Freiser & Fernando(1967)による〔『イオン平衡』(2-4p)から〕


 『1-2 濃度の単位
 われわれの仕事は溶液に関する場合が非常に多いので、濃度についてあらかじめ知っておくことが必要である。濃度は溶液の単位体積中に溶かされている物質の量として定義される。濃度を表わすにはいろいろな方法があるが、もっとも化学において重要なのはモルに関係した濃度である。

1-2-(a) モル濃度(Molarity)およびフォーマル濃度(Formality)〔訳注:わが国では通常、式量濃度とよばれている。〕
 モル濃度(Mで表わす)は溶液1リットルあたりの溶質をモルで表わした濃度の単位である。したがって、58.5gのNaClを水に溶解して2.0リットルの溶液にすると、溶液のモル濃度は
    M = (58.5g/58.5g/mole)/2.0リットル = 0.50M
もっと一般的に表わすと
    M = モル数/V(リットル)
この定義は書きかえると
    モル数 = M × V
になる。
 さて、モル数を計算するのに2つの方法がある。
    モル数 = W(g)/G.M.W.(g/mole) = M × V(リットル)
この2つの方法は物質が純粋な状態にあるか、あるいは溶液中にあるかによって使いわける。
 モルとモル濃度を混同しないようにすることは非常に重要である。化学を習いはじめた学生にはその区別がむずかしい。モルはを表わし、モル濃度は単位体積あたりの量を示すことを忘れてはならない。たとえば1.0ml(ミリリットル)の0.10MHClと10l(リットル)の0.10MHClのモル濃度は同じである。しかし0.10MHClの1.0ml中のHClの量は0.0001モルであり、0.10MHClの10l中の量は1.0モルである。NaCl、CH3COOHあるいはどんな物質でも、それらの0.1M溶液は水に1/10モルの物質を溶かし、その体積を1リットルにした溶液である。これはNaClまたはCH3COOHの平衡濃度を表わさず、分析濃度を表わしている。本によってはフォーマル濃度(溶液1リットルあたりの溶質のグラム式量の数)という語で分析濃度を書き、与えられた種の平衡濃度を表わすのにモル濃度を用いている。
 この本で、xM溶液と書かれていれば、それは物質のxモル(正確にいえば式量)を水に溶かして1リットルにした溶液を意味する。このような分析濃度をCという記号で表わす。中括弧は溶液中の分子またはイオン種の濃度を示すときにのみ用いることにする。
 平衡計算のときに用いるもっとも便利な濃度単位はモル濃度である。モル濃度をこの本全般にわたって自由に使っているが、この濃度単位は不便なときもある。第1には、溶液中にある溶媒の正確な量を計算するのに不便であり、第2には溶液の密度は温度により変化するのでモル濃度も変化するからである。
 たとえば0.1000MNaCl溶液中の水の量はいくらか? 1リットルの溶液中にNaClが0.1000モル(58.45×0.1000g)あることはわかるが、1リットルの溶液の重量がわからなければ溶液中の水の重量を知ることはできない。もしこのNaCl溶液の密度の値が20℃で1.0028g/mlであることがわかっていれば、溶液中の水の量を知ることができる。
すなわち、
    1.0028g/ml×1000ml/l=1002.8g/l
    (1002.8g/l)−(5.845g/lNaCl)=997.0gH2O
となる。この溶液は25℃で1.001リットルの体積を占めていて、このことはモル濃度が0.1%低くなることを意味している(0.1000Mよりももっと濃厚な溶液ではこの温度効果はより大きくなるであろう)。しかしたいていの場合、このような変化は平衡計算においてはほとんど誤差を与えない。

1-2-(b) モラール濃度(Molality)
 モラール濃度は、溶媒1kgあたりの溶質のモルで表わした濃度の単位である。この方法で濃度を表わすと、モル濃度でみられた欠点がさけられることにすぐ気づく。溶液をモラール濃度で表わす利点は、温度に無関係であり溶媒の量を容易に計算することができることである。しかしこの濃度表示法では溶液の体積は正確にはわからないから測容器を用いて行なう分析操作では明らかに不利であり、そのような場合にはモル濃度を用いる方がよい。しかしどんあ平衡計算のときでもモラール濃度を用いると一定組成に関係づけることができる濃度単位をもつ有利さがある。この本で述べてあるたいていの水溶液は比較的希薄のものであるから、モル濃度はモラール濃度とほぼ等しく、モル濃度をモラール濃度の近似として用い得る。

1-2-(c) モル分率(Mole Fraction)
 モル分率は、溶液中のすべての構成分の全モル数と、それに対する溶質のモル数との比で表わす濃度単位であるが、この濃度単位は濃度表示法の1つとしてあげるにとどめる。モル分率は平衡を問題とする場合にはよい濃度表示法であり、二、三の成分を含む簡単な溶液によく用いられる。

1-2-(d) 規定濃度(Normality)
 規定濃度は、溶液1リットルあたりの溶質の化学当量数で表わされる濃度単位である。この濃度表示法は特に複雑な化学量論的計算に便利である。規定濃度は平衡の表示には決して用いるべきでない。

1-2-(e) 濃度の対数表示
 たいていの場合、われわれは濃度および平衡定数を対数で表わす。その理論的意味は後述するが、今ここではよく知られているpHの概念を例にとり、その便利さを述べることにする。水素イオン濃度と対数関係にあるpHを用いると、いろいろなオーダーの水素イオン濃度の変化が取り扱いやすくなる。たとえば溶液の水素イオン濃度が2.30×10^-3Mから3.80×10^-11Mに変化すると、pHによる表示では2.64から10.42に変化するということになり、非常に便利である。
 pHおよび他の数多くの対数による濃度表示では実験測定の精度や計算を正確に行なう意味で、2ケタの対数を用いるのがよい。この理由と暗算が速くて便利という理由から2ケタの対数表を覚えこんでしまうことをすすめる。これは厄介に思えるが、2、3、7の対数を3ケタまで知っていれば、あとの対数はすぐ導くことができる。
 つまり log2.0=0.301、log3.0=0.477、log7.0=0.845
を覚えておけばlog5.0=log10−log2.0=0.70、log6.0=log3.0+log2.0=0.78、log9.0=2log3=0.95となる。』



戻る