関(1998)による〔『土壌・風化帯の形成と水質変化』(639-646p)から〕


Abstract

『要旨
 日本国内における土壌・風化帯とそこでの水質変化に関する研究を総括し、今後の課題を検討した。
 湿潤温暖気候下にある日本国内における典型的な風化作用には、深層風化(花崗岩類)、スレーキング(泥質岩類)、黄鉄鉱の酸化に起因する酸性溶脱風化(海成堆積岩類)、硫酸塩の析出による風化(海成堆積岩類)などがある。現在日本で観察される花崗岩類の風化帯の多くは、過去のより激しい風化環境の下で形成されたものと考えられており、風化過程を考察する際には過去の風化環境や削剥により失われた部分についての考察を要する。泥質岩の風化における黄鉄鉱の酸化は、地下水の水質変化にも重要な役割をになっている。
 日本の土壌の多くは、母岩の風化生成物に腐植が加わり、それに第四紀の火山活動に起因するテフラや二次堆積物を伴う。給源火山の東側の地域では、テフラ起源物質を多量に含む土壌が厚さ数mに達することも珍しくない。また土壌には、大陸から偏西風により運搬されてきた風成塵が普遍的に加わることも特徴である。テフラの供給が少ない地域では、細粒画分中の風成塵の割合が相対的に高くなる。
 国土の70%以上を占める山地・丘陵地は、土壌・風化帯と水の相互作用が活発に行われる場である。山地の地表への降水は、1)渇水時では土壌深層および岩盤風化帯中へ浸透したのち渓流に湧出(基底流出)、2)洪水時には、洪水ピーク時の流量と基底流出との差に相当する部分の多くは土壌表層ないし地表を流下して渓流に直接合流(直接流出)、3)洪水ピーク時以降の流量逓減時には、基底流出を超える部分の多くは土壌浅層を経由したのち湧出して渓流に加わる(中間流出)。日本の森林地域における土壌の浸透能は極めて大きく、洪水時を除けば雨水のかなりの部分が一旦土壌中に浸透する。土壌中に浸透した水の多くの部分は、岩盤に浸透することなく渓流に湧出すると考えられるが、それについての定量的な知見は乏しい。
 山地・丘陵地に降った雨水は、森林植生、土壌、風化岩石の順に接触、反応していく。自然状態での雨水のpHは大気中の炭酸ガスの飽和で規定される5.5であるが、現在のわが国の平均的な降水のpHはそれよりも低い4.5ないし5.2の酸性雨となっている。雨水は、山地・丘陵地を被覆する森林植生を通過する過程で、植物種に応じて、その水質が変化する。例えばヒノキ林とブナ林を比較すると、ヒノキ林では地表に達するまでの間にpHが低下するが、ブナ林では逆に上昇する。また樹木から溶出した塩基成分の添加量はヒノキ林よりもブナ林の方が大きい。
 森林土壌に浸透した水は、主として植物や土壌微生物の呼吸により生じた炭酸ガスの吸収により、またバクテリアによる有機物の硝化作用た有機酸の生成、場合によっては黄鉄鉱の酸化などの効果が加わることにより酸性化する。雨水がさらに下方へ浸透すると、今度は有機酸や粘土鉱物との陽イオン交換反応や二次鉱物による中和反応などにより塩基成分が増加していく。こうして土壌下層にはアルカリやアルカリ土類の陽イオンやHCO3-などの陰イオンを含み、炭酸ガスに富む地下水が形成される。土壌の下方に位置する岩盤の風化帯中では、溶存する炭酸により、あるいは黄鉄鉱などの硫化鉱物が存在する場合にはその酸化により生ずる硫酸により、斜長石や炭酸塩鉱物などの造岩鉱物が分解あるいは溶解され、溶存成分濃度が徐々に上昇する。
 土壌・風化帯の水質変化に関して最も理解が遅れているのは、土壌下層から岩盤風化帯にかけての水理特性や水・固相相互作用に関する部分である。その理解を深めるためには、土壌下層や岩盤風化帯と相互作用しつつある水とみなされる山地の渓流水、トンネル湧水、人工大露頭からの湧水などの水質や水文データの蓄積と解析が有効である。さらに、土壌・風化帯の水質変化に関してより深い理解を得るためには、室内において種々の条件の下で風化に関する水・固相反応実験を行い、その結果を野外の土壌・風化帯の水質変化と比較しながら研究を進めることが有効であろう。

1.はじめに

 国土の70%以上を占める山地・丘陵地域の表層は、岩石の風化生成物、腐植、降下火山灰、風成塵などからなる土壌および風化した岩石(以下、土壌・風化帯とよぶ)に被覆されており、地表に達した雨水の多くは、この土壌・風化帯と接触、反応した後、水文学的下流へと流動していく。雨水の多くは速やかに地中に浸透し、表層の浸透能を超える部分のみが地表面を流下し、直接表流水系に流出する(Horton、1933)。地中への浸透量は表層物質の種類や構造により異なるが、湿潤温暖気候下の植生を有する土壌では想像以上に大きく、わが国の森林土壌では最大で200mm/h以上を示す(辻村ほか、1991)。この数値は、通常の降雨強度であれば降水はその全量がいったん地中へ浸透しうることを示している。地中に浸透した水は、土壌や岩石の風化部などと接触・反応した後、再び湧出して表流水となり河川を流下するか、あるいは透水層や破砕帯、裂かなどを通り岩体のより深部へと移動する(田中、1996)。
 水が土壌・風化帯を通過する過程で生じる水質変化の特徴としては、1)土壌・風化帯では吸着やイオン交換など低温でも速やかに進行する反応が卓越しているため、通過時間・距離が限られている割には、その間の水質変化が大きい、2)降水の多くが地中に浸透し、土壌・風化帯と相互作用をした後、表流水系や地下水系に加わるため、土壌・風化帯で形成された水質がその後の水質に大きな影響を与える、などが挙げられる。一方、その応用的な見地からみると、1)近年、急速に進行している雨水の酸性化に対する土壌・風化帯のもつpH緩衝能の評価や予測(吉永ほか、1994新藤ほか、1995林ほか、1995)、2)高レベル放射性廃棄物の地層処分や大規模地下空間利用などに際して問題となるより深層の地下水の水質との関連性(柳沢、1995)などにおいて重要な意味をもつ。
 このように、土壌・風化帯での水質変化に関する研究は環境問題や放射性廃棄物の地層処分問題などの応用面でも大きな意味をもつが、関連する研究分野が水文学、地質学、岩石学、火山学、地形学、土壌学、森林学、土木地質学、土木工学、環境化学など多岐にわたり、学際的研究領域の性格をもっている。そしてその現状を見ると、関連する研究分野相互の交流不足や分野間での研究の進展の違いが見られ、全体としてはまだ発展途上の段階にあるように思われる。
 この解説では、土壌・風化帯における水質変化の研究が上述のように学際的研究領域としての特徴をもっている点を踏まえながら、関連する諸分野の研究をできるだけ相互の関連性が把握できるように概括したい。初めに土壌・風化帯に関する共通的な理解を確認してから、わが国で普通に見られる土壌および風化帯の特徴や成因について概括する。次に土壌・風化帯と水との相互作用が活発に行われる場である山地の微地形、表層の構造、水の挙動等についての一般的な理解と最近の研究を紹介する。ついで土壌・風化帯での水質に関する知見を、植生、土壌、風化帯の順で見ることにより、それぞれのゾーンでの水質変化の特徴を明らかにする。また、地下水やトンネル湧水を用いた解析事例もあわせて紹介する。最後に、土壌・風化帯における水質変化に関する現時点における知見を総括し、今後取り組むべき課題を考えてみたい。

2. 岩石の風化
 2.1 風化の概念
 風化とは、岩石圏の様々な深度で平衡状態にあった鉱物からなる岩石が地表(付近)に置かれ、そこでの条件のもとで気圏、水圏、生物圏と相互作用することにより岩石が変化する現象である(岩生・木村、1973歌田、1979一国、1989など)。この変化は全体積の増加、密度と粒径の減少、地表付近の環境で安定な新しい鉱物の生成などとなって現われる。風化作用を扱う場合、異なる風化プロセス、すなわち物理的化学的生物学的風化、を個別に考えると理解しやすい。
 物理的風化作用は、地下深所の高圧下にあった岩石が地表付近に現われることにより応力が開放されて生じる除荷割れ目(シーティング)、日射や温度変化に起因する岩体の歪による亀裂の発生や熱膨張率を異にする鉱物相互の分離、乾湿の繰り返しに起因する膨潤性粘土鉱物の乾燥収縮・湿潤膨張による剥離(スレーキング)、凍結融解による亀裂や剥離の進行、霜上現象による細粒化、塩類の結晶成長による盤膨れなどにより、岩石が物理的に破砕されていく、すなわち岩石の細片化のプロセスである(小島、1992木宮、1992)。
 化学的風化作用は岩石と水、酸素や二酸化炭素を主とするガスとの反応による岩石の化学的変化であり、溶解、加水分解、炭酸化合、水和、酸化、還元、キレート化、イオン交換などがある。これらの作用により地表条件下で(準)安定な粘土鉱物の生成や岩石中の溶解しやすい化学成分の溶脱が進行し、岩石が化学的に分解される。すなわち化学的風化は岩石の粘土化のプロセスでもある(小島、1992木宮、1992)。造岩鉱物の化学的風化に対する抵抗性としては、石英が最も大きく、白雲母、カリ長石がそれに次ぎ、カンラン石やカルシウム質斜長石が最も小さいことが知られているが(Goldich、1938;第1図、略)、鉱物の風化抵抗性と鉱物が集合した岩石の風化抵抗性とは必ずしも一致しない(八田ほか、1981)。木宮(1991)は化学的風化の一般則として以下を挙げている。1)鉱物の構造の破壊とSiイオン等の遊離、2)遊離したイオン、分子等の移動、3)残留物、水、炭酸ガス等の結合による地表条件で(準)安定な二次鉱物の生成。
 生物学的風化作用は、植物や微生物の働きによって生産・分解される有機物の作用による風化であり、植物根による陽イオン交換、腐植酸類(例えばフルボ酸)のキレート作用による珪酸塩鉱物の分解、バクテリアの作る酸(例えば乳酸、シュウ酸など)によるマフィック鉱物の分解などが知られている(Chorleyほか、1995)。
 これらの風化プロセスは、それぞれが独立して進行するのではなく、各作用が密接に関連しつつ相伴って進行していく。風化のプロセスは、岩石の組織、構造、物理的性質、力学的強度、化学組成や鉱物組成など岩石自体のもつ性質に加えて、その周囲の温度、降水量、水理条件、日射量、波浪や風などの風化環境の双方により決定されるため、極めて多様で複雑なものとなる(松倉、1994)。一般には、寒冷地や乾燥地では物理的風化作用を主とする風化がゆっくりと進み、湿潤高温気候下では化学的風化作用を主とする風化がより速く進行する。岩石の特性と風化に対する抵抗性との関係は、Lindseyほか(1982)により第1表のようにまとめられている。風化の速度に比べて浸食の速度が小さい場合には、その地域の岩石の性質と風化環境に応じて、厚い風化殻が形成される(歌田、1979)。

2.2 日本の風化の特徴
 風化は、気候や水理条件などの環境に大きく依存することから、地域性がつよく現われる。また、風化を受ける岩石の物性にも規制されることから(ロックコントロール:谷津、1965鈴木、1974)、物性の異なる岩石種ごとに風化の違いが出てくる。ここでは、湿潤温暖な気候下にある日本で普通に見られる風化の特徴と、その風化に伴う岩石の物理化学的変化を、主な岩石種ごとに見ていく。風化の進み方を正確に議論するためには、物性の異なる岩石種ごとに、種々の環境の下での風化を記述する必要があるが、そうした研究例は多くなく、また対象となる岩石種にも偏りがあるのが現状である。

(1)花崗岩類
 花崗岩類の風化は、窯業や土木地質などの応用面や、地形学や地史学の研究から注目されており、比較的多くの研究例がある。
 陣内・向山(1973)は、工業用原料としての利用価値の評価を目的として、北部九州の花崗岩類を対象に、風化に伴う鉱物・化学組成変化を粒度分画ごとに調べた。その結果、粗粒部ほどSiO2が、細粒部ほどAl2O3、Na2O、CaO、総含水量が増加すること、その傾向が風化の進行とともに強くなることを認めた。
 松倉ほか(1983)は、石材採取によって出現した稲田花崗岩の大露頭上の一つの風化断面を対象として、地表から深度50mまでの間の、物理的性質や力学的性質の変化を、鉱物・化学組成変化とあわせて測定した。その結果、鉱物・化学組成から見た風化の程度が深部から上方に向かい徐々に進行するのに伴い、乾燥単位体積密度・弾性波速度・シュミットロックハンマー反発値・力学的強度の減少、間隙率・比表面積・透水性の増加などが認められた。
 木宮(1975a)は、三河高原の花崗岩類を、野外での肉眼観察に基づいて7つの風化帯に区分し、それぞれの化学組成、鉱物組成、引張強度を測定した。その結果、同地域で見られる風化による化学組成、鉱物組成の変化は、加茂・大東地域(大八木ほか、1969)や北上地域(中川ほか、1972)など国内他地域と共通していることや野外観察による風化分帯が化学的、鉱物学的、物性的な区分とよい対応を示すことを明らかにした。
 花崗岩類の風化帯中での鉱物組成の変化を要約すれば、深部から地表に向かい、斜長石と黒雲母の消滅、それに伴うイライト、加水黒雲母、バーミキュライト、カオリナイト、ギブサイトなどの二次鉱物の出現、増加となる。石英と正長石は風化が相当に進行しても残存する(木宮、1975a秦、1984)。化学組成の変化を見ると、SiO2、K2O、Na2O、CaOは風化の進行とともに減少し、H2O+とH2O-は増加する。FeOは風化初期から中期にかけて減少するが、風化末期(マサ中部以上)に再び増加する。Fe2O3はFeOと逆に変化し、全鉄は風化の進行とともにわずかに減少する(中川ほか、1972木宮、1975a)。
 一方、花崗岩風化殻と地形との関係に注目した場合、風化殻の厚い地域は起伏量が小さいことや深層風化の発達する地域が開析ペディメント(平坦面)の分布と一致することが知られている(柏木、1963橋川、1978)。木宮(1981)は、三河高原で小起伏面に注目しつつ、1000km^2に及ぶ風化殻分布図を作成し、厚い風化殻の分布域が小起伏面地形の残存する地域と一致することを見い出した。小起伏面の起源は古く中新世後期以降と考えられているので、上記の事実は厚い風化殻が現在の風化で生じたものではなく、現在と比べてかなり激しい風化環境にあった中新世後期以降に生じたことを示すと推定した。また、木宮(1975b)は形成年代が分かっている河成レキ層中のレキの風化度を引張強度をもとに定量的に評価し、厚いマサが生成するためには600万年程度の時間を要すると推定した。さらに木宮(1992)は、阿武隈山地での同様な調査結果(遠藤・木宮、1987)も踏まえ、日本各地の準平原や小起伏面をもつ花崗岩類分布域に見られる厚い風化殻のほとんどは、三河高原と同様の化石風化殻であるとした。これらの研究を通じて提案された花崗岩類の風化分帯は、野外観察に基づいたものとして実用性が高い(第2表)。

第2表 花こう岩類の風化分帯(木宮、1992)
Tab. 2 Zonation of weathering crust of granitic rocks (Kimiya, 1992)

風化分帯

野外での特徴

平均的厚さ
zone T
花崗岩A
(granite A)
新鮮なもので、風化作用の影響を全くまたはほとんど受けていない。  
zone U
花崗岩B
(granite B)
黒雲母の周辺に鉄さび色のくまが生じているが、ハンマーで軽打したぐらいでは割れない。花崗岩Aとは、漸移する。 20〜40m
zone V
風化花崗岩A
(weathered granite A)
長石は白濁するが、岩盤としての組織を残しており、節理面もはっきりしている。ハンマーで軽打してもくいこまず、軟らかい部分は砂状になるが、硬い部分は10cm程度の岩塊となる。花崗岩Bとは漸移する。 20〜30m
zone W
風化花崗岩B
(weathered granite B)
長石は指頭で粉砕できるほど風化し、岩石全体としてもかなり風化しているが、一様な風化ではなく、節理面は残っている。粘土分はほとんどなく、ハンマーで軽くたたくと砂状となり、岩塊とならない。風化花崗岩Aとは漸移する。 5〜10m
zone X
まさA
(masa A)
全体が一様に風化し砂状を呈する。粘土分はまさBに比べて少なく、軽く手で握ってもかたまりとならない。節理面の跡は厚さ1cm程度の粘土層となっている。風化花崗岩Bとの境ははっきりしている。 10〜20m
時に40〜50m
zone Y
まさB
(masa B)
全体が一様に風化し砂状を呈する。長石、黒雲母はかなり粘土化しているので、軽く手で握るとかたまりとなる。本帯を欠く場合もある。まさAとの境ははっきりしている。 2m以下
zone Z
赤色まさ
(red masa)
全体が一様に風化し砂状を呈する。長石、黒雲母、角閃石などは粘土化し、しかも赤色化しているため全体としても赤色を呈する。花崗岩の構造は残っており、粘土分はかなり多い。 1〜5m
zone [
しもふり粘土
(shimofuri clay)
粘土分がほとんどで、わずかに石英の未風化粒が見られる。地下水による移動が見られ、花崗岩の構造は全く残っていない。牛肉のしもふり肉のような様相を呈する場合が多い。 1〜5m

 徳山(1986、1993)は、風化と地下水との関係に注目し、過去の高温多雨気候下で厚い地下水域が存在した地域では、それに対応して花崗岩の深層風化が生じたとした。そのような深層風化帯は厚いところでは200mに達し、典型的な場合、ギブサイト、カオリナイト、ハロイサイトで特徴づけられる上部の酸性溶脱帯(T帯)と、バーミキュライトとモンモリロナイトを特徴鉱物とする下部の中性および弱アルカリ性交換集積帯(U帯)、さらにその下位の弱風化帯(V帯)が形成される(徳山、1983秦、1984)。徳山・湊(1986)も木宮同様、日本国内に現在残されている深層風化殻は、中新世以降現在までの間の、気温や表面水のpH等に関する風化ポテンシャルが最も高かった時期の風化作用によるもの、すなわち化石風化殻であると考えた。現在の花崗岩分布域では、本来化石風化殻の最上部に存在していたはずの酸性溶脱帯がほとんど見られない。その理由は、深層風化以後の削剥によって大部分が失われたことによる。

(2)斑れい岩、変成岩類
 花崗岩類以外の深成岩や変成岩を対象とした風化プロセスの研究例は限られている。
 松倉ほか(1979)は、柿岡盆地北部の地すべり地の角閃石斑れい岩、斜長岩、シソ輝石斑れい岩からなる斑れい岩体を対象とした鉱物学的観察の結果、斑れい岩の風化に伴う鉱物変化として、角閃石から緑泥石、カオリナイトへの変質と、斜長石からカオリナイト、ハロイサイトあるいは束沸石への変質を認めた。
 八田ほか(1981)は、筑波山斜面の土石流堆積物中に共存する斑れい岩レキと花こう岩レキの鉱物組成およびシュミットハンマー反発係数を測定した結果、花崗岩よりも斑れい岩に新鮮部が残っているものが多いことを認めた。その理由として松倉(1994)は、斑れい岩の風化生成物である粘土鉱物が不透水性をもつことにより、岩石内部への風化の進行を遅れさせるためとしている。土石流堆積物定置時に双方の岩石ともに新鮮であったとする前提には議論の余地があると思われるが、一般に花崗岩の広く分布する地域において斑れい岩体が残丘状に突出することが多いという観察事実とは調和している。
 相良ほか(1990)は、北上山地遠野接触変成帯において泥質岩を原岩とするスレートとホルンフェルスの風化様式を比較した。それによれば、両者の差は風化断面形態によく現われ、前者が厚さ20m程度の地表面に平行に発達する帯状の風化断面をもつのに対し、後者では不規則な選択的風化部が岩体深部まで達し、全体としては風化の発達程度が弱い差別的風化断面を示す。泥質ホルンフェルスの差別的風化の進行度はその岩質と関係しており、石灰質>Mg、K(黒雲母−キン青石)に富むもの>Siに富むもの>Al、Fe(ザクロ石)に富むものの順に風化されやすい。スレートとホルンフェルスの風化様式の違いは地形にも反映され、前者はV字谷の樹枝状河系をもち起伏量が大きく、後者は平底ないし船底谷の平行ないし羽毛状河系をもち起伏量が小さい。渇水期の単位面積当りの表流水量である基底流量は、スレートがホルンフェルスより大きく、ホルンフェルスは相対的に地下水流出量が多い。

(3)泥質岩
 泥質岩の風化は、法面維持や地滑り防止など、主として土木地質の分野で関心が払われてきた。グリーンタフ地域などに広く分布する新第三紀以降に形成された泥質岩類は、土木地質の分野では“堆積性軟岩”と呼ばれ(千木良・大山、1992)、人工法面の経時変化の観察などから古生層や変成岩よりも風化の進行速度が大きいとされている(田中、1972奥園、1978)。この種の泥岩の風化における重要なプロセスは、スレーキング剥離と黄鉄鉱の酸化によって生じる硫酸酸性水による溶解反応であり、条件によっては塩類析出も重要な要素となることがある。
 鈴木ほか(1970)は、三浦半島荒崎海岸の中新統三崎層の凝灰岩泥岩互層に見られる“鬼の洗濯岩”として知られる差別的風化岩の力学的強度や吸水膨張歪を調べた。その結果、圧縮強度や衝撃・磨耗硬度などの外的破壊力に対する抵抗性は、突き出している凝灰岩よりも凹んでいる泥岩の方が大きいことを明らかにした。このような力学的強度と地形との逆転が生じる理由は、潮間帯における乾湿繰り返しにより吸水膨張歪と吸水膨張圧の大きな泥岩の中で節理形成と細片化が進むためと考えられた。同様の現象は、新第三系日南層群の砂岩泥岩互層(高橋、1975、1976)、白亜系和泉層群の泥岩(林田、1977)、中新統神戸層群の泥岩(林田、1974)など多数知られている。
 主として泥質岩に見られるこのような乾湿繰り返しによる風化はスレーキングと呼ばれ、かつては乾燥した岩石が吸水する際に生じる間隙空気圧の上昇に起因するとされていたが、Nakano(1967)による大気圧と真空下での比較吸水実験により否定され、現在ではモンモリロナイトなどの膨潤性粘土鉱物の体積変化が主な原因であるとされている(千木良、1992)。藁谷(1986)藁谷・松倉(1988)は、上総丘陵の中期更新統笠森層のシルト岩からなる谷壁斜面を対象として、斜面の含水状態、谷壁の後退速度などを調べ、スレーキング剥離が乾燥後の降雨によって含水比が増加するときに発生すること、剥離量は含水比の変化量が大きいほど、またその頻度が高いほど増加することを明らかにした。湿潤膨張する前に一定以上の乾燥収縮することがスレーキングを促進させることは、水分ポテンシャルをコントロールした室内実験でも確かめられている(田中、1980)。
 泥質岩の風化のもう一つの大きな特徴は、泥質岩にごく普通に含まれる黄鉄鉱が、風化の進行に重要な役割を果たしていることである。千木良(1988c)は更新統橋爪層(新潟県)の泥岩を対象とし、深度40-50mのボーリング試料を用いて風化部から未風化部までの鉱物・化学組成と化学成分の出入りを検討した。その結果、黄鉄鉱の酸化およびそれに起因する硫酸酸性水による溶解反応が泥岩の化学的風化の主な要因であることを見い出した(第2図:略)。それによれば、1)風化帯は表層から深部にむかって、表層酸化帯、酸化帯、溶解帯、新鮮岩体に分けられ、最も激しい化学的風化は酸化帯基底部(酸化フロント)と溶解帯基底部(溶解フロント)で起こる、2)酸化フロントでは黄鉄鉱と緑泥石の消失、スメクタイトの増加、およびほとんどのSとCの消失、FeOのFe2O3への酸化がおこる、3)溶解フロントでは鉱物が溶解し、多くの成分が最も多く溶脱される、4)溶解フロントでの鉱物の溶解は、酸化フロントでの黄鉄鉱の酸化により生じた硫酸酸性水により引き起こされる。酸化フロントは平均的な地下水位面付近に位置することが多く、この風化プロセスは地下の水理と密接に関連している(千木良、1992)。野外では、酸化帯は黄褐色化や密度と強度の減少により、溶脱帯は色調が新鮮部と同様(多くは青灰色)であるにもかかわらず強度がやや低下していること、などでそれぞれ識別できる。泥質岩の化学的風化に伴う鉱物の溶解は岩石の物性変化を引き起こし、深部から浅部に向けて力学的強度が減少、物理的風化を促進する(Chigira、1990)。
 田村・鈴木(1984)山下・鈴木(1986)は新第三紀の細粒堆積岩の間隙径ごとの間隙容量と各種の物性を測定し、総間隙容量の増加とともに相対的に大きな間隙(10μm〜10^-0.5μm)の容量が増加すること、それに伴なって透水性が増加し力学的強度が低下することを見い出した。泥岩の化学的風化に伴って方解石が溶解することは、千木良(1988b)によって実験的に確かめられ、またその溶解に伴う物性変化は、方解石が岩石組織の骨格構造をなすか単なる間隙充填物であるかの存在状態によって異なることが明らかにされた(田中、1985)。
 泥岩からの塩類析出は、トンネル内壁や掘削後室内に保管されたボーリングコアの表面などにしばしば見られるほか、
摩崖仏の表面(関・酒井、1987関ほか、1987)、切土した住宅基礎地盤(高谷、1983)などでも報告されている。析出する塩類の大部分は石膏、ジャロサイトなどの硫酸塩であり(千木良・大山、1992)、塩類析出と剥離の繰り返しは岩石表面付近の風化の主要なプロセスとなりうる。さらに、岩盤中に塩類が析出することで高い応力が発生し、“盤膨れ”を生じ切土造成された宅地の崩壊を招くことすらある。このような硫酸塩の析出は、母岩中の黄鉄鉱の酸化により供給された硫酸イオンを含む間隙水が、地下水位面より上で蒸発量の多い条件が整った場合に、硫酸塩に過飽和な状態となることにより生じるとされている(落合ほか、1986千木良、1992)。

(4)砂質岩
 砂質岩を対象とした風化の研究は比較的最近始められたぼかりで、その研究例は限られている。
 千木良(1988a)は、新第三系魚沼層群山屋層(鮮新統)のワッケ質細粒砂岩の風化帯を貫いたボーリング試料を用いて、密度、間隙率、粒度組成、鉱物組成、化学組成、岩石組織を調べ、基本的には橋爪層の泥岩と同様に、表層から酸化帯、溶解帯、新鮮岩体に区分できること、黄鉄鉱の酸化が風化プロセスで重要であることを示した。そこでは、酸化帯での黄鉄鉱と緑泥石の消失と鉄の酸化・水酸化物による間隙の充填、溶解帯での砂粒子を膠結していた基質や火山ガラスの溶解、スメクタイトの減少が認められた。中新統豊似川層のゼオライトによって膠結された砂岩でも同様の結果が得られているが(千木良・曽根、1988)、そこでは鉄の沈殿物による膠結により、酸化フロントでの力学的強度がその上下よりも増加している。
 泥質岩に認められる黄鉄鉱の酸化とそれに起因する硫酸塩析出による風化は、第三系の凝灰質砂岩でも報告されている(関・酒井、1987)。

(5)火山岩・凝灰岩類
 火山岩や凝灰岩類の風化研究例も限られている。
 小口ほか(1994)は、神津島における1.1kaから40kaまでの時代の異なる多孔質黒雲母流紋岩の鉱物組成、化学組成、物理的・力学的性質を調べた。時代を異にし、鉱物・化学組成がほぼ等しい多孔質流紋岩の風化は、いずれも露頭規模で一様に進行していることから、岩石年代が風化継続時間にほぼ等しいと仮定して、風化に伴う変化が論じられた。それによれば、カオリン鉱物や雲母粘土鉱物の生成、ガラス質石基表面の剥離やクラックの発達などの鉱物学的変化およびそれらを反映すると考えられる比表面積は、風化継続時間が2万年程度までは小さいが、それ以降では次第に大きくなる。SiO2やNa2O、K2Oの減少、H2O-、H2O+、CaO、FeO+Fe2O3の増加などの化学的変化も同様である。それに対して、かさ密度の減少と間隙率の増加などの物性変化、および圧縮強度、引張強度などの力学的強度の減少は、風化継続期間が2万年までの間に急激に進み、その後は徐々に進行する。続報で小口・松倉(1996)は間隙径分布を測定し、風化継続期間が2万年までの間に10μm程度の大間隙が急増することを見い出し、それが風化に伴う強度低下をもたらす原因と考えた。
 新潟県弥彦山の玄武岩質岩の風化断面では、斜長石、輝石がスメクタイトを経てハロイサイトへと変化すること、風化の進行に伴い赤鉄鉱が生成することが認められている(丹、1993)。
 福島県の鮮新統滝の口層(関ほか、1987)、房総半島の新第三系(関・酒井、1987)では、塩類析出による凝灰岩類の風化が認められている。
 西山・楠田(1994)は蛍光法により凝灰岩のボーリングコア試料を観察し、凝灰岩の風化が微細な割れ目の発生により始まり、次いでその周辺から化学的風化が進むとした。

(6)炭酸塩岩類
 石灰岩やドロマイトなどの炭酸塩岩類は、わが国の先第三系の構成要素の一つであり、その風化が主として溶食により進行することは一般的に知られている。しかし、具体的な検討例は、河川水質に基づく風化量の推定(遠山、1983)や風化に伴う重金属の挙動(相沢・赤石、1987)などに限られている。

2.3 進行度合の指標
 風化作用と水質変化との関連を考察する際には、化学的風化作用の進行度合を定量的に把握することが必要となる。
 三浦(1973)は江津花崗岩体の風化断面における化学成分の変化傾向に基づいて、式(1)で示される“化学的新鮮度”を提案するとともに、式(2)で表わされる“絶対的化学的新鮮度(ADF)”が岩石の化学的風化の度合を知るために有効であるとし、日野閃緑岩(三浦・樋口、1974)、大東花崗閃緑岩(三浦、1975)などの風化研究に適用した。
 化学的新鮮度=(FeO+MnO+MgO+CaO+Na2O+K2O)/(Al2O3+Fe2O3+H2O(+))………(1)
 絶対的化学的新鮮度=風化岩の化学的新鮮度/未風化岩の化学的新鮮度………(2)
 風化に伴うADF値の減少、すなわちCaOとNa2Oの減少は斜長石の分解・溶脱を、Al2O3とH2O(+)の相対的増加は粘土鉱物の生成を、FeOの減少とFe2O3の増加は鉄苦土鉱物の酸化を、それぞれ反映している(三浦、1980)。
 大見ほか(1975)は新第三紀の安山岩を用いて、Reiche(1950)による風化ポテンシャル指数(WPI:式(3))および風化進行指数(PI:式(4))、Ruxton(1968)によるシリカ−アルミナ比(SAR:式(5))、シリカ−アルミナ比に強熱減量値を加味した値(SAIR:式(6))などの化学的風化指標値と物性、力学的強度との関係を調べた。
 WPI=100×(CaO+Na2O+K2O+MgO-H2O(+))/(SiO2+Al2O3+Fe2O3+FeO+TiO2+MgO+CaO+Na2O+K2O)………(3)
 PI=100×SiO2/(SiO2+TiO2+Fe2O3+FeO+Al2O3)………(4)
 SAR=SiO2/Al2O3………(5)
 SAIR=SiO2/(Al2O3+H2O(+))………(6)
 その結果、WPIやPIなどの化学的風化指標値の分布範囲が物性値よりもかなり狭く両者の対応づけが難しいこと、P波伝播速度や一軸圧縮強度などの物性値との相関は、SAIRが最も高く、強熱減量値、SARがそれに次ぐことを認めた。
 強熱減量値は風化岩に含まれる粘土鉱物中の結晶水量を表わすと考えられており、風化度の指標として土木地質方面で広く用いられている(西田、1979)。西田・青山(1979)は領家型花こう閃緑岩の風化断面を対象として、強熱減量値の増加に伴って斜長石のX線回折強度が減少し、比表面積が増加することを示した。
 土木地質の分野で用いられる種々の岩盤分類、例えば電研式岩盤分類(田中、1964)、土研式岩盤分類(岡本・安江、1966)、日本道路公団(1966)菊地ほか(1982)による岩盤分類などでは、岩石の風化の進行度も分類の指標に含まれている。しかし、それらの分類は、基本的には岩石の種類と風化の進行度の組合わせによって決定される岩石の力学的強度の区分であって、岩石の風化度そのものの分類法ではない。そうした中でIlive(1986)の分類は、同種の新鮮な岩石と当該岩石とのP波速度の比を尺度としたものであり、岩盤の物理的性質からみた風化の進行度の指標といえる。』

3.土壌
 3.1 土壌層位
 3.2 土壌の組成と表記法
 3.3 土壌の物理的・化学的性質

   (1)土壌のコロイド的性質
   (2)土壌の反応
   (3)土壌の酸化・還元
   (4)陽イオンの交換と固定
   (5)陰イオンの交換と固定
   (6)重金属・有機物の吸着
   (7)土壌構造
   (8)土壌水と土壌空気
   (9)土壌の力学性
   (10)土壌の温度と色
 3.4 日本の土壌
   (1)褐色森林土
   (2)低地土
   (3)黒ボク土
   (4)赤黄色土
   (5)ポドゾル
   (6)未熟土
 3.5 起源物質
   (1)母岩
   (2)降下火山灰(テフラ)
   (3)腐植
   (4)広域風成塵
4.山地の地形と水の挙動
 4.1 微地形と土層の構造
 4.2 水の挙動
5.土壌・風化帯における水質変化
 5.1 降水の水質と林内での水質変化
 5.2 土壌中での水質変化
 5.3 風化帯中での水質変化
 5.4 土壌・風化帯の水質変化に関連した室内実験
 5.5 トンネル湧水からみた土壌・風化帯の水質変化
 5.6 渓流水からみた土壌・風化帯の水質変化
6.おわりに

謝辞

文献(注:関係分のみ)

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