浅川(1997)による〔『オイルフィールド・エンジニアリング入門』(161-163、166-167p)から〕


9章 非在来型石油・天然ガス資源
9.1 非在来型とは

 非在来型石油・天然ガスの明確な定義はなく、通常の石油・天然ガス以外のものをすべて非在来型と総称している。石油ではオイルサンド、ヘビーオイルおよびオイルシェールがあり、天然ガスではタイトサンドガス、シェールガス、ジオプレッシャードガス、コールベッドメタンが非在来型に分類される。後者の天然ガスの分類はアメリカで用いられているもので、税制上の優遇措置の対象となる天然ガスを意味する。
 また、地球深層天然ガスやガスハイドレートも非在来型天然ガスとして論じられることが多い。
 オイルサンドに含まれる石油は天然ビチューメンとよばれ、その商業生産は長年の研究期間を経て1967年にカナダにおいて露天堀りにより始まった。油層深度が深いものは坑井による生産をめざして採掘法の多様な研究が実施され、大きい成果が得られ、いくつかの地域で商業生産への移行が実現している。また、ヘビーオイルの生産はベネズエラやカリフォルニアなどで商業規模で行われている。坑井による天然ビチューメンやヘビーオイルの生産には熱回収法、特にスチーム回収法が好成績をあげている。1965年以降、石油の供給がやや過剰ぎみとなり油価低迷の時代を迎えたこともあって、技術改良により採算ベースにのせる努力が懸命に払われている。
 一方、天然ガスの需給も、現時点では、非在来型を早急に取り入れなければならない状況にはない。残存資源量を示す指標のR/Pは、1993年時点で69年もあり、石油の46年に比較してさらに20年以上も長い。
 非在来型天然ガスは少なくとも150兆m^3以上が期待できると見積もられ、その出番は21世紀中期以降になるだろうといわれている。しかし、地球環境保全の観点からクリーンエネルギーである天然ガスの需要は今後ますます高い伸び率を示すことが予想されている。また、各国、各地域により早期に非在来型天然ガスをあてにしなければならないところもあり、非在来型天然ガスへの移行時期が早まる可能性もある。

9.2 天然ビチューメンとヘビーオイル
(1)特徴

 非在来型石油の内、API比重が10未満のものを天然ビチューメン、10以上22.3未満のものをヘビーオイルとする分類が広く使用されている。天然ビチューメンは砂層中に含まれた超重質の石油で、地下条件でも流動性がない。深度の浅い場合は露天掘で採掘できる。代表的な天然ビチューメンはカナダ西部アルバータ州に分布する。ベネズエラのオリノコ川流域に分布するところからオリノコタールとして知られているヘビーオイルは、多少流動性があるので坑井により生産できるが、粘性が高く、比重が大きいため通常の方法では生産性が低く、天然ビチューメンと同じく、スチーム回収法などの生産促進法の施工がしばしば必要となる。
 天然ビチューメンやヘビーオイルの成因は通常の石油から各種のプロセスを経て変質した結果、重質化したと考えられている。変質作用では、バクテリア分解をうけやすくまた水に溶けやすい低分子成分は除去され、その結果石油が重質化したと考えられている。天然ビチューメンやヘビーオイルは炭化水素含有量が低く、また比重はいずれも1gml^(-1)に近く、硫黄と窒素が多く、水素が不足しているなどの点で、通常原油と比較して品質は劣っている。
(2)分布と埋蔵量
 天然ビチューメンの分布は表9.1に示されるように、カナダとロシアで世界全体の97%以上を占める。カナダにおける分布は西部アルバータ州のアサバスカ、ピースリバー、ワバスカおよびアルバータ州とサスカチワン州との境界に位置するコールドレイクの4堆積盆にほぼ限られている。一方、ロシアではメレケス沈降域、ウラル〜ボルガ盆地のタタール背斜地域およびレナ〜アナバル舟状盆地の3つの盆地で多量の埋蔵が確認されている。
表9.1 世界の天然ビチューメン確認埋蔵量(10億bbl)
国名 確認埋蔵量 占有率(%)
カナダ 308 70.6
ロシア 117 26.8
アメリカ 7 1.6
中国 2 0.5
アンゴラ 1 0.25
ナイジェリア 1 0.25
世界全体 436 100

(Masters et al., 1987)


 ヘビーオイルの分布も天然ビチューメンと同様に一部の国に偏在し、ベネズエラとCIS(大部分ロシア)を合わせると世界全体のほぼ83%となる(表9.2)。しかし、埋蔵されている国の数は天然ビチューメンに比較して多く、数10カ国に分布する。
 天然ビチューメンとヘビーオイルの確認埋蔵量を加算すると約9,500億バーレルとなり、通常石油のそれが約1兆バーレルであるので、これらはほぼ通常石油の埋蔵量に匹敵する膨大な資源量である。
表9.2 世界のヘビーオイル確認埋蔵量(10億bbl)
国名 確認埋蔵量 占有率(%)
ベネズエラ 285 59.9
旧ソ連 109 22.9
イラク 23 4.8
アメリカ 18 3.8
中国 7 1.5
イギリス 5 1.1
メキシコ 4 0.8
その他 25 5.2
世界全体 476 100

(Masters et al., 1987)

9.3 オイルシェール
(1)オイルシェールとは

 ケロジェンを豊富に含む頁岩(シェール)を乾留すると石油が生成される。このように、乾留により石油を生成する細粒堆積物をオイルシェールとよび、石油代替エネルギー源として期待されている。
 工業的には、一般にオイルシェール1トン当り10ガロン(37.8リットル)以上の石油が得られるものをいう。
(2)埋蔵量
 世界のオイルシェールの究極可採埋蔵量は、石油換算で約3.5兆バーレルである(表9.3)。これは、石油の究極可採埋蔵量2兆バーレルの約2倍に相当する膨大な量であるが、別の報告による確認埋蔵量は約6,000億バーレルとされており、究極可採埋蔵量との差が大きい。この理由はオイルシェールの調査がいまだ十分に実施されていないことを示すものであろう。
表9.3 世界のオイルシェール埋蔵量(石油換算)(億bbl)
国名 究極可採埋蔵量
アメリカ 19,272
ブラジル 8,008
旧ソ連 4,088
ザイール 1,006
モロッコ 657
ヨルダン 569
カナダ 440
中国 400
イタリア 350
オーストラリア 300
タイ 147
スウェーデン 64
イスラエル 38
旧西ドイツ 18
アルゼンチン 4
スペイン 1
世界全体 38,362

(石油公団、1987)