山本(2000)による〔『バイオエネルギー』(17-21、49-52p)から〕


第2章 バイオマス資源の特性
 バイオマスは、形状、性状、用途などの多様性(バラエティ)に富んでいる。米、酒、肉、立木、紙はバイオマスの一例であり、農業・産業活動の副産物として得られる藁(わら)や製材残渣などもバイオマスに含まれる。さらに、残飯、紙くずなどゴミの主成分もバイオマスである。そして、これらの副産物や廃棄物もバイオエネルギーとして利用できる。
 このようなバイオマスの多様性は、バイオマスに関わる事業体や担当する行政組織を細分化し、用語の混乱をもたらし、バイオエネルギーの資源評価を困難にしてきた。
 本章の目的は、このような多様なバイオマスの評価に必要な共通基盤の準備である。このために、まず、バイオマス資源の関連用語と基本特性をまとめる。次に、地球上のバイオマス資源を概観し、さらに、土地利用競合の実態、バイオエネルギーと他のエネルギーとの比較を行う。最後に、過去のバイオエネルギー評価研究の概要と問題点をまとめておく。

2.1 バイオマスの関連用語と基本特性
 ここでは、バイオマスの関連用語、分類、基本特性、生産・消費システムの概要について説明する。
2.1.1 バイオマスの関連用語
 バイオマスの関連用語を表2-1にまとめる。
表2-1 バイオマス関連用語

バイオマス関連用語

説   明
バイオマス
(biomass)
@重量またはエネルギー量で示す生物体の量。Aエネルギーや工業原料などの資源として見た生物体。おもに、炭水化物、タンパク質、脂肪から構成される。
バイオエネルギー
(bioenergy)
バイオマス・エネルギーと同意。@エネルギー資源として見たバイオマス。A@を酸化・燃焼などの化学反応して得られるエネルギー。
在来型バイオエネルギー
(traditional bioenergy)
主に家庭の小規模な設備(コンロ、暖炉など)で使用される、低エネルギー効率(主に15%以下)の非商業エネルギーである。
新型バイオエネルギー
(modern bioenergy)
より高エネルギー利用効率の商業エネルギー。近代的で高効率の設備(ボイラー、ガスタービン、液化設備など)で主に産業用に使用される。
エネルギー作物
(energy crops)
エネルギー用途に栽培される作物。品種としては、サリックス(Salix、高収率のヤナギ)、ポプラ、スイッチグラス(牧草)、ユーカリ、サトウキビなど。
エネルギープランテーション
(energy plantation)
エネルギー作物の生産を目的とする農場。本書では積極的に取り上げないが、エネルギー利用専用に経営される森林も含まれる。
黒液
(black liquor)
クラフトパルプ生産時に木材中のリグニンが蒸解液中に溶出したもの。黒液中のリグニンその他の有機物は、回収ボイラーで燃焼されエネルギー回収されている。
バガス(bagasse) サトウキビの絞りかすで、燃料やパルプ原料となる。
バルボジョ(barbojo) サトウキビ収穫時残渣。サトウキビの茎の先端や葉の部分で、収穫時に現地に残されることが多い。
純一次生産量
(Net Primary Product)
植物の光合成量から呼吸量(暗呼吸、光呼吸)を差し引いた量。枯死、摂食などのより失われた量は、純一次生産量に含まれる。
C3植物、C4植物 C3植物は光合成の初期産物として、炭素数3の化合物を生成する。C4植物は、炭素数4の化合物を生成する。C4植物は一般にC3植物よりも光合成能力が高い。C4植物はC3植物よりも光合成の必要水量が少ない(約1/3程度)。C4植物はC3植物よりも低温障害になりやすい。C3植物の光合成能力は低CO2濃度、高O2濃度で大きく低下する。C3植物の代表は、イネ、麦類、ダイズ。C4植物の代表はサトウキビやトウモロコシ。
暗呼吸 植物の個体維持のための呼吸。暗所で測定する。
光呼吸 植物の光照射下における光合成に関連するCO2放出。

「バイオマス(biomass)」とは、重量またはエネルギー量で示す生物体の量、あるいは、エネルギーや工業原料などの資源として見た生物体、を意味する。「バイオエネルギー(bioenergy)」とは、「バイオマスエネルギー」と同意で、エネルギー資源として見たバイオマス、あるいは、それを酸化・燃焼などの化学反応して得られるエネルギー、を意味する。国連食糧農業機関(FAO)が「バイオマスエネルギー」に代わり「バイオエネルギー」を用語としているので、本書でも「バイオエネルギー」を用いている。
 「バイオエネルギー」は、利用の形態により、「在来型バイオエネルギー(traditional bioenergy)」と「新型バイオエネルギー(modern bioenergy)」の2種に分類できる。「在来型バイオエネルギー」とは、主に家庭の小規模な設備(コンロ、暖炉など)で使用される、低エネルギー効率(主に15%以下)の非商業エネルギーである。「新型バイオエネルギー」とは、より高いエネルギー効率で利用される商業エネルギーである。「新型バイオエネルギー」は近代的で高効率の設備(ボイラー、ガスタービン、液化設備など)で加工された後に使用される。
 バイオエネルギーの内訳に関して、「エネルギー作物(energy crops)」とは、エネルギー用途に栽培される作物であり、品種としては、サリックス(高収率のヤナギ)、ポプラ、スイッチグラス(牧草の一種)、ユーカリ、サトウキビなどである。「エネルギープランテーション」とは、エネルギー作物の生産を目的とする農場である。一方、残渣系のバイオエネルギー品種の用語としては、「黒液(black liquor)」、「バガス(bagasse)」、「バルボジョ(barbojo)」などがある。
 また、バイオマスの生産に関して、「純一次生産量(net primary production)」とは、植物の光合成量から呼吸量(暗呼吸、光呼吸)を差し引いた量である。純一次生産量は、枯死、摂食、間引きなどによる損失量を含む。純一次生産量からこれらの損失量を除いたものが、バイオマス蓄積量になる。
 「C3植物」は光合成の初期産物として、炭素数3の化合物を生産し、「C4植物」は、炭素数4の化合物を生成する。C4植物は一般にC3植物よりも光合成能力が高い。

2.1.2 バイオマス分類の概要
 バイオマスは、土地利用、用途など様々な項目によって分類される。代表的な分類項目を表2-2に示す。表に示すように、代表的な分類項目には、バイオマスを生産する土地利用(森林、耕地、牧草地、その他土地、水圏)、最終用途(食料、原材料、エネルギー)、利用段階(生産直後の一次段階、加工プロセスの中間段階、消費プロセスの最終段階、消費後の廃棄段階)などがある。
表2-2 バイオマス分類の代表例

分類項目

分類の例
土地利用(生産地) 森林 耕地 牧草地 その他土地 水圏
最終用途 食料 原材料 バイオエネルギー
利用段階 一次 中間 最終 廃棄
組成 炭水化物 タンパク質 脂肪 など

 バイオエネルギーは、エネルギー利用効率により在来型バイオエネルギーと新型バイオエネルギーに分類できる。また、生産に直接土地を要求するかしないかの区別により、言い換えれば、エネルギー用途を主目的として生産されたか、食料や原材料などのエネルギー用途以外を主目的に生産されたバイオマスの残渣(副産物・廃棄物)かの区別によっても分類できる。
 なお、このあと3章の3.2.1の項目では、本書のモデル分析で使用する、バイオマスフローに基づいた詳細なバイオマス分類を説明する。』

3.1.2 バイオマスの分類表3-1参照)
 本書では、バイオマスを「木材バイオマス」、「食料バイオマス」に分類する。木材バイオマスは基本的に森林から生産され、食料バイオマスは耕地、牧草地、水圏から生産される。木材バイオマスも食料バイオマスも、その利用段階によってさらに分類される。バイオエネルギーは、エネルギーとして利用されるバイオマスを指し、木材系か食料系のバイオマスである。ここでは、まず利用段階による分類を示し、その後、木材バイオマス、食料バイオマスの順に説明する。

(1)利用段階(一次、中間、二次、廃棄)
 バイオマスを利用段階別に、「一次段階」、「中間段階」、「二次段階」、「廃棄段階」の4種類に分類した。「一次段階」のバイオマスを、土地からの生産段階のバイオマスと定義し、「一次バイオマス」と呼ぶ。同様に、「二次段階」のバイオマスを最終消費段階のバイオマスと定義し、「二次バイオマス」と呼ぶ。「中間段階」は、一次バイオマスから二次バイオマスへの加工の段階である。「廃棄段階」は、二次バイオマスが人類の消費後に排出される段階である。

(2)木材バイオマスの分類
 一次段階の木材バイオマスは、「産業用丸太」、「燃料用丸太」、「非木材パルプ」の3種類のバイオマス収穫物から構成される。収穫の際には、「産業用丸太伐採時残渣」と「燃料用丸太伐採時残渣」の2種類のバイオマス残渣が得られる。また、成長林の間伐により「間伐材」が発生する。「非木材パルプ」とは、紙の原料として使用される、木材以外の植物性繊維を原料とするパルプである。非木材パルプは、藁、竹、バガスなどを含んでいる。
 「産業用丸太伐採時残渣」と「燃料用丸太伐採時残渣」は、地上部のバイオマス残渣に限っている。地下部のバイオマス(根など)の利用は困難と考えられるので、本書では丸太伐採時残渣から除いている。
 中間段階の木材バイオマスは、「木材パルプ」、「黒液」、「製材残渣」から構成される。
 二次段階の木材パイオマスは、「紙」、「用材」、「ボード(board)」から構成される。本書では、「紙」は板紙(paperboard)を含む。また、「ボード」は繊維板(ファイバーボード)とパーティクルボードから構成される。
 廃棄段階の木材バイオマスは、「古紙」と「廃材」から構成される。廃材は、用材消費後の廃棄物とボード消費後の廃棄物から成る。

(3)食料バイオマスの分類
 食料バイオマスの一次段階では、収穫物を「エネルギー作物」、「穀物」、「根茎作物」、「サトウキビ」、「その他作物」、「牧草」、「魚介類」の7種類に分類した。収穫時に「穀物収穫時残渣」、「サトウキビ収穫時残渣」の2種類のバイオマス残渣が発生する。「穀物収穫時残渣」は、主に穀物の茎やもみ殻の部分である。「サトウキビ収穫時残渣」は、バルボジョ(barbojo)とも呼ばれるもので、サトウキビの先端や葉の部分である。また、本書では、森林・耕地。牧草地以外の「その他土地」からは、まとまった量のバイオマスは生産されないと仮定した。「その他土地」は、氷雪地帯、荒れ地、道路、商業地、住宅地などから構成される。
 中間段階の食料バイオマスは、「砂糖」、「バガス」、「肉類」、「家畜糞」から構成される。ただし、本書の「砂糖」は、サトウキビ原料のものだけで、テンサイ原料のものを除いている。また、「肉類」は、肉だけでなく、たまご、乳製品、動物性油脂を含む。
 二次段階の食料バイオマスは、「植物性食料」と「動物性食料」の2種類である。
 廃棄段階の食料バイオマスは、「生ゴミ」と「人糞」の2種類から構成される。
表3-1 バイオマスの分類
  一次段階 中間段階 二次段階 廃棄段階
木材バイオマス 産業用丸太
燃料用丸太[a]
非木材パルプ
産業用丸太収穫時残渣[b]
燃料用丸太収穫時残渣[b]
木材パルプ
黒液[b]
製材残渣[b]

用材
ボード
古紙[b]
廃材[b]

食料バイオマス エネルギー作物[a]
穀物
根茎作物
サトウキビ
その他作物
牧草
魚介類
穀物収穫時残渣[b]
サトウキビ収穫残渣[b]
砂糖
バガス[b]
肉類
家畜糞[b]



植物性食料
動物性食料





生ゴミ[b]
人糞[b]





バイオエネルギー     在来型バイオエネルギー
新型バイオエネルギー
 
[a] 土地を直接的に要求するバイオエネルギー(プランテーション系バイオエネルギー)。
[b] これらバイオマス残渣の一部は、土地を直接要求しないエネルギーとして利用される(残渣系バイオエネルギー)。


3.1.3 バイオエネルギーの分類
 次に各種バイオエネルギーの分類と定義を説明する。

(1)プランテーション系と残渣系
 バイオエネルギーは、その生産に土地を直接的に要求するものと、要求しないものの2種類に分類される(表3-1参照)。土地を直接要求するバイオエネルギーは、「プランテーション系」バイオエネルギーとも呼ばれる。「プランテーション系」バイオエネルギーには、森林からの「燃料用丸太」と耕地からの「エネルギー作物」がある。
 土地を直接要求しないバイオエネルギーは、「残渣系」バイオエネルギーと呼ばれ、バイオマスフローの様々なプロセスで発生する。

(2)在来型と新型のバイオエネルギー
 バイオエネルギーを「在来型」と「新型」に分類する。「在来型バイオエネルギー」は、主に家庭の小規模な設備(コンロ、暖炉など)で使用される低エネルギー効率(主に15%以下)の非商業エネルギーである。「新型バイオエネルギー」は、近代的で高効率の設備(ボイラ、ガスタービン、液化設備など)で変換された後に使用される商業エネルギーである。
 エネルギー作物と新型燃料用丸太は「新型」に含まれ、薪などの在来型燃料用丸太は「在来型」に含まれる。なお、現在のところ、燃料用丸太のほとんどは、在来型エネルギーとして用いられている。先進地域で新型エネルギーとして発電や熱供給に用いられている木材系バイオマスのほとんどは、黒液・製材残渣などの木材残渣である。

(3)エネルギー作物と燃料用丸太
 本書の「燃料用丸太」は、既存の森林を短期ローテーションに変更することなく、「産業用丸太」と同様に、植林後に数十年間成長した後に、成熟林になり伐採可能になるものである。そして、余剰耕地において、5年から10年の短期ローテーションで生産される木材系バイオマスを、「燃料用丸太」でなく、「エネルギー作物」に含めている。その理由は、短期ローテーションのエネルギー用の木材系バイオマス(柳やハイブリッドポプラなど)は、肥料投入などが大きく、生育管理の面では農作物に近いためである。
 本書では、「燃料用丸太」の生育期間を、「産業用丸太」と同一の、数十年間と仮定した。「燃料用丸太」は、現在の森林利用形態のままで(大幅な植生変更なしで)収穫・伐採されるエネルギー利用専用の木材である。』



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