周藤・牛来(1997)による〔『地殻・マントル構成物質』(105-111p)から〕


2.3.F-a3 カコウ岩
 カコウ岩はフェルシックな火成岩で最も重要な岩石である。フェルシック鉱物は石英・アルカリ長石・斜長石からなり、おもなマフィック鉱物は黒雲母・白雲母・ホルンブレンドなどで、ときには輝石が、またごくまれにはFeに富むカンラン石がふくまれることがある。これらのうちフェルシック鉱物が80%以上をしめ、マフィック鉱物はわずかしかふくまれない。

鉱物組成による分類
 一般に中性岩である閃緑岩との中間型(石英閃緑岩やカコウ閃緑岩など)も、カコウ岩質岩石とよばれている。これらカコウ岩質岩石をフェルシック鉱物の量比で細分したものを図2.40(略)にしめす。
 広義のカコウ岩(色指数;5〜20)は組成幅が広く、@アルカリ長石(正長石〜マイクロクリン)>斜長石(おもにオリゴクレイス)の狭義のカコウ岩(granite)と、Aアルカリ長石≒斜長石のアダメライト(adamellite)をふくんでいる。
 アダメライトよりも斜長石に富むものがカコウ閃緑岩(granodiorite)で色指数は5〜25である。カコウ閃緑岩よりもさらに斜長石に富み、アルカリ長石をほとんどふくまないのがトーナライト(tonalite)で、色指数は10〜40である。石英に富むものが石英閃緑岩(quartz diorite)で、色指数は25〜40である。これは中性岩に属する。トーナライトと似た岩石でマフィック鉱物にとぼしいもの(色指数;0〜10)をトロニェマイト(trondhjemite)という。以上の岩石の大部分はカルクアルカリ岩系に属する。
 図2.40(略)の底辺付近のもの(石英をほとんどふくまない)でアルカリ長石に富むのが閃長岩であり、アルカリ岩系のフェルシック岩である。これについてはアルカリ岩系のところでのべる(§2.3.F-b参照)。底辺付近のもので、アルカリ長石と斜長石をほぼ当量ふくむものがモンゾナイト(アルカリ岩系の中性岩)である。斜長石がアルカリ長石よりも多くなるとモンゾニ閃緑岩、ほとんど斜長石だけのものが閃緑岩である。石英閃長岩(quartz syenite;§2.3.F-b参照)は、狭義のカコウ岩と閃長岩との中間型で、色指数は5〜30である。石英モンゾナイト(quartz monzonite)はアダメライトとモンゾナイトの中間的な岩石で、色指数は10〜35である。石英閃緑岩はトーナライトと閃緑岩の中間的な岩石で、これらはカルクアルカリ岩系の中性岩である。
 なお斜長石をほとんどふくまないものに、アルカリカコウ岩・石英アルカリ閃長岩・アルカリ閃長岩などのアルカリ岩系のフェルシック岩があるが、日本にはほとんどみられない。

 カコウ岩質岩石の一種として、ほとんどマフィック鉱物をふくまないアラスカイト(alaskite)、それとほぼ同質で細粒・緻密な半カコウ岩(aplite)、著しく粗粒なカコウ岩ペグマタイト(granitic pegmatite)などがある。なおペグマタイトという名称は組成に関係なく、著しく粗粒な火成岩に使用されている。
 また高圧型のカコウ岩質岩石としては、シャーノカイト(charnockite)がある。これはマフィック鉱物がMg・Alに富むザクロ石(パイロープ)や輝石によって特徴づけられるもので、おもに始生代や原生代の造山帯にみられる。

化学組成による分類
 1970年代以降、おもに化学組成にもとづき、成因的要素を加味したカコウ岩質岩石の分類や、鉄鉱鉱物の量比による分類が提案されている。Iタイプカコウ岩(I type granite; igneous source type granite)・Sタイプカコウ岩(S type granite; sedimentary source type granite)・Aタイプカコウ岩(A type granite; anorogenic type granite)・Mタイプカコウ岩(M type granite; mantle source type granite)の区分*1や、マグネタイト系カコウ岩(magnetite-series granitoid)とイルメナイト系カコウ岩(ilmenite-series granitoid)の区分*2がそれである。
*1 Iタイプ・Sタイプカコウ岩はChappell and White(1974)・White and Chappell(1977,1983)、Aタイプカコウ岩はLoiselle and Wones(1979)、Mタイプカコウ岩はWhite(1979)によって提唱された。
*2 Ishihara(1977,1981)によって提唱された。

アルミナ飽和度
 まずはじめの分類の重要な基準の1つとなっているアルミナ飽和度(degree of alumina-saturation)についてふれておく。長石は火成岩にほぼ普遍的にふくまれているので、重要な造岩鉱物である。火成岩のAl
2O3の大部分は長石にふくまれている。長石の化学組成の特徴から、長石における(Na2O+K2O+CaO)/Al2O3(分子比)は1である。カンラン石・斜方輝石・マグネタイトなどには、これらの酸化物はほとんどふくまれないので、火成岩ではこの比が1から著しくちがっているものは多くない。したがって、この比の大きさに影響を与えるのは、(Na2O+K2O)、CaOあるいはAl2O3に富む鉱物がふくまれるときである。たとえばAl2O3に富む白雲母・コランダム・アルマンディン成分に富むザクロ石などが多くふくまれる火成岩では、(Na2O+K2O+CaO)/Al2O3は1よりも小さくなる。このような岩石はパーアルミナス(peraluminous)、この比が1よりも大きい岩石はメタアルミナス(metaluminous)とよばれる。またアルカリに富むマフィック鉱物(たとえばアルカリ角閃石やアルカリに富む輝石)がふくまれるようになると、CaOをのぞいた(Na2O+K2O)/Al2O3が1よりも大きくなる。このような岩石は、パーアルカリック(peralkalic)とよばれる。

 Iタイプ・Sタイプ・Aタイプ・Mタイプカコウ岩の化学組成の比較を表2.9にしめす。
表2.9 カコウ岩の各タイプの平均化学組成
(Whalen et al., 1987)
  I S A M   I S A M
SiO2 69.17 70.27 73.81 67.24 アルミナ
飽和度
1.02 0.85 1.05 1.03
TiO2 0.43 0.48 0.26 0.49 Ba 538 468 352 263
Al2O3 14.33 14.10 12.40 15.18 Rb 151 217 169 17.5
Fe2O3 1.04 0.56 1.24 1.94 Sr 247 120 48 282
FeO 2.29 2.87 1.58 2.35 Zr 151 165 528 108
MnO 0.07 0.06 0.06 0.11 Nb 11 12 37 1.3
MgO 1.42 1.42 0.20 1.73 Y 28 32 75 22
CaO 3.20 2.03 0.75 4.27 Ce 64 64 137 16
Na2O 3.13 2.41 4.07 3.97 Ga 16 17 24.6 15.0
K2O 3.40 3.96 4.65 1.26  
P2O5 0.11 0.15 0.04 0.09
単位:SiO2〜P2O5:重量%;
アルミナ飽和度は(Na
2O+K2O+CaO)/Al2O3で分子比;
Ba〜Ga:ppm;
I・S・A・M:Iタイプ・Sタイプ・Aタイプ・Mタイプカコウ岩

Iタイプカコウ岩
 多くはメタアルミナス(一部パーアルミナス)で、CaOに富むため角閃石や単斜輝石などをふくむ。高いNa2O含有量、低いK2O/Na2Oによっても特徴づけられる。Iタイプカコウ岩はよりマフィックな火成岩と密接な成因関係をもつのにたいして、Sタイプカコウ岩は泥質岩と密接な成因関係をもっているものと推定されている。日本のカコウ岩にはこの両タイプのものがよくみられるが、なかでもIタイプカコウ岩が多い。
Sタイプカコウ岩
 CaOに比べてAl2O3に富むため、多くはパーアルミナスで、Alに富む鉱物をふくんでいる。低いNa2O含有量、高いK2O/Na2Oによっても特徴づけられる。またこのタイプはIタイプカコウ岩よりも高いSrI値をもつ。
Aタイプカコウ岩
 非造山帯(anorogenic belt)にみられるもので、アルカリ長石とCaにとぼしい斜長石を多くふくみ、Feに富む黒雲母・アルカリ角閃石・Naに富む輝石・電気石などをふくむ(§2.3.F-b参照)。アルカリ岩質であるが、パーアルカリックだけでなくメタアルミナス(ごく一部はパーアルミナス)なものもある。Aタイプカコウ岩はIタイプカコウ岩と比較すると(表2.9)、Al2O3・MgO・CaOにとぼしく、(Na2O+K2O)と(Fe2O3+FeO)に富んでいるので、(Na2O+K2O)・Al2O3、(MgO+CaO)/(Fe2O3+FeO)によって、Aタイプ・Iタイプカコウ岩を区別することができる。またAタイプカコウ岩はGa・Zr・Y・Nb・Ce・REE・F・Clに富んでいるので、Iタイプ・Sタイプ・Mタイプカコウ岩から区別される。SrI値は低いものから著しく高いものまである。日本では四国地方の足摺岬などにみられる。
Mタイプカコウ岩
 多くはメタアルミナスである。このタイプのカコウ岩はマントル物質に起源があると考えられているもので、斜長石に富みアルカリ長石にとぼしい。またマフィック鉱物では角閃石に富み、黒雲母にとぼしく、単斜輝石をふくむこともある。化学組成の面では著しく低い(K2O/Na2O)・(K2O/SiO2)、高いCaO/(Na2O+K2O)、低いSrI値で特徴づけられる。Mタイプカコウ岩はパプア・ニューギニアなどの島弧地帯にみられる。日本のカコウ岩のうちではフォッサマグナ南部、丹沢のトーナライト岩体などがMタイプカコウ岩の性質をもっている。Mタイプカコウ岩は、化学組成とSr同位体比の面で島弧火山岩に似ているので、プレートテクトニクスの立場からは、沈みこむ海洋地殻、あるいは島弧下の上部マントル物質の部分溶融によって生成したマグマに由来しているものと考えられている。

マグネタイト系とイルメナイト系カコウ岩
 鉄鉱鉱物(Fe-Ti酸化物)の種類にもとづいて区分されたものである。
マグネタイト系カコウ岩: 約0.1体積%以上の鉄鉱鉱物(おもにマグネタイトからなり、イルメナイト・ヘマタイト・黄鉄鉱などをともなう)をふくみ、スフェーンやリョクレン石などがみられる。
イルメナイト系カコウ岩: 約0.1体積%以下の鉄鉱鉱物(イルメナイト・磁硫鉄鉱)をふくみ、グラファイト・白雲母などが存在する。全岩のFe2O3/FeO(重量%)はマグネタイト系が約0.5以上、イルメナイト系では0.5以下である。黒雲母と角閃石のFe3+/Fe2+は、マグネタイト系では高く、イルメナイト系では低い。
 マグネタイト系とイルメナイト系にみられるこのようなちがいは、カコウ岩を形成したフェルシックマグマの酸素フュガシティー(fO2)のちがいを反映しているものとみられている。すなわちマグネタイト系のマグマではfO2が高く、イルメナイト系のマグマではfO2が低かったと考えられている。またマグネタイト系はイルメナイト系に比べて、SrI値とO同位体比が低く、S同位体比が高い傾向をしめす。これらのことから、イルメナイト系のマグマ生成時には、炭質物をふくむ堆積岩が関係していたのにたいして、マグネタイト系のマグマは、炭質物をふくまない地殻物質の再溶融によって生成されたのではないかと考えられている。北上山地・山陰帯のカコウ岩はマグネタイト系のもので、日高変成帯・阿武隈変成帯・領家変成帯・西南日本外帯のカコウ岩の多くはイルメナイト系のものである。

対応関係
 I・S・A・Mの各タイプカコウ岩とマグネタイト系・イルメナイト系カコウ岩の対応関係はつぎのようである。Sタイプカコウ岩の多くはイルメナイト系にはいり、Aタイプカコウ岩の大部分はマグネタイト系のものである。Iタイプ・Mタイプカコウ岩には、マグネタイト系とイルメナイト系の両者がふくまれる。
 テクトニクス場を異にするカコウ岩質岩石のあいだで、微量元素組成にちがいがみられることから、微量元素組成にもとづくカコウ岩質岩石の地球化学的判別図も提案されている。その一部を図2.41(略)にしめす。

 1950年前後ころに著者のひとり(牛来)は、カコウ岩の成因を推定するための斜長石双晶法(§1.3.B-b参照)を提唱し、それにもとづいてカコウ岩を大別し、I型カコウ岩M型カコウ岩に区別した。前者はそのうちの斜長石双晶の仕方(様式)が、典型的な火成岩のそれと似ているもの(種々の量のC双晶とA双晶をふくむもの)であり、また後者は典型的な変成岩のそれに似ているもの(おもにA双晶からなるもの)である。
 1930年代からこの当時にかけては、カコウ岩の成因をめぐって、大きな論争がなされており、火成論(マグマ起源説)と変成論(カコウ岩化説)が対立していたが、牛来はI型カコウ岩はマグマから固結した火成岩であり、またM型カコウ岩は一種の交代作用(カコウ岩化作用;§4.1.E参照)の産物であると主張した。この研究は1950〜1960年代に内外のカコウ岩研究者から大きな注目をあびたが、1970年代以降、カコウ岩の多くはマグマ起源であるという考えが定着するにつれて、研究者の関心を以前ほどはひかなくなり今日にいたっている。』



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