エネルギー政策対日審査2003 http://www.oecdtokyo.org/theme/ene/2003/20031118japan.html
OECD Tokyoの『エネルギー』の『エネルギー政策対日審査』の中のページ。『要約及び勧告の日本語版』など。
2003年IEA対日詳細審査
結論及び勧告の要約
要 約
- 1.1999 年の前回詳細審査以来、日本のエネルギー政策における主要な前進は、電力市場における部分的な自由化、ガス市場自由化における新たな進展、京都議定書の批准と議定書における目標達成のための強化された政策パッケージである。しかし、「3つのE(エネルギーセキュリティ、経済効率、環境)」のバランスを図ることについては、なお努力が必要である。
- 2.日本は供給セキュリティを確保するために多大な努力を払ってきた。この結果、日本は石油への依存を減らしてエネルギー・ミックスの多様化を図ってきている。石油備蓄はIEA
の備蓄義務を超えており、天然ガスの利用に対して多くの柔軟な施策が講じられているし、原子力発電や再生可能エネルギーを促進する政策は更なる石油依存の低減と多様化に寄与している。しかし、政治的に不安定な地域から輸入する石油への依存が増加していることにはなお懸念が持たれている。日本はまたエネルギーセキュリティの新たな段階に直面しつつある。最近のアルン(インドネシア)からの供給途絶は、エネルギー・ミックスにおけるガスのシェアが増加するにつれ、その安定供給に潜在的な脅威が存在していることを示した。東京電力の原子力発電所の運転停止はもう一つの例である。高まりつつある夏の電力需要ピークも需給のバランスに一定の危険性をもたらすかもしれない。日本にとっては、その地理的に孤立した位置と限られた国内エネルギー供給源から、多くのIEA
加盟国と比較して、エネルギーセキュリティ問題はより重要な問題である。
- 3.3つのE を達成する政策パッケージの基礎である2010 年までの長期エネルギー需給見通しは、直近では2001
年に発表されている。京都議定書の第一約束期間が近づいてきており、日本が感度分析に基づいて継続的にこれを更新していくことが重要である。2010
年以降のタイムフレームについても、検討され得る。
- 4.2002 年6 月、日本は2008 年から2012 年の第一約束期間の間に1990 年の水準から6%の温室効果ガスの排出削減を行う旨約束した京都議定書を批准した。1999
年の排出量が目標年の排出量を6.8%上回っていたことを考えれば、野心的な目標である。目標を達成する方針は、2002 年3
月の「地球温暖化対策推進大綱」の中で策定されている。
- 5.日本の一人当たり二酸化炭素量とGDP一単位当たりの二酸化炭素量は、IEA 加盟国平均と比較して良い状況にある。同国は、増加しつつあるエネルギー・セクターの二酸化炭素排出に取り組むため非常に幅広い政策を展開してきた。その中には、製造業者による効率的な技術の開発を促す先進的なトップランナー方式、省エネラベリング、新技術(家庭及び業務におけるエネルギー管理システム)、自主的なビルのエネルギー消費基準及び再生可能エネルギーのポートフォリオ基準がある。しかし、いくつかの措置は更なる強化が可能である。省エネラベリングはより広範囲の機器に対象が広げられるべきであるし、ビルのエネルギー消費基準は、新しいビルについては強制的なものとし、既存のビルの改装時についても基準を拡充することができよう。中でも主要な措置は、2010
年までに産業界からの排出量を安定させるという経団連の自主行動計画である。大きな課題は、現在の不況から生産が回復したときにこの目標が達成できるかどうかということであろう。原子力は日本の気候変動政策にとって重要であるが、その使用が今後増大していくか否かは、以下に議論するいくつかの点にかかっている。石炭とガスの輸入は今日まで非課税であったが、石炭、LNG、LPG
に対して最近導入された税は、二酸化炭素排出量の削減を目的としたものではなく、それ自体も比較的緩やかなものであるが、石油への重い課税を修正している。国内的手段による排出削減の限界費用は増大しているため、京都議定書の参加国が利用可能な、最も安価な削減手段への道を開くという観点から、産業界による国際的な排出量取引とその
他の京都メカニズムへの参加は歓迎すべきものである。
- 6.原子力は日本のエネルギー政策において、供給セキュリティという点でも、気候変動の緩和という点でも、中心的な地位を有している。原子力は、日本における他の発電形態よりも幅広い面において競争優位に立っている。日本政府の目標は、2000
年から2010 年までの間に原子力発電を30%(10-13 基の新しい原子力発電所に匹敵する)増加させるというものである。しかし、この目標は、ここ数年発生した安全面の事故が国民の信頼を傷つけ、エネルギーセキュリティが発電所の重大な運転停止により危機に晒されたことにより、以前より達成が難しくなりつつある。第一の取り組むべき目標は、国民の信頼を回復することである。第二に、日本の原子力発電所の設備負荷率は世界の他の最も優れた発電所より遙かに低いので、むしろ法的な或いはその他の停止期間を短縮し、その頻度を減らすことに対して、より関心が払われるべきである。第三は、自由化された電力市場における原子力の役割を確認することである。これは最近の電力市場における一層の市場改革についての議論でも対処されてこなかった。
- 7.日本の政策の中でエネルギーセキュリティと環境問題については強力な取り組みがなされているが、エネルギー市場の効率性や、政策の費用対効果を含め、経済効率性の向上にもっと多くのことがなされるべきである。日本のエネルギー政策においては、ある種のエネルギー供給や最終使用技術選択を促進するための財政金融面でのインセンティブが複雑に絡み合っている。これらのメカニズムが個々に、或いは連動して、どれほど有効に機能しているのか、明らかではない。日本は、財政的措置、税、規制、研究開発等、全てのあらゆるインセンティブとディスインセンティブを総覧し、これらの費用対効果を見極め、そのインパクトと影響力を最大化するために、これら政策オプションを合理化すべきである。
- 8.日本のエネルギー価格は、最近やや下落したとはいえ、なおIEA 加盟国の中で総じて高い水準にある。市場における効率性を向上させるため、政府は市場改革を開始した。このプロセスは石油業界において最も進んでおり、既に完全な自由化が行われている。しかし、同産業ではなお過剰な精製施設の閉鎖や小売りの合理化の途上にあるあるため、その効果はまだ十分には明らかになっていない。
- 9.天然ガス市場の自由化は1995 年には既に開始され、現在では、約39%の市場が開放されている。新規参入者の市場シェアは、2002
年3 月の時点で自由化された市場の2%にすぎず、ほとんど競争は見られない。政府は、市場自由化のもたらす潜在的な利益を十分に享受するために更なる行動が必要であることを認識しており、パイプラインに対する規制型の第三者アクセス(TPA)の導入やLNG
ターミナルへの交渉型のTPA の推進といった新しい施策を表明してきた。これらは有用に見えるが、その効果は綿密にモニターする必要があり、もし競争が生じないようであれば迅速に是正策を講ずる必要がある。天然ガスの一層の導入の観点からは、国内ガス・ネットワークの拡大が課題であり、これは供給セキュリティと競争を強化するものである。
- 10.電力市場改革は2000 年の3 月に始まった。現在、30%の市場は競争に対して開放されており、規制型のTPA
が導入されている。自由化された市場及び自由化されていない市場のいずれにおいても幾分の価格下落が見られた。これは低い利子費用によるところが大きいように見えるが、市場の自由化による価格設定も何らかのインパクトをもたらしたかもしれない。新規参入者は市場に参入するに際しての困難を有しており、既存の電力会社間でほとんど競争がみられないので、政府は更なる措置を公表している。TPA
料金のより明確な基準、パンケーキ問題(供給区域をまたぐごとに課金する方式)の解消、全国規模の卸電力取引市場の確立、同時同量原則の緩和等、提起された多くの措置は市場アクセスをより容易、公平、透明なものにするのに役立つであろう。しかし、この提案は、既存の電力会社が非常に巨大かつ強力な会社であり、新規参入者と比べて著しい市場支配力を有しているという事実についてはほとんど手をつけていない。新規参入が遅遅としていることを考慮すれば、、既存の電力会社間での競争を促進しなければならない。計画中の分離措置、中立的な送電機関及び規制機関の有効性は確保されなければならない。もし競争が進展しなければ、独立系統運用事業者(ISO)の設立のような、より強力な手段も排除されるべきではない。さらに、競争の促進とエネルギーセキュリティの確保という観点から、ほとんどの供給地域間における弱い接続は強化される必要がある。
本報告書は、良い政策が採用され、実施されれば、エネルギー分野全体について、経済効率を改善する余地があることを示唆するものである。
勧 告
日本政府は以下の取り組みを行うべきである。
総合エネルギー政策
- 他国から孤立した場所にあること、高い輸入依存度、送電網のボトルネック、ガス輸送路の幹線ネットワークの欠如などがもたらす供給セキュリティの問題に対し、石油備蓄以外にも、様々な政策手段を組み合わせて取り組むこと。
- エネルギーセキュリティが日本とって最も重要であることを認識する一方、平等な競争条件を確保するために市場改革に一層踏み込むこと。
- 2010 年までの長期エネルギー需給見通しのレビューを継続し、感度分析を実施し、当該タイムフレームを超える見通しの準備を検討すること。
- エネルギー政策の目標を達成するための補助金や財政措置、研究開発の費用対効果を分析すること。
- 燃料税制の改正について、その目的を明確化し、当該目的を費用対効果敵に達成する観点から、評価を行うこと。
- 国際機関を含む全ての関係者が良質の統計情報をタイムリーに得られることを確保すること。
エネルギーと環境
- 2004 年に地球温暖化対策推進大綱を見直すにあたり、予見可能な事象や予見不可能な事象の変化に対処すること。
- 特に運輸部門や電力部門における比較的多量の温室効果ガス排出量のモニターを継続し、必要であれば、国内及び京都フレキシブルメカニズムの双方を通じて更なる措置を講じて、京都議定書における目標とのギャップを埋めること。
- 経団連の「環境自主行動計画」の進展を入念にフォローし続けること。京都メカニズムの活用を含め、企業が更に行動するように奨励することを検討すること。行動計画の対象外の企業から増加していると見られる排出量をモニターすること。
- 費用対効果の高い軽減策を確実に実施し、経済上の悪影響を低下させるために、どのようにしたら国際的な排出量取引が利用可能であるかを検討すること。
- 費用対効果やエネルギーセキュリティへの貢献度を勘案し、他の温室効果ガスの対策も含め、気候変動を緩和する政策手段を選択すること。
エネルギー効率化
- 補助金とエネルギー効率化基準やガイドラインとの組合せの効果を評価すること。
- 以下により、トップランナープログラムにおける機械器具や自動車の基準を強化すること。
◎最小のライフサイクルコストの採用或いはトップランナーを識別するための国際的な機械器具の市場の活用など、新しい基準を設定するような他のアプローチを検討すること。
◎ラベリングを義務化したり、他の製品にも拡大すること。
◎例えば、トップランナー制度を平均燃費あるいはエンジンのサイズに基づくものにするなど、自動車の重量増を回避するような異なったアプローチを検討すること。
- 新規の住居や業務用建築物に対する義務的な省エネ基準の導入の可能性を検討し、新規の建築物の認証制度を強化すると共に既存の建物に対して認証制度を拡充すること。
化石燃料
- 多角化されたエネルギー源からの燃料調達の促進や良好な国際関係の創出により、化石燃料の供給セキュリティに引き続き取り組むこと。
- 石油公団に取って代わる新組織の立ち上げに際し、エネルギーセキュリティの目標との一貫性を確保すること。
- 石油公団の活動の費用対効果を評価し、競争的なエネルギー市場と両立しつつ機能する後継組織を設立するに当たっての考慮材料にすること。
- 石油市場において実質的な競争を確保し、統合や合併が競争を妨げないようにすること。
- 効率改善のために精製や小売部門の更なる構造改革を促進すること。
- 高効率で温室効果ガスが低排出である高度な石炭発電所の商用実証及び普及を促進すること。
- 天然ガスの幹線パイプラインの発展を促すこと。
- ガス会社のパイプライン輸送・配送とその他の活動との間で会計分離を導入すること。
- フランチャイズエリアにおいて新規参入者が顧客を獲得するに当たっての規制の障害を低減すること。
- LNG ターミナルへの第三者アクセスを促進する取り組みの効果を周到にフォローすること。既存の措置が効果的な競争を確保するのに十分でなければ、第三者アクセスの義務化の実施を検討すること。
新エネルギー・再生可能エネルギー
- 然るべきタイミングで、RPS の実施状況を見直し、その有効性や更に必要とされる政策手段を確認すること。
- エネルギーセキュリティ面と温室効果ガス面での潜在的なメリットを踏まえ、原子力と同様に、再生可能エネルギーについても、送電網へのアクセスを確保すること。
原子力
- 原子力安全・保安院や新組織の原子力安全基盤機構が有効に機能することを確実にすることに特段の注意を払いつつ、安全関連の欠点に取り組むこと。
- 特に国と地方自治体との間の政治的な緊張関係に取り組むことにより、原子力エネルギーに対する国民の信頼を回復するように努めること。
- 特に沸騰水型原子炉(BWR)について、原子力発電所の稼働率を向上させるための努力を維持すること。
- 自由化された市場における原子力発電の役割や、バックエンドコストの問題に対処する際の政府と産業界のそれぞれの責任を明確にすること。
- 原子力政策に対する理解の促進を通じて適切なサイトを追求し、高レベル放射性廃棄物の最終処分を推進すること。
電力
- ピークロードの緩和に役立つ価格メカニズムや他の需要サイドの政策手段を促進すること。
- 効果的なアンバンドリングの水準を確保し、公正で効果的な競争を促進すること。第一ステップとして、発電・小売部門を送電部門から分離するために会計分離と情報遮断を即時に実施し、既存事業者と新規参入者の間の競争条件を平等にすること。公正で効果的な競争が起こらない場合、政府は、全国の送電ネットワークを管理する単一の独立系統運用事業者(ISO)の設立を排除しないこと。
- 事前規制に重点を置きつつ、規制フレームワークの強化を行うこと。産業界や経済産業省の産業振興の活動から、規制当局の独立性を確保すること。第二ステップとして、経済産業省から完全に独立した規制機関の設立の便益を評価すること。
- 供給セキュリティを改善し、効果的な競争を促進するために、費用対効果の高い方法で、地域間の送電網、特に二つの周波数の地域間の送電網の連携強化を促進すること。送電容量の競争入札などにより、送電網へのアクセスの可能性を改善すること。
研究開発
- 長期的な研究開発を十分に支援するように細心の注意を払い、バランスの取れた研究開発のポートフォリオを追求し続けること。
- 産業界が研究開発の成功事例から利益を得る場合には特に、可能であるところから、産業界にコスト負担の増加を求めること。
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