兼岡(1989)による〔『地球化学』(40-43p)から〕


2.2.1 年代から見た地殻・マントルの進化

 地球がほぼ現在のような形になったのは、今から約45.6億年くらい前であったということが、次のようなことから推定されている。1)隕鉄中に含まれるトロイライトはほとんどUやThを含んでいない。このトロイライト中に含まれる鉛同位体比が地球生成時のものであると仮定し、地球における大規模な鉛鉱床の鉛同位体比および鉱床生成年代を用いて、地球が形成された年代を推定すると約45.6億年になる。2)隕石や月の岩など、地球型惑星を構成している始源的物質の年代は、いずれも45.6億年前後に集中。3)惑星形成に関する理論的計算などからも、少なくとも隕石の母天体や月などと地球の形成時に数千万年以上の大きな差があったことは考えにくい。
 地球内部での核とマントルの分離の時期は、必ずしもはっきりしていない。しかし約38億年前に形成されたグリーンランドの変成岩などが当時においても地球磁場の存在を示し、現在の地球磁場起源論の有力な理論であるダイナモ理論からはその磁場発生のために流体核の存在を必要とするので、38億年以前から核が存在していたことは確からしい。また海嶺玄武岩中のガラス部分に含まれる希ガス同位体比中の40Ar/36Ar比や、129Xe/130Xe比などと大気中の希ガス同位体比の比較などから、現在の大気の大部分は少なくとも約40億年前より前に地球内部から脱ガスして生成されたことが推定されている。その脱ガスを生じた大規模な地球での現象が、マントルと核の分離であった可能性がある。また地球形成に関する理論的な面からも、マントルと核の分離は地球史全体から見ればほとんどその形成時に近いころに生じたであろうことが予想されている。これらのことから、結局マントルと核の分離は地球形成後かなり早い時期に起こったことが推定されるが、その詳細な年代についての直接的な証拠はない。
 地球上で生じた現象の年代は、地殻を構成している岩石や鉱物の年代測定に基づいている。地球上の各大陸の中心部付近は、20〜30億年の形成年代をもつ岩石などで構成され、現在は非活動的な楯状地として知られている。これらの岩石の中でも古いものは35億年前後の年代を示す。現在地表に露出していて岩体として確認されている岩石中で、もっとも古い年代を示すのは、西グリーンランドのGodthaab、Isua地域などで見いだされた片麻岩や堆積岩で、その年代は約38億年である。図2.8(略)にその測定結果を示す。この地域の試料に対しては、Rb-Sr、Sm-Nd、Pb-Pb法など各種の年代測定法(6.3参照)を用いて年代が決定され、いずれも測定精度内で同様の値を示すので年代値に対する信頼性は高い。また堆積岩がこのころにすでに存在していることは、38億年前には海洋が存在していたことを強く示唆している(1.3.2参照)。
 さらに年代値のみに注目すると、西オーストラリア、Mt. Narryer地域の変成を受けた堆積岩から採取されたジルコン粒に対して、41〜42億年の年代値が報告されている(Froudeほか、1983)。ジルコンはフェルシックな火成岩に含まれ、風化作用などにも強い鉱物なので、41〜42億年前にはすでに大陸地殻的な部分が地球上に生成していたことを意味している。すなわちこのころには、少なくとも地球表面の一部は固結しており、地球表面全体が溶けてはいなかったということができる。
 現在地球上に露出している岩石は、ほとんどが地殻の構成物である。それらについての年代測定された結果を見ると、約27億年前後、約16億年前後などのように、年代データが他の時期より明らかに集中する時期がある。それらの時期が、例えば北アメリカ大陸とアフリカ大陸で同じような時期であることも指摘されている。これらがはたして地球全域で同じか否かは現時点では結論できない。しかし地殻の表面の活動が、あるリズムをもっている可能性が示唆される。
 マントル全体の形成年代の直接的な推定はかなり困難である。上部マントルを構成していたと考えられる超マフィック捕獲岩などを鉱物分離して年代測定をすることにより、10〜30億年にわたる年代値が報告されている。またダイヤモンド中の包有物を用いて年代測定を行い、約30億年以上という値も報告されている(Richardsonほか、1984)。このことは、これらの鉱物・岩石を含んでいた部分では、元素・同位体に関して鉱物程度のスケールでも出入りが起こらなかった環境(閉鎖系)であったことを意味する。これらの試料はいずれも大陸を含むリソスフェア内に含まれていたと推定される。もしこれらの試料が、より深部のアセノスフェアなどマントル対流が直接関与している部分におかれているならば、マントル対流の速度(数cm/y程度)やその場の温度・圧力条件などから、元素・同位体に関して30億年も閉鎖系の条件を保つことは難しい。すなわち、これらの試料がおかれていたリソスフェアの部分は少なくとも30億年前に形成された後、それより深いマントルへの大規模な物質移動は起こしていなかったことを示唆している。』



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