広渡(1980)による〔『日本の層状マンガン鉱床の研究および調査の現状』(151-152、160-161p)から〕


Abstract

1.はじめに
 鉱床の成因を解明することは鉱床学の最終目的であるが、鉱床を探査することも鉱床研究者にとって重要な任務の1つである。とくに、日本のマンガン鉱床は一般に規模が小さいため、大企業による稼行の対象とならず、中小企業にその経営が委ねられてきたのが現状である。さらにまた、マンガン鉱床を研究する研究者の数も決して多くはない。このような理由で、日本のマンガン鉱床に関する調査研究は、他の鉱床にくらべてやや遅れている様に思われる。
 日本のマンガン鉱床に関する総括的報文は、吉村豊文(1952a、1952b、1967、1969)によって報告されている。また、マンガン鉱床の成因に関する報文は、渡辺武男(1957、1962、1965、1970)によって報告されている。
 筆者は、今日まで吉村豊文先生の指導の下で、日本のマンガン鉱床について、主として記載的立場からマンガン鉱物学的性質、および鉱床の分布、胚胎層準、形態、規模などについて仕事をすすめてきた。
 今回、これまでの仕事を中心に、諸先輩、諸研究者の研究成果を参照しながら、日本のマンガン鉱床、とくに層状マンガン鉱床に関する研究および調査の現状を紹介してみたい。本稿は、本年1月、日本岩石鉱物鉱床学会創立50周年記念講演会で講演した内容をまとめたものであるが、紙数の関係で大幅に変更させていただいた。
 本稿を草するにあたって、多くの諸先輩、諸研究者の研究報文を引用させて戴いた。ここに明記して謝意を申し上げる。また、多数の表、図を参照させていただいたが、本文では説明の都合と、紙数の関係でその一部を引用させていただいた。その他は文献の所在を明記したので原著を参照されたい。最後に今日まで御指導を頂いた吉村豊文先生、および渡辺武男先生に心から感謝申し上げる。

2.日本のマンガン鉱床に関する研究および調査
 今日まで多くの研究および調査報文があるが、そのアプローチの仕方により、次の5つの分野に分けられる。
(1)マンガン鉱山の調査研究の分野
 この分野は、マンガン鉱床の位置、沿革、産状、形態、規模、鉱石鉱物の種類、母岩、品位、鉱量などを、資源的立場から正確に記載していく調査研究の分野である。
(2)記載鉱物学としてのマンガン鉱物の研究分野
 この分野は、マンガン鉱床を構成する鉱石鉱物、脈石鉱物の鉱物学的性質を詳細に記載していく記載鉱物学の分野である。
(3)鉱床成因論に関する研究分野
 この分野は、マンガン鉱床に関する種々の地質鉱床学的背景から鉱床の成因を論ずる分野である。
(4)鉱床探査のための調査研究の分野
 この分野は、鉱床の探査のための地質学的法則を見出し、探査の指針を研究する分野である。
(5)合成実験および熱力学データによる実験鉱床学の分野
 この分野は上記のデータからマンガン鉱物の生成条件を定量的に考察してゆく分野である。
 以下それぞれの分野についての研究の現状と問題について述べてみたい。』

3.マンガン鉱山の調査研究の分野
4.記載鉱物学としてのマンガン鉱物
5.層状マンガン鉱床の成因論
6.鉱床探査のための調査研究
7.合成実験および熱力学データによる実験鉱床学

8.おわりに
 以上で日本の層状マンガン鉱床の研究および調査の現状について、5つの分野に分けて紹介し、若干の問題について述べてみた。
 それぞれの分野の研究は、再三述べたように、マンガン鉱床の成因を解明するためには、相互に密接な関係があり、いずれも重要な研究分野である。ここで、それぞれの分野の将来における展望について簡単に述べ、むすびとしたい。
(1)マンガン鉱山の調査研究の分野。この分野の調査研究には、多額の調査費と人員が必要である。また、社会状勢にも左右される。したがって、鉱山の経営が困難である今日、国家的要請がない限りこの分野の調査研究は、今後は期待されないであろう。これまでの調査研究に関する調査報文、および調査資料をできる限り整理し、貴重な文献として活用すべきである。
(2)記載鉱物学としてのマンガン鉱物の研究分野。この分野の研究は、今日まで多くの成果をあげてきた。とくに、マンガンを含む新鉱物の発見は、最近20年間に急速に伸びている。新鉱物発見は、鉱物学、結晶学の分野でも新知識を提供するが、鉱床の生成条件、つまりマンガンの地球化学を考察する上でも、重要な研究課題である。今後とも地味な研究分野であるが期待したい。
(3)鉱床成因論に関する研究分野。この分野は、鉱床学における本命であり、最も興味深い分野である。しかしながら、この分野の研究には学界における流行があるようである。層状マンガン鉱床の成因については、キースラガー、鉄マンガン鉱床とともに、1956年頃から1960年頃までの間が最も盛んであった。その後、1959年頃、秋田県北鹿地方で黒鉱鉱床が発見されてから、鉱床成因論は黒鉱鉱床に移った。約10年間は黒鉱鉱床ブーム時代が続いたが、最近では接触交代鉱床、とくにスカルンの成因に移った感がある。しかしながら、渡辺(1970)が指摘しているように、マンガン鉱床の中で、変成マンガン鉱床は1種の“マンガンスカルン鉱床”と考えれば、接触交代鉱床とともに、今後の成因論の発展が期待される。
(4)鉱床探査のための調査研究。この分野の研究は、経済的社会情勢に規制される。とくに稼行鉱山が減少している現状では、マンガン鉱床の探査発見はその機会が乏しいといわざるを得ない。今後、海外のマンガン鉱山の開発、海底のマンガン団塊の開発にその資源を仰がねばならないが、国内の低品位珪酸マンガン鉱の開発も注目すべきであろう。
(5)合成実験および熱力学的データによる実験鉱床学の分野。この分野は、新しい鉱床成因論の分野ともいえる。とくに、マンガン鉱物は、天然では2、3、4価の原子価をもち、低〜高酸化鉱物、炭酸塩鉱物、含水酸化物、含水珪酸塩鉱物、および硫化鉱物など、多種類の鉱物を産出する。したがって、温度とfO2、fCO2、fH2O、fS2の分圧を定量的に推定するためには、好適の鉱物組合せを提供している。また、外国ではマンガンを含む鉱物を変成作用のインジケーターとして、合成実験などを行っている岩石学者もいる。
 この分野の研究は、今後新しい研究分野としてますます発展するであろう。
 以上それぞれの研究分野の将来への展望について述べたが、それぞれの分野の専門家になることは容易でない。学問の流行を逐うことなく1つの専門分野の正確な専門家になることが鉱床学の発展に貢献することを忘れてはならない。』

引用文献



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