国内排出量取引制度の法的課題に関する検討会による国内排出量取引制度の法的課題について(第二次中間報告)から
2010年1月13日(80p)。
目 次
はじめに ...................................................................
1
1. 法的課題を論ずる上での前提条件について ...............................
3
1-1 国内排出量取引制度とは ..............................................
3
1-2 国内排出量取引制度をめぐる情勢について .............................. 4
1-3 「京都議定書に基づく国別登録簿制度を法制化する際の法的論点の検討について(報告)」(平成18 年1月)取りまとめ時の議論から想起される、本検討会において検討すべき論点について
........................................... 8
1-4 国内排出量取引制度の法制化に当たっての法的論点について ............ 10
5. 民事法上の課題について ..............................................
13
5-1 国内排出量取引制度における排出枠の取引の意義 ....................... 13
5-2 欧米における排出枠の法的位置付け ................................... 14
5-3 我が国の国内法から見た排出枠の位置付け ............................. 20
5-4 排出枠の取引を円滑に機能させるための基礎的条件について ............ 22
5-5 排出枠の取引に関する基本的な規律の在り方 ........................... 25
5-6 排出枠の財産権性(譲渡性)の程度と範囲(とりわけ、差押えや制度対象者の破産の局面における規律)―コミットメントリザーブについて
.............. 27
5-7 政府による排出枠の割当に過誤があった場合の対応 ..................... 37
5-8 排出枠の移転に関する問題事例の整理 ................................. 39
5-9 排出枠の償却に関する問題事例の整理 ................................. 45
5-10 排出枠に対する民法及び民事執行法制の適用について .................. 48
5-11 排出枠の管理システムの在り方について .............................. 57
5-12 民事法上の課題のまとめ ............................................
60
6. 国際法上の課題について ..............................................
62
6-1 地球温暖化対策における国際競争下にある業種への配慮 ................. 62
6-2 国境調整措置の検討の前提 ........................................... 63
6-3 内国税(GATT2 条2 項(a)及び3 条2 項)との関係 ...................... 63
6-4 国内法令・要件(GATT3 条4 項)との関係 ............................. 67
6-5 国境調整措置で保有が義務付けられる排出枠の設定について ............. 68
6-6 最恵国待遇との関係について(GATT1 条) ............................. 69
6-7 一般的例外規定(GATT20 条)の適合性について ........................ 70
6-8 その他の論点について ...............................................
73
6-9 国境措置の国際法上の整理(まとめ) ................................. 74
おわりに ..................................................................
76
(別添1) 国内排出量取引制度の法的課題に関する検討会 委員名簿 ............... 77
(別添2) 国内排出量取引制度の法的課題に関する検討会 平成21 年度検討実績 .... 78
※ 第2章(憲法)、第3章(行政法)、第4章(取引制度)に係る論点については、本
検討会「中間報告」(平成21 年4月7日)を参照。
はじめに
- 地球温暖化対策における温室効果ガスの排出削減対策としての国内排出量取引制度は、温室効果ガスに係る排出枠の交付総量を設定した上で、排出枠を個々の主体に配分するとともに、他の主体との排出枠の取引や京都メカニズム等国内排出量取引制度の外部にあるクレジットの活用を認めるものである1。
- その活用に関し、環境省は自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)を平成17 年度から実施しており、国内排出量取引制度の実施に係る知見・経験を蓄積している。さらに、平成20
年1月から5月にかけて国内排出量取引制度検討会を開催し、国内外の最新の動向を踏まえ、産業界や学界等の関係者の参画を得て、義務的な国内排出量取引制度についての本格的検討を行い、5月20
日に「国内排出量取引制度の在り方について 中間まとめ」を公表し、制度オプション試案を示した。
- 平成20 年6月9日に、福田総理(当時)は「『低炭素社会・日本』をめざして」を発表した。ここでは、低炭素社会の構築に向け、CO2
に取引価格を付けて市場メカニズムをフルに活用することにより、技術開発や削減努力を誘導する必要性を指摘するとともに、平成20
年秋に「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」(試行的実施)を開始することとされた。
- 平成20 年7月29 日閣議決定「低炭素社会づくり行動計画」において、この試行実施について、関係省庁から成る検討チームにおいて、平成20
年9月中を目途に設計の検討を進め、10 月を目途に開始することとされ、10 月21日地球温暖化対策推進本部決定「排出量取引の国内統合市場の試行的実施について」により、試行排出量取引スキームを含む試行的実施に関する詳細が決定された。環境省のJVETS
も試行的実施への参加類型の一つとなった。平成21 年7 月6 日現在、目標設定参加者521 社を含む715 社の参加申請が関係各省庁に提出されている。
- このように、国内排出量取引制度については、環境省のJVETS を含む試行的実施が行われている一方、本格実施における制度設計は行われておらず、導入時期も決まっていない。京都議定書目標達成計画(平成17
年4月28 日閣議決定。平成20 年3月28 日全部改定)では「具体案の評価、導入の妥当性も含め、総合的に検討していくべき課題」とされている。
- その一方、平成21 年9月22 日に開催された国連気候変動首脳会合の演説において、鳩山総理大臣は「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を前提に、我が国の温室効果ガス削減の中期目標として1990
年比25%削減を掲げるとともに、「政治の意思として、国内排出量取引制度や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入、地球温暖化対策税の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意」を表明した。
- 国内排出量取引制度の本格導入が決まった場合には、関連する法制度の策定作業を開始する必要があるが、制度対象者に排出枠を割り当て、その取引を認めることにより排出枠という新たな財産的価値を有するものを生み出す制度を構築するに当たっては、憲法・行政法・民法など法律上多くの重要な論点が想起される。
- 本検討会は、平成20 年3月以降、計5回の会合において、想定し得る論点を抽出し、国内排出量取引制度に係る憲法上の論点、行政法上の論点及び取引に関する論点について検討を行い、平成21
年4 月7 日に「中間報告」を公表した。さらに、平成21 年5月以降、計7回の会合において、民事法上の論点と国際法上の論点について検討した。
- 民事法上の論点については、国内排出量取引制度が期待される効果を発揮するために、取引の信頼性の確保が重要であるという認識の下、排出枠の法的性質を国内外の既存の法制度に則して整理するとともに、必要な機能として挙げられる「売買」と「償却」における問題事例の整理を通じて、法制度設計に当たって最低限必要な規定の洗い出しと論点整理を行った。国際法上の論点については、炭素リーケージ及び国際競争力への影響を緩和する手段としての国境調整措置について、GATT/WTO
の法令及び裁定事例に則して論点整理を行った。
- 国内排出量取引制度については、本格実施における制度設計も行われておらず、本格導入の時期も決まっていない。したがって、試行的実施の動向や国内の議論の動向により、本検討会が検討しなかった分野において、新たな論点が提起される可能性がある。このため、本検討会は、民事法及び国際法について、当面想定される論点についての第二次中間報告という形で取りまとめを行った。本検討会における法的・実務的整理が、国内排出量取引制度に係る今後の検討に活用されることを期待する。
- 1 京都議定書目標達成計画第3章第2節2(1−2)の*より。
おわりに
- 本検討会においては、我が国に前例のない国内排出量取引制度が、その期待される機能としての確実な目標達成、社会全体の削減費用の最小化、目標達成手段の柔軟化を実現することを念頭に置きつつ、我が国の現行法制度の中での問題点を整理した。
- 民事法上の論点については、排出枠の法的性質を整理した上で、取引の信頼性を確保するために必要な最低限の規定と特則を洗い出した。
- 国際法上の論点については、炭素リーケージ及び国際競争力への配慮措置としての国境調整措置について、GATT/WTO
の規定と過去の裁定結果から、その実現可能性を検討した。
- 国内排出量取引制度については、これらの法的論点の他にも、不遵守時の措置等の法的整理、排出枠の取引規制の在り方等、検討すべき法的課題が残されている。
- こうして、本検討会としては、国内排出量取引制度の法的整理に当たって、昨年度の憲法、行政法、取引制度の各論点に加え、民事法及び国際法上の論点の整理をし、現時点で想定される論点を取りまとめた。この第二次中間報告を踏まえ、国内排出量取引制度に係る法的課題についての検討が、さらに深まることを期待する。
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