(財)エネルギー総合工学研究所石炭研究会(1993)による〔『石炭技術総覧』(34-36、37p)から〕


2.1 石炭の種類と性質
2.1.1 石炭の生い立ち

 石炭の生成過程が環境によって異なることは、いろいろな種類の石炭があることから容易に想像できます。一般的には、太古の植物が微生物による作用を受けて腐朽分解し、泥炭化していく過程で、地殻の変動などによって地中に埋れ、長時間の地圧と地熱を受けて生成したと考えられています。地圧は数百気圧〜数千気圧程度、地熱は20〜40゚C、高くても200゚C以下と推定されています。この地圧、地熱、時間の違いによって、性状の異なるいろいろな石炭ができたのです。
 日本の石炭は、表2.1.1に示されるように、主として新生代第三紀に繁茂した顕花植物(針葉樹、潤葉樹)からできていますが、欧米や中国などの石炭は、それよりはるかに古く、中生代や古生代の隠花植物からできており、日本炭とは多くの点で性状が異なっています。
表2.1.1 地質時代の区分と代表的炭種
地質時代 年代(億年前) 代表的炭種 日本炭
I 原生代

II 古生代
   カンブリア紀
   シルリア紀
   デボン紀
   石炭紀
   二畳紀

III 中生代
   三畳紀
   ジュラ紀
   白亜紀

IV 新生代
   第三紀
   第四紀

8.5


5.0

3.2
2.8
2.2


1.9
1.5
1.2


0.2〜0.7
〜0.01





石墨
無煙炭




れき青炭



褐炭

泥炭











無煙炭



れき青炭

褐炭、亜炭、泥炭

 植物は、生物化学的作用および地質学的作用を受ける過程で脱水(H2O)、脱炭酸(CO2)、脱メタン(CH4)反応を伴いながら石炭化します。その過程を元素組成の変化でとらえると、図2.1.1(略)に示されるように、コールバンドと呼ばれる一つの曲線によって表わされます。すなわち、セルロース、木材、リグニンは、主として脱水反応により泥炭、褐炭に変化し、褐炭かられき青炭までは脱炭酸反応が、そしてれき青炭から無煙炭へは、脱メタン反応が主役となります。
 植物質の主な成分は、セルロース、リグニン、樹脂類およびタンパク質です。表2.1.2に示すように、高等植物ではセルロースやリグニンが多く含まれますが、藻類のような下等植物では、セルロースやリグニンは非常に少なく、樹脂類やタンパク質に富んでいます。石炭の根源物質となった植物質の主成分が、図2.1.2(略)に示すように、セルロースとリグニンであることは分かりましたが、このうちどちらの成分が石炭の出発物質であったかについては、確定していません。
表2.1.2 植物質の種類とその成分
種類 タンパク質(%) 油脂、樹脂類(%) セルローズ(%) リグニン(%)
藻類 20〜30 20〜30 10〜20 0
しだ、とくさ類 10〜15 3〜5 40〜50 20〜30
針葉樹、潤葉樹類 1〜10 1〜2 50以上 30
草類 5〜10 5〜10 50 20〜30

 リグニン説は、「セルロースが微生物の作用により、石炭生成の初期段階で比較的容易に分解消失してしまうのに対し、リグニンは比較的安定で、フミン酸を経て石炭ができる」と主張しています。一方、セルロース説は、セルロースまたはリグニンのどちらからも、実験的に人造石炭を合成できることから、セルロースもまた石炭の本質を成しているというものです。』