阿部(1988)による〔『図説地球科学』(28-33p)から〕


4 震源(28-37p)

震源を求める

断層が動く
  上に述べたような観測事実は、震源で有限な大きさの面を境にした急激なずれ、すなわち断層運動を考えることによって説明される。この運動を量的に表現するには、図4.4(略)のような断層パラメターを用いる。断層面の走向とは断層面と水平面との交線の方向であり、傾斜角は断層面と水平面とのなす角度である。断層面を四角形で近似すれば、断層面の長さと幅の積は断層面の面積を与える。断層面上でのずれはくいちがいともよばれ、方向と大きさをもつ。
 震源が浅いとき、ずれをおこした断層の一部が地表に現われることがある。これは地震断層とよばれ、地下に想定される断層の位置や運動を知る手掛りを与えてくれる。図4.5(略)は日本の代表的な地震断層の分布図である。濃尾地震や北伊豆地震などの地震断層は今日でも観察することができる。最近では地震断層を掘り下げて、地下のずれのようすから昔におきた地震を探ることも行なわれている。
 地震を断層運動とみなすことで、地震の性質を断層パラメターによって相当精密に表現できるようになった。表4.1(略)に主要な地震の断層パラメターをまとめてある。表のパラメターに少し説明を加えることにする。
 断層運動の大きさに関与する重要な量は断層面のディメンジョン(長さLや面積Sなど)と断層面上でのずれの量Dである。たとえば、1923年関東地震では130×70km2の断層面上で平均2.1mのずれがおこった。SとDの積に断層付近の剛性率を掛け合わせた量を地震モーメントMoといい、断層運動全体の規模を表わすときに用いる。たとえば、1923年関東地震は1927年丹後地震よりもMoからみて約17倍も大きい。Moは地震波の解析からふつう決められるが、測地測量や津波観測などから推定されることもある。このような研究にはくいちがいの弾性論が使われる。この理論は、弾性体の中に切れ目を考え、そこに変位を与えたときに弾性体がどのように変形し、その変形がどのように伝わっていくかという問題を取り扱う。
 別の理論として割れ目の理論もある。そこでは、ある応力場の下で割れ目がどのように発生、成長、停止するかという問題が考察される。ここでは、地震は蓄積された応力を開放する現象としてとらえられる。重要な量の1つは、断層面上における地震の前後の応力変化、すなわち応力降下量刄ミ(ストレス・ドロップともいう)である。くいちがいの弾性論と割れ目の理論を近似的に結びつけると、SとMo、刄ミは互いに関係する。それを表わしたのが図4.6である。図には刄ミ=1、10、100、1000barとしたときの関係を右上がりの直線で示してあり、多数の地震も記入してある。SとMoがともに105倍の広い範囲にわたって変化しているのに、応力降下量は、ほぼ10barから100barの理論直線の間におさまってしまう。すなわち、開放された応力は異なる大きさの地震の間であまり違わない。これは地震の性質として重要な特徴である。
 断層パラメターには時間に関係するものもある。断層運動は断層面全体にわたって一瞬のうちにおこるものではない。ある場所でずれが始まってから完了するまでに時間を要するし、ずれが断層面上の異なる場所に拡がっていくのにも時間がかかる。断層面上でずれが継続する時間を立ち上がり時間τといい、ずれの伝わる速さを破壊速度vという。表4.1を参照すると、τは数秒以下であり、vは3km/s前後である。断層全体の生成に要した時間はおおよそL/vである。1964年アラスカ地震や1960年チリ地震のような超巨大地震になると、断層運動は数百秒も地震波を出し続けたことになる。

マグニチュード
 地震の規模を表わす量としてマグニチュード(以下Mと書く)がある。Mは観測された地震波の最大振幅から求められ、簡単なために昔から広く使われている。表4.1や図4.9(略)のMsは周期20s位の表面波の最大振幅から求められたMである。Mの決定に用いられる地震波の周期はふつう1sから20s程度である。大きな地震になると、この周期は断層の生成に要した時間よりはるかに短い。そのためにMは大きな地震の大きさ(LとかMoなど)を精度よく表わさなくなってしまうということがおこる。たとえば、表4.1を参照すると、M8.0からM8.5までの10個の地震についてMの差は最大で0.5しか違わないにもかかわらず、Sの違いは最大で約18倍、Moの違いは最大で約360倍も異なる。このような現象はMの飽和とよばれ、地震を断層パラメターで記述できるようになってからその存在が確かめられた。最近では、大きな地震についても断層運動の大きさを忠実に表わすように、Moから求めたモーメント・マグニチュードMwがスケールとして使われている。1960年チリ地震と1964年アラスカ地震のMwはそれぞれ9.5と9.2であり、9を超える。』

地殻変動と津波
プレートテクトニクス



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