ディーツ(1998)による〔『劣化ウラン弾』(176-177p)から〕


第20章 劣化ウランの散乱と湾岸戦争帰還兵等の汚染(176-195p)

 空中に浮遊する劣化ウラン・エアロゾルの降下範囲は実質的に限界がない。この微細な粒子は簡単に肺に吸い込まれたり胃に飲み込まれて、人の健康を危険にさらす。

レオナルド・A・ディーツ

概要
 ここでは劣化ウラン(DU)が何かを説明し、クウェートやイラクの戦場で、多数の無防備な湾岸戦争帰還兵が容易に危険量の劣化ウランを体内に取り込む様子を、物理モデルによって説明する。
 われわれは、99%以上の劣化ウランを含むウラン238(U-238)が、どのように崩壊して2個の娘核種を生成するかを調べた。2個の娘核種は常にウラン238とともにあり、放射能を著しく増加させている。可燃性のウラン金属は、衝撃や過熱によって目に見えないエアロゾルを形成して燃え(すなわち急速に酸化する)、浮遊塵となる。
 ここでは、発生源から25マイル(42km)も到達するウラン・エアロゾルの空中移動を、科学的に測定した結果を述べる。また、有名なストークスの法則によって、劣化ウラン粒子が空中を飛びどのように遠距離まで到達するのかを説明する。
 最初に、ガンマ線と高エネルギーをもったベータ粒子が生体組織にどのように吸収され、多数の体細胞を貫通し、成体の細胞核の中で遺伝物質に損傷を与える可能性があるかを説明し、ウラン微粒子が体内に入り生命維持に必要な器官にまで広がるしくみの説明として、国際放射線防護委員会開発の生物動力学モデルを記述する。このモデルによれば、ウラン粒子の急激な摂取によって、数年間後にウランが尿中に排泄されることが予測される。
 次に、湾岸戦争で発射された劣化ウラン弾のトン数の推定値を検証する。発射された劣化ウラン量を300トンと低く見積もっても、その1〜2%でも燃えれば、3000〜6000kgの劣化ウラン・エアロゾルが生成されることになる。
 この背景情報をもとに、戦場で起こりそうな汚染モデルを提案できる。これは3段階からなる。
 @ 数百kgの劣化ウラン・エアロゾルがイラクの装甲車両に対して突然発生
 A 劣化ウラン・エアロゾル粒子が風によって急速に拡散
 B 戦場の無防備な米軍兵による劣化ウラン微粒子の吸引・嚥下
 米軍とその代理人は劣化ウラン兵器は安全だと主張するが、劣化ウラン兵器が燃焼した後における健康問題・安全問題について公には言及してはいない。明らかな公式見解は、「戦闘中の状況では、無防備な兵員が燃えた劣化ウラン兵器の生成物に曝され、何らかの健康危害がありうる」というものである。
 22人の米兵が「味方の誤射」によって劣化ウラン破片を受けて(体内に入って)負傷したと報告されている。湾岸戦争から5年以上たっても破片はほとんど除去できず、負傷兵の長期的な健康状況は不確定である。驚くべきことには、ミシシッピー州で、湾岸戦争帰還兵の複数の家族に、深刻な出産障害が高率で起こっている。
 最後に、戦闘機には劣化ウラン製のおもりが飛行バランス制御用として普通に使われていて、その劣化ウランが高熱の火炎の中で容易に燃焼し、吸い込みやすい危険なエアロゾル粒子を多量に生成することを指摘する。』

はじめに
ウラン金属の自燃性
ウランの放射崩壊
製造後6ヵ月間は相当量の放射線を出す
ウラン粒子の空中輸送
劣化ウラン粒子は風で何マイルも運ばれる
劣化ウランとその放射線が体内に入る経路
発射された劣化ウラン兵器総量の推定
汚染モデル
米国軍部は劣化ウラン兵器の安全性をどのようにみているか
米軍兵士の被曝とその家族の病気
結論
〈参考文献〉

[松崎早苗・訳]


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