『 1 はじめに
1.1 風化とは何か
土壌は地表に露出した岩石が機械的に粉砕され、化学的に分解されて生じた物質である。ただし、この過程から想像されるような無機物の集合体ではなく、そこにさらに有機物が加わった複雑な混合物である。
地表の岩石が機械的、化学的作用を受けて細粉化される過程が風化(weathering)である。風化は機械的風化(mechanical
weathering)と化学的風化(chemical weathering)とに区別されるが、多くの場合、これらの風化は同時に進行する。
機械的風化は温度変化による岩石の膨張と収縮、岩石のき裂中の水の凍結、岩盤上を移動する氷河による切削などによって起る岩石の粉砕の過程を示す。
化学的風化は岩石の化学的分解のことであって、岩石が水、二酸化炭素などの作用によって地表条件下で安定な物質に変化する過程である。この変化は岩石の表面で起るために、岩石が物理的に砕かれて表面積が増大するほど化学的風化の進行が加速される。粉砕はまた粒子の表面に反応の活性点をつくり出す効果ももっている。
化学的風化の速度は温度と反応の媒体となる水の供給のされ方に依存する。水の供給条件が同じであれば、温度が高いほど化学的風化の進行は著しい。水は降雨によって供給されるが、年間降水量が同じであっても、年間を通じてほぼ一様な割合で降る場合と、特定の時期に集中して降る場合では岩石の化学的風化に与える影響が異なる。これは後述するように、岩石粒子と接触する水溶液のpHが風化速度と密接に関連しているためである。
化学的風化は水和、加水分解、溶解、酸化などの反応に分けて記述することができる。風化に伴って起る反応は、風化残留物(residual
products of weathering)あるいは風化帯から流出する水の化学組成から推定することができる。
Goldschmidtは、南部ノルウェーに広く分布する氷河粘土(glacial clay、氷河が岩盤上を移動するとき、けずり取ってきた岩石粉末を氷河の末端に堆積したもの)の平均組成が、ClarkeとWashingtonによって求められた火成岩の平均組成によく似ていることを示した(Mason
and Moore, 1982)。表1は、その結果を示したものである。地表の75%は岩石の風化によって生じた堆積物によって覆われているが、その厚さはわずかであり、地殻の95%は火成岩によって構成されるとみてよい(Pettijohn,
1957)。したがって、氷河粘土は火成岩が機械的に粉砕され、低い温度において軽度の化学的風化を受けたときの生成物である。
表1 氷河粘土と火成岩の平均組成(重量%) | ||
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SiO2 | 59.12 | 59.14 |
TiO2 | 0.79 | 1.05 |
Al2O3 | 15.82 | 15.34 |
Fe2O3 |
6.99 |
3.08 |
FeO | 3.80 | |
MgO | 3.30 | 3.29 |
CaO | 3.07 | 5.08 |
Na2O | 2.05 | 3.84 |
K2O | 3.93 | 3.13 |
H2O | 3.02 | 1.15 |
P2O5 | 0.22 | 0.30 |
表2 風化を受けた石英閃緑岩の組成(重量%) | ||||
A | B | C | D | |
SiO2 | 61.35 | 59.50 | 56.25 | 52.57 |
TiO2 | 0.60 | 0.64 | 0.68 | 0.80 |
Al2O3 | 17.39 | 7.88 | 18.86 | 20.44 |
Fe2O3 | 2.19 | 4.23 | 5.39 | 5.93 |
FeO | 3.00 | 1.39 | 1.16 | 0.96 |
MnO | 0.11 | 0.11 | 0.11 | 0.09 |
MgO | 2.86 | 2.82 | 2.77 | 2.61 |
CaO | 6.00 | 5.29 | 2.65 | 1.19 |
Na2O | 4.33 | 3.31 | 1.93 | 1.13 |
K2O | 1.15 | 0.91 | 0.77 | 0.52 |
H2O | 1.01 | 3.51 | 8.85 | 13.39 |
合計 | 99.99 | 99.59 | 99.42 | 99.63 |
カンラン石 (Mg,FeII)2SiO4 |
カルシウム質斜長石 CaAl2Si2O8 | |(Ca,Na)Al(Al,Si)Si2O8 | | ナトリウム質斜長石 NaAlSi3O8 |
↑減少 | | | |風化に対する安定性 | | | ↓増大 |
シソ輝石 (Mg,FeII)SiO3 | ||
普通輝石 (Ca,Na)(Mg,FeII,Al)(Si,Al)2O6 | ||
角閃石 (Ca,Na)2-3(Mg,FeII,FeIII,Al)5(Al,Si)8O22(OH)2 | ||
黒雲母 K(Mg,FeII)3(Al,FeIII)Si3O10(OH)2 | ||
カリウム長石 KAlSi3O8 | ||
白雲母 KAl2(AlSi3)O10(OH)2 | ||
石英 SiO2 | ||
図1 風化に対する鉱物の安定性。 |
表3 地殻の鉱物組成(体積%)a) | |||
鉱物 | 地殻 | 上部大陸性地殻 | 露出した地殻 |
石英 | 18 | 23.2 | 20.3 |
斜長石 | 42 | 39.9 | 34.9 |
ガラス | 0.0 | 12.5 | |
カリウム長石 | 22 | 12.9 | 11.3 |
カンラン石 | 1.5 | 0.2 | 0.2 |
輝石 | 4 | 1.4 | 1.2 |
角閃石 | 5 | 2.1 | 1.8 |
黒雲母 | 4 | 8.7 | 7.6 |
白雲母 | 5.0 | 4.4 | |
磁鉄鉱 | 2 | 1.6 | 1.4 |
a) 地殻はWedepohl(1971)、上部大陸性地殻と露出した地殻はNesbittとYoung(1984)による。 |