新田(2000)による〔『基礎気象学』(3-5p)から〕


1.3 大気の鉛直構造
 大気の平均気温と高度との関係をみると、図1.2(略)に示すようにいくつかの節目がみられ、層状の構造となっている。これは基本的には地球上における太陽エネルギーの吸収が、地表から数百km離れた超高層と、50kmほどの高さの中層と、地表面(地面と海面)との三つの部分で多く行われることによる。
 地表から約11kmの高さまでは、気温は1kmにつき約6.5℃という一定の割合で減少を続ける。この範囲の気層の主な熱源は、太陽光が地表面で吸収された結果によるものである。その熱が地表面から大気に伝えられ、乱流や対流によって上方へ輸送されることによって下層大気の気温分布が形成される。この一定の割合で気温が減少している範囲を対流圏(troposphere)という。
 対流圏の上の11〜50kmの層では、上にいくに従って気温は高くなっている。つまり、大気は安定な成層をしているわけで、この範囲を成層圏(stratosphere)とよんでいる。そして対流圏と成層圏の境を(対流)圏界面(tropopause)という。
 50〜80kmにわたる範囲においては、気温は再び高さとともに減少する。この範囲の気層を中間圏(mesosphere)とよび、成層圏と中間圏の境を成層圏界面(stratopause)とよぶ。50km付近を中心として、成層圏と中間圏にまたがる高温層は、オゾンが太陽紫外線を吸収することによって形成される。その場合に、図1.2や図10.1(略)にみられるようにオゾン分布の極大層(オゾン層)が20〜30kmにあるにもかかわらず、高温層の中心がそれより高い50km付近に生ずる理由は、大気の密度、したがって熱容量が上層にいくほど小さくなるため、吸収された熱量による昇温効果が上層ほど大きいことと、紫外線強度が上層ほど大きい(吸収により減衰していない)ことによる。
 80km以上の高層になると、気温は高さとともに再び上昇に転じ、600kmの高層では1500K程度の高温に達する。80〜600kmの範囲の気層を熱圏(thermosphere)とよび、中間層と熱圏の境を中間圏界面(mesopause)とよぶ。熱圏の形成は、ここで太陽の短紫外線やX線が酸素、窒素の分子、原子によって吸収されること、太陽からの高温微粒子が捕獲されエネルギーの流入が大きいにもかかわらず、熱放射の性能が低くエネルギーの流出が温度のわりに小さくなることによる。また、密度が小さく熱容量が小さいので温度の日変化や太陽活動の変化に伴う温度変化が大きい。高度約10〜120km付近までの成層圏、中間圏、下部熱圏を総称して中層大気(middle atmosphere)とよぶ。
 600km以上の高層になると、大気はさらに希薄になり、分子や原子間の衝突もまれになる。ここでは、重力場からの脱出速度11.4km/sより小さな速度の中性粒子は、楕円軌道を描いて大気中に残るが、上向きの速度が脱出速度より大きい粒子は、地球大気より脱出する。600km以上の層を外気圏または大気外圏(exosphere)とよぶ。
 他方、図1.2の右側にみられるように、80km以上の大気中には太陽紫外線の電離作用により、イオン化された分子や原子と放出された電子が多数存在していて、気層の電気伝導度を高めている。そういった観点から80km以上の気層を電離層(ionosphere)または電離圏とよぶ。』



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