若濱(1995)による〔『地球の水圏−海洋と陸水』(185-186p)から〕


目次

5.雪氷・氷河
(1)雪氷圏

 地球には、水惑星といわれるように、大量の水が存在し、さまざまな形をとりながら地球上を循環している。温暖地では液体の水の形をとるが、寒冷地や高山などの低温の世界(寒冷圏)では固体の姿、すなわち雪や氷となって存在し、地上の広大な面積をおおう。この雪と氷の世界を雪氷圏という。そこには雪氷圏独特の自然環境と生態系がひろがっている。雪氷圏のうち、冬のあいだだけ雪や氷が存在する地域を、特に季節雪氷圏とよぶ。これに対して、山岳氷河や氷床(大陸氷河)、北極海と南極周辺の海氷野(かいひょうや)や、シベリア、カナダ北極圏などにひろがる永久凍土地帯のように、一年中雪氷が存在する地域は、永久雪氷圏または万年雪氷圏とよばれる(後見返し図:略)。季節雪氷圏には10億以上の人が住み、交通障害など多くの雪の問題をかかえている。一方、山の雪は貴重な水資源であり、わが国では、使用する水の総量の1/4以上をまかなっている。
 宇宙空間にも大量の雪氷が発見されている。木星のガリレオ衛星や土星の環、彗星の核などにである。これらは宇宙雪氷圏とでもよぶべきものであろう。宇宙の雪氷の研究は、太陽系の起源を知る上で重要な手がかりになると考えられる。近年、地球の気候変動や環境悪化が人類全体の問題となっているが、雪氷圏がこれらとどうかかわりあっているかを解明するために、観測や研究が進められている。

 雪氷圏の面積・雪氷の分布と量
 さまざまな形態の水の質量とその割合をみると、雪氷の量は海水についで多く、雪氷の90%は南極に、9%はグリーンランドにある(表3-11)。
表3-11 地球上の氷の存在量

 
質量(単位:兆トン) 百分率
氷河・(氷床) 南極
グリーンランド
その他
25,000
2,400
220
89.2
8.6
0.8
海氷 36 0.1
永久凍土 360 1.3

合計
28,016 100

 アラスカ、カナダ北極圏の島々、ヒマラヤ、南アメリカのパタゴニア、アルプスなどの高山帯には、大小無数の氷河がみられる。冬期ユーラシア大陸の北半分、カナダ、アラスカなどをおおう雪氷、そして河川や湖沼の氷もあるが、これらの純氷を全部集めてもわずか1%にもみたない。不純物氷である海氷厚さは平均1〜2mだから、2500mもの厚さがある南極の氷の0.1%程度である。
 積雪と海氷は、量としては少ないが面積は大きい。また、これらは日射の反射率(アルベド)が60〜80%にもなるので、雪氷野の面積の変動は気候に大きな影響を与える(表3-12)。
表3-12 世界における氷河の分布と面積(R.F.Flint ‘Glacial and Quaternary Geology’ John Wiley and Sons, 1971を一部改変)
   

現在(万km^2)
最終氷期(万km^2)
北極域 グリーンランド氷床
ローレンタイド(氷床)
その他計
173
15
20
216
1300
32
ユーラシア アルプス
中央及び西アジア
フェノスカンジナビア(氷床)
シベリア(北東・中央)
その他計
4
12
5
1
4
5
100
470
339
90
北米
南米
ロッキー
アンデス
その他(アフリカ、NZ等)
8
3
230
83
6
南極 南極氷床
(内棚氷)
1209
(138)
1560
 

1454 4431