兼岡(1998)による〔『年代測定概論』(209p)から〕


地球の年代の意味

 地球の年代は約4,500Ma(注:45億年前)といわれるが、それは何を意味するのだろうか。7.2節でも紹介したように、地球物質そのもので直接そのような年代を示すものはない。パターソンが隕石を用いて45億年に相当する207Pb−206Pbアイソクロンを引き、その上に地球の大洋底堆積物と玄武岩がのることから地球も隕石と同じ年代に形成されたと考察した際には、用いた堆積物および玄武岩がそれぞれ地殻とマントルを代表すると考えた(Patterson、1956)。しかしその後の分析で、堆積物や玄武岩などには地域差があって当初考えられたようなアイソクロンにのるとは限らないことが明らかになり、この理論は成立しなくなった。また鉛鉱床やコンフォーマブル鉛(3.4節参照)と呼ばれる特殊な鉛試料を用いて、それらの生成年代を求めておいて地球形成時の年代を求めるということも試みられた。しかしコンフォーマブル鉛の地学的な意味づけが必ずしもはっきりせず、それらの年代算出の際の仮定も少なくないので、現在ではあまり議論の対象とされていない。地球の年代は、現在では、月と最古の岩や始源的な隕石の年代がいずれも約4,500〜4,560Maに集中すること、消滅核種やPb同位体比を用いて推定した各隕石の形成年代の差は数千万年の範囲におさまること、惑星形成論などからも各惑星間の形成年代の差としても数千万年を越えるような大きな年代差は予想できないことなどを根拠として推定された値である。
 たとえばアレグレらは、海嶺玄武岩の鉛同位体比と地球形成時の鉛同位体比として鉄隕石のキャニオン・ディアブロの値を用いて鉛の成長モデルを仮定したPb-Pbモデル年代を算出し、地球の年代の最大値は約4.45Gaであると見積った(Allegre et al.、1995)。この場合の年代とは、地球内部においてU/Pb比に関して大きな分化が生じた時期、すなわち核の生成に相当する。さらに彼らは、消滅核種である129I(注:質量数129のヨウ素)から由来したと考えられる大気中における129Xeの量を用いて、ビュルビエール隕石の形成年代から108年後に地球が大気を保持するようになったと推定した。ビュルビエール隕石の年代を4,560Maとすると、この値は4,460±20Maに相当する。これらから、地球では4,450Ma頃に核の形成とそれに伴う大気を形成する地球内部からの大量の脱ガスが起こったというのが彼らの解釈である。これらは地球の生成年代に関してのモデル年代であり、そのモデルの前提が異なればその細かい数値なども変わる。しかしながら前述したような各種の情報を考慮すると、地球形成に関してのさまざまな過程がほぼ4,500Ma頃に起こっていたと考えておいて差し支えない。このように、地球の年代というのはその内容によっても意味が異なる。』



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