『18.1 火成岩の組織、火山岩と深成岩
野外あるいは大きい標本で見られるような岩石の構造的性質を構造(structure)とよび、顕微鏡下でみられるような構造的性質を組織(texture)とよぶ。たとえば、火成岩の構成鉱物の大きさ、形、並び方などに関係した性質は組織である。ある一定の組織をもった火成岩が切れて柱状節理を生じたり、重なって層理をつくったりする。こういう柱状節理や層理は、構造に入れられる。しかし、これら二つの語は、場合によって、もっとちがった意味に用いられることもあり、二つを厳密に区別することは大した意味があるわけではない。
岩石をつくっている鉱物の粒の大きさを表わすのに、粗粒(coarse-grained)、中粒(medium-grained)、細粒(fine-grained)というような語がよく使われる。粗粒と細粒の境界を、平均直径1mmくらいのところに置くことが多い。
岩石がほぼ同じような大きさの鉱物粒からできている組織を、等粒状(equigranular)とよぶ。連続的にちがったさまざまな大きさの鉱物粒の集合からできている組織を、シリイット(seriate)とよぶ。大きい鉱物と小さい鉱物とが、はっきりした二群に分かれているときには、その岩石が火成岩であれば、斑状組織(porphyritic
texture)をもっているという。その大きいほうの鉱物を斑晶(phenocryst)、小さいほうの鉱物(および非結晶質ガラス)の集合を石基(groundmass)とよぶ。
斑状組織は火山岩の大部分にみられるが、この場合に一般に、斑晶は石基よりも早い時期に、ゆるやかに結晶作用が起って、できたと考えられる。そこで、斑状組織の定義のなかに、斑晶と石基は二つの異なった時期と条件の下で結晶したものであって、前者のほうがより早い時期の生成物であるということを含めることもある。この条件を含めるかどうかで、斑状組織という語の適用範囲が、少しちがってくる。たとえば、カコウ岩のなかのアルカリ長石の大きい結晶は、他のより小さい鉱物より必ずしも早い時期に結晶したとは限らない。そこで、定義しだいで、そういう岩石の組織は、斑状組織にいれられることと、そうでないこととが起る。
斑状でない火山岩の組織の場合に、それがとくに、斑晶のない、石基だけに対応する性質をもっていることを強調したいときはそれをアフィリック(aphyric)な組織とよぶ。斑晶はマグマのなかで沈降集積しやすいので、斑状岩はかならずしもマグマの液体の組成を表わすとは限らないが、アフィリックな岩石はある時期の液体を表わすと考えられる。
近年の記載的岩石学で実際に深成岩(plutonic rocks)に入れられているものは、カコウ岩やガブロのように、ふつう粗粒の等粒状組織をもっている火成岩であって、それは一般にはゆるやかに結晶した火成岩であろうが、かならずしも地下の深所でできるとは限らない。実際に火山岩(volcanic
rocks)あるいは噴出岩(effusive rocks)に入れられているのは、玄武岩や安山岩や流紋岩のように、細粒でときにはガラスをも含む火成岩や、そういう石基のなかに斑晶のはいった火成岩である。それは、火山に多いけれど、火山のすべての岩石がそうでもなく、火山でないところにでもできうる。したがって、深成岩と火山岩は、記載的岩石学の立場からは、火成岩の組織による分類と考えねばならない。そうしないで、たとえば、地下の深いところでできたガブロは深成岩に入れ、火山体のなかで地表に近いところでできたガブロは火山岩に入れるというようなことに規約すると、分類できない岩石がたくさんできてきて、岩石の分類法として使いにくくなる。粗粒火成岩ができたほんとうの深さは、容易にわからないことが多いからである。
記載的岩石学の書よりほかでは、深成岩とか火山岩という名前は今日もあまりにも広く使われているので、本書でもそれらを使うことを避けないことにする。ただ、その意味は、いつも上述のごとくである。
18.2 火成岩の組織をあらわす述語
火成岩の組織を記載表現する述語は、きわめて多い。A.Johannsenの“A Descriptive Petrography
of the Igneous Rocks”の第1巻(1931)には、組織をあらわす述語だけの述語集がついている。ここでは、そのなかで特に重要な、ごく普通に使われるものだけを解説する。
(a)結晶度(crystallinity)、すなわち固結するまでのマグマの結晶作用の進行程度を表わすのに、次のような語が使われる:
完晶質(holocrystalline)とは、火成岩が全部結晶よりなり、ガラスを含まないことである。
半晶質(hypocrystalline)とは、火成岩が結晶とガラスと両方からなることである。
完全ガラス質(holohyaline)とは、火成岩が全くガラスよりなることであるが、厳密にこのような岩石はきわめてまれである。
(b)火成岩は、構成鉱物の大きさ(grain size)によって、次のように分けられる:
顕晶質(phanerocrystalline)とは、火成岩の構成鉱物粒が肉眼またはルーペで見分けられる程度の大きさのことをいう。
非顕晶質(aphanitic)とは、火成岩の構成鉱物粒が肉眼やルーペでは見分けられないことをいう。非顕晶質の火成岩のなかで、鉱物粒が顕微鏡下では見分けられみわる程度の大きさの場合にはマイクロ結晶質(microcrystalline)といい、鉱物粒が顕微鏡下でも見分けられないが、直交ニコルにしてみると結晶していることはわかるような場合にはクリプト結晶質(cryptocrystalline)という。非顕晶質という語は、ガラスに富む場合をも含む。
(c)火成岩の構成鉱物粒の形、またはそれに関係した組織上の性質を表わすのに、次のような語が使われる:
自形(euhedral、idiomorphic、automorphic)とは、ある構成鉱物が完全に自分の固有の結晶面でとりかこまれている状態を表わす語である。あるいはまた、火成岩がほとんどそのような鉱物だけからできている組織を表わすにも使われる。火成岩が完全に自形の鉱物だけからできているという印象がとくに強いときには、panidiomorphicという語も使われることがある。(それは原理的には不可能なことであるが、そういう印象を与える組織がある。)
半自形(subhedral、hypidiomorphic、hypautomorphic)とは、ある構成鉱物が一部分は自分の固有の結晶面でかこまれ、他の部分は固有の結晶面を欠いている状態を表わす語である。あるいはまた、火成岩の構成鉱物のなかのあるものは自形であるが、他のものは次にのべる他形であるような組織を表わすにも使われる。
他形(anhedral、xenomorphic、allotriomorphic)とは、ある構成鉱物が自分の固有の結晶面を示さない状態を表わす語である。また、火成岩がそのような鉱物だけからできている組織を表わすにも使われる。
鉱物がマグマのなかで自由にゆるやかに結晶する場合には、自形になりやすいであろう。マグマの大部分が結晶した後で、既存の鉱物の間隙に晶出する鉱物は、自形になることは困難で、その間隙に合った形になるのが普通であろう。したがって、火成岩の場合には、自形と他形は、鉱物の結晶作用の順序を推定する上の、一つの手がかりを与えてくれる。カコウ岩の組織は多くの場合、半自形等粒状で、ガブロやアプライトの組織は多くの場合、他形等粒状である。
また、結晶の形自体の性質を表わすのに、次のような言葉が用いられる:
柱状(prismatic)または針状(acicular)とは、結晶が一つの方向に長くのびていることをいう。
板状(tabular)とは、結晶が二次元的に著しく生長していることをいう。
等次元状(equidimensional)とは、結晶がどの方向にもほぼ同じように生長して、ころころした形をしていることをいう。
不規則(irregular)とは、上記の、あるいはそれに類する簡単な言葉で表現できない場合のことである。
(d)そのほかに、組織の顕微鏡的記載にとくによく使われる言葉をいくつかあげておく:
オフィティック(ophitic)とは、ドレライトあるいは輝緑岩によく見られる組織で、斜長石の細長い自形の結晶と結晶との間を、大きい他形のオージャイトがうずめているものをいう。ドレライト状(doleritic)または輝緑岩状(diabasic)とよぶこともある。
インターグラニュラー(intergranular)とは、完晶質玄武岩によくみられる組織で、斜長石の細長い自形の結晶と結晶との間を、それよりずっと粒の細かいオージャイトの集合がうずめているものをいう。
インターサータル(intersertal)とは、インターグラニュラーによく似ているが、斜長石の間をうずめている物質がオージャイトだけではなくて、カンラン石、不透明鉱物、ガラスなどさまざまのものである組織をさす言葉である。
ポイキリティック(poikilitic、poecilitic)とは、勝手な方向にむかった小さい結晶が、それより大きい他の鉱物の結晶に含まれている組織をいう。
トラキティック(trachytic)とは、細粒の短冊状の長石が互いにほぼ平行に配列しているような組織をいう。斑晶がある場合は、それをよけるようにうねって配列している。粗面岩、粗面安山岩に特徴的な組織である。
流状(fluidal)とは、結晶が互いにほぼ平行に配列している組織で、マグマの流動によって生ずる。流紋岩やデイサイトなどにしばしば見られる。
グラフィック(graphic)とは、石英とアルカリ長石のくさび形文字状の片が多数いりくんでいて、ある範囲にある石英片、ある範囲にある長石片が、それぞれ同時に消光するような組織をいう。これは石英と長石が同時に結晶してできるので、共融点における結晶作用の結果だとよく解せられる。(石英と長石よりほかの鉱物についても用いられることがある。)石英と長石のグラフィック組織はカコウ岩やペグマタイトによくみられる。ペグマタイトでは、石英片や長石片が大きく、肉眼でよく見えることがある。そこで顕微鏡下でだけ見えるように小さいスケールのグラフィック組織であることを強調するときには、マイクログラフィック(micrographic)という。
スフェルリティック(spherulitic)。針状あるいは長柱状の石英や長石が一点から放射するように集まってつくる球のような形の塊まりをスフェルライト(spherulite)という。そういうスフェルライトを多数含む岩石は、スフェルリティックな組織をもつという。これは結晶度の悪い、ガラスの残っているような岩石によくみられる。顕微鏡下でだけ認められるような小さいスケールのスフェルリティック組織を、マイクロスフェルリティック(microspherulitic)という。
グラノフィリック(granophyric)とは、グラフィックおよびスフェルリティックな組織の全体を表わす語である。
18.3 火成岩の岩型の分類表
火成岩の岩型の分類と命名の詳細な解説にはいる前に、ここに表18.1として、火成岩の普通の岩型の簡単な分類表を示し、全体の関係をわかりやすくしよう。
この表ではふつうの火成岩をまず、マフィックな鉱物に富むものと、それに乏しいものと、その二つの間の中間的なものとに、三分してある。すなわち、これは15.4節でのべた色指数(マフィックな鉱物のパーセント)による分類である。マフィック火成岩は、マフィック鉱物の量が40〜70%の範囲内のものであるが、その量がこれよりも多い火成岩もよくあって、それは超マフィック岩類(ultramafic
rocks)とよばれる。この分け方の境として採用した色指数の値は、比較的近年出版されている記載的岩石学書の多くに採用されている値と、ほとんど同じである。
鉱物の同定ができないような結晶度の低い火成岩やガラス質の部分を含む火成岩では、マフィック鉱物の量は求められない。その場合に、もし化学分析値があれば、C.I.P.W.ノルムを計算して、そのフェミック鉱物の重量パーセントをかわりに用いれば、ほぼ同じ結果が得られる。
このようにマフィック鉱物の量によって3種に大別する分類は、シリカの量によって塩基性、中性、酸性と3種に大別する分類にやや似ている。しかしマフィック鉱物の量とシリカの重量パーセントとは必ずしも厳密には対応しないので、著しいくい違いを生ずる場合もいくらかある。たとえば粗面岩、フォノライト、閃長岩などはフェルシック火成岩であるが、シリカの量によると中性岩に属するし、それらの一部分には塩基性岩にはいるものさえある。ただしマフィック火成岩類はほぼすべて塩基性岩に相当する。