
の3要素をダイナミックにとらえることが重要である。石油の2次移動は堆積盆における石油の浮力がおもな駆動力であると考えられており、大きな意見の相違がない。
 1-6-1 石油根源岩
 1-6-1A 石油根源岩とは

 多量の石油を生成させる潜在能力(ポテンシャル)をもつ堆積岩や、実際に多量の石油を生成した堆積岩のことを石油根源岩とよんでいる。前者をポテンシャル根源岩(potential source rock)、後者を有効根源岩(effective source rock)とよぶこともある。またある貯留岩石油の主要な石油根源岩であることが特定されたものは実効根源岩(actual source rock)とよばれることもある。
 石油根源岩には一般に豊富な有機物(量)とHにとんだケロジェン(質)がふくまれている。また石油生成には、充分な時間をかけてある満足する温度までケロジェンが加熱されること(熟成度)が必要になる。
 1-6-1B 石油根源岩の有機物
 石油根源岩の有機物は大きくビチュメンとケロジェンにわけられる。通常の石油根源岩は有機炭素を1〜15重量%、ケロジェンを全有機物量の75〜95重量%、ビチュメンを5〜25重量%ふくんでいる。有機物の量と質にもとづいて石油根源岩の優劣が評価される。しかし石油根源岩の評価基準は実際の産油状況などの経験に左右されるため、研究者・石油開発企業によってことなっている。また比較的にHにとんだケロジェンを多量にふくむ石油根源岩をオイル指向型根源岩(oil-prone source rocks)とよび、比較的にHがすくなく、オイルよりもガスを生成しやすいケロジェンを多くふくむ石油根源岩をガス指向型根源岩(gas-prone source rocks)として区別することがある。
 1-6-1C 石油生成帯
 図1-2にしめした“石油生成帯”(oil generation zone)は、石油炭化水素比(全炭化水素量/全有機炭素量の比)が大きい深度範囲に与えられたものである。石油生成帯の深度はいろいろな堆積有機物の熟成指標にもとづいて間接的に予測できることがわかってきたので、堆積有機物の熟成度の研究は石油根源岩の研究や石油の探査にとって重要である。
 1-6-2 石油根源岩からのオイル・ガスの移動
 非貯留岩オイル(あるいは分散型炭化水素)と貯留岩オイルの生成との直接的関係は、有機成因説のなかでも一致した見解がえられていない。ケロジェン起源説では、石油根源岩中のビチュメンと貯留岩オイルとの有機地球化学的な類似性にもとづいて、石油根源岩の存在を推定し、これからビチュメンの移動があったものと予想している。しかしビチュメンが移動したことをしめす具体的な証拠はいまだ充分に認められていない。
 石油(オイル・ガス)の移動は、3つの連続的な段階にわけられる。
@ 細粒で緻密な石油根源岩中に生成した石油が、浸透率・間げき率の高い粗粒のキャリアーベッド(carrier beds)へ到達する最初の移動が石油の1次移動(primary migration)である。1次移動と排出(expulsion)はしばしば同義にもちいられている。この本ではミクロな視点から見たオイル・ガスの1次移動をとくに排出とよんでいる。
A 石油がさらにキャリアーベッドや複雑な断層網などをとおってトラップに集積する段階が2次移動(secondary migration)である
B 1度トラップに集積した石油が、別のトラップへ移動したり、あるいは地表へ浸出・散逸する段階が3次移動(tertiary migration)である
 いまのところケロジェン起源説におけるオイルの1次移動説は、生成したオイルそのものが水に溶解せず直接排出されるという考え(オイル相移動説)が基本になっている。具体的な排出モデルには、ダルシーの式と相対浸透率の概念にもとづいたモデル、ケロジェンへの炭化水素の吸着を考慮したモデル、炭化水素の分子拡散にもとづいたモデル、微破砕構造の形成にともなうモデルなどが提案されている。』