『第2章 バイオマス資源の特性
 バイオマスは、形状、性状、用途などの多様性(バラエティ)に富んでいる。米、酒、肉、立木、紙はバイオマスの一例であり、農業・産業活動の副産物として得られる藁(わら)や製材残渣などもバイオマスに含まれる。さらに、残飯、紙くずなどゴミの主成分もバイオマスである。そして、これらの副産物や廃棄物もバイオエネルギーとして利用できる。
 このようなバイオマスの多様性は、バイオマスに関わる事業体や担当する行政組織を細分化し、用語の混乱をもたらし、バイオエネルギーの資源評価を困難にしてきた。
 本章の目的は、このような多様なバイオマスの評価に必要な共通基盤の準備である。このために、まず、バイオマス資源の関連用語と基本特性をまとめる。次に、地球上のバイオマス資源を概観し、さらに、土地利用競合の実態、バイオエネルギーと他のエネルギーとの比較を行う。最後に、過去のバイオエネルギー評価研究の概要と問題点をまとめておく。
2.1 バイオマスの関連用語と基本特性
 ここでは、バイオマスの関連用語、分類、基本特性、生産・消費システムの概要について説明する。
2.1.1 バイオマスの関連用語
 バイオマスの関連用語を表2-1にまとめる。
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    バイオマス (biomass)  |  
    @重量またはエネルギー量で示す生物体の量。Aエネルギーや工業原料などの資源として見た生物体。おもに、炭水化物、タンパク質、脂肪から構成される。 | 
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    バイオエネルギー (bioenergy)  |  
    バイオマス・エネルギーと同意。@エネルギー資源として見たバイオマス。A@を酸化・燃焼などの化学反応して得られるエネルギー。 | 
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    在来型バイオエネルギー (traditional bioenergy)  |  
    主に家庭の小規模な設備(コンロ、暖炉など)で使用される、低エネルギー効率(主に15%以下)の非商業エネルギーである。 | 
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    新型バイオエネルギー (modern bioenergy)  |  
    より高エネルギー利用効率の商業エネルギー。近代的で高効率の設備(ボイラー、ガスタービン、液化設備など)で主に産業用に使用される。 | 
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    エネルギー作物 (energy crops)  |  
    エネルギー用途に栽培される作物。品種としては、サリックス(Salix、高収率のヤナギ)、ポプラ、スイッチグラス(牧草)、ユーカリ、サトウキビなど。 | 
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    エネルギープランテーション (energy plantation)  |  
    エネルギー作物の生産を目的とする農場。本書では積極的に取り上げないが、エネルギー利用専用に経営される森林も含まれる。 | 
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    黒液 (black liquor)  |  
    クラフトパルプ生産時に木材中のリグニンが蒸解液中に溶出したもの。黒液中のリグニンその他の有機物は、回収ボイラーで燃焼されエネルギー回収されている。 | 
| バガス(bagasse) | サトウキビの絞りかすで、燃料やパルプ原料となる。 | 
| バルボジョ(barbojo) | サトウキビ収穫時残渣。サトウキビの茎の先端や葉の部分で、収穫時に現地に残されることが多い。 | 
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    純一次生産量 (Net Primary Product)  |  
    植物の光合成量から呼吸量(暗呼吸、光呼吸)を差し引いた量。枯死、摂食などのより失われた量は、純一次生産量に含まれる。 | 
| C3植物、C4植物 | C3植物は光合成の初期産物として、炭素数3の化合物を生成する。C4植物は、炭素数4の化合物を生成する。C4植物は一般にC3植物よりも光合成能力が高い。C4植物はC3植物よりも光合成の必要水量が少ない(約1/3程度)。C4植物はC3植物よりも低温障害になりやすい。C3植物の光合成能力は低CO2濃度、高O2濃度で大きく低下する。C3植物の代表は、イネ、麦類、ダイズ。C4植物の代表はサトウキビやトウモロコシ。 | 
| 暗呼吸 | 植物の個体維持のための呼吸。暗所で測定する。 | 
| 光呼吸 | 植物の光照射下における光合成に関連するCO2放出。 | 
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| 土地利用(生産地) | 森林 耕地 牧草地 その他土地 水圏 | 
| 最終用途 | 食料 原材料 バイオエネルギー | 
| 利用段階 | 一次 中間 最終 廃棄 | 
| 組成 | 炭水化物 タンパク質 脂肪 など | 
『3.1.2 バイオマスの分類(表3-1参照)
 本書では、バイオマスを「木材バイオマス」、「食料バイオマス」に分類する。木材バイオマスは基本的に森林から生産され、食料バイオマスは耕地、牧草地、水圏から生産される。木材バイオマスも食料バイオマスも、その利用段階によってさらに分類される。バイオエネルギーは、エネルギーとして利用されるバイオマスを指し、木材系か食料系のバイオマスである。ここでは、まず利用段階による分類を示し、その後、木材バイオマス、食料バイオマスの順に説明する。
(1)利用段階(一次、中間、二次、廃棄)
 バイオマスを利用段階別に、「一次段階」、「中間段階」、「二次段階」、「廃棄段階」の4種類に分類した。「一次段階」のバイオマスを、土地からの生産段階のバイオマスと定義し、「一次バイオマス」と呼ぶ。同様に、「二次段階」のバイオマスを最終消費段階のバイオマスと定義し、「二次バイオマス」と呼ぶ。「中間段階」は、一次バイオマスから二次バイオマスへの加工の段階である。「廃棄段階」は、二次バイオマスが人類の消費後に排出される段階である。
(2)木材バイオマスの分類
 一次段階の木材バイオマスは、「産業用丸太」、「燃料用丸太」、「非木材パルプ」の3種類のバイオマス収穫物から構成される。収穫の際には、「産業用丸太伐採時残渣」と「燃料用丸太伐採時残渣」の2種類のバイオマス残渣が得られる。また、成長林の間伐により「間伐材」が発生する。「非木材パルプ」とは、紙の原料として使用される、木材以外の植物性繊維を原料とするパルプである。非木材パルプは、藁、竹、バガスなどを含んでいる。
 「産業用丸太伐採時残渣」と「燃料用丸太伐採時残渣」は、地上部のバイオマス残渣に限っている。地下部のバイオマス(根など)の利用は困難と考えられるので、本書では丸太伐採時残渣から除いている。
 中間段階の木材バイオマスは、「木材パルプ」、「黒液」、「製材残渣」から構成される。
 二次段階の木材パイオマスは、「紙」、「用材」、「ボード(board)」から構成される。本書では、「紙」は板紙(paperboard)を含む。また、「ボード」は繊維板(ファイバーボード)とパーティクルボードから構成される。
 廃棄段階の木材バイオマスは、「古紙」と「廃材」から構成される。廃材は、用材消費後の廃棄物とボード消費後の廃棄物から成る。
(3)食料バイオマスの分類
 食料バイオマスの一次段階では、収穫物を「エネルギー作物」、「穀物」、「根茎作物」、「サトウキビ」、「その他作物」、「牧草」、「魚介類」の7種類に分類した。収穫時に「穀物収穫時残渣」、「サトウキビ収穫時残渣」の2種類のバイオマス残渣が発生する。「穀物収穫時残渣」は、主に穀物の茎やもみ殻の部分である。「サトウキビ収穫時残渣」は、バルボジョ(barbojo)とも呼ばれるもので、サトウキビの先端や葉の部分である。また、本書では、森林・耕地。牧草地以外の「その他土地」からは、まとまった量のバイオマスは生産されないと仮定した。「その他土地」は、氷雪地帯、荒れ地、道路、商業地、住宅地などから構成される。
 中間段階の食料バイオマスは、「砂糖」、「バガス」、「肉類」、「家畜糞」から構成される。ただし、本書の「砂糖」は、サトウキビ原料のものだけで、テンサイ原料のものを除いている。また、「肉類」は、肉だけでなく、たまご、乳製品、動物性油脂を含む。
 二次段階の食料バイオマスは、「植物性食料」と「動物性食料」の2種類である。
 廃棄段階の食料バイオマスは、「生ゴミ」と「人糞」の2種類から構成される。
| 一次段階 | 中間段階 | 二次段階 | 廃棄段階 | |
| 木材バイオマス | 
    産業用丸太 燃料用丸太[a] 非木材パルプ 産業用丸太収穫時残渣[b] 燃料用丸太収穫時残渣[b]  |  
    
    木材パルプ 黒液[b] 製材残渣[b]  | 
    
    紙 用材 ボード  | 
    
    古紙[b] 廃材[b]  | 
  
| 食料バイオマス | 
    エネルギー作物[a] 穀物 根茎作物 サトウキビ その他作物 牧草 魚介類 穀物収穫時残渣[b] サトウキビ収穫残渣[b]  |  
    
    砂糖 バガス[b] 肉類 家畜糞[b]  | 
    
    植物性食料 動物性食料  | 
    
    生ゴミ[b] 人糞[b]  | 
  
| バイオエネルギー | 
    在来型バイオエネルギー 新型バイオエネルギー  |  
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    [a] 土地を直接的に要求するバイオエネルギー(プランテーション系バイオエネルギー)。 [b] これらバイオマス残渣の一部は、土地を直接要求しないエネルギーとして利用される(残渣系バイオエネルギー)。  | 
     
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