朝倉・安達(1989)による〔『電子顕微鏡をつくった人びと』(50-51p)から〕


波長のはなし
 光の波長(可視光線の波長)は数1000オングストローム、すなわち10のマイナス5乗センチメートルなので、光学顕微鏡の分解能(二点間を識別できる距離)も10のマイナス5乗センチメートル程度である。原子を見ようとすれば、原子の大きさ程度の波長(1オングストローム)を用いれば、観察が可能であることは想像できる。つまり波長が短い光ほど、分解能はよくなる。目に見えなくても、写真などに記録できればよいのであるから、X線などの電磁波も使えると考えるかもしれない。けれども短い電磁波は、可視光におけるガラスレンズのような結像作用はない。他方、電子の波長は、電子線の加速電圧をあげることによって小さくできる。
 波長λはアインシュタインの質量とエネルギーの関係式を、さらにドゥ・ブロイが一般の粒子(速度vで動く質量mの粒子)にも適用して次の式を導いた。
 λ=h/mv ……………(1)
ただしhはプランク定数、mは電子線質量として計算するが1ボルトの電圧によって電子がうる運動エネルギーを1電子ボルトとして、エルグで換算すると、(2)式が得られる。
 λ=(150/V)1/2 (Å) ……………(2)
しかし、(2)式は加速電圧が100キロボルトまでに適用し、それ以上の加速電圧になった場合は相対性理論による補正が必要になり、(3)式が得られる。
 λ=12.26/〔V(1+9.78×10-7V)〕1/2 (Å) ……………(3)
たとえば、(2)式および(3)式から波長を求めると、150ボルトでは1オングストローム、100キロボルトでは0.038オングストローム、1000キロボルトでは0.0087オングストロームになり、原子の大きさ1オングストロームに比べてはるかに小さいことがわかる。まして電子線は荷電粒子であるために、レンズとしての作用を示し、原理的には原子を見分けることができる。』



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