島(1998)による〔『隕石−宇宙からの贈りもの−』(11-15p)から〕


3 隕石はこれまでどのくらい落下しているのだろうか?−落下頻度−
 それでは隕石はこの地球にどのくらいやってくるのでしょうか。はじめに記した通り、1984年から1996年のつくば隕石の落下まで、日本では12年間に7件の隕石落下がありました。これから見ると日本程度の面積のところで、2年に1回くらいの割合で隕石が落下しているようです。ところが、日本では青森隕石の落下以前には25年半の間、隕石落下は報告されていないのです。フランスでは、1959年から1966年まで3件の落下があった後、ドイツでは1962年のキール隕石の落下以来約30年間、隕石が落下したという報告はありません。地球全体でみても、1976年のように19件も報告された年もあれば、1987年のように2件しか報告されていない年もあります。1950年以降の落下件数を平均してみますと、だいたい1年に約10件内外となります。このように、報告されている隕石の落下件数はそれほど多くなく、しかも不均一で、落下し始めるとなぜか連続して比較的近いところに落下する傾向があるようにみえます。これは一例として表1に示した日本に落下した隕石の一覧表を見ても明らかです。

表1 日本に落下した隕石一覧
隕石の名前* 種類** 落下年月日 落下地 回収全重量(kg)***
1 直方 L6 861.5.19 福岡県直方市 0.472(1)
2 南野 L 1632.9.27 愛知県名古屋市南区 1.04(1)
3 笹ケ瀬 H 1688.2.13 静岡県浜松市笹ケ瀬町 0.695(1)
4 小城 H6 1741.7.8 佐賀県小城郡小城町 14.36(4)
5 八王子 H? 1817.12.29 東京都八王子市 ?(多数)
6 米納津 H4〜5 1837.7.14 新潟県西蒲原郡吉田町 31.65(1)
7 気仙 H4 1850.6.12 岩手県陸前高田市気仙町 135(1)
8 曽根 H5 1866.6.7 京都府船井郡丹波町 17.1(1)
9 大富 H 1867.5.24 山形県東根市 6.51(1)
10 竹内 H5 1880.2.18 兵庫県朝来郡和田山町 0.72(1+1?)
11 福富 L4〜5 1882.3.19 佐賀県杵島郡福富町 16.75(3)
12 薩摩 L6 1886.10.26 鹿児島県大口市および伊佐郡 46.5以上(10以上)
13 仁保 H3〜4 1897.8.8 山口県山口市仁保 0.467(3)
14 東公園 H5 1897.8.11 福岡県福岡市東公園 0.75(1)
15 仙北 H6 1900年以前 秋田県仙北郡仙北町 0.866(1)
16 神崎 H 1905年以前発見? 佐賀県神崎郡 0.124(1)
17 木島 E6 1906.6.15 長崎県飯山市木島 0.331(2)
18 美濃 L6 1909.7.24 岐阜県岐阜市、美濃市、関市、武儀郡、山県郡 14.29(29)
19 羽島 H4 1910年ころ 岐阜県羽島市 1.11(1)
20 神大実 H5 1915年ころ 茨城県岩井市 0.448(1)
21 富田 L 1916.4.13 岡山県倉敷市玉島 0.60(1)
22 田根 L5 1918.1.25 滋賀県東浅井郡浅井町および湖北町 0.906(2)
23 櫛池 1920.9.16 新潟県中頸城郡清里村 4.50(1)
24 白岩 H4 1920年発見 秋田県仙北郡角館町 0.95(1)
25 長井 L6 1922.5.30 山形県長井市 1.81(1)
26 沼貝 H4 1925.9.5 北海道美唄市光珠内町 0.36(1)
27 笠松 H 1938.3.31 岐阜県羽島郡笠松町 0.71(1)
28 岡部 H5 1958.11.26 埼玉県大里郡岡部町 0.194(1)
29 芝山 L6 1969年発見 千葉県山武郡芝山町 0.235(1)
30 青森 L6 1984.6.30 青森県青森市松森 0.320(1)
31 富谷 H4〜5 1984.8.22 宮城県黒川郡富谷町 0.0275(2)
32 国分寺 L6 1986.7.29 香川県綾歌郡国分寺町および坂出市 11.51(13)
33 田原 H5 1991.3.26 愛知県渥美郡田原町 10以上(1)
34 美保関 L6 1992.12.10 島根県八束郡美保関町 6.385(1)
35 根上 L6 1995.2.18 石川県能美郡根上町 約0.42(1)
36 つくば H5〜6 1996.1.7 茨城県つくば市、牛久市、土浦市、稲敷郡茎崎町 約0.8(23)
1 福江 M. OctH 1849.1. 長崎県福江市 0.008(1)
2 田上 IIIE 1885年発見 滋賀県大津市田上山 170(1)
3 白萩 IVA 1890年発見 富山県中新川郡上市町 33.61(2)
4 岡野 IIA 1904.4.7 兵庫県多紀郡市篠山町 4.74(1)
5 天童 IIIA 1910年発見 山形県天童市 10.1(1)
6 坂内 Hex? 1913年発見 岐阜県揖斐郡坂内村 4.18(1)
7 駒込 1926.4.18 東京都文京区本駒込 0.238(1)
8 玖珂 IIIB 1938年発見 山口県玖珂郡周東町 5.6(1)
1 在所 Pal 1898.2.1 高知県香美郡香北町 0.33(1)
* 上段の1〜36は石質隕石、中段の1〜8は鉄隕石、下段の一つは石鉄隕石。
** 鉄隕石の種類の略号、M. OctH; medium octahedrite、Hex; hexahedriteは結晶構造による分類法、その他は現在用いられている化学的な分類法により分類が行われているので、それを記載した(第3章参照)。
*** ( )内の数字は落下隕石個数を表す。

 以上は落下し、それを私たちが回収することができた隕石についての統計ですが、実際には隕石が地球上に落下したからといって必ず全部が回収されているわけではありません。地球表面の三分の二以上は海洋です。いったん海に落下した隕石は、たとえそれが瀬戸内海のような内海であったとしても、これまでに回収に成功したことはないといっても過言ではありません。陸地にも高山あり、砂漠あり、熱帯樹林などの森林地帯あり、あるいは北極、南極圏近辺の凍土の地帯ありということで、人間が住めない場所、人口密度の非常に低い場所が非常に多いのです。たとえ人口密集地帯であっても、青森隕石、美保関隕石、根上隕石のように人家や車にぶつからなければ、隕石が落下したことは知られずに終わっていたというものも数多くあるでしょう。こうしてみますと、実際に地球上に落下してくる隕石は、年平均10件よりはずっと多いことになります。仮に私たちが落下を目撃し、回収できる隕石は、落下してくる隕石の1パーセント程度と推定しますと、1年間に落下してくる隕石の件数は1千件、0.1パーセント程度と推定しますと1万件ということになります。実際に地球に落下してくる隕石の光跡を調べてどのくらい落下してくるのかを調べている研究者もいます。しかし、これとて一地域のある期間の値をもとに計算された推定値ですので、それほど確実なものであるとはいえません。地球の表面積は約5億平方キロメートルですから、もし、年平均約1千〜1万件の隕石落下があるとすると、日本全土に3年間に2件程度の隕石落下があってもよいということになります。

 4 全世界の隕石回収状況
 わが国でこれまでに落下が目撃され、回収されてきた隕石、あるいは落下しているのが発見され保管されてきた隕石は表1に記した通りで、全部で45件あります。この数は少ないようにもみえますが、世界の他の諸国と比べるとどうなのでしょうか。表2にいくつかの国の落下回収状況をそれらの国の面積ごとに統計をとり、百万平方キロメートル当たりの落下隕石回収件数で表したもの示しました。これは、1992年までのA・グラハムらのイギリス大英博物館発行の隕石カタログに記載されている統計値に1995年までに国際隕石学会に報告された隕石を加えたものを、理科年表記載の各国の面積で割ったものです。図5(略)に表2の中で面積が10万平方キロメートル以上の国のデータを示しました。表2および図5からわかるように、日本における隕石回収率は、全体数の比率では、最も高いグループに属します。落下目撃隕石と発見された隕石の比率、すなわち、落下目撃隕石が多く発見されたものが少ないという傾向は、ヨーロッパ各国やインドなど古くから文化の発達した国と似ていますが、アメリカ合衆国やオーストラリアとは全く異なっています。これは後者の国々が過去の隕石落下目撃の機会は逸してしまったけれども、近年隕石発掘に力を入れていること、またこれらの国の人たちが基礎科学の発展に協力を惜しまないという姿勢の現れと考えられます。ちなみに、アメリカ合衆国カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJ・ワッソン教授が、隕石は学術的に貴重な資料なので隕石を拾って持っている人は提供して下さいという新聞広告を出したところ、たくさんの申し出があって、すべて寄贈されたということです。ここでも日本人との意識の大きな違いに気づかされます。

表2 各国における106km2当たりの隕石回収件数*

国名

面積
(103km2)

落下目撃
隕石**

発見隕石**

合計**
日本 378 92.6 26.5 119.1
中国 9597 5.4 3.5 9.0
インド 3288 34.1 2.1 36.2
パキスタン 796 18.8 18.8
バングラデシュ 144 55.6 55.6
インドネシア 1905 8.9 0.5 9.4
アメリカ合衆国 9809 13.3 90.1 103.4
カナダ 9976 1.2 3.7 4.9
メキシコ 1958 7.7 35.8 43.5
ブラジル 8512 2.6 3.2 5.8
オーストラリア 7713 1.7 57.3 59.0
ニュージーランド 271 3.7 25.8 29.5
英国 244 86.1 4.1 90.2
ベルギー 31 129.0 129.0
オランダ 41 97.6 97.6
デンマーク 43 69.8 46.5 116.3
スウェーデン 450 20.0 11.1 31.1
フランス 552 108.7 9.1 117.8
ドイツ 357 84.0 42.0 126.0
スイス 41 97.6 73.2 170.8
オーストリア 84 47.6 23.8 71.4
イタリア 301 93.0 10.0 103.0
スペイン 505 43.6 5.9 49.5
ハンガリー 93 53.8 10.8 64.6
エジプト 1001 2.0 7.0 9.0
南アフリカ 1221 16.4 18.8 35.2
* 各国の陸地面積と各国で回収された隕石回収件数のデータはそれぞれ理科年表(1996年版)とA.Grahamらの隕石カタログ(1992年版)に1995年までに国際隕石学会に登録された件数を加えた。この場合、たとえば隕石雨では、複数個、時には何百個も何千個も回収されるがこれも1件と数えてある。このため、南極隕石や砂漠で回収された隕石の数は基準が異なり、比較の対象とはならないので除いた。
** 隕石回収件数から隕石カタログに疑わしいと記されているものは除いた。

 表3には19世紀までに落下が記録されている隕石の数を示しました。これも大英博物館発行の世界の隕石カタログのデータから求めたものです。表3によりますと、日本はその陸地面積が全世界の0.28パーセントにすぎないにもかかわらず、9世紀から18世紀以前に落下し、しかもそれが保存されている隕石の数は断然多く、その割合は10パーセントを超えています。19世紀に落下が目撃され、または発見されて、保管された隕石を加えてもその割合は全体の2.8パーセント、世界の陸地面積から考えた平均値の実に10倍にも達します。特に、861年5月19日(貞観3年4月7日)に福岡県直方市に落下し、須賀神社に社宝として保管されてきた直方隕石(写真8:略)は、15世紀以前に落下し現存する世界唯一の落下目撃隕石なのです。これまで世界最古の落下目撃隕石と信じられてきたエンシスハイム隕石より、実に600年以上も前に落下した隕石の落下状況が記録され、その隕石がきちんと保管されていたということになります。さらに興味深いことは、18世紀以前に確認され、保管されている隕石のうち、わが国のものはすべて落下目撃球粒隕石であるのに対し、外国のものには、発見された鉄隕石が多いということです。ただイタリアは、わが国と傾向が似ており、残念ながら保管されてはいませんが、確実に隕石であったと考えられるものがいくつかあります。わが国でも、大英博物館の隕石カタログにこそ記載されてはいませんが、すでに舒明天皇9年(西暦637年)から大流星の記録が残されています。このうちのいくつかは隕石であった可能性も考えられます。このような記録は、古い歴史をもつ中国などにも数多く残されています。

表3 19世紀以前に落下などが記録された隕石*
年代 総数 疑問** 試料なし*** 確実*4 本邦落下*5
15世紀以前 28 26 1(100)
15〜16世紀 24 18 0( 0 )
17世紀 27 14 2( 50)
18世紀 50 11 30 1( 3.3)
19世紀 717 28 51 638 15( 2.4)
* データはGrahamらの隕石カタログから採用した。
** 記録自体が疑わしいもの。
*** 記録は確からしいが、保管されていないので隕石と確認ができないもの。
*4 隕石が保管され確認されたもの。
*5 ( )内の数字は全世界の確認隕石に対する割合(%)。



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