一國(1989)による〔2-3pから〕


1 土とは何か
 土といえば何となく俗っぽく、土壌といえば学問的な感じがする。けれども土という表現にはある種の親しみやすさがあることも事実である。それは土がわれわれの身近な存在であるためであろう。土がどのように定義されているかを調べてみると、ほとんどの場合、次の3項目は共通していることに気がつくであろう。
 1. 地表を薄く覆っている、ゆるく結合した天然の物質である。
 2. 岩石の風化生成物と植物の分解残留物の混合物である。
 3. 植物の生育を支えることができる物質である。
  土が生成するためには岩石の風化が起こらなければならない。風化生成物のなかには物理的に、たとえば機械的に破砕されて生じた粒子も含まれるが、多くは化学反応の産物である。風化生成物は、風化の起こった物理的・化学的条件によって異なっている。このため、土の種類は地球上の場所によって著しく異なっている。土の分類というのは土壌学において重要かつ困難な課題となっている。
 土の構成成分は、粗粒の無機物、コロイド状の無機物、有機物、生物体、土壌溶液、土壌空気に分けることができる。
 土が植物の生命を維持するためにはさまざまな条件が必要である。気温、降水量などは植物が生育しうるか否かを決定する基本的条件であるが、これは土に対して要求される物理的・化学的因子ではなく、気候的因子であるから、議論からは除外する。土の物理的・化学的因子として考えられるものは、水と養分(N,P,Kのほか各種の必須微量元素)を保持する能力である。しかしこれが極端になっても具合いが悪い。透水性の小さい土では、土の中の水の流動が悪く、溶存酸素が土の中の有機物と反応して消費しつくされてしまうと、植物の根は無酸素水中に浸された状態となり、呼吸がさまたげられてついには窒息してしまう。水の保持能力とともに、これとは正反対の透水性、通気性も要求されることになる。養分となる元素の場合も、これが土の粒子と強く結合してしまえば、植物がそれを吸収することは不可能となる。
 土が岩石の風化でつくられた無機物微粒子の集合体であって、有機物をまったく含まなかったとしよう。これらの微粒子はその多くが粘土鉱物と呼ばれるアルミノケイ酸塩と、Fe2O3・nH2O、Al2O3・nH2Oに代表される水和酸化物である。水分が共存する状態では、これらの粒子はたがいに付着し、ついには全体が一つの塊になってしまい、植物の生育には不適当な環境をつくり出してしまう。有機物はこれらの無機粒子の表面に吸着され、無機粒子どうしの直接的接触が起こらないように防ぐ役割をしている。このような有機物は植物の分解で生じたOH基、COOH基を含む高分子物質であって、イオン交換性もあり、植物の生育に必要な元素をゆるく保持することにも寄与している。
 土壌の構成する粒子の毛管中に保持されている水が土壌溶液である。土壌溶液と粒子との間にはイオン交換や吸着に基づくある種の平衡が存在し、これが土壌溶液中の溶存種の濃度を制御する働きをしている。薄いは希薄溶液であるが、溶存種の濃度が雨ごとに異なるのはもちろん、一続きの雨においてさえも一定ではない。このような雨が降るにもかかわらず、湧水の組成は一定である。これは上に述べたように、土の中で溶液−粒子間の平衡によって濃度の調節が行われた結果であろう。
 土は植物を育てることによって大気の組成を制御するとともに、繁茂した植物(森林)と協力して降水の流出を調整する役割を果たしている。別の表現をすれば、土は地球表層の環境調節器である。土が人類にとって重要な資源といわれるのは、それが食糧生産の場ということだけに基づいているのではないことを銘記すべきである。』



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