『2.3.F-a3 カコウ岩
カコウ岩はフェルシックな火成岩で最も重要な岩石である。フェルシック鉱物は石英・アルカリ長石・斜長石からなり、おもなマフィック鉱物は黒雲母・白雲母・ホルンブレンドなどで、ときには輝石が、またごくまれにはFeに富むカンラン石がふくまれることがある。これらのうちフェルシック鉱物が80%以上をしめ、マフィック鉱物はわずかしかふくまれない。
鉱物組成による分類
一般に中性岩である閃緑岩との中間型(石英閃緑岩やカコウ閃緑岩など)も、カコウ岩質岩石とよばれている。これらカコウ岩質岩石をフェルシック鉱物の量比で細分したものを図2.40(略)にしめす。
広義のカコウ岩(色指数;5〜20)は組成幅が広く、@アルカリ長石(正長石〜マイクロクリン)>斜長石(おもにオリゴクレイス)の狭義のカコウ岩(granite)と、Aアルカリ長石≒斜長石のアダメライト(adamellite)をふくんでいる。
アダメライトよりも斜長石に富むものがカコウ閃緑岩(granodiorite)で色指数は5〜25である。カコウ閃緑岩よりもさらに斜長石に富み、アルカリ長石をほとんどふくまないのがトーナライト(tonalite)で、色指数は10〜40である。石英に富むものが石英閃緑岩(quartz
diorite)で、色指数は25〜40である。これは中性岩に属する。トーナライトと似た岩石でマフィック鉱物にとぼしいもの(色指数;0〜10)をトロニェマイト(trondhjemite)という。以上の岩石の大部分はカルクアルカリ岩系に属する。
図2.40(略)の底辺付近のもの(石英をほとんどふくまない)でアルカリ長石に富むのが閃長岩であり、アルカリ岩系のフェルシック岩である。これについてはアルカリ岩系のところでのべる(§2.3.F-b参照)。底辺付近のもので、アルカリ長石と斜長石をほぼ当量ふくむものがモンゾナイト(アルカリ岩系の中性岩)である。斜長石がアルカリ長石よりも多くなるとモンゾニ閃緑岩、ほとんど斜長石だけのものが閃緑岩である。石英閃長岩(quartz
syenite;§2.3.F-b参照)は、狭義のカコウ岩と閃長岩との中間型で、色指数は5〜30である。石英モンゾナイト(quartz
monzonite)はアダメライトとモンゾナイトの中間的な岩石で、色指数は10〜35である。石英閃緑岩はトーナライトと閃緑岩の中間的な岩石で、これらはカルクアルカリ岩系の中性岩である。
なお斜長石をほとんどふくまないものに、アルカリカコウ岩・石英アルカリ閃長岩・アルカリ閃長岩などのアルカリ岩系のフェルシック岩があるが、日本にはほとんどみられない。
カコウ岩質岩石の一種として、ほとんどマフィック鉱物をふくまないアラスカイト(alaskite)、それとほぼ同質で細粒・緻密な半カコウ岩(aplite)、著しく粗粒なカコウ岩ペグマタイト(granitic
pegmatite)などがある。なおペグマタイトという名称は組成に関係なく、著しく粗粒な火成岩に使用されている。
また高圧型のカコウ岩質岩石としては、シャーノカイト(charnockite)がある。これはマフィック鉱物がMg・Alに富むザクロ石(パイロープ)や輝石によって特徴づけられるもので、おもに始生代や原生代の造山帯にみられる。
化学組成による分類
1970年代以降、おもに化学組成にもとづき、成因的要素を加味したカコウ岩質岩石の分類や、鉄鉱鉱物の量比による分類が提案されている。Iタイプカコウ岩(I
type granite; igneous source type granite)・Sタイプカコウ岩(S type granite;
sedimentary source type granite)・Aタイプカコウ岩(A type granite; anorogenic
type granite)・Mタイプカコウ岩(M type granite; mantle source type granite)の区分*1や、マグネタイト系カコウ岩(magnetite-series
granitoid)とイルメナイト系カコウ岩(ilmenite-series granitoid)の区分*2がそれである。
*1 Iタイプ・Sタイプカコウ岩はChappell and White(1974)・White
and Chappell(1977,1983)、Aタイプカコウ岩はLoiselle and Wones(1979)、Mタイプカコウ岩はWhite(1979)によって提唱された。
*2 Ishihara(1977,1981)によって提唱された。
アルミナ飽和度
まずはじめの分類の重要な基準の1つとなっているアルミナ飽和度(degree of alumina-saturation)についてふれておく。長石は火成岩にほぼ普遍的にふくまれているので、重要な造岩鉱物である。火成岩のAl2O3の大部分は長石にふくまれている。長石の化学組成の特徴から、長石における(Na2O+K2O+CaO)/Al2O3(分子比)は1である。カンラン石・斜方輝石・マグネタイトなどには、これらの酸化物はほとんどふくまれないので、火成岩ではこの比が1から著しくちがっているものは多くない。したがって、この比の大きさに影響を与えるのは、(Na2O+K2O)、CaOあるいはAl2O3に富む鉱物がふくまれるときである。たとえばAl2O3に富む白雲母・コランダム・アルマンディン成分に富むザクロ石などが多くふくまれる火成岩では、(Na2O+K2O+CaO)/Al2O3は1よりも小さくなる。このような岩石はパーアルミナス(peraluminous)、この比が1よりも大きい岩石はメタアルミナス(metaluminous)とよばれる。またアルカリに富むマフィック鉱物(たとえばアルカリ角閃石やアルカリに富む輝石)がふくまれるようになると、CaOをのぞいた(Na2O+K2O)/Al2O3が1よりも大きくなる。このような岩石は、パーアルカリック(peralkalic)とよばれる。
Iタイプ・Sタイプ・Aタイプ・Mタイプカコウ岩の化学組成の比較を表2.9にしめす。
I | S | A | M | I | S | A | M | ||
SiO2 | 69.17 | 70.27 | 73.81 | 67.24 |
アルミナ 飽和度 |
1.02 | 0.85 | 1.05 | 1.03 |
TiO2 | 0.43 | 0.48 | 0.26 | 0.49 | Ba | 538 | 468 | 352 | 263 |
Al2O3 | 14.33 | 14.10 | 12.40 | 15.18 | Rb | 151 | 217 | 169 | 17.5 |
Fe2O3 | 1.04 | 0.56 | 1.24 | 1.94 | Sr | 247 | 120 | 48 | 282 |
FeO | 2.29 | 2.87 | 1.58 | 2.35 | Zr | 151 | 165 | 528 | 108 |
MnO | 0.07 | 0.06 | 0.06 | 0.11 | Nb | 11 | 12 | 37 | 1.3 |
MgO | 1.42 | 1.42 | 0.20 | 1.73 | Y | 28 | 32 | 75 | 22 |
CaO | 3.20 | 2.03 | 0.75 | 4.27 | Ce | 64 | 64 | 137 | 16 |
Na2O | 3.13 | 2.41 | 4.07 | 3.97 | Ga | 16 | 17 | 24.6 | 15.0 |
K2O | 3.40 | 3.96 | 4.65 | 1.26 | |||||
P2O5 | 0.11 | 0.15 | 0.04 | 0.09 | |||||
単位:SiO2〜P2O5:重量%; アルミナ飽和度は(Na2O+K2O+CaO)/Al2O3で分子比; Ba〜Ga:ppm; I・S・A・M:Iタイプ・Sタイプ・Aタイプ・Mタイプカコウ岩 |