山田(1996)による〔『電子顕微鏡Q&A』(133pから)〕


Q-10 SEM/EDSによる定量分析の基本について教えてください。

 キーワード: X線発生領域、escapeピーク、sumピーク、連続X線、ZAF補正法

A
 SEM/EDSによる定量分析では、試料表面が平坦で内部が均質なバルク試料が分析対象となるため、次の基本的な事柄に対して適切な補正や条件設定を必要とする。

1.X線発生領域の広がり
 電子ビームが試料に入射すると試料構成原子と衝突を繰り返して広がるため、X線発生領域も広がりを持つ。その大きさは、入射電子エネルギーに比例して試料の密度に反比例する関係にある。例えばシリコン(Si)試料でのSi-K線の発生領域は、加速電圧15kVで横方向に1μm、深さ方向に1.4μmの広がりがある。

2.escapeピークとsumピークの発生
 Si(Li)検出器の不感領域をX線が通過するときSi-K線(約1.74keV)が励起され、その分のエネルギーが失われて擬似ピーク(escapeピーク)が生じることがある。EDSには通常補正機能が装備されているので、強度計算に先立ってこれを削除する。また、多くのX線が同時に検出器に入射すると、二つのX線信号を分離できずそれらのX線の和のエネルギーを持った擬似ピーク(sumピーク)が生じることもある。このような場合は、プローブ電流を減少させて不感時間(デッドタイム)を10〜20%程度とすればこの問題は解決できる。

3.連続X線の発生
バルク試料では、連続X線が発生するため、これが特性X線スペクトルに重畳されてバックグラウンドノイズの原因となる。定量分析においては、強度計算を行う前にこの連続X線を除去する必要がある。その方法として、バックグラウンドモデル法とバックグラウンドフィルター法が主に用いられるが、微量元素の定量分析には前者が優れている。

4.特性X線の発生、吸収、蛍光励起
 実際のEDS分析では、試料に入射するすべての電子がX線の発生に寄与するわけではない。多くは試料表面で反射するが、その割合は試料の平均原子番号に依存する。また、試料内部で発生したX線が試料を通過する間に自己吸収や二次X線の励起(蛍光励起)を生じる。したがって、試料中に含まれる元素Aの濃度CAは、特性X線の強度IA(sp)とA元素の100%濃度の標準試料のX線強度IA(st)の比に原子番号補正係数(FZ)、自己吸収補正係数(FA)、蛍光励起補正係数(FF)をかけて、
     IA(sp)/IA(st)=CA・FZ・FA・FF          (1)
のように表される。この手法は、castingによるZAF補正法でバルク試料の定量補正計算の基礎となっており、この点については次項の「Q-11」でさらに説明を加える。また、標準試料を用いないスタンダードレス定量分析が実用化されているが、酸化物などの分析においてやや精度が劣る。

参考文献
1) 合志陽一、他:エネルギー分散型X線分析、学会出版センター(1989),14.

(山田満彦)』



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