土谷(1998)による〔『電子プローブ・マイクロアナライザー』(1-3p)から〕


1 はじめに
 電子プローブ・マイクロアナライザーEPMA(Electron Probe(X-ray) Micro Analyzer)は、固体試料表面に細く絞られた(ミクロンからサブミクロンの大きさ)電子線(電子プローブとも呼ばれている。単にプローブと略すこともある)を照射して、試料と電子線との相互作用により発生する特性X線を効率よく検出することにより、試料を構成している元素とその量(重量パーセント:wt%)を知ることができる分析機器である。
 1949年にフランスのCastingがEPMAの基礎的な原理を発表している1)。国内では1961年にフランスのカメカ社製EPMAが、科学技術庁金属材料研究所に導入されたのが最初である。時を同じくして国内メーカーもEPMAの商品化にのりだした。その後、炭素、窒素、酸素などの超軽元素の分析が可能となり、電子線の走査技術の進歩も伴って急速な発展を遂げ、現在装置的にはほぼ完成の域に達している。当初国内では、発足した研究会の名称から2)X線マイクロアナライザーXMA(X-ray Micro Analyzer)とも呼ばれていたが、現在ではほぼEPMAで統一されている。
 1960年代の創草期は主として金属材料の研究に利用され、特に、鉄鋼関係では鋼中に存在している不純物(非金属介在物)の分析に驚異的な威力を発揮し、製鋼技術の進歩向上に多大な貢献を成したといっても過言ではない。今日では、金属材料に限らず、固体材料を扱う分野で、研究・開発目的の利用以外に、品質管理。製品検査、顧客サービス(クレーム対応など)、製造技術などの材料評価と、幅広く利用されている。
 このようなEPMAは、数ある分析手法の中であえて分類すれば、表面組成分析法の中に位置づけられる3)。単に分析といえば、一般的には湿式による化学分析法がまず連想される。化学分析法は、対象となる試料・分析領域がバルク(cmオーダーの体積)であり、得られる分析値はその平均値となる。そのため、分析領域中に特定元素の偏析や、介在物・析出物、あるいは小さな異物が存在しても、それらを分析値からただちに見出すことはできない。一方、これから展開する、EPMAを始めとする表面組成分析法は試料の不均一性を分析対象とし、試料表面の任意、あるいは目的の場所に、図1.1(略)に概念的に示したように電子線、X線、イオンなどを照射し、試料表面と照射線との相互作用によって生じる種々の現象を捕えて、それを組成分析に利用することから、化学分析に対して物理分析と称されている。
 EPMAを始めとする表面組成分析法は、対象となる試料はバルクであっても、その分析領域は大方がミクロ(mmからnmオーダー)であり、得られる情報は試料表面での照射線の大きさと、その侵入深さ、ならびに発生する信号の脱出深さに依存している。そのため、分析手法の選択に当たっては分析目的を十分に理解した上で選択することが重要となる。本書はそうした観点から、EPMA利用者の手引書として、分析事例を含めて、EPMAの分析技術に重点を置いた内容となっている。
 図1.2(略)に一例として化学分析と、電子線照射を利用しているEPMA、ならびにオージェ電子分光分析法AES(Auger Electron Spectroscopy)、SAM(Scanning Auger Microscope)の分析比較を示した。EPMAとAESの分析領域はそれぞれ塗りつぶされた領域であり、化学分析に対していかにミクロな領域の分析であるかがわかる。

引用・参考文献
1) R.Casting, A.Guinier: Electron Microscopy, Proc. Delft Conf. (1949).
2) 榊米一郎:X線マイクロアナライザーに関する研究、文部省科学研究費(総合研究)(1960).
3) 日本表面科学会編:“表面分析図鑑”、共立出版(1994).



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