森・川・海のつながりを重視した豊かな漁場海域環境創出方策検討調査報告書  http://www.jfa.maff.go.jp/gyokogyojo/sub_70a.pdf
 水産庁漁港漁場整備部・林野庁森林整備部・国土交通省河川局による(平成16年3月)。漁港漁場整備部ホームページの『法令・資料等』の中のページ。


表−5.1 漁場環境のための森・川・海の整備の方向性の検討

項目

内容

今後の整備の方向性

森林域

河川域

海域
森林・河川からの栄養塩類の供給 森林から流出する栄養塩類が河川で形態を変えながら流下し、海域の生産に寄与 栄養塩類が安定的に供給できる健全な森林生態系を維持することが必要 食物連鎖等を通じた栄養塩類の適切な形態変化が維持されることが必要 河川から供給される栄養塩類が海域の生産に有効に利用される環境を創出することが必要
森林・河川からの微量元素類の供給 森林から流出する微量元素類が河川を適切に流下し、海域の生産に寄与 微量元素類が安定的に供給できる健全な森林生態系を維持することが必要
(その他は定量的な知見を蓄積していくことが必要)
森林域から供給される微量元素類を適切に海域へ流下させることが必要
(その他は定量的な知見を蓄積していくことが必要)
河川から供給される微量元素類が海域の生産に有効に利用される環境を創出することが必要
(その他は定量的な知見を蓄積していくことが必要)
森林・河川からの有機物の供給 森林から流出する有機物が河川で形態を変えながら流下し、海域の生産に寄与 森林から有機物が適度に供給できる健全な森林生態系を維持することが必要 食物連鎖を通じたバイオマスとしてのストックを適度に増加させ、有機物を適度に貯留・流下させることが必要 河川から供給される有機物が海域の生産に有効に利用される環境を創出することが必要
森林・河川による流量の調節 森林の流出調節機能や河川の流下速度の調節機能が健全な海域生態系の維持に寄与 森林や森林土壌が有する降水の流出調節機能を発揮させることが必要 適切な流量の維持に資する河川や流域の貯水性・浸透性の確保が必要 河川からの適度で安定的な淡水供給を活かして、健全な海域生態系を維持することが必要
森林による濁り発生抑制適度な土砂供給 流域からの適度な土砂供給が健全な海域生態系の維持に寄与 森林による土壌保全機能を発揮させることが必要 森林域から供給された土砂を適切に流下させることが必要 適度な土砂量適度な粒径による土砂供給を活かして、海域生態系の良好な生育・生息基盤の維持・確保を図ることが必要
森林・河川生態系の適切な維持 森林・河川生態系の適切な維持が健全な海域生態系の維持に寄与 森林及び渓流生物の生育生息環境を保全することが必要 河川生物の生育生息環境の保全や河川生物の移動阻害を解消することが必要 生物の移動や沿岸漁業による陸域への物質環流機能を確保することが必要
動植物の存在や水産資源の収穫 動植物の存在や水産資源の収穫が健全な海域生態系の維持に寄与

表−5.2 森・川・海のつながりに係る現地調査指針(案)

●調査の基本的考え方
 森・川・海のつながりを重視した連携方策を展開していくにあたっては、森林域・河川域・海域及びそのつながりの状況等を把握する必要があり、この観点からは、次に示すような現地での定点調査を実施するとともに、流域に関連するデータは既存資料調査等により得ることが考えられる。
 なお、ここで提示した調査項目や手法については、地域特性により必要に応じて取捨選択すべきであると考えられることから、適宜最適な項目及び手法を採用することが重要である。

  • 渓流域・河川域・海域を通した水質調査(水質調査項目(案)は表−5.2.1参照)
  • 渓流域・河川域を通した水量調査
  • 河川域・海域の底質調査(底質調査項目(案)は表−5.2.2参照)
  • 渓流域・河川域の底生動物・付着藻類調査(定量・定性調査)
  • 河川域・海域の水草・海草(海藻)調査
  • 森林・渓畔林、河畔林調査(樹種、立木密度、蓄積、施業履歴等)
  • 土壌調査(理化学特性等)
  • AGP試験

●調査頻度・時期
 水質・水量調査は平水相当時として四季実施するとともに、出水時においても調査を実施することが望ましい。なお、冬季に積雪のある地方においては、春先の融雪時にも調査を実施することが好ましい。
 底生動物・付着藻類調査については四季実施することを基本とし、その他の調査については1回程度実施することが望ましい。

●調査地点
 渓流域では、流域の樹種や林齢、施業履歴等を考慮するとともに、森林を面的に捉える観点から数地点設定する。
 河川域では、流下に伴う変化が把握できるように、数地点設定する。
 海域では、河川水の拡散方向や外洋水との交換等を考慮し、数地点設定する。また、表層と底層の2層程度設定する。

●解析手法
 水質分析結果のデータ解析にあたっては、濃度だけでなく、負荷量も対象として、森・川・海のデータを比較する。なお、河川からの負荷量が海域にもたらす影響の定量化には塩分を指標とした解析手法が提案されている。また、平水時・出水時・融雪時等の負荷量を算定し、海域への供給量を推定することが考えられる。
 その他の調査結果は、水質・水量調査結果との比較及び相互の比較等を行うことが考えられる。

表−5.2.1 漁場環境のための森・川・海の整備で有効と考えられる水質調査項目(案)

分析項目

調査項目の
優先順位
(案)

有効と考えられる調査項目の選定理由
有機物 全有機態炭素 生物の現存量及び生産量を指標しているため。
溶存態有機態炭素
フミン酸 森林域で地点による差が確認された項目で、生物生産への関与について近年注目されている物質群であるため。
フルボ酸
粒子状有機物(POM) 森林域で地点による差が確認された項目で、河川や海域における生物生産に寄与していることが考えられるため。
栄養塩類 総窒素

河川内で地点による差が顕著にみられた項目であるため。また、AGP試験における増殖量・増殖速度の差が栄養塩類の差によると考えられるため。
亜硝酸態窒素
硝酸態窒素
アンモニア態窒素
総リン
リン酸態リン
珪酸 海域での植物プランクトンの取り込みに由来すると考えられる地点・季節間の差違が確認されたため。
全鉄 地点による差が確認された項目で、生物生産への関与について近年注目されている物質であるため。
溶存態鉄 地点による差はみられなかったが、生物生産への関与について近年注目されている物質であるため。
フルボ酸鉄
金属元素類
(主要)
ナトリウム

河口域での沈降等の要因による濃度変化以外は、地点間で目立った差がみられず、これらの物質濃度の違いが生物生産の違いに大きく関与している可能性は低いと考えられるため。
カリウム
カルシウム
マグネシウム
金属元素類
(微量)
マンガン 地点による差が確認された項目であるため。

河口域での沈降等の要因による濃度変化以外は、地点間で目立った差がみられず、これらの物質濃度の違いが生物生産の違いに大きく関与している可能性は低いと考えられるため。
亜鉛
ニッケル
コバルト
陰イオン 塩化物イオン

地点間で目立った差がみられず、森・川・海のつながりの観点からは必須の調査項目とは考えられないため。
重炭酸イオン
硫酸イオン
基礎項目 pH 水の基本的性質を指標する項目であり、また、pHが物質の形態変化に大きく影響を与える場合があるため。
電気伝導度 水中に含まれる陽・陰イオン量の目安となるが、森・川・海のつながりの観点からは必須の調査項目とは考えられないため。
DO 生物の生息環境の状況を指標する項目であり、また、河川から海域への溶存酸素の供給状況を把握するため。
塩分 海域水質の基礎的項目であり、河川水と外洋水との混合割合を推定するデータとして有効であるため。
透視度・透明度 濁りの状況等を把握するため
一般項目 BOD又はCOD 水質汚濁の一般的指標であるが、森・川・海の関係を明らかにするためには、水質汚濁よりも有機物の量等の把握が重要であるため。
SS

河川から流出する濁り成分の状況を把握するため。
VSS
クロロフィルa 海域における基礎生産の状況を把握するため。
プランクトン 植物プランクトン 海域における基礎生産の状況を把握するため。
<注> ○:優先的に調査を実施すべき項目  △:調査の実施が考えられる項目

表−5.2.2 漁場環境のための森・川・海の整備で有効と考えられる底質調査項目(案)

分析項目

調査項目の
優先順位
(案)

有効と考えられる調査項目の選定理由
有機物 全有機態炭素

地点による差が確認された項目で、生物の現存量及び生産量の指標であるため。
フミン酸

地点による差が確認された項目で、生物生産への関与について近年注目されている物質群であるため。
フルボ酸
栄養塩類 総窒素

海域の生産に大きく関与している物質で、これらの物質の底泥での存在量を明らかにすることで、その沈降・堆積状況が把握できるため。
栄養塩類 亜硝酸態窒素
硝酸態窒素
アンモニア態窒素
総リン
リン酸態リン
珪酸

植物プランクトンによる生産に大きく関与している物質であり、底泥での存在量を明らかにすることで、その沈降・堆積状況が把握できるため。
全鉄

生物生産への関与について近年注目されている物質であるため。
金属元素類
(主要)
ナトリウム

地点間で目立った差がみられず、また、濃度の違いが生物生産の違いに大きく関与している可能性は低いと考えられるため。
カリウム
カルシウム
マグネシウム
金属元素類
(微量)
マンガン

地点による差が確認された項目であるため。

地点間で目立った差がみられず、また、濃度の違いが生物生産の違いに大きく関与している可能性は低いと考えられるため。
亜鉛
ニッケル
コバルト
粒度組成 粒度組成

底質の性状を指標する基礎的項目で、各種物質の沈降・堆積のメカニズムと関連があると考えられるため。
<注> ○:優先的に調査を実施すべき項目  △:調査の実施が考えられる項目

表−5.3 現時点で想定される整備方策や取り組み等

項目

整備方策、取り組み等

森林域
基礎調査 @地質や気象条件等が流出水に与える影響の把握
A森林整備、樹種・林齢等が流出水に与える影響の把握
モニタリング @豪雨時や融雪時を含め、森林が水量・水質、土砂供給量等に与える影響のモニタリング
整備方策 @濁水の発生防止等森林の水源かん養機能の維持・増進の観点から、山腹崩壊の予防や山腹崩壊跡地等土砂供給源の早急な復旧、並びに伐採跡地への早急な植栽の実施や人工林の適切な密度管理の実施、水質保全施設の設置等
A多様で健全な森林を維持・造成する観点から、生態系に配慮した森林の整備・保全、渓畔林等の整備・保全
協働 @上下流の連携やボランティア活動等を通じた森林の整備・保全の一層の推進

河川域
基礎調査 @栄養塩類濃度等に関する基礎調査
A河畔林等に関する基礎調査(樹種、現存量、落葉・落枝供給量、落葉分解速度等)
モニタリング @水質・水量等のモニタリング
A出水時や融雪時における流出水量、土砂供給量、河床の変化等のモニタリング
B河床材料のモニタリング
C河畔林等のモニタリング
整備方策 @多自然型護岸等による瀬と淵、生物生息域の創出
A自然再生事業による本来の河川環境が有するバランスの復元、生物生息域の復元
B河川内浄化施設による余剰な栄養塩類の除去又は形態変化の促進
C河畔林、水草・河畔植生等の適切な整備・保全
D貯水池等でのプランクトンの異常発生の抑制
E適切な魚道の設置及び維持管理
F河川管理施設における適切な土砂管理
G河道における砂利採取等の適切な規制
協働 @流域関係者と連携した、栄養塩類、有機物を適切に循環させるための取り組み

海域
基礎調査 @藻場等の形成や漁業生産に及ぼす河川水・流入土砂の影響の把握
A物質環流量と海域生産との関係の把握
B陸域起源物質の海域生物への摂取機構の調査と物質収支の把握
C出水時や融雪時等の大量の淡水流出が海域環境に及ぼす影響の把握
モニタリング @河口域において河川水や物質挙動等を把握するためのモニタリング・観測体制の充実
整備方策 @沿岸域における適切な生態系を保全する観点から、藻場、干潟、砂浜、産卵場等の保全、自然調和型防波堤等による生物生息域の創出
A栄養塩類、微量元素類、有機物、淡水、土砂等の作用を考慮した漁場環境の整備・保全
協働 @漁業者、地域住民、NPO等多様な主体の参画による藻場の保全・創造等良好な沿岸域環境を創出する取り組みの一層の推進

森・川・海のつながり
協働 @森林・河川・海域の関係者間の連絡体制強化による意見交換と情報の共有化
A森林・河川・海域それぞれにおける施策を実施するにあたっての、他の施策への円滑な情報提供
B調査手法及び解析手法の具体的な検討とその確立
C森・川・海のつながりの観点から、より広範な分野との連携調査の実施


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