緑の経済と社会の変革  http://www.env.go.jp/guide/info/gnd/
 環境省による。2009年4月20 日、55p.


緑の経済と社会の変革

目次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
策定に当たっての環境大臣としての基本的な考え方・・・・・・・・・・・・・・4
第一章.緑の社会資本への変革 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1.学校等公的施設を日本全国でエコ改造
 @学校施設のエコ改修・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
 A国の施設のエコ改修・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
 B地方公共団体の施設のエコ改修・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2.都市、交通のエコ改造
 @コンパクトで人と環境に優しいまちづくり・・・・・・・・・・・・10
 A環境に優しい交通インフラづくり・・・・・・・・・・・・・・・・11
 B環境に優しく人の健康も確保できる水インフラづくり・・・・・・・12
3.国土のクリーンアップ
 @不法投棄の処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
 A漂流・漂着ゴミ地域連携対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
 BPCB、アスベスト等対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
4.美しい自然と水辺づくりの推進
 @美しい自然の確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
 A美しい水辺、水循環の確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
5.温暖化防止に貢献する森林の整備・保全・・・・・・・・・・・・・・・15
6.温暖化に伴う気候変動への適応策・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

第二章.緑の地域コミュニティへの変革・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
1.環境保全に取り組む地方公共団体が中心となる取組支援
 @環境保全型の地域づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
 A環境保全型の交通システムづくり・・・・・・・・・・・・・・・・18
 B大気・水環境を始めとした公害防止・・・・・・・・・・・・・・・18
2.地域コミュニティによる取組支援
 @自然環境の保全と活用による活力ある地域づくり・・・・・・・・・19
 A環境人材育成と多様な主体による活力ある地域づくり・・・・・・・20
3.元気な森づくり、農山漁村づくり
 @森林の整備を進めるための都市の力の活用・・・・・・・・・・・・21
 A農業・農村の潜在力を活かした新たな挑戦・・・・・・・・・・・・21
4.まちと地域の循環型社会づくり
 @循環型コミュニティの活性化・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
 Aリデュース・リユースの推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
 Bバイオマス資源の循環利活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
 C水の循環利用推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
 D窒素・リンの循環利用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

第三章.緑の消費への変革・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
1.省エネ家電への一斉買換え等の取組促進
 @省エネ家電の爆発的普及・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
 Aグリーン購入・契約の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
2.次世代省エネ住宅・建築物の普及・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
3.次世代自動車の普及促進に向けた取組
 @次世代自動車の普及促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
 Aバイオ燃料・水素供給設備や急速充電設備の設置・・・・・・・・・27
 Bバイオ燃料に関する規制の適正化・・・・・・・・・・・・・・・・28
 C国等による次世代自動車の率先導入・・・・・・・・・・・・・・・28

第四章.緑の投資への変革・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
1.環境配慮を経済活動に織り込む制度
 @排出量取引制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
 A税制のグリーン化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
 Bカーボン・オフセットの普及・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
 Cカーボンフットプリント制度の推進・・・・・・・・・・・・・・・31
 D温室効果ガス排出量の見える化・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2.環境への投資を促す金融・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
3.環境配慮経営の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
4.グリーンIT等の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
5.循環産業の育成
 @リサイクルシステム・技術の高度化・・・・・・・・・・・・・・・36
 A循環型社会ビジネスの信頼性・透明性の向上・・・・・・・・・・・36
 B廃棄物処理システムの低炭素化推進・・・・・・・・・・・・・・・37
6.エネルギー構造のグリーン化
 @再生可能エネルギー大国に向けた取組・・・・・・・・・・・・・・37
 A地域の資源を活かした取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
 B安心・安全な原子力発電・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

第五章.緑の技術革新・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
1.環境と経済をともに向上・発展させる基盤となる研究
 @環境経済政策研究の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
 A低炭素社会づくりのための中・長期目標達成ロードマップ策定調査・40
2.2050 年といった長期的な目標を持った技術開発・・・・・・・・・・・40
3.10〜20 年以内の実用化や普及を目指した技術開発・・・・・・・・・・41
4.最先端の環境技術の普及と既存技術の活用・・・・・・・・・・・・・・42
5.地球温暖化に伴う気候変動への適応策の研究
 @地域レベルでの温暖化予想実施・・・・・・・・・・・・・・・・・43
 A適応対策の研究・開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
6.環境モニタリング、環境管理と情報収集・提供の推進
 @環境モニタリング、環境管理の推進・・・・・・・・・・・・・・・44
 A生物多様性条約第10 回締約国会議に向けた情報の収集・分析と提供・44

第六章.緑のアジアへの貢献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
1.戦略的、体系的で現場と通じた環境協力の展開・・・・・・・・・・・・46
2.アジアにおける環境モデル都市づくり・・・・・・・・・・・・・・・・47
3.コベネフィット・アプローチの推進・・・・・・・・・・・・・・・・・47
4.健全な水循環形成への支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
5.アジアレベルの循環型社会づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
6.アジアにおける自然共生社会づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・49
7.越境汚染対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50

むすび・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51


はじめに

 サブプライムローン問題に端を発する世界同時金融危機の影響も受け、世界は同時不況に突入しています。この世界的な不況の影響を受けて、我が国の経済・雇用の情勢は、歴史的な厳しい状況にあります。
 こうした中で経済の底割れを防ぎ、雇用を確保するためには、新たな需要を創出する必要があります。

 他方、我々は、地球規模の環境問題に直面しており、早急かつ思い切った対策が求められています。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「地球温暖化は疑う余地がない」と断定しているように、地球温暖化問題については待ったなしの状況にあります。世界全体の温室効果ガスの排出量を今後10〜20 年の間にピークアウトさせ、2050 年までに少なくとも半減させる方向で対策を早急にとらなければ、地球規模の気候変動により、大規模な自然災害が頻発するなど、莫大な損害を被るおそれがあります。
 また、世界の人口が大幅に増加することや途上国の経済発展、社会の変化等により、資源枯渇や価格高騰、自然破壊や種の絶滅など生態系の危機が生じることが懸念されています。
 「緑の経済と社会の変革」は、こうした状況を踏まえ、必要とされる環境対策を思い切って実行することにより、直面する環境問題に対処するとともに、現下の経済危機を克服し、我が国の将来の経済社会を強化しようとするものです。

 このためには、政策目的を明確にして、その目的を実現する上で必要な新たな取組を大胆かつ集中的に打ち出す必要があります。こうした取組が、越えがたいと見られてきた環境技術や省エネ技術導入に向けての壁を乗り越えるための起爆剤となり、新しい技術やサービスへの新規参入や地域の市民の取組が続々と生まれ、大きなうねりとなって広がり、経済と社会の変革へと結びつくことになると考えます。
 そして、その流れを、私たちの身の回りの都市・地域のあり方を含む社会資本、自動車や家電及び住宅などの消費、生産設備や産業構造などに広げていきます。こうした思い切った政策により、我が国の経済と社会のあり方全体を環境問題に対応できる新しいものに変革し、我が国の経済と社会をより持続力がある構造に変えていきたいと考えて
います。

<環境が経済を牽引して未来を開拓>

1.環境対策によって日本の力を活かし、経済発展を実現


 本年末には、COP15(国際気候変動枠組条約第15 回締約国会議)が開催され、地球温暖化対策の次期枠組みが決められます。現在交渉中ではありますが、京都議定書以上の対策が必要になることは共通認識になりつつあると言えます。
 こうしたことから、今後、環境分野はきわめて大きな需要が見込まれる成長分野となると考えられます。環境分野を制する国が21 世紀をリードするといって過言ではないかもしれません。世界各国は、そのことも見越しつつ、現在の経済危機の中で温暖化対策などの環境対策を行うことを経済再生への起爆剤とするとともに、将来の環境産業における主導権争いを始めています。そのような中で、我が国としても、これまでの延長線上だけで政策を展開しているわけにはいきません。
 まさに、待ったなしの状況にあります。
 幸い、日本には世界に誇るべき省エネ・環境技術があります。また、物や資源を大切にする「もったいない」という考え方や豊かな自然と共生する文化をはぐくんできた歴史もあります。
 こうした強みは先人たちの努力や毎日の生活の積み重ねにより得られたものですが、我が国が環境問題に対処していく上で、大いに強みになるものと考えられます。この強みを活かして環境と経済をともに向上・発展させていくためには、環境技術の普及や環境関連の事業への参入、さらには地域の環境保全の取組を妨げる、価格や制度、情報といったハードルを越える必要があり、そのために強力な政策展開を図っていきます。

2.政策意思の明示と強い初期インセンティブの導入

 我が国で、世界でも群を抜く低公害・低燃費の自動車技術が発展し、自動車産業の発展につながったのは、自動車に係る環境対策を世界最高レベルのものとする揺るぎない政策意図を持ち、排ガス規制とともに税制等のインセンティブを用いてきた成果であることは、誰しも認めるところでしょう。現在、さらなる低燃費車の普及加速に向けた税制改正などが行われており、その成果が期待されます。
 このように強い政策意思が示され、思い切った初期インセンティブが導入されることが、環境技術の普及などへのハードルを越える上できわめて大きな効果を発揮すると考えられます。
 最初の対策の成果が出てきて、環境対策としての効果に加え、事業者にとっての製品需要や事業の発展、消費者にとっての便益につながることがわかると、多くの民間の事業者が参入し、また、消費者の側もそれを広く受け入れ、そのような技術などに関わる主体の輪が広がっていきます。すなわち、最初の成功は小さなものであったとしても、その成功が輪に加わるものを呼び込むことによって大きな成功に結びつきます。
 この輪の広がりは、さらなる技術の発展と投資の拡大を導き、それがまた国内だけでなく海外も含めた需要の拡大に結びつきます。これが繰り返されることによって、環境と経済がともに向上・発展していく好循環が生まれます。

3.低炭素革命の実現に向けて

 現在直面している経済問題と環境問題は、ともに緊急の対応を求められており、環境対策によって経済政策を実現するための施策を速やかに実行しなければなりません。
 しかし、それと同時に、そのための施策は、低炭素社会を実現し、未来に渡ってわれわれ人類の活動基盤を守る、きわめて長期的な課題のためにも不可欠なものです。したがって、こうした環境対策は、現在の経済危機解決の側面だけでなく、将来に向けての長期的観点からも、非常に効果的なものと考えられます。
 そして、強い政策意図を持って思い切った初期インセンティブを起爆剤にすることによって、先に述べたように、環境と経済の好循環が始まります。これが軌道に乗れば、さらなる研究開発や投資が大きな流れとなり、そのことに励まされてこれまで環境問題への関心が必ずしも行動に結びついていなかった国民の行動につながり、さらにはこれまで関心の薄かった多くの国民の参加に結びつきます。
 これまで動いていなかった車輪を動かすには大きな力が必要です。特に、その最初の一回転はどんな場合にも大変重くて容易には動きません。しかし、地球の命運をかけた大きな車輪ですら、最初の一転がりを転がすことによっていわば弾み車のように勢いがつきます。勢いがつけば、手助けもしやすくなり、また、その勢いのある動きに参加しようとして手をさしのべる人が続々と現れて継続的で力強い動きになり、低炭素社会が
実現します。いわば、その最初の一回転こそが低炭素革命であり、私たちはそれができるかどうかの岐路に立っています。

 今こそ、将来の世代から感謝され、また、世界各国に誇れる日本の経済社会を実現するために、環境と経済がともに向上・発展する社会づくりにむけて全力で低炭素革命に取り組む必要があると思います。

 このような考え方で「緑の経済と社会の変革」を取りまとめたところです。

 私たちが、緑の経済と社会の変革に向けて、力強く歩めるよう、国民の皆様の一層の御理解と御協力をお願いするとともに、こうした我が国の取組は広く海外にも発信していきたいと考えています。

 なお、策定に当たっては、800 件を超える多くの国民の皆様からのご意見をいただくとともに、各界の有識者の皆さんと直接意見交換を行いました。その中で、「広く環境を捉え、長期的視野に立つべき」、「今の厳しい経済状況の中では需要の創出が重要な課題であり、将来に向けて必要な環境対策を進めるべき」などのご意見を頂くとともに、「国がわかりやすい政策を思い切って進めるとともに、地方の取組を支援して欲しい」、「地
域や民間の取組が進む仕組みを作って欲しい」などのお話を頂きました。また、具体的なアイデアも多く頂きました。
 こうしたご意見やアイデアを踏まえ、また、関係各省の施策も含めて、私の考え方を「緑の経済と社会の変革」として取りまとめたところです。
この場をお借りして、関係するすべての皆様に御礼申し上げます。

平成21 年4 月20 日
環境大臣 斉藤鉄夫


策定に当たっての環境大臣としての基本的な考え方

T.環境対策による経済再生

1.環境保全は経済発展の基盤

 従来、環境と経済の関係については、ともすると環境保全の取組が経済発展の制約要因となると見られがちでした。

 しかしながら、世界の現状からは、環境を守ることは我々の社会や経済の活動の基盤を守ることであり、このまま環境が悪化すれば、我々の活動の基盤が危うくなりかねません。したがって、環境保全の取組を進めることは、経済や社会の持続的な発展の必要条件となっています。
 例えば、地球温暖化は、対策が遅れれば、気候変動による異常気象などにより莫大な損失を社会に与えるおそれがあります。先に述べたような自然災害だけでなく、食料生産への影響や、生活や産業の基礎となる水資源が枯渇する地域の出現などのおそれがあります。また、このような変化が発生してから適応しようとすれば、膨大な費用が必要になると言われています。
 さらに、現在は経済状況によって落ち着いているものの、今後、世界各国と協力して適切な対応を取らなければ、人口増や新興国の経済発展により、資源やエネルギーの枯渇や大幅な価格上昇が起こり、経済発展を阻害することが懸念されます。
 化石燃料の使用を抑制し、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を進め、新たな資源の消費量の少ない経済・社会に変革することは、このような世界的な問題を防ぎ、経済や社会の持続的発展を支えることにもなります。

2.世界市場で成長する環境産業
 そして、このような深刻な問題を解決することが世界共通の課題となっていることから、環境関連の事業は、今後需要と雇用が見込まれる成長分野であると考えられます。
 地球温暖化対策や循環型社会構築、自然共生の取組は世界共通の課題であり、すべての国において応分の対応が必要になります。このため、このような課題を解決するための環境関連事業については、世界中で長期にわたり継続的な需要が発生することが見込まれ、雇用が創出される分野であると予想されます。また、世界的に環境問題への関心と要求が高くなることも予想されることから、高効率で環境負荷の少ない経済の姿をつくることが日本産業全体の競争力を高めることにもつながります。
 既に、各国では厳しい経済状況の中、環境関連事業への投資を高めています。対応が遅れれば、世界に追いつくために大きな負担を負うことになります。逆に、環境対策は未来の成長分野への投資と捉えることができる状況になっているのです。そして、そのような取組によって世界を牽引することこそが世界の中での日本の役割であり、世界とともに生きていく道なのではないでしょうか。

 以上のように、環境対策に取り組むことが経済や社会の持続的発展を支え、発展の原動力となるという視点に立ち、環境と経済をともに向上・発展させる取組が重要であると考えています。

3.環境対策で国民の需要を喚起
 そして、将来に向けてというだけでなく、現在においても、環境保全に資する製品・サービスには大きな可能性があります。新車生産台数が激減する中、省エネ性能の高い自動車については、予想を大幅に超える注文があり、生産が追いつかないという状況も生じています。また、エコバックやクールビズ等への取組状況を見ても、国民の環境保全に資する取組に対する潜在的な関心は非常に高く、機会があれば環境保全に資する消費行動を行う潜在需要は高いものと考えられます。
 国民の潜在需要を顕在化させるためのきっかけをうまくつくり出すことが、冷え込んだ消費活動を活発にさせることにもつながると考えられます。
 そして、そのような需要は、新たな製品やサービスへの需要を生み出し、新産業を生み出すことにもつながります。
 この意味でも、環境保全への取組が経済発展を生み出す可能性は大きく、それを現実のものにするための施策が求められると考えています。

 今こそ、以上のような考え方を踏まえて、適切かつ思い切った環境対策を進めることによって、環境と経済をともに向上・発展させる必要があります。

U.変革に向かう道筋

1.低炭素社会、循環型社会、自然共生社会の統合的な実現

 基本的な考え方の二つ目は、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会を統合的に実現することです。
 目指すべき持続可能な社会は、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会の三つの側面を有するものです。この三つの側面は互いに密接な関係を持っています。例えば、地球温暖化により貴重な生態系が失われるおそれが生じることや、3Rを通じた地球温暖化対策への貢献が考えられます。それぞれの側面の相互関係を踏まえ、私たち人間も地球という大きな生態系の一部であり、地球によって生かされているという認識の下に、統合的な取組を展開していくことが不可欠です。
 我々が目指すべき社会というものが複数存在するわけではありません。自然との共生を図りながら、人間社会における炭素も含めた物質循環を自然、そして地球の大きな循環に沿う形で健全なものとして、持続的に成長・発展する社会を実現する必要があります。

2.すべての主体の参画と協働
 基本的な考え方の三つ目は、国、地方公共団体、国民、企業、各種団体等すべての主体が有機的にそれぞれの役割を果たしていくことです。
 国全体や地球規模の視点から、基本的なルール策定や基幹的インフラ整備等の施策を実施することは引き続き国の役割です。一方で、地方公共団体が国の施策との連携を図りつつ、地域の事情に応じてより効率的、効果的な取組を進めることが期待されます。また、地域の問題や、市場における市民や民間の各種組織の活動も非常に重要になってきています。さらに、環境問題がグローバルかつ多様になる中、企業に期待される役割も大きくなっています。そのような中で、企業の積極的な環境保全の取組をNPOが支援し、それを国民が評価して購買や投資を通じて支える等、有機的な関係で様々な主体が協働していくことが求められます。
 各主体が期待される役割を十分に果たせるように、制度を整備し、政府自らも各主体との協働に取り組むとともに、各主体の取組や相互の協力を支援することが重要と考えられます。

3.様々な政策のベストミックス
 基本的な考え方の四つ目は、経済と社会の変革のために様々な政策手法の最適な組み合わせ(ベストミックス)を図っていくということです。
 現在は、厳しい経済状況に直面しており、国による財政的な政策を中心に対応していますが、中長期的な視点からは、ベストミックスを目指す必要があります。
 例えば、温室効果ガスの排出削減のためには、数十年から100 年先といった将来に向けて継続的に経済や社会を変革していく必要があります。このためには、財政的な措置だけではなく、温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度や民間におけるグリーン購入といった情報的な手法、さらには税制のグリーン化や排出量取引のような経済的手法といった多様な政策手法の特徴を活かしつつ、有機的に組み合わせるというポリシーミックスの考え方を活用することが必要であると考えます。

4.アジアへ、そして世界へ広げる取組
 基本的な考え方の五つ目は、日本の取組をアジアへ、そして世界へ広げるということです。
 世界の環境問題と我が国の環境問題や社会経済とは相互に密接に関わっています。特に、地理的にも経済的にも我が国と密接な関係を有するアジア地域においては、急速な経済成長を背景に、大気汚染、水質汚濁、廃棄物の不適正処理などの深刻な環境汚染が懸念されます。また、二酸化炭素を始め温室効果ガスの排出量の急増や資源利用量と廃棄物排出量の増大など、地球環境にも大きな影響を及ぼしつつあります。 そして、温室効果ガスの排出は言うに及ばず、アジア地域で適切な資源循環が行われず資源の浪費が行われることは、地球環境や資源獲得問題を通じ、我々にも大きな影響を与えます。また、環境汚染は、我が国にも直接影響を及ぼすとともに、アジアの国々の経済発展を阻害することや、社会的な混乱につながり、それが我が国社会経済に大きな影響を及ぼす可能性が十分あります。
 したがって、アジアを中心に世界の国々と手を携え、お互いが環境を通じた経済成長という成果を共有することによって、将来に向けて持続的に発展するようにしていく必要があります。特に、そのためには途上国の公害対策等と温暖化対策との相乗的・一体的な対策(コベネフィット対策)が必要となります。また、協力を行うに際しては、技術、制度、人材を一体的に提供することにより、継続的に相手国の対策に関わり続けることが、将来にわたる密接な関係を作り上げる上で重要です。

V.経済と社会の変革のための論点

 このような考え方に基づき、「緑の経済と社会の変革」のための施策を以下のように取りまとめました。
(1)「緑の社会資本への変革」
 国が中心となり、地方公共団体とも協力しながら、緑の公共事業により、将来に向けて人と環境に優しいインフラを整備していくための施策を示しました。
(2)「緑の地域コミュニティへの変革」
 人材や自然、伝統など地域の資源が活かされ、環境保全の取組を通じて地域を活性化するための施策を示しました。
(3)「緑の消費への変革」
 既存の家電や自動車を省エネ型で環境負荷の低いものに置き換えることや住宅のエコリフォームなど、家庭から始まる緑の需要創出のための施策を示しました。
(4)「緑の投資への変革」
 企業による緑の消費に応える製品作りや、金融市場からの支援など、企業による積極的な環境投資を促すための施策を示しました。
(5)「緑の技術革新」
 2050 年をにらんだ長期的な技術革新から、既存の技術の有効活用まで、日本の誇る環境技術のさらなる進歩と活用のための施策を示しました。
(6)「緑のアジアへの貢献」
 アジアの発展の鍵となる環境・資源関連の先行投資を支援するための施策を示しました。

W.目指すべき社会像

 この緑の経済と社会の変革を実現すれば、日本は現在の世界同時不況からいち早く脱却し、次の時代をリードしていくことができます。そして、2020 年頃をメドに、次のような社会の実現を目指します。
 日本の誇る環境・省エネ技術のさらなる開発が進み、既存の技術とともに、社会の至る所で有効活用されます。また、それらの技術は社会システムの中で有機的に活用されています。特に、省エネ家電が各家庭に普及することにより、大幅にエネルギー使用量を減らしつつ、より豊かな暮らしを送ることができるようになっています。また、次世代自動車の普及により、エネルギー使用量を減らすとともに、街中の空気も清浄に保たれています。さらに、省エネ性能が高く、光熱費がほとんど必要ない、安全な住宅が長く使われるようになっています。
 産業界においても、高効率で環境負荷の少ない設備が適切なマネジメントシステムの下で使われ、それが我が国産業の競争力の源泉ともなっています。
 このような環境・省エネ技術の活用や資源の循環利用を含め、低炭素社会、循環型社会に向けた取組や、さらには自然共生社会に向けた取組が企業によって積極的になされるとともに、社会的に評価を受け、国民から優先的に消費され、投資を受け、金融機関から必要な融資も受けることが可能になります。
 また、地域コミュニティレベルから、アジアレベルまで、様々なレベルで3Rが促進される地域循環圏が形成され、リデュース・リユースの取組強化や廃棄物・リサイクル関連産業が発展し、レアメタルをはじめとした資源が社会の中で循環利用されます。そのような社会の中で、自然の恵みを活かしながら共生して生きる日本人の「もったいない」の精神が発揮され、その結果、資源の投入量や最終処分の量は極小化し、廃棄物も適切に処分されています。
 さらに、国民とのふれあいの中で、日本国土の自然が守られつつ、エコツアーなどの形で適切に利用されています。また、人間と鳥獣の棲み分けなど、人と生態系との関係が良好に保たれています。
 コンパクトシティ実現に向けたインフラを始め、国民が環境に優しく、ゆたかに暮らすためのインフラが整備されています。また、排水処理施設が全国津々浦々に普及するなど、身近な環境保全のための設備も整備されています。持続可能な農林水産業を含め、地域の資源を活かして環境を守りつつ、地域の活性化につながる事業が地域の様々な主体の能力を活かしながら活発に行われています。
 風力、小水力、バイオマスなど、地域の環境資源が有効活用された再生可能エネルギーをはじめ、環境への負荷が限りなく少ないエネルギー源が確保されています。また、化石燃料以外からの水素供給システムをはじめ、エネルギーを効率的・安定的に環境負荷の少ない方法で供給するための技術・システムなど、将来に向けた基盤的な技術の開発や実用化も進められます。
 そして、このような日本の取組がアジアを始めとした世界に広がっています。その中で日本の取組が評価され、それに見合った市場を確保しています。

参考:環境ビジネスに関する試算

 このような社会の中では、環境ビジネスが市場規模にして現在の70 兆円が120 兆円程度になり、雇用規模についても、140 万人が280 万人程度になっていることも期待できる成長産業となっていると試算されます。

※この「緑の経済と社会の変革」は関係各省の施策を含めて作成したものですが、環境の保全に関する基本的な政策の企画等を担当している環境大臣が、その責任において作成したものであり、環境大臣としての考え方を示したものです。


むすび

 この緑の経済と社会の変革は、国民の皆様や有識者のご意見を踏まえて作成したものです。今後、関係各省にも働きかけつつ、国民の皆様とともにこの変革を実現するべく、ここに記述した取組を進めていきたいと考えています。
 なお、この緑の経済と社会の変革は、平成21 年4 月の社会状況を踏まえて作成したものですが、今後、社会状況の変化に合わせながら新たな施策にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。


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