藤田(2002)による〔『メタンハイドレートの探査と開発の動向』(121-122p)から〕


1.はじめに
2.メタンハイドレート資源の学術的研究と探査の経緯
3.「南海トラフ」基礎試錐の成功
4.メタンハイドレート層の探査分布と資源量
 4.1 地殻内のメタンハイドレートの生成安定領域
 4.2 世界的なメタンハイドレートの分布

4.3 メタンハイドレートの資源量
 MHの資源量を云々するのは時期尚早であるが、最近まで世界の学術文献に報告された天然ガスハイドレートのメタン量と資源量の推定法に関してはMH研究会の佐藤幹夫氏が日本エネルギー学会誌の連載講座、(W)メタンハイドレートの分布とメタン量及び資源量において詳しく報告している3)
 化学では水分子の水素は、隣の分子の酸素原子と強く引き合い(水素結合と呼ぶ)、化学結合力の約一割相当の強い力が分子間に作用している。水の分子が18にも拘わらず、沸点が100℃で、分子量16のメタンガスより260℃沸点が高いのはこれに起因している。低温下で水にメタンガスが混じると、水分子は水素結合によるマトリックスを形成しながらメタンを籠上に取り込みシャーベットのような固体状のメタンハイドレートになる。メタンハイドレートの分子式はCH4・5.75H2Oであるので、理論的には1kgの水と標準状態(0℃、1気圧)下で217リットルのメタンガスから1.099m^3のメタンハイドレートが合成される。つまり密度は0.91g/cm3である。逆に地下のメタンハイドレートの1m3 を溶かすと0.79m3の水と理論的には172m3のメタンガスに分離するが、現実にはクラスレートのすべての空間がメタン分子で充填されていることは無く、充填率は90%程度の場合が多いので、地下のメタンハイドレートの1m3に含まれているメタンガスは地表の体積で約150m3程度である。それにしても大量のメタンが隠れているのである。
 今日までに世界でサンプルを得た地点は少ないため資源量の評価は地震探査のBSRの分布からメタンハイドレートの賦存体積を推算して、その中に含まれるメタンの地上の体積を換算した、いわゆる原始資源量の評価値である。原始資源量の推定値については、1977年のTrofimuk et al.の報告4)以来、世界の学者、研究者達が発表した世界の天然ガスハイドレートのメタン量評価事例を筆者が調査して表1に列挙した。ちなみに世界全体の在来型天然ガスの究極可採資源量は350兆m3(12,400兆cf)、残る確認埋蔵量は150兆m3弱の規模である。
 世界のメタンハイドレートの原始資源量は、Dobryninの異常な過大評価5)を除くと、世界の陸域で14〜750兆m3、海域で3,100〜136,000兆m3と極めて大きな幅で過去に報告された。しかし1988年になるとKvenvoldenが国際深海掘削計画等の調査データを基に地球上のメタンハイドレートの分布場所を詳しく報告し8)、世界の海域の原始資源量を17,600兆m3と推定した。その後、彼はさらなる調査結果を追加して、1998年には陸域も含めた世界全体の原始資源量を21,000兆m3と報告した11)。おそらくこの報告が今のところ一番信頼できる評価と思われる・それにしてもメタンハイドレート資源は在来型天然ガスと比較して、莫大な原始資源量のポテンシャルが期待出来るようである。その概ね10,000兆m3オーダーのメタンが固体の状態で存在すると見られている量は在来型天然ガスの総可採資源量の350兆m3を遥かに超えている。ちなみに、人類が地球上で過去140年間に消費した在来型天然ガスの累計量は74兆m3、そして原油は約1,350億KL(熱量等価の天然ガス量144兆m3)程度に過ぎなかったのである。
 さて、わが国周辺に関してはどうだろうか? まず日本領土内の在来型天然ガスの確認埋蔵量は約400億m3(1.4tcf)すなわち年間消費量の6割程度に過ぎない量である。2000年の国内ガス生産量は25億m3であるからR/P可採年は16年に過ぎない。前出の佐藤氏達の推算によると、原始資源量はMH分解ガスとして4.7兆m3(166tcf)、その直下に賦存すると期待されるフリーガスが2.7兆m3(95tcf)の計7.4兆m3(261兆tcf)である。この量はわが国の天然ガス年間消費量、約680億m3の100年分以上もの膨大な原始埋蔵量であり、鉱床の集積率MHガスの回収率をたとえ小さく見積もっても、わが国の周辺海域を舞台とした21世紀のクリーンエネルギー資源となる期待が秘められているのである。しかしながら、世界中でメタンハイドレートの商業生産は未だ世界で実証されていないことに留意しなければならない。

表1 世界の天然ガスハイドレートのメタン量評価事例(単位:兆立方メートル)

出典年/報告者
陸域 海域 全世界
1977/Trofimuk et al.4) 57 5,000〜25,000
1979/Dobrynin & Korotajer5) 28,000(?) 7,600,000(?) 超過大評価(?)
1981/McIver6) 31 3,100 3,131
1981/Meyer7) 14
1988/Kvenvolden8) 17,600
1990/MacDonald9) 750 19,500 20,250
1994/Gormiz & Fung10) 26,400〜139,000
1998/Kvenvolden11)     1,000〜46,000
1998/Kvenvolden“Consensus” 21,000
(参考:1999年末世界の天然ガス確認埋蔵量は約146兆m3、年間生産量は約2.3兆m3の規模)

5.メタンハイドレート開発の可能性
 5.1 天然ガスハイドレートの回収方法

参考文献(関係分のみ)
3) 佐藤幹夫(2001)、日エネ学会誌、80(11)、pp.1064-1074
4) Trofimuk, A.A. et al. (1977): “The Role of Continental Glaciation and Hydrate Formation on Petroleum Occurrence,”
5) Dobrynin, V.M., Korotajer, Y.P., Plyuschev, D.V. (1979): “Gas Hydrate,”
6) McIver, R.D. (1981): “Gas Hydrates,” Long-term Energy Resources, pp.713-726
7) Meyer, R.F. (1981): “Speculations on oil and gas resources in small fields and unconventional deposits,” Long-term Energy Resources, pp.49-72
8) Kuvenvolden, K.A. (1988): “Methane Hydrate - A Major Reservoir of Carbon in Shallow Geosphere?” Chemical Geology, Vol.71, pp.49-72
9) MacDonald, G.J. (1990): “The Future of Methane and an Energy Resource,” Annual Review of Energy, Vol. 15, pp.53-83
10) Gorntiz, V. and Fung, I. (1994): “Potential Distribution of Methane Hydrates in the World Oceans” Global Biogeochemical Circles, Vol. 8, No. 3, pp.335-347
11) Kuvenvolden, K.A. (1998): “Estimates of the Methane Content of Worldwide Gas Hydrates Deposits,” presented at Methane Hydrates Resources in the Near Future?, JNOC-TRC of Japan, October 20-22.』



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