JASERA(監修)(2000)による〔『土壌・地下水汚染の実態とその対策』(5-6、13、43-44p)から〕


1.1.2 顕在化する市街地の土壌汚染〜農用地の汚染から市街地の汚染へ〜
 従来、わが国において土壌汚染が問題とされたのは、主として農用地であった。農用地の汚染は農作物の収穫を低下させるばかりでなく、食物連鎖を通して人の健康に被害を及ぼす。農用地の土壌汚染を未然に防止するとともに、汚染土壌の浄化を進めるための法律(農用地の土壌の汚染防止等に関する法律)が1970年(昭和45年)に制定された。その後、農用地の土壌汚染については、この法律に基づいて対策地域が指定され(66地域、6260ha)、計画に基づいた調査・浄化が順調に進められてきた。対策事業の進捗率は75%を超えており、また、新たな汚染が判明することは少なくなっている。
 しかし、近年問題とされているのは、むしろ市街地における土壌汚染である。
 従来、わが国の市街地土壌汚染は、汚染地の多くが事業場等の私有地であり、局所的な汚染が多いことから、顕在化することが少なかったといわれている。生産工程で使用される原材料や化学物質の有害性に対する認識が低かったことも、原因の1つであろう*。しかし、最近は、ダイオキシンや環境ホルモン等の新たな化学物質による環境汚染への懸念や、急増する廃棄物の処理に関連して、市街地における土壌汚染への関心が高まっている。
* 社会問題となった六価クロムを含んだ鉱砕も、問題が顕在化するまでは建築用材などの一部として有償で引き取られていた経緯がある。
 土壌汚染は、工場跡地の再開発や土地取引に関連して、また、地下水の常時監視によって顕在化しており、実態が徐々に明らかになりつつある。各地の廃棄物処理場やその周辺での土壌汚染や地下水汚染が問題となるケースが増えているが、環境問題そのものに対する消費者や地域住民等の関心の高まりが、市街地における土壌や地下水の汚染問題の顕在化にも影響している。』

1.2.3 土壌汚染の原因物質
 表1.5(略)および表1.6(略)は、それぞれ土壌汚染の調査事例および超過事例(土壌環境基準を上回っている事例)について、業種別および汚染物質別の事例数を示した表である。
 調査事例数(467件)を業種別に見ると、金属製品製造業(63件)が最も多く、次いで、洗濯業(60件)、化学工業(49件)、電気機械器具製造業(44件)という順になっている。
 また、検出された物質を見ると、鉛(175件)が最も多く、次に、砒素(146件)、テトラクロロエチレン(141件)、総水銀(132件)、カドミウム(123件)、トリクロロエチレン(123件)、六価クロム(99件)となっている。
 土壌環境基準を超えた事例(171件)に限定して見ると、汚染(検出)が多い業種は、金属製品製造業(23件)、洗濯業(22件)、化学工業(14件)の順であり、検出物質は、鉛(60件)、砒素(55件)、テトラクロロエチレン(40件)、六価クロム(37件)、総水銀(33件)、トリクロロエチレン(30件)、カドミウム(17件)の順となっている。』

3.2 環境基本法土壌環境基準
 土壌環境基準は、環境法の憲法ともいうべき環境基本法(第16条)に基づき、人の健康と生活環境を保全するうえで維持することが望ましい基準という観点から作られている。この環境基準は、土壌汚染の有無を判断したり、浄化対策を進めるうえでの目標の基準とされる。土壌が、この環境基準に適合しない場合は汚染している判断とされ、必要に応じ浄化対策が進められる。
 現在の土壌環境基準は表3.1(略)のとおりであり、25物質が環境基準の項目とされている。ただし、現在、要監視項目に指定されている物質の一部が環境項目に追加され、規制項目数が増える可能性がある。』

3.4 水質汚濁防止法
 水質汚濁防止法は、地下水汚染の防止、汚染対策を通して土壌汚染対策に深く関係しており、地下水質の常時監視・有害物質の地下浸透の禁止等汚染発生の予防措置を定めるとともに、汚染されている地域の調査および浄化命令を出す権限を都道府県知事に付与している。都道府県知事が浄化命令を出せることになったのは、1996年の法律改正によってであり(1997年4月から施行)、同時に、汚染原因者に遡及責任を、また、土地所有者には浄化協力義務を課すことができるようになった。水質汚濁防止法の概要は次のとおりである。
(1)地下水質の常時監視
 都道府県知事は、地下水質の状況を常時監視し、汚濁状況を公表しなければならない。
(2)有害物質の地下浸透の規制
 特定事業場を設置するときは、60日以上前に届け出なければならない。
 特定事業場は、有害な汚水・廃液を排出する施設を持つ事業場で、施行令に定められている。鉱業、畜産、食品・化学・金属等の製造業、飲食店、クリーニング、病院、洗車等が指定されている。都道府県知事は、届出に対して計画変更命令を出したり、操業開始後の改善命令を出すことができる。届出義務違反、命令違反には罰則が適用される。
(3)報告・立入検査
 都道府県知事は、事業場の使用状況・汚水処理方法等について報告を求め、また、施設内に立入り、土壌、地下水、関係帳簿書類等を検査をすることができる。報告や立入検査は、現在操業している者だけでなく、過去に事業を行っていた者にも及ぶ。立入拒否等に対しては、罰則が適用される。
(4)浄化命令
 都道府県知事は汚染原因者を究明し、浄化措置を命令することができる(汚染原因者負担の原則)。ただし、対象は、汚染の届出・報告・立入検査と同様に特定事業場に限定される。
 有害物質は施行令で指定されているが、汚染時に有害物質に指定されていなくても、命令時に有害物質であれば浄化命令の対象となる。浄化命令の違反に対しては、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が適用される。
(5)浄化命令の発動要件
 浄化命令は、「現に人の健康に係る被害が生じ、または生ずるおそれがあると認めるとき」に出される。具体的には、浄化基準を超える汚染が存在し、その地下水が次のいずれかに該当する場合等に浄化命令が発動される。
 ●地域住民の飲用水または水道水源として利用、あるいは利用される可能性がある場合
 ●飲用に係る非常水源として位置づけられている場合
 ●公共用水域の水質に悪影響を与え、またはその可能性がある場合
(6)汚染地取得者の協力義務
 汚染地の現在の所有者は、汚染された土地が譲渡された後に汚染者に対して浄化命令が出された場合、浄化に協力しなければならない。汚染を知らないで土地を購入した場合も同様である。協力義務は、浄化装置の設置場所や資材置場の提供、作業員の出入りの承認等であるが、協力義務違反に対する罰則は定められていない。
(7)遡及効
 法律の改正以前に生じた汚染であっても、汚染当時に特定事業場であれば、浄化命令の対象となる。ただし、改正法の公布(1996年6月5日)以前に特定事業場でなくなっていれば、浄化命令は出せない。
(8)地下水の浄化基準値
地下水の浄化基準値は表3.3(略)のとおりである。井戸の取水口等でこの浄化基準値を超えない水準まで浄化することが義務づけられる。』



戻る