兼岡(1998)による〔『年代測定概論』(1-11p)による〕


1.1 地球惑星科学・考古学などにおける“年代”とは?
 地球は今から何年間に誕生したのだろうか? 人類は地球の進化の歴史の中で、いつ頃からその遺跡を残すようになったのだろうか? 私たちが現在地球や惑星表面に見るあらゆる地形は、かつて地球や惑星で起こった現象の記憶である。それがいつどれくらいかかって起こったのかという時間に対する疑問は、地球や惑星について知りたいという私たちの問いかけの中でも最も強いものの1つである。古い人類の遺跡や遺物などが発見されたときには、まずそれらが現在からどれほど前の時代につくられたものであるかということが最大の関心事であろう。これらはいずれもかつて自然界および人間界を通じての時間の流れの中で起こった現象への、私たちの強い好奇心の現れである。“時間”はあらゆる現象の変化を記録するための重要な要素であるが、その時間軸を定める直接的な方法が年代測定である。
 地球惑星科学や考古学において個々の現象が起こった“時”としての年代値は、最も基本的なデータの1つである。それらの年代値をもとにして、地球や惑星、さらには人類の進化などを探ることが可能となるからである。この際の年代測定値の用い方としては、それぞれの現象が起こった“時”を記録し、それらの現象が起こった前後関係を識別することを主要な目的とする場合と、時間間隔としての時間の見積りを主要な目的とする場合がある。異なった場所で噴出した火山岩などの噴出年代を求め、それらの前後関係を比較する場合が前者にあたる。後者の場合、因果関係のある現象の間でそれらがどのような割合で変化していったかを知るためにそれぞれの年代を求める。この場合には、個々の年代値よりもその年代値としての差、すなわち継続期間を推定することが重要となる。これは、地球や惑星などにおいて生じたさまざまな現象を、物理や化学における速度論的な現象と結びつけて考えるために必要な定量的なデータを与える。
 ここまで、地球惑星科学や考古学などにおいて用いられる各種の現象に対しての時間軸を与える要素を年代と呼んできた。それらの年代の値を得るためにさまざまな方法が開発されてきている。しかしそれぞれの方法は異なった原理に基づいており、年代として意味を与える値を得るためにはそれぞれ異なった条件を満足している必要がある。またそれらの年代値も意味が異なっている。これらのことを十分に考慮せずに得られた年代数値をそのまま用いることによって、無用の混乱を引き起こす例が少なくない。年代測定法によって得られた年代数値は、そのままでは岩石や鉱物の化学分析値と同じ単なる分析値の意味しかない。それが対象としている現象の年代に対応していることを確認して、初めて年代値としての意味をもつ。そのためには、それぞれの年代測定法の原理と仮定を理解した上で、年代測定に用いた試料がその条件を十分に満足していることを確かめることが大切である。最近の分析技術の発展はめざましく、年代測定に関して生じる問題の多くは用いた試料がその年代測定法の求める条件を満足していないことが原因である。
 それでは地球科学や惑星科学、人類学や考古学などにおける年代とはどのようなものを指すのであろうか。その対象としてはさまざまな現象が含まれる。たとえば、路傍にころがっている岩石がつくられた年代といってもその内容は実に複雑である。年代を正確に定義するためにはある現象が生じた年代を指定することが必要であるが、単に岩石がつくられた年代というのでは意味をなさない。岩石はさまざまな鉱物の集合体である。岩石がつくられた年代というのは、現在岩石中に含まれるすべての鉱物が形成された“時”を指すのだろうか。しかし各鉱物がマグマから晶出する温度・圧力は異なる。すなわち時間も異なっている。また二次的な温度・圧力が加わって変成鉱物が生じている岩石もある。その変成鉱物が生成された年代は、マグマから直接生成された年代とは当然異なる。それならば、鉱物の集合体としての岩石の年代とはどういう意味をもつのだろうか。たとえばマグマから生成された鉱物が、それぞれ独立した鉱物として元素の交換などをしなくなった“時”を生成年代として、それらの年代の平均値を岩石の生成年代とするのが1つの定義である。火山岩などの場合には各鉱物の生成した時間差が求めようとする岩石の地質年代や測定値の不確定さに比べて無視できるので、実際上問題はない。しかし地中でゆっくり冷却した花崗岩岩体などの場合には、鉱物の種類によってその晶出年代に大きな差が生じ、岩石全体の形成年代には大きな不確定さが伴う。その不確定さは対象となっている現象のもつ本質的なものなので、いかなる年代測定法を用いてもその精度をあげることはできない。同様に堆積岩が生成した年代を求めることが非常に難しいのも、堆積物が岩石に変化する現象が長時間をかけて生じているからである。
 一方、地球や惑星が生成した年代というのは、岩石などが生成するのとは全く異なった現象に対応する。しかしこれらについても、対象としている物質全体を1つの系と考えて、それらを生み出す環境から独立した存在となった時点をもってその年代と考えるのが普通である。しかしその内容と年代を求める方法の違いによっても意味が異なってくるのは当然であろう。また考古学などで対象とする年代についても、遺物がつくられた時点の年代であるのか、それが発掘された地層が堆積した年代かで差があり、年代測定法としても異なった方法を用いる必要がある。
 要は、対象とする現象のどのような年代を知ろうとするのか、それにはどのような試料を用いてどのような方法を用いるのが最適であるのか、得られた年代数値がどのような条件を満足したときに対象とする現象の年代に相当すると見なせるのかを判断できること、これらを十分に把握していることが年代測定によって得られた年代数値を意味のある年代値として活用するための必要条件である。

1.2 年代測定の歴史
 岩石などの年代が科学的に信頼性のある数値として得られるようになったのは、ベックレル(Becquerel、1896)によりウランの放射能が発見されたことがその契機となった。それ以前にも年代測定に関するさまざまな試みがされていた。たとえば海水中に1年間あたり溶け込むナトリウム量と海水全体のナトリウム総量の比較から、海水の平均的な年代が求められたのもその例である。また生成時には完全に溶けていた地球が熱伝導によって現在のような状態にまで冷却固化したと仮定すると、それに要する年数を球の冷却という物理学的モデルから計算できる。その結果として、地球自体の年代の古さはたかだか1億年以下であると物理学者であるケルヴィン卿(Lord Kelvin)は主張した。しかしこの値は、当時地質学者たちが地層の堆積速度などと厚さの関係から推定していた数億年以上という推定値などよりも短く、物理学者と地質学者の間で見解が分かれていた。この疑問は放射性元素の発見によって解決された。ケルヴィン卿の計算値は、地球内部で放射壊変の際に熱を発生するウランなどの存在を無視したために生じたことが明らかになったからである。その意味でも放射性元素の発見は、地球科学にとってきわめて大きな意義を有する。
 放射性元素発見の約10年後には、ウランとそれが壊変する際につくられるヘリウムを定量することによって、岩石などの年代測定が可能であることがラザフォード(Rutherford、1906)により指摘された。さらにウランの壊変によってつくられる鉛を用いた年代測定が、ボルトウッド(Boltwood、1907)によって試みられた。1911年には、ホームズ(Holmes)はウランと鉛を定量して得られた年代を用いて地質年代表を作成した。これらの方法において、当初は放射壊変を行う親核種とそれから生じる娘核種の元素の量比を測定することにより年代値が求められた。その後同位体の存在が明らかにされ、さらに1930年代に入って同位体比を精密に測定するための質量分析計の開発が進んだことによって、放射壊変を利用した年代測定法は同位体比の測定により行われるようになった。1938年には、現在標準的な年代測定法の1つとなっているRb-Sr法がハーンおよびウォーリング(Hahn and Walling)によって試みられた。また1937年には、フォン・ワイゼッカー(von Weizsacker)が大気中の40Ar(注:一般に質量数〔40〕は元素記号〔Ar〕の左肩の位置に書かれる)は鉱物中の40Kからの壊変で生じた40Arによるものが大部分を占め、K-Ar系を利用すれば鉱物などの年代測定が可能であることを示唆した。この原理に基づいたK-Ar年代測定が実際に試みられるようになったのは、それから約10年後のことである(Aldrich and Nier、1948)。さらにこの方法を発展させたAr-Ar法は、1962年にアイスランドのシギャールガイルソン(Sigurgeirsson)によって初めて試みられた。しかしその論文はアイスランド語で書かれていたため、ほとんど知られないままになっていた。その後メリヒューおよびターナー(Merrihue and Turner、1966)がこの方法を隕石へ応用して、その有用性が広く知られるようになった。
 放射壊変によって生成された放射性起源同位体を測定して年代測定に応用する方法は、1950年代に入ってから急速に進歩した。その理由としては、高精度の質量分析計の発達と、濃縮同位体をトレーサーとして利用した同位体希釈法の開発により、微量の同位体の定量が精度よく行われるようになったことがあげられる。K-Ar法、Rb-Sr法などのほか、U-Pb法Th-Pb法などが実用化された。さらにPb-Pb法などによって隕石の精密な年代測定が可能となり、地球を含めた惑星の生成が現在から45〜46億年前であることもこの頃には推定されるようになった。
 一方、大気中に宇宙線によって14Nからつくられた14Cが存在することは、1946年にリビー(Libby)によって明らかにされた。その量は、宇宙線によって生成される割合と14Cの壊変によって失われる割合が釣り合ったところで決まっている。生物が死んで大気などから14Cの供給を受けなくなってからは、14Cの量は壊変によって失われるだけになる。リビーは1949年には14Cの半減期を精密測定により決定し、この原理を利用して放射性炭素(14C)法を確立した。この方法は過去数万年前までの年代値を得るための強力な手段となり、考古学などの分野に著しい進歩をもたらした。リビーはこの業績により、1960年にノーベル化学賞を授与されている。
 1950年代から1960年代にかけては、これらの年代測定法は完全に実用化されて地球科学や惑星科学、また考古学などの分野において欠かすことのできない手段になるとともに、さらに新しい年代測定方法が開発された。熱ルミネッセンス(TL)法フィッション・トラック(FT)法電子スピン共鳴(ESR)法などのように、試料がウランなどによる放射線によって生じる損傷などの割合が年代の関数であることを利用した各種の年代測定法は、この頃に測定法の基礎が開発された。またウランやトリウム壊変系列における非平衡状態を利用した方法は、その基本的な概念については1950年以前からすでに考察されてきているが、実際に堆積物などの年代測定に利用されるようになったのもこの頃からだる。さらにその方法の中の一種であるイオニウム法は、1960年代の後半には火山岩にも試みられるようになった(Kigoshi、1967)。
 1969年にアポロ11号の月面着陸により月の岩が地球に持ち帰られ、その岩の年代測定をするために各種の年代測定の分析精度は著しく向上した。特にカリフォルニア工科大学のワッサーバーグ(Wasserburg)とパパナスタシュー(Papanastassiou)は表面電離型質量分析計を独自に改良して、それまでのストロンチウム同位体比の測定精度を有効数字4桁から6桁にまであげることに成功した。その結果、彼らの報告した月の岩のRb-Sr年代の測定精度は他の研究者のそれをはるかに上回り、しかもその結果は当時最も高精度の年代値を与えた米国地質調査所の立本光信によるPb-Pb年代ともよい一致を見た。またAr-Ar年代もこれらの方法と同様の値を与えたことが、その方法の有効性をアピールするのに大きな効果があった。ワッサーバーグらの開発した質量分析計はその数年後には他の研究室でも使用されるようになり、固体元素の同位体比測定に関連した測定精度は大幅に向上した。その結果、1970年代半ば頃からは、原理的にはそれ以前から知られていたSm-Nd法、Lu-Hf法Re-Os法などの各種の年代測定法が実用化されていった。
 一方、宇宙線により隕石や地球物質中に生成された各種の宇宙線生成核種を利用することにより、隕石の宇宙線照射年代や地上落下年代、あるいは海底堆積物の堆積年代や地表の侵食速度などさまざまな年代に関連した現象を推定することができる。放射性炭素法もその典型的な応用の一例である。最近では加速器を用いた質量分析法などの急速な発展により極微量の宇宙線照射生成核種の測定が可能となってきたので、その応用範囲はきわめて広い。現在では適当な試料さえ入手できれば、隕石や地球が生成した46億年程度の年代から最近数十年程度の年代範囲までの年代測定が可能となってきているが、対象とする試料の種類によって用いる方法や原理は異なる。
 これらの方法とあいまって、一方では全地球規模で生じるような現象の変化の年代変化を追跡して、その結果を利用して年代を求める各種の方法も1950年代頃から試みられるようになった。これらは年代数値を得るという意味では間接的な方法であるが、対象とする試料などの種類によってはむしろ測定しやすいという利点がある。さらに数値年代を得る分析技術の急速な進歩により、それぞれの対象に対する年代較正曲線の精度も向上し、最近ではかなり広く用いられるようになっている。古地磁気層序や海水中の87Sr/86Srなどの変化を利用した年代測定がこれにあたる。
表1.1 近代的な方法による年代測定の歴史
19C 熱源がないと仮定した地球の熱伝導モデルによる地球の年齢の推定 Lord Kelvin
1896 放射能の発見 H. Becquerel
1906 U-Heの定量による年代測定 E. Rutherford
1907 放射性起源鉛を用いた年代測定 B. B. Boltwood
1911 U、Pbの定量による岩石の年代測定、地質年代表の作成 A. Holmes
1937 40Kから40Arへの壊変とK-Ar法による年代測定の可能性の示唆 C. F. von Wiizsaecker
1938 Rb-Sr法の試み O. Hahn and S. Walling
1940 Nier型質量分析計の開発 A. O. Nier
1946 14Cの存在の確認、14C法による年代測定の基礎の確立 W. F. Libby
1948 K-Ar法による鉱物の年代測定 L. A. Aldrich and A. O. Nier
1953 熱ルミネッセンスを用いた年代測定の提案 F. Daniel, et al.
1954 ラセミ化法による年代測定
Re-Os法による年代測定の試み
P. H. Abelson
H. Hintenberger, et al.
1955 ウラン系列を用いた年代測定の開発、234U-238U法
         〃            、230Th-234U法
V. V. Cherdyntsev
H. A. Potraz et al.
1956 Pb-Pb法による隕石などの年代測定から、地球の年齢がほぼ4.6Gaであることを提唱
コンコーディア図の提唱
C. Patterson
G. Wetherill
1960 隕石中の過剰129Xeの存在による消滅核種129Iの存在の確認
水和法による黒曜石の年代測定
J. H. Reynolds
I. Friedman and R. L. Smith
1961 アイソクロン法の採用 L. O. Nicolaysen; H. L. Allsopp
1962 Ar-Ar法による年代測定の試み
フィッション・トラックに対するエッチング法の開発、年代測定への応用
T. Sigurgeirsson
R. L. Fleischer, P. B. Price and R. M. Walker
1963
1967
電子スピン共鳴(ESR)法による年代測定の提唱
火山岩に対するIo法による年代測定
アミノ酸法による年代測定
E. J. Zeller, et al.
木越邦彦
P. E. Hare and R. M. Mitterer
1969 高精度表面電離型質量分析計の開発
アポロ11号による月の岩の地球への持ち帰り、その年代測定を通じての測定精度の向上
G. J. Wasserburg and D. A. Papanastassiou
1973 Sm-Nd法の試み
レーザー・イオンプローブを用いたAr-Ar法による年代測定
野津憲治ほか
G. H. Megrue
1974 Sm-Nd法による年代測定 G. W. Lugmair
1976 加速器質量分析法(AMS)を用いた14C年代測定法の開発 K. H. Purser
1980 Lu-Hf法による年代測定 P. J. Patchett and M. Tatsumoto
1982 La-Ce法による年代測定 田中 剛・増田彰正
1983 イオン・マイクロプローブによる年代測定 W.Compston, et al.
1986 La-Ba法による年代測定 中井俊一ほか
1990 国際地質年代委員会により、FT法におけるゼータ値の採用の勧告  


1.3 相対年代と数値(絶対)年代
 地質学では、化石や地層の類似・上下関係などを用いて“時間”上の前後関係を定めてきた。これらの時間の前後関係を示す年代を「相対年代」(relative age)と呼ぶ。これに対して、放射性同位体核種などの放射壊変などを利用して得た放射年代やある環境下で一定の割合で進行する化学反応を利用して得た年代値のように、数値で与えられた年代は「数値年代」(numerical age)と呼ばれる。数値年代は、相対年代に対して絶対年代absolute age)と呼ばれることも少なくない。しかし絶対年代という表現の中には、ともすると年代としての信頼性まで含まれるような意味合いを与える恐れがあるので、無用な混乱を避けるためには数値年代と表現した方がよい。
 相対年代と数値年代はそれぞれの利点をもっているのでその目的に応じて使い分けるべきであり、一方が他方よりも信頼性が高いということにはならない。たとえば微化石などを用いて異なった場所における堆積物の年代を推定する場合、その前後関係などについては非常に詳しく判別できる。また微化石層序表などでは、4桁から5桁にも及ぶ数値の多い年代値が与えられている。しかし年代としての前後関係については数値年代では与えられないような区別が可能であるが、そこで示された年代数値がその数値の桁数だけの信頼性を有すると考えてはいけない。微化石層序表に割り振られている年代数値は、層序のいくつかについて各種の方法で得られた数値年代によって数値を与え、それよりも細かい年代区分に関しては単に年代数値を内挿して与えているに過ぎない。一方、直接年代測定した年代値の有効数値はたかだか4桁であり、しかもそれに0.1〜1%前後の不確定さを伴うのが普通である。この点については、付録のA地質年代表に与えられている各境界の年代値の不確定さを参照することで、その意味が理解されよう。

1.4 各種の年代測定
 数値年代を求めるためには、さまざまな原理に基づいた方法が開発されてきている。大別すると物理的原理に基づいた方法、化学的原理に基づいた方法、全地球的に共通して生じる現象の年代変化を求め、その年代較正曲線を利用する方法などがあげられる。物理的原理に基づいた方法としては、放射性核種の放射壊変を利用した方法、宇宙線照射や鉱物中の放射性元素からの照射による核反応生成物を利用する方法などがある。また化学的原理に基づいた方法としては、ある環境下で進行する化学反応を利用してその生成量から年代を求める方法などが相当する。一方で年代較正曲線を利用して数値年代を求める方法は、古地磁気層序や海水中の87Sr/86Srなどの同位体比変化を利用する方法がこれにあたる。微化石などを用いて作成した年代層序表に年代数値を対応させ、それから年代数値として読み取る方法もこの方法の応用である。これらの中で直接的でしかも現在最も信頼性の高い方法とされているのは、放射性核種の壊変を利用して得られる「放射年代」(radiometric age)である。放射性核種の壊変現象は、一般的には地球環境下における温度・圧力には影響されず、その時間に対する壊変の割合が一定であると見なせることがその根拠である。
 化学的年代測定では、ある温度・圧力下で一定の割合で進行する化学反応を利用する。火山ガラスが一定の割合で水和していく現象を利用する水和法などがその例にあたる。この場合、化学反応が一定の割合で生じるという点が非常に重要な条件となる。
 また化石や地層などをもとにつくられた地質年代表に年代数値を目盛として入れ、その地質年代表をもとに逆に年代を求める場合も非常に多い。しかしこのような年代表における年代数値は絶対的なものではなく、現在でもより統一的な値を得るべく絶えず努力が続けられているということを十分に認識する必要がある。
 このほかにも、数値年代を求める方法としては天文現象を利用した方法や、年輪などを数えて年代を推定する方法がある。また相対年代を求める方法としては、各種の年代指標を用いた層序学的な方法などがあげられる。表1.2にそれらをまとめておく。

表1.2 年代測定で用いられる“年代”の主な区分
数値年代
(絶対年代)
1.放射年代
    同位体(比)年代
    宇宙線生成核種の壊変を反映した時代
    放射壊変系列の平衡からのずれを反映した年代
    放射線損傷年代
    宇宙線照射年代
    消滅核種による壊変生成核種量を反映した年代
2.化学反応現象を反映した年代
3.天文現象を反映した年代
4.年輪・年縞年代
相対年代 1.地質年代
2.化石年代
3.微化石年代
4.古地磁気年代
5.火山灰年代
6.同位体比層序年代


1.5 年代数値の表示法
 年代測定によって得られた年代の表示法としてはいくつかのスタイルがある。最も一般的なものは、SI単位(国際度量衡単位)として用いられているもので、次のようなものである。
 Ka:103年(前)
 Ma:106年(前)
 Ga:109年(前)
 これらは測定された年代値として現在から過去に遡った年数を与えるので、すでに以前という意味が含まれているとして用いられることが多い。米国地質調査所などの出版物では、そのような意味に統一して用いている。この場合には期間を表すためには別の単位を用いる必要があり、たとえば100万年間という場合に1Maと用いることはせず、代りに1m.y.などと表現する。上記の表現以外でも、さらに次のような表現はよく用いられる。
 yrs、yr:年
 m.y.、Myr:106
 これらの表現は、それぞれ対象とする年代範囲によって適当に用いることが望ましい。また少し古い文献では、AEによって109年を意味するものも見られる。これはラテン語のaeonの最初の2文字を用いて表示している。
 一方放射性炭素(14C)年代の場合には、年代測定値の後にBPがつけられている。1950年以降では原水爆実験のために大気中の14Cの量が急速に増加し、大気中では14Cの値が一定という仮定が成立しなくなったために、放射性炭素年代では1950年を年代値の基準年として、それから何年前という数え方をすることが定められている。また14C年代値の計算の際には、リビーが最初に用いた14Cの半減期によって年代数値を表示することになっている。BPがつけられている年代数値は、その規則に従った表示であることを意味している。たとえば2000年BPと記されていれば、その年代値は1950年から2000年前ということであり、測定値が1998年に得られていても1998年から2000年前ということではない。』



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