河村・馬場(1993)による〔『エネルギーの工学と資源』(1-3p)から〕
『1.1 エネルギーとは
われわれが認識することができる宇宙は@空間、A物質、そしてBエネルギーの3大要素からなっている。しかし、これら3つの要素はお互いに全く無関係に存在しているわけではなく、Einsteinの相対性原理によると何も物質が存在しない空間は物質の存在によって曲りが生じて有限の大きさになり、また、物質はその質量が消滅してエネルギーに変換されることがわかっている。
われわれが地球上で経験する通常の現象、例えば物質の燃焼で熱が発生する現象では物質の質量がエネルギーに変換されるような反応は起こらないので、物質が変化する前と後とでは質量保存の法則が成り立っていると長い間信じられてきた。しかし、原子核が関与する反応、例えば核分裂あるいは核融合反応では質量がエネルギーに変換される割合が十分に大きく、われわれは感知することができるようになったので、質量保存の法則は質量+エネルギーの合計が保存されるという表現に変わった。
それではエネルギーとは一体なになんだろうか。われわれはエネルギーを最終的には物を動かすなどして仕事をする力学的なエネルギーに変換できる可能性をもった何者かと考えているようである。日常の会話で“あの人はエネルギッシュである”とか“疲れてエネルギーが出ない”などの表現をするが、これらは仕事をするという力学的なエネルギーを念頭に描いていることの現れであろう。力学的な仕事が摩擦などで熱に変わることは早くから知られていたので、熱もエネルギーの一種であると考えられ、Jouleによって熱の仕事当量が決定されたが、逆に熱が仕事に変換でき、熱と力学的エネルギーが相互変換できることがわかったのは熱機関が発明されてからである。熱エネルギーはいろいろな形態のエネルギーの中でも特異な存在で、その実体は熱力学で初めて明らかにされた。
経験則によるとすべてのエネルギーはその強さを表す強度因子(Intensive Factor)と量に比例する容量因子(Capacity
Factor、または示量因子)との積で表わされる。これはエネルギーの流れを考えるときに重要な意味をもっている。2つの異なったエネルギー状態のものを接触させたときにエネルギーの流れはどうなるかというと、単純にエネルギーが大きいものの方からエネルギーの小さいものの方に向かって流れるのではなく、強度因子の大きい方から小さい方に向かって流れるということを説明する上で重要な概念である。例えば、1,000℃に熱せられた1gの鉄の玉と25℃の水1l(1kg)とを比較すると鉄の玉のもつ熱エネルギー(熱容量)は107calであるが、水のもつ熱エネルギーは何と25,000calにもなり、水のもつ熱エネルギーの方が圧倒的に大きい。しかし、1,000℃の鉄の玉と25℃の水とを接触させれば熱エネルギーの値が小さい1,000℃の鉄の玉から熱エネルギーの大きい25℃の水に熱は流れて(正確にいえば熱が流れるのではなく、エントロピーが流れる)両方の物体は同じ温度となることは誰でも経験的に知っている。この例のように熱現象においては温度が強度因子であり、エントロピーが容量因子である。
また、別の例を挙げれば、化学反応の進行においては化学エネルギーの流れを決めるケミカル(化学)ポテンシャル(Chemical
Potential、μ)の差によって物質の流れ(反応)が生じ、反応系と生成系のケミカルポテンシャルが等しくなった点で熱力学における化学平衡が成り立つという考え方が基礎になっている。
表1.1は各種エネルギーの強度因子と容量因子を表わしている。
表1.1 各種エネルギーの強度因子と容量因子 |
エネルギーの種類 |
強度因子 i |
容量因子 c |
エネルギー |
機械的エネルギー |
力 f |
距離 x |
fx |
運動エネルギー |
速度 v |
質量 m |
1/2mv^2 |
位置のエネルギー |
高さ h |
質量 m |
mgh |
容積のエネルギー |
圧力 P |
容積 V |
PV=nRT |
熱エネルギー |
絶対温度 T |
エントロピー S |
TS |
化学エネルギー |
化学ポテンシャル μ |
モル数 n |
μn=G |
電気エネルギー |
電圧 E |
電気量 Q |
EQ |
光エネルギー |
振動数 ν |
プランクの定数 h |
hν |
』