西岡(1990)による〔『太陽の化石:石炭』(ix-xp)から〕


プロローグ
 石炭は太古の植物化石であり、太陽を父に、地球を母にした素性のはっきりした寵児といえます。この自然界が育んだ再生産のきかない貴重な化石燃料を我々人類は文化的生活を営むためとはいえ、安易に利用していることはないでしょうか。石炭の本質を理解し、大切に利用していく方法を考え、次の人類に引き継いでいく事が、今日に生きている我々の責務と思います。
 それでは、まずその石炭の横顔から御紹介しましょう。

(1)固体である:石炭が固体であるという状態は、人間生活の歴史の中で重要な意味をもっています。固体であるために、特別な容器を必要とせずに持ち運びでき、また特別な燃焼器具を用いずとも燃やせることから、古くから手近な燃料として使われてきました。しかし文明の発展に伴って、エネルギー需要が高まると固体であることが反って不便であるという欠点にもなっています。つまり採掘、輸送、貯蔵、燃焼の面において、石油や天然ガスのような流体燃料に較べたら大量に扱う場合、固体である石炭は不利なことが多く、その用途が限られてきました。

(2)不均質である:見た目には黒っぽいだけの石炭のカケラも顕微鏡下で覗けば、多彩な紋様が視野に飛びこんできます。ご承知のように石炭は太古の植物の化石ですから、根源植物の各部分、たとえば木質部分、樹脂質部分、花粉部分などが一粒の石炭粒子の中にも細かく包含されています。そしてこの不均質さが、石炭の種類、産地毎に異なるため、石炭の本質的理解を困難にしていますし、石炭を利用する上での課題でもあります。
 ともかく、この「不均質である」ことをよく認識してもらうこと、それ自体が石炭の本質を理解することにつながるのです。

(3)有機物と無機物との混合物である:石炭は一般に有機物として扱われていますが、石炭を燃やせば灰が残ることからお判りいただけるとおり、無機物を多量に含んでいます。この成分は産地により異なりますが粘土鉱物が主で、その量はよく選炭しても重量で数%は含まれ、通常は10%以上含まれることを覚悟しなければなりません。この無機物は灰分と呼ばれ、石炭を利用する上で厄介な代物です。

(4)溶融する石炭がある:溶融する石炭とそうでない石炭では、420゚C前後の温度に加熱することにより区分できます。一般に溶融する石炭を粘結炭もしくは原料炭といい、溶融しない石炭を非粘結炭もしくは一般炭と呼びます。粘結炭は全石炭埋蔵量中の約2割とされていますが、この2割の粘結炭はコークス工業にとって必須の石炭です。
 この石炭の溶融性の有無については、コークス工業のみならず石炭を燃やしたらガスや油に転換するといった技術開発にも大きな影響をおよぼす重要な性質といえるでしょう。

 これら四つの横顔を実感するだけでも大変ですが、「石炭」が人類に安易に利用されるのを拒んでいる砦だと思い、理解を深めて頂きたい。』