佐々木(2003)による〔『応用地生態学−生態学と応用地質学のコラボレーション−』(345pから)〕


要旨
 生態系保全と持続的土地利用を目的とする新しい学問体系として、応用地生態学を提唱する。
 現在、生態系保全を目的とする工学として、生態工学、緑化工学などの分野がある。これらは、生態学や植物学等の理学と工学、とくに土木工学の融合による学問である。ところで、理学分野で地生態学(景観生態学)という分野があることは、これまであまり知られていなかった。地生態学は地理学の一分野として発達した学問で、地形や地質の条件と生態系の関係を研究する学問である。この地生態学、あるいは景観生態学が、近年、土木工学の分野で注目・活用されつつある。しかし地生態学を工学に応用する学問(応用地生態学)の体系化は応用地質学者が先導を切って行うべきである。
 地盤環境とその変化を把握することは応用地質学の得意分野であり、かつ役割である。環境保全においては、生態学だけでなく、地形学や地理学・土壌学・水文学・土木工学なども含めた総合的な協力が必要であるが、応用地質学は元来これら全ての分野と密接に関連しており、マネジメントを行いやすい位置にある。今後、応用地質学は、生態系保全や持続的土地利用を目的とした地盤環境の調査・解析・評価・対策のあり方を真摯に考え、他分野と協同して新しい技術体系を確立しなければ、環境分野で取り残された存在になる。

Key words: 生態学 ecology、地生態学 geoecology、応用地生態学 applied geoecology、景観生態学 landscape ecology

1.はじめに
 平成11年6月より環境影響評価法が運用され、道路などの一定規模以上の事業において貴重な生態系などの自然環境に対して環境影響が予測される際には、事業者は環境保全措置(影響の回避・縮小・代償等の措置)の検討を義務づけられた。しかし、環境保全措置そのものの具体的手法は確立されたとはいい難い状況にある。
 生態系は、地形・地質・地表水・地下水・気象等が相互に作用する多様な環境ユニットの上に成立する。とくに生育基盤である地形地質環境は重要であり、貴重種を含め多くの植生は地形地質環境に強く依存する。このような関連性を研究する学問は地生態学ないし景観生態学と呼ばれ、国内でも小泉、横山などにより研究や普及が進み、環境保全への応用も試みられている。土地利用に際して地生態学的な視点を援用して地形地質環境と生態系との関連性を事前に把握できれば、保全すべき範囲や適切な環境保全措置を合理的に決定できる可能性がある。しかし一般に、環境アセスメントなどの実務においては、地形や地質は重視されていない。それは、地生態学自体の未発達さと、地生態学的な知見を利用する具体的方法論がないことの両面に起因する。
 そこでここでは、これまでの地生態学の流れや、地形地質と生態系の関連性についてレビューするとともに、「静的な地形地質場のみならず動的な地形地質プロセスまでを考慮して持続可能な土地利用および環境保全を可能とするための具体的な方法論」を「応用地生態学」と定義し、その基本概念、検討課題、現在の取り組みなどについて述べる。』

2.地生態学の概要と応用地生態学の位置づけ
 2.1 景観生態学の発生
 2.2 景観生態学と地生態学の分化
 2.3 地生態学の発展
 2.4 地生態学の確立と応用
3.地形地質と生態系の相互関係
4.応用地生態学の基本概念
5.応用地生態学の検討課題
 5.1 地生態学そのものの進展
 5.2 地形地質環境の調査手法の開発
 5.3 地形地質環境の生態系への影響評価手法の開発
 5.4 対策工の選定法や設計手法の開発
 5.5 対策工の開発
 5.6 行政システムへの適用
6.応用地生態学的研究の試み
 6.1 微地形調査技術の活用
 6.2 土壌環境の調査ツールの開発
  6.2.1 土壌深と土壌強度の簡易試験法の開発
  6.2.2 土壌の簡易不攪乱サンプリング法の開発
 6.3 面的調査による植生調査と地盤調査の比較
 6.4 縦断測線調査による地形地質環境と植生の比較
7.おわりに
謝辞
引用文献
Abstract


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