和田(2002)による〔『地球生態学』(viip)から〕


はじめに
 本書のタイトルは『地球生態学』(Geo-Ecology)となっている。読者の方々にとっては耳慣れない言葉であろうと思うので、まずその意味するところについて簡単にふれてみたい。
 1990年代初頭になって、地球環境問題が顕在化したのち、われわれヒトが住む地球の生態系が過去・現在において、他の地球のサブシステム(例えば大気圏、海洋、地殻など)とどのような相互作用(物質とエネルギーのやりとり)を持ってきたのか、そしてそれが今後どのようになるのかを可能ならば解明することが急務となってきた。より具体的には、人間活動の増大に伴う大気の質の変化やエネルギー収支の変化、土地利用による生態系の分断などに対する生態系の応答とフィードバックについて、地球の全生態系をまるごととらえる見方(視座)で、あるいは特定の生態系について特化する見方で扱う必要が出てきた。しかしこれまで生態学の中心課題は、生物間相互作用系や生態系の機能と構造の解明におかれていた。生物量、その生産、分解さらには生態システムと環境との相互作用系に注目すると、生態系は小さな系といえども十分に複雑で、種の存在とその組合せを重視する生態学者にとっては解析に人手もかかり、十分に研究が進まない状況で推移してきた。また、従来の生態学では生物の方から地球を見る軸で研究を進めてきたが、地球の生態系をまるごととらえるためには、逆に地球環境の変動・変化を出発点として生態系をみてゆくことが重要となる。本巻のタイトルはこの視座の違いを強調する意味で、『地球生態学』とすることにした。このような視座が今後少なくとも数十年は重要となると思っている。
(後略)』

1 地球生態系とは何か
2 生物圏の歴史
3 地球生態系の変動
4 生態系とその特徴
5 生態系の構造と物質の流れ
6 生態系と人間活動


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