『第1章 未来への脅威
今日、酸性雨、熱帯林の破壊、砂漠化、温室効果による気温の上昇、オゾン層の破壊等、人類の生存の基盤である環境の汚染と破壊が地球的規模で進行している。この背後には、過度の焼畑農業による熱帯林破壊に見られるような貧困からくる環境酷使と、富裕に溺れる資源やエネルギーの過剰消費がある。
第2章 持続可能な開発に向けて
いまや人類は、こうした開発と環境の悪循環から脱却し、環境・資源基盤を保全しつつ開発を進める「持続可能な開発」の道程に移行することが必要である。成長の回復と質の改善、人間の基本的ニーズの充足、人口の抑制、資源基盤の保全、技術の方向転換とリスクの管理、政策決定における環境と経済の統合が主要な政策目標である。
第3章 国際経済の役割
世界経済の成長速度を増大させつつ、地球環境への圧力を制御し得る方向に世界経済を再編成することが求められており、開発途上国の債務問題の解決、一次産品の価格安定化による開発途上国の農業の振興、多国籍企業活動の改善、技術基盤の拡大等が必要である。
第4章 人口と人的資源
家族計画、女性の自立等を推進することによって、人口の増加を制御し、環境への圧力を減ずる必要がある。また、健康改善、教育の推進等により、人的資源の質の向上を図り、環境管理の能力を向上させるとともに、少数民族の保護を図ることも重要である。
第5章 食糧安全保障:潜在生産能力の維持
世界の食糧問題を解決するために、先進国における過剰な補助金や保護貿易主義の撤廃、土壌、水、森林等の生産基盤の保全、農業技術の普及・発展、開発途上国における土地改革や小規模農家の保護・育成を推進する必要がある。
第6章 種と生態系:開発のための資源
農産物の品種改良や衣料品の開発のために欠くことのできない資源であり、かつ、倫理的、文化的にも重要な生物種が急速に損なわれつつある。特に、地球上の種の半分が存在するとされている熱帯林では、貴重な野生生物が絶滅に瀕している。このため、各国政府と国際機関は、保護区域の拡大、種の保存のための条約の締結や財源の確保等を推進する
必要がある。
第7章 エネルギー:環境と開発のための選択
環境保全を図りつつ、開発途上国を中心に今後大幅に増大するエネルギー需要に対応するために、化石燃料の使用に伴う環境汚染の防止、原子力エネルギーの安全性向上、再生可能エネルギーの使用、エネルギー効率の向上、省エネルギー対策を促進する必要がある。
第8章 工業:小をもって多を生産する
近年の工業の構造変化や技術開発により、開発途上国の工業化による汚染の拡大、化学物質による新たな汚染、事故のリスクの増大等の問題が生じている。このため、環境上の目標の設定と規制の実施、経済的手段の効果的利用、計画段階での環境配慮、産業界の対応能力の強化、有害物質管理能力の向上、国際協力による途上国への技術、財政、行政面での支援等が必要である。
第9章 都市の挑戦
特に途上国においては、都市の人口集中が著しく、住宅、衛生、環境汚染等、様々な問題が生じていることから、大都市への人口集中の抑制や地方都市の整備、市民や住民組織の協力促進、低所得者に焦点を当てた住宅政策等が不可欠であり、これらを促進するために、途上国間の協力と先進国の支援が必要である。
第10章 共有財産の管理
海洋、宇宙、南極は人類の究極の共有財産である。海洋については、漁業資源の保護と有害廃棄物の海洋投棄の規制の為の条約の整備、宇宙については、リモートセンシングの促進、限られた静止衛星軌道の効率的利用、宇宙の廃棄物の管理を始めとする利用体制の整備、南極については、南極条約の拡充が必要である。
第11章 平和、安全保障、開発及び環境
砂漠化による難民の発生や資源をめぐる争いにも見られるように、環境問題は国際紛争の大きな原因である。一方、戦争は環境に対する最大の脅威であるとともに人類の発展のために振り向けられるべき資源を浪費する。このような問題に対処するために国際社会は、国際的共有財産の共同管理、環境悪化の早期発見、軍縮の促進と軍事費の環境保全対策の振り向け等に努めるべきである。
第12章 共有の未来のための認識と行動
持続可能な開発の道程に移行するため、環境悪化の結果への対応を中心とした従来の取組を強化するとともに、環境問題の原因に焦点を当てた取組を国際協力の下に開始すべく、組織及び法制度を大胆に変革する必要がある。すなわち、各国の環境行政機構やUNEPの強化、全地球的モニタリングやリスク評価の推進、NGO、学会、産業界等の参加の促進、環境保全と持続可能な開発に関する世界宣言と条約の準備、多国間援助や二国間援助の改善と強化、国際的な活動に対する資金の確保等に努めることが重要である。』