市川(1999)による〔『環境学』(189-190p)から〕


目次

『■放射線の種類
 放射線の種類には、物理的性質が異なるさまざまなものがあるが、表4.2のように、まず粒子線と電磁放射線に大別される。
表4.2 放射線の分類
粒子線 荷電粒子 軽粒子
重粒子
電子線、ベータ線*、陽電子線
陽子線、重陽子線、アルファ線
電離放射線
非荷電粒子 高速
低速
速中性子
熱中性子
電磁放射線 短波長


長波長
エックス線、ガンマ線*
紫外線
可視光線、赤外線
マイクロウェーブ、ラジオ波
非電離放射線
*放射性核種から放出される放射線

 粒子線は、粒子が空間を飛んでいる状態のもので、その粒子が電荷をもっているか、いないかによって、荷電粒子と非荷電粒子に分けられる(表4.2)。
 荷電粒子は、さらに重粒子と軽粒子に分けられ、重粒子にはアルファ線、陽子線などがあり、軽粒子にはベータ線、電子線などがある(表4.2)。アルファ線は、陽子2個と中性子2個から成る粒子、つまりヘリウムの原子核である。また、ベータ線は、電子の流れであり、物理的には電子線と同じである。アルファ線とベータ線は、次の電磁放射線のガンマ線とともに、放射性の原子核(放射能をもつ原子核)から放出されるものであるため、とくにギリシャ語の最初の3つのアルファベットをつけて呼んでいる。
 非荷電粒子は、中性子であり、大きな運動エネルギーをもつ速中性子と、運動エネルギーをほとんどもたない熱中性子に分けられる(表4.2)。
 一方、電磁放射線は、光子の流れであり、電磁波とも呼ばれるように、波としてとらえることができる。波長が短いほどエネルギーが大きく、ガンマ線とエックス線がとくに波長の短い高エネルギー電磁放射線である(表4.2)。波長が長くなるにつれ、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロウェーブ、ラジオ波となり、ガンマ線からラジオ波まで、いずれも光と同じ性質をもっていて、光速で飛ぶ。なお、ガンマ線とエックス線は、物理的にはまったく同じもので、原子核から放出される場合にガンマ線と呼ぶ。
 これらのうち、粒子線のすべてと、電磁放射線のうちガンマ線とエックス線は、電離作用(イオン化作用ともいう)といって、分子から電子をひき離し、陰イオンと陽イオンを産み出す性質をもっており、総称して電離放射線と呼ばれる(表4.2)。一般にいう放射線とは、この電離放射線を指している。
 この電離作用こそが、放射線の作用の基本となっている。表4.2に挙げた電離放射線は、それぞれ物理的性質が大きく異なっているにもかかわらず、いずれも類似した生物効果を示すが、その理由は、この電離作用を共通にもっているからにほかならない(電離作用をもたない電磁放射線にも、生物効果をもつものがある。DNAに損傷を与える紫外線(第2章の3参照)だけでなく、長波長の電磁波も生物効果をもっている。携帯電話、蛍光灯、テレビ、電子レンジ、パソコンなどから出る電磁波や、モーターなどの電磁場や高圧送電線から出る誘導電磁波は、体内に電位差を生じさせ、これが生物効果をもたらすのである。最近、リニアモーターカーや高圧送電線による「電磁波公害」が問題となっており、アメリカの国立環境衛生科学研究所は、1998年6月、発ガンの危険性もあるとした。郵政省は、搬帯電話などを対象に、基準値以下にするための強制規格導入を検討している)。』