2章 地震波とその計測
1.波動の伝播
(1)正弦波
(2)波線理論とスネルの法則
2.地震波の種類
(1)実体波
(2)表面波の伝播と層構造
(3)地球の自由振動
3.地震波の減衰
(1)Q
(2)実体波・表面波および自由振動の減衰
4.一次元総合地球モデルと地震波不連続面
5.地震計測と震源の決めかた
(1)地震計測とは
(2)地震計の原理
(3)地震観測網
(4)震源の求めかた
『6.マグニチュードと震度
マグニチュードと震度はその値がとく似かよっているため、よく混同されてしまう。マグニチュードは地震の大きさの尺度であるのに対し、震度はある地震に対するある場所での地面に揺れの強さを表す尺度である。したがってマグニチュードはある地震に対して1つの値をもつが、震度は場所によって変わり、後述する異常震域を除き、震央距離とともに減少していく。
(1)マグニチュード
マグニチュードMは地震計で測った地面の最大の揺れ幅の常用対数をとって決められる。したがって揺れ幅が10倍大きくなるごとに1増す。実際の計算では震央距離が増すにつれて振幅が減少するのでその補正をして決めている。アメリカのリヒター(C.Richter)が1935年にある地震計を用いてこのような決定法を最初に使ったが、現在ではこれを拡張した式が提出されている。地震計で測った地面の揺れ幅と述べたが、測る波の周期によっていろいろなマグニチュードが定義される。浅い地震では表面波、深い地震では実体波を用いて、それぞれ表面波マグニチュードMs、実体波マグニチュードmbとよんでいる。また気象庁マグニチュードMJは周期5秒程度以下の波の最大振幅を用いている。
地震が大きくなるにしたがって地震波の長周期成分が卓越してくるのに対し、短周期成分はそれほど大きくならない。したがって、大きい地震では地震の大小関係をマグニチュードでは表せなくなる現象、いわゆるマグニチュードの飽和が起きる。たとえば、周期1秒程度の地震波から求められるmbでは、Mが6〜7で飽和が始まり、MJ(周期5秒まで)では7.5、Ms(周期20秒程度)では8程度から飽和しはじめる。ところが、次章で述べる断層運動としての地震の規模を表す地震モーメントMoは長周期の極限で求められており、このMoの対数をとったモーメントマグニチュードMwは、巨大地震でも飽和しない。このMwは、物理的な意味で地震の規模を表すマグニチュードといえる。たとえば、今世紀で最大のカムチャツカ地震(1952)、チリ地震(1960)、アラスカ地震(1964)などのMsは8.3〜8.5程度であり、これらよりかなり小さいと思われる三陸沖地震(1933)や十勝沖地震(1952)などとほぼ同じになってしまうが、Mwで表すと、前三者は9.0、9.5、9.2、後二者は8.4、8.1となり、前三者がずっと大きいことがわかる。
マグニチュードは、震源から放射された地震波の総エネルギーに関係づけられ、マグニチュードが1大きくなるとエネルギーは約32倍、2大きくなると100倍になると考えられている。広島型の原爆(20kton)は、M6.1に相当するといわれている。
(2)震度
震度は、ある場所での地震動の強さの程度を、人体感覚や周囲の物体・構造物、さらには自然界への影響の程度から、いくつかの段階に分けて表示したものである。日本では、表2-2の気象庁震度階が用いられている。1948年の福井地震の翌年、最高階の激震を追加し、無感から震度7までの現在の8階級に至っている。1995年の兵庫県南部地震(MJ=7.2)は、大震災を引き起こし、福井地震以降二度目の震度7を記録した。
震度 | 呼称 | 内 容 |
0 | 無感 | 人体に感じないで地震計に記録される程度の地震 |
1 | 微震 | 静止している人や、特に地震に注意深い人だけに感じる程度の地震 |
2 | 軽震 | 大ぜいの人に感じる程度のもので、戸や障子がわずかに動くのがわかる程度の地震 |
3 | 弱震 | 家屋がゆれ、戸や障子がガタガタと鳴動し、電灯のような吊り下げ物は相当ゆれ、器内の水面の動くのがわかる程度の地震 |
4 | 中震 | 家屋の動揺が激しく、すわりの悪い花びんなどは倒れ、器内の水はあふれ出る。また、歩いている人にも感じられ、多くの人が戸外に飛び出す程度の地震 |
5 | 強震 | 壁に割れ目が入り、墓石・石どうろうが倒れたり、煙突・石垣などが破損する程度の地震 |
6 | 烈震 | 家屋の倒壊は30%以下で、山くずれが起き、地割れが生じ、多くの人が立っていられない程度の地震 |
7 | 激震 | 家屋の倒壊が30%以上に及び、山くずれ・地割れ・断層などを生じる。 |
震度 階級 |
人 間 | 屋内の状況 | 屋外の状況 |
0 | 人は揺れを感じない | ||
1 | 屋内にいる人の一部が、わずかな揺れを感じる | ||
2 | 屋内にいる人の多くが揺れを感じる。眠っている人の一部が目をさます | 電灯などの吊り下げ物がわずかに揺れる | |
3 | 屋内にいる人のほとんどが揺れを感じる | 棚にある食器類が音を立てることがある | 電線が少し揺れる |
4 | かなりの恐怖感があり、一部の人は身の安全を図ろうとする | 吊り下げ物は大きく揺れ、棚にある食器類は音を立てる | 電線が大きく揺れる。歩いている人も揺れを感じる |
5弱 | 多くの人が身の安全を図ろうとする。一部の人は行動に支障を感じる | 吊り下げ物は激しく揺れ、棚にある食器棚、書棚の本が落ちたり、すわりの悪い置物の多くが倒れることがある | 窓ガラスが割れて落ちることがある。電柱の揺れがわかる。道路に被害が生じることもある |
5強 | 非常な恐怖を感じる。多くの人が行動に支障を感じる | 棚にある食器類、書棚の本の多くが落ちる。テレビが台から落ちることもある。一部の戸がはずれる | 補強されていないブロック塀の多くが崩れる。自動販売機が倒れることもある。多くの墓石が倒れる |
6弱 | 立っていることが困難になる | 固定していない重い家具の多くが移動、転倒。開かなくなるドアが多い | かなりの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下 |
6強 | 立っていることができず、はわないと動くことができない | 固定していない重い家具のほとんどが移動、転倒。戸がはずれて飛ぶことがある | 多くの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下。補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる |
7 | 揺れにほんろうされ、自分の意志で行動できない | ほとんどの家具が大きく移動し、飛ぶものもある | ほとんどの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下。補強されているブロック塀の破損もある |
3章 地震のメカニズム
1.地震波の放射パターン
(1)P波初動分布と断層
(2)震源にはたらく力と方位特性
2.地震モーメント
(1)地震モーメント
(2)震源時間関数
3.断層パラメータ
(1)断層の幾何学
(2)断層面上のすべり・応力変化
(3)断層面上の破壊分布
『(4)断層運動の推定
これまで述べてきたように、有限な断層から生じる遠地実体波の観測される波形は、以下の影響を含んでいる。1)断層面解、2)断層面上のスリップ速度ベクトル分布、3)破壊の伝播様式、4)震源から観測点まで地震波が伝播する間に受ける、マントルや地殻中の不連続面で反射・屈折による影響とQによる減衰、5)地震計の特性、である。これらを考慮して、ある観測点の地震記録をコンピュータ上でつくることができる。これを理論地震記象とよび、観測波形と比較して、震源パラメータを求めることが出来る。
長周期の実体波や表面波からは、モーメントレイトすなわち地震モーメントがまず求まる。余震や地殻変動を参考に断層面積を推定し、地震モーメントから平均的なすべり量がわかる。波形の方位特性から伝播の平均的なようすがわかる。一般に、もうすこし細かな断層運動の詳細は、断層に近い距離の地点で得られた、地震波形記録を使って調べる。すなわち、断層面上のスリップベクトルの空間分布と時間履歴の詳細、すなわち破壊が断層面上をどのように進行していったかがわかる。実際には、破壊の様式はかなり複雑な場合が多く、すべり量の分布も不均質で、破壊が遅れるところや速くなるところがあるようである。
表3-1に、断層パラメータのおおよその目安をあげておく。
M |
エネルギー (ジュール) |
断層の長さ (km) |
地震モーメント (N・m) |
すべり量 (m) |
9.5 | 1.1×1019 | 810 | 2.2×1023 | 28 |
9.0 | 2.0×1018 | 460 | 4.0×1022 | 16 |
8.5 | 3.6×1017 | 260 | 7.1×1021 | 9 |
8.0 | 6.3×1016 | 145 | 1.3×1021 | 5 |
7.5 | 1.1×1016 | 81 | 2.2×1020 | 1.6 |
6.0 | 6.3×1013 | 14 | 1.3×1018 | 0.5 |
5.0 | 2.0×1012 | 4.6 | 4.0×1016 | 0.16 |
4.0 | 6.3×1010 | 1.4 | 1.3×1015 | 0.05 |
3.0 | 2.0×109 | 0.5 | 4.0×1013 | 0.016 |
(5)断層の種類