『8.断裂
8.1 断裂とは
地表に露出する地質体は、大小さまざまな割れ目によって分断されているが、この分断されている面を断裂(だんれつ)(fracture)とよぶ。断裂には、節理(せつり)(joint)・断層(だんそう)(fault)・裂か(れっか)(fissure)がある。節理は変位のないもの、断層は破断面に沿って両側の地質体に変位が見られるもの、裂かは破断面が開裂(かいれつ)したものである。
断裂は、地質体に破壊強度(failure strength)以上の応力(stress)がかかった場合に形成される。地質体の周囲から等方的で一様な応力がかかった状態を静水圧(せいすいあつ)(hydrostatic
pressure)、あるいは静岩圧(せいがんあつ)(lithostatic pressure)状態にあるという。海底にある地質体には、水深10
mにつき約1気圧(1,000 hPa)の割合で増加する静水圧がかかっている。地質体に海水がしみこまないよう覆われていれば、そのおおいには静水圧がかかり、潜水艇の耐圧球のように充分な強度をもたなければ押しつぶされてしまう。深海底の地質体が押しつぶされないのは、地質体の中にしみこんでいる海水が中から同じ圧力で支えているからである。気体は圧力に反比例してその体積を減じるのにたいし、液体はほとんど体積を減少しないことがこの差になっている。地下の地質体については、その上にのっている地質体の重さが周囲からの静岩圧として働く。地下の地質体には空隙があり、地下水で満たされており、地下の地質体に働く静岩圧の一部として地下水の静水圧も加わる。
地表は地質体が大気と接しているところであり、静水圧や静岩圧に比較してきわめて小さく一様な大気圧に覆われている。地質体が隆起・削剥(さくはく)されて地表に露出すると、静岩圧が急速に失われ、圧縮(compression)状態から引張(ひっぱり)(tension)状態になる。この引張応力場では、地質体に多数の節理が形成される。引張応力が等方的であれば、節理面の方向は地質体の露出面に直交し、引張力が大きければ、断裂面は開裂して裂かとなる。裂かの場合には、その開裂の程度は深度にともなう静岩圧の上昇によって急激に減少する。裂かが大規模に形成されると重力移動を起こす(「9.重力移動」参照)。
地質体が等方でない場合には、地質体の内部構造に関連した節理が形成される。地質体は地球の重力場(gravity field)において形成されるため、水平な面構造が存在する。正常堆積物の層理面はその典型である。破壊強度が面構造に対応して変化するので、層理面に直交する節理が形成される。一般に層理で隔てられる層が厚い場合には、節理の間隔が広くなる(図8.2:略)。
地下のマグマが冷却・固結して形成される火成岩では、固結時に熱収縮(thermal shrink)して地質体内が引張応力場(tensional
stress field)になり、節理が形成される。節理は、冷却面に直交し熱収縮勾配が一様である場合には、亀甲型に節理が形成されて柱状(ちゅうじょう)節理(columnar
joint)になる(図8.3:略)。冷却面からの深さ方向に熱収縮勾配が一様でない場合には、冷却面に平行する板状(ばんじょう)節理(platy
joint)が形成される(図8.4:略)』