小沼(1987)による〔『宇宙化学』(7-14p)から〕
『1 隕石の種類とコンドライトの重要性
1.1 隕石の簡単な分類
隕石は主としてニッケル鉄合金である金属相とカンラン石、輝石、斜長石などのケイ酸塩鉱物からできている。そして金属相とケイ酸塩の占める割合に基づいて次の3種に大別されている。
鉄隕石(Iron Meteorite)……………主としてニッケル鉄合金からできている。
石鉄隕石(Stony-Iron Meteorite)…ニッケル鉄合金とケイ酸塩をほぼ等量含んでいる。
石質隕石(Stone Meteorite)………主としてケイ酸塩鉱物からできている。
石質隕石はコンドリュール(Chondrule、ギリシャ語の穀粒を意味するコンドロスにちなんで名付けられた)と呼ばれる直径数mmの丸い粒を含んでいるものと、含まないものとにわけられ、コンドリュールを含むものはコンドライト(Chondrite)、含まないものはエイコンドライト(Achondrite)と呼ばれている。
石質隕石(Stone Meteorite) |
コンドライト(Chondrite) |
エイコンドライト(Achondrite) |
これら4種の隕石は、その鉱物組成および化学組成に基づいて、さらに細かく分類されている。これを図1.1(略)に示した。次にこの図にしたがってもう少し詳しく紹介しよう。
1.2 鉄隕石
鉄隕石は少量のトロイライト(Troilite)と呼ばれる硫化鉄鉱物(FeS)を含むが、大部分はニッケル鉄合金でできている。このニッケル鉄合金のニッケル含有量によって鉄隕石は3つに細分化れている。まずニッケル含有量が4〜6%のものは、カマサイト(kamacite)と呼ばれる体心立方の相だけからなり、六面体方向にヘキ開があるので、このような鉄隕石はヘキサヘドライト(Hexahedrite)と呼ばれている(写真1.1参照:略)。ニッケル含有量が6〜13%のものは、α相(カマサイト)とテーナイト(Taenite)と呼ばれる面心立方のγ相からなっている。この場合はα相とγ相がいりまじってウィドマンシュテッテン(Widmanstatten)構造をなし、α相は薄板となって八面体方向に平行に並んでいるので、このような鉄隕石はオクタヘドライト(Octahedrite)と呼ばれている(写真1.2参照:略)。ニッケル含有量が13%以上のものは。極めて細かなα相とγ相の集合体(プレッサイト、Plessite)か、またはα2相(マルテンサイト、Martensite)になり、ニッケルに富むアタキサイト(Ataxite)と呼ばれている(写真1.3参照:略)。これらの鉄隕石は、まとめて図1.1の上段に図示してある。
1.3 石鉄隕石
ニッケル鉄合金とケイ酸塩鉱物のほぼ等量混合物である石鉄隕石は、ケイ酸塩鉱物の種類に準じて2つに細分化されている。ケイ酸塩鉱物としてカンラン石[(Mg,Fe)2SiO4]を含むものはパラサイト(Pallasite)と呼ばれ(写真1.4参照:略)、斜方輝石[(Mg,Fe)SiO3]と斜長石[NaAlSi3O8−CaAl2Si2O8]を含むものはメソシデライト(Mesosiderite)と呼ばれている(写真1.5参照:略)。
石鉄隕石のなかには、この他に斜方輝石とトリディマイト(SiO2)とニッケル鉄合金を含むシデロファイア(Siderophyre)と呼ばれるものと、斜方輝石とカンラン石とニッケル鉄合金を含むロードラナイト(Lodranite)と呼ばれるものがあるが、いずれもただ1個だけ知られているにすぎないので、石鉄隕石についてはパラサイトとメソシデライトについてだけ図1.1の中上段に図示した。
1.4 コンドライト
コンドライトの主要な構成鉱物は、金属相(Ni-Fe)、トロイライト(FeS)、およびケイ酸塩鉱物(カンラン石、斜方輝石)である。そしてコンドライトの20〜30%を占める鉄は、これらの鉱物にふりわけられている。金属相が多いものはケイ酸塩鉱物中の鉄含有量が少なく、金属相が少ないものは逆にケイ酸塩鉱物中の鉄含有量が多い。この関係が図1.1の下段に図示されている。ここで主要なケイ酸塩鉱物のうち、特に斜方輝石[(Mg,Fe)SiO3]の鉄含有量に注目してみよう。もしFe/Fe+Mg比が0.10以下であれば、その斜方輝石はエンスタタイト(Enstatite)と呼ばれている。もしこの比が0.10〜0.20であればブロンザイト(Bronzite)と呼ばれ、0.20以上であればハイパーシン(Hypersthene)と呼ばれる。そこで、エンスタタイトを含むコンドライトはエンスタタイト・コンドライト(Enstatite
Chondrite)、ブロンザイトを含むコンドライトはブロンザイト・コンドライト(Bronzite Chondrite)、ハイパーシンを含むコンドライトはハイパーシン・コンドライト(Hypersthene
Chondrite)と名付けられた。エンスタタイト・コンドライトは、極度に還元された状態を示しているものであり、ほとんどの鉄は金属相とトロイライトに存在し、ケイ酸塩には存在しないので、エンスタタイト[MgSiO3]が出現する。もう一つの極端な場合、すなわち極端に酸化された状態を示すものに炭素質コンドライト(Carbonaceous
Chondrite)と呼ばれているものがある。このコンドライトでは、ほとんどの鉄はFe2+としてケイ酸塩(主として蛇紋石、Mg4Fe2Si4O10(OH)8のような含水鉱物)に存在し、金属鉄はほとんど存在しない。しかも鉄の一部はFe3+となって磁鉄鉱(Fe3O4)をも形成している。さらに、水や炭化水素などの有機物を多く含んでいるので、炭素質コンドライトと名付けられている。ハイパーシン・コンドライトと炭素質コンドライトの中間に位置しているものはアンホテライト(Amphoterite)と呼ばれている。両極端を占めるエンスタタイト・コンドライトと炭素質コンドライトはきわめてまれなものであり、現在までに合計53個が知られているにすぎない。この2つのコンドライトにかこまれた中間的性質を示す3つのコンドライトは、ごくありふれたものなので、まとめて普通コンドライト(Ordinary
Chondrite)と呼ばれている。
1.5 エイコンドライト
コンドリュールを含まない石質隕石であるエイコンドライトは、組織と構造も、鉱物組成も、地球上の岩石によく似ている。エイコンドライトは、まずカルシウムに乏しいエイコンドライト(Ca-poor
Achondrite)とカルシウムに富むエイコンドライト(Ca-rich Achondrite)に大分けされている。カルシウムに富むエイコンドライトは地球上の玄武岩質岩石に似ているので、玄武岩質エイコンドライト(Basaltic
Achondrite)と呼ばれることもある。そしてこの2つのグループはその鉱物組成に準じて次のように細分されている。
(i)カルシウムに乏しいエイコンドライト(Ca-poor Achondrite)
(a)オーブライト(Aubrite)………Mgに富む斜方輝石エンスタタイトからなる。
(b)ユレーライト(Ureilite)………カンラン石、Caに乏しい単斜輝石、Ni-Feからなる(ダイヤモンドが発見された)。
(c)ディオジェナイト(Diogenite)…Feに富む斜方輝石ハイパーシンからなる。
(ii)カルシウムに富むエイコンドライト(Ca-rich Achondrite)
(d)ハワーダイト(Howardite)……斜方輝石と斜長石からなる。
(e)ユークライト(Eucrite)………ピジョナイトと呼ばれる単斜輝石と斜長石からなる。
(f)ナクライト(Nakhlite)…………Caに富む単斜輝石とカンラン石からなる。
これらのエイコンドライトをまとめて図1.1の中下段に図示した。この図にはあげなかったけれども、エイコンドライトにはこのほかにカルシウムに乏しいエイコンドライトに属するものでカンラン石からなるカスグナイト(Chassignite)、カルシウムに富むエイコンドライトに属するもので単斜輝石からなる紫色のアングライト(Angrite)と呼ばれているものがあるが、それぞれこれまでに1個知られているだけである。なお代表的なエイコンドライトを2個、写真1.6、1.7(略)に示した。
さて、大分けされたこれらの4種の隕石は等しく重要なのであろうか? 見方を変えていえば、これらの隕石のグループのうち、最も始原的なものはどのグループに属するものであろうか?
1.6 コンドライトの重要性
大分けされた4種の隕石、鉄隕石、石鉄隕石、コンドライト、エイコンドライトもうち、コンドライトを特徴づけているのは小さな粒、コンドリュールの存在である。代表的なコンドライトを写真1.8(略)に示した。コンドリュールも、またコンドリュールとコンドリュールの間を占めている部分(マトリックス)も、どちらも主としてケイ酸塩鉱物からできている。このような奇妙な構造はコンドライトだけに特有なもので、地球上の岩石、たとえば火成岩、変成岩、堆積岩などの岩石にはこのような構造をもっているものは知られていない。したがって、この奇妙な構造は地球上ではなかったような何かエキゾチックな過程で生じたことを暗示しているのである。とはいっても、コンドリュールを含んでいるか含んでいないかなどという組織構造上の特徴などは、成因的に見た場合にはたいして重要ではないと云われるかも知れない。しかしながら、コンドライトにはこの奇妙な構造のほかに次のような2つの著しい特徴をもっているのである。
まず第1に、コンドライトは地球上に落下してくる数が非常に多い。落下を目撃されている隕石のうち、6%は鉄隕石、2%は石鉄隕石、8%はエイコンドライトであるが、コンドライトは実に84%という圧倒的多数を占める。
第2に、コンドライトの主要な不揮発性成分であるケイ素、マグネシウム、鉄、アルミニウムなどの含有量はほぼ一定であり、かつ太陽大気のそれと一致している。
一方、鉄隕石、石鉄隕石、エイコンドライトの3種の隕石は、コンドライトのような物質からいろいろな二次的過程を経て分化形成されたと考えられる。たとえばコンドライトのような物質を部分溶融させたと考えると、鉄隕石に相当する金属の層と2つのケイ酸塩の層に分れるであろう。カルシウムやアルミニウムを濃縮した低温でも融けてしまう部分はカルシウムに富むエイコンドライトに対応し、マグネシウムを濃縮した高温でしか融けない残留物みたいなものはカルシウムに乏しいエイコンドライトに対応するかも知れない。さらに酸化還元状態を考慮に入れると、高度に還元的な状態の場合は鉄はほとんど金属となり、ニッケルに乏しい金属相(ヘキサヘドライト)と鉄をもとんど含まないケイ酸塩(オーブライト)が形成されるかも知れない。酸化的な状態であれば、多分ニッケルに富む鉄合金と鉄に富むケイ酸塩が生じるであろう。
コンドライトがもっているこの2つの特徴は、コンドライトこそが始原的な物質であることを強く示唆している。コンドライトは隕石成因論、ひいては惑星成因論の中心に位置しているものなのであり、他の3種の隕石は二次的な意義をもっているにすぎない。はっきり云えば、原始太陽星雲から塵が生じて集積固結する時期の情報を得ようとするときはコンドライトに主役を演じていただかなくてはならないし、塵が固結生長して母天体を形成し、その内部で化学的な分化が起った時期の情報を得ようとする場合は、鉄隕石やエイコンドライトが主役として脚光をあびるであろう。事実、月の岩石がカルシウムに富むエイコンドライトに似ていることが判明した現在では、これまでどちらかといえば冷たくあしらわれていたエイコンドライトが改めて見直され、月の岩石とエイコンドライトの比較研究が開始されたのである。
したがって、隕石の起源をも考慮に入れた最も簡単な隕石の分類というのは、コンドライトと非コンドライトに分けることである。
(1)コンドライト(Chondrite)…………コンドリュールを含むもの
(2)非コンドライト(Non Chondrite)…コンドリュールを含まないもの(鉄隕石、石鉄隕石、エイコンドライト)
本書では、隕石のなかでも最も始原的なコンドライトについての考察に焦点をしぼって原始太陽系で起った出来事を再現することに努めることとし、鉄隕石、石鉄隕石、エイコンドライトなどの非コンドライト隕石についての考察は、必要な場合を除いては思いきって切り捨てることにしよう。』
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