周藤・牛来(1997)による〔『地殻・マントル構成物質』(92-97p)から〕


2.3.D-a 玄武岩
 マフィックな火山岩で、フェルシック岩に属するカコウ岩とともに、最も主要な火成岩の1つである。斑晶鉱物はおもに斜長石・輝石・カンラン石からなる。

 2.3.D-a1 鉱物組成などによる分類
 SiO2含有量と(Na2O+K2O)含有量の関係によって、ともなわれる鉱物に若干のちがいがある。玄武岩は非アルカリ岩系ソレアイト質玄武岩と、アルカリ岩系のアルカリ玄武岩に大別される(§2.3.B参照)。表2.5(略)に各種玄武岩の化学組成をしめす。

ソレアイト質玄武岩
 斑晶鉱物としてカンラン石や斜方輝石がふくまれているときには、Caにとぼしい単斜輝石(ピジョン輝石)の反応縁をもっていることが多い。また石基鉱物の輝石の多くは単斜輝石(ピジョン輝石あるいはオージャイト)である。
 ソレアイト質玄武岩のうち、比較的SiO2にとぼしくてノルム鉱物としてカンラン石が算出されるものがカンラン石ソレアイトで、比較的SiO2に富みノルム石英が算出されるものが石英ソレアイトである(図2.31参照:略)。
 ソレアイト質玄武岩のうち、アルカリ成分が比較的多いものが高アルカリソレアイト(high alkali tholeiite)で、すくないものが低アルカリソレアイト(low alkali tholeiite)である。前者のうち、とくにAl2O3(アルミナ)に富むもの(18%±)を高アルミナ玄武岩(high alumina basalt)とよぶことがある(Kuno, 1968)。
 ソレアイト質玄武岩は各種の玄武岩のうちで最も多量にあるもので、広大な溶岩台地を形成している台地玄武岩(plateau basalt;洪水玄武岩・flood basalt)や中央海嶺の多くのものは、この種の玄武岩から構成されている。また日本の現在の火山帯にみられる玄武岩のほとんどもこの種のものである。

アルカリ玄武岩
 カンラン石・オージャイト・斜長石や少量のアルカリ長石などからなり、斑晶のカンラン石はピジョン輝石の反応縁をもっていない。また石基にもカンラン石がふくまれ、斜方輝石やピジョン輝石がふくまれないことも、アルカリ玄武岩の特徴である。一般にアルカリ玄武岩からは、ノルム鉱物としてネフェリンが計算される(図2.31参照:略)。
 アルカリ玄武岩のうちアルカリ成分に富みSiO2にとぼしく、斑晶鉱物にネフェリンなどの準長石をふくむものを強アルカリ玄武岩とよび、準長石をほとんどふくまないアルカリ玄武岩と区別する。強アルカリ玄武岩にはNa2Oに富むネフェリンベイサナイト(nepheline basanite)・カンラン石ネフェリナイト(olivine nephelinite)、K2Oに富むリューサイトベイサナイト(leucite basanite)・カンラン石リューシタイト(olivine leucitite)などがある。またアルカリ玄武岩と粗面安山岩の中間型を粗面玄武岩(trachybasalt)という。
 なおSiO2に比較的富む(その点ではソレアイト質玄武岩に似ている)が、アルカリ成分、とくにK2O/Na2O値の大きい(1以上)アルカリ玄武岩をショショナイト(shoshonite)とよぶことがある。またソレアイト質玄武岩やアルカリ玄武岩よりも、カンラン石や輝石が多く斜長石のすくないものは、玄武岩と超マフィックなコマチアイトとの中間の組成をもち、一般にピクライト質玄武岩(picrite basalt)とよばれる。オセアナイト(oceanite)・アンカラマイト(ankaramite)・リンバージャイト(limburgite)などは、この種のものである。
 アルカリ玄武岩はソレアイト質玄武岩に比べて一般に少量で、日本では山陰−九州北部地域などにみられる新生代玄武岩に、この型のものがある。

 2.3.D-a2 テクトニクス場による分類
 ここまでのべてきたのは鉱物組成・化学組成にもとづく玄武岩の一般的な分類であるが、これとは異なる視点からの分類もなされている。それは1970年代以降のプレートテクトニクス(plate tectonics)の発展により、テクトニクス場に関する知見が、そのような観点から整理されたことや、種々のテクトニクス場にみられる火山岩について、大量の分析値(主成分元素・微量元素・同位体比)が蓄積されたことにより、それぞれのテクトニクス場にみられる玄武岩のあいだで、化学組成が異なっていることがあきらかになってきたからである。
 このような観点からは、中央海嶺玄武岩(mid-ocean ridge basalt;MORB)・プレート内玄武岩(within-plate basalt;WPB)・火山弧玄武岩(volcanic arc basalt;VAB)の3つに分類されることが多い。

MORB
 通常の(normal)N-MORB・不適合元素に富んでいる(enrichしている)E-MORB・両者の中間的な(transitional)T-MORBに細分される。このうちN-MORBが中央海嶺に最も広くみいだされており、E-MORBはアイスランドに典型的に露出する。アイスランドは中央海嶺とマントルプリューム(mantle plume)の両者のテクトニクス場となっているとみられていることから、E-MORBはP-MORBとよばれこともある。T-MORBは大西洋中央海嶺の一部で、アイスランドに近いレイキャネス海嶺(Reykjanes ridge)やアゾレスの南側斜面などにみられる。

WPB
 プレート内ソレアイト(within-plate tholeiite;WPT)・プレート内アルカリ玄武岩(within-plate alkali basalt;WPA)に細分される。ハワイなどの海洋島玄武岩(oceanic island basalt;OIB)や大陸内部の台地玄武岩、リフト帯にみられる玄武岩などがWPBに相当する。
 OIBは海洋島ソレアイト(oceanic island tholeiite;OIT)と海洋島アルカリ玄武岩(oceanic alkali basalt;OAB)に細分されることもある。ハワイの玄武岩と同様に、ホットスポット(hot spot)に由来すると考えられる、海洋プレート上の巨大な海台(たとえば、南太平洋のポリネシア海台など)に分布する玄武岩は、OIBに比べてHFS元素にやや富み(図2.20参照:略)、238U/204Pb(μ値)・232Th/204PbおよびPb同位体比(206Pb/204Pb・207Pb/204Pb・208Pb/204Pb)が高いことで特徴づけられることから、HIMU玄武岩(high μ basalt)とよばれる。HIMU玄武岩をもたらすホットスポットは、核とマントルの境界付近で生成するという説がある。

VAB
 島弧玄武岩(island arc basalt;IAB)・活動的大陸縁玄武岩(active continental margin basalt;ACMB)にわけられるのが一般的で、後者は陸弧玄武岩(continental arc basalt;CAB)とよばれることもある。なおIABのうちのソレアイト質玄武岩を島弧ソレアイト(island arc tholeiite;IAT)という。
 また日本海などの背弧海盆にみられる玄武岩は、IABとMORBの中間的な性質をもっていることから、これらから区別して背弧海盆玄武岩(back-arc basin basalt;BABB)とよばれることがある。

留意点
 これらの各種玄武岩の不適合元素含有量を、N-MORBのそれらで規格化した図を図2.20(略)に、また87Sr/86Srと143Nd/144Ndの関係図を図2.29(略)にしめしてある。図2.37(略)はコンドライトのREE含有量で規格化した、これら玄武岩のREEパターンをしめしたものである。
 上記のテクトニクス場を異にする玄武岩の化学的特徴は、これらのどの図においても明瞭に識別されるわけではない。たとえばN-・T-・E-MORBの3種のMORBは、LIL元素含有量・REEパターン・SrやNdの同位体比などの、どの地球化学的指標によっても比較的明瞭に区別されるが、WPTとE-MORBは、これらの指標では区別できない。各種玄武岩間では、いろいろな元素(LIL元素・HFS元素・REEなど)の含有量・元素含有量間の比および各種(Sr・Nd・Pbなど)の同位体比などの地球化学的指標に関して、表2.6にしめすような相違点と類似点がみられる。
表2.6 各種玄武岩の地球化学的特徴
玄武岩 岩系 同位体比 REEパターン LIL元素・HFS元素
N-MORB TH 0.7024-0.7030
0.5130-0.5133
LREEにとぼしい LIL元素・HFS元素にとぼしい。著しく高いZr/Nb(20-30以上)
T-MORB TH N-MORBとE-MORBの中間 N-MORBとE-MORBの中間 N-MORBとE-MORBの中間
E-MORB THが主、
一部A-ba
0.7030-0.7035
0.5130-0.5131
LREEにやや富む LIL元素・HFS元素にやや富む。低いZr/Nb(15以下)
プレート内
(海洋島)
TH
A-ba
0.7027-0.7065
0.5124-0.5132
THはE-MORBに類似。A-baはよりLREEに富む LIL元素・HFS元素に富む。低いZr/Nb(15以下)
プレート内
(HIMU*1
A-ba 0.7027-0.7030
0.51285-0.51295
LREEに著しく富む LIL元素・HFS元素に著しく富む。著しく低いZr/Nb(5以下)
プレート内
(台地)
TH 0.7035-0.7090
0.5122-0.5131
LREEにやや富む〜著しく富む LIL元素・HFS元素に富む。低いZr/Nb(海洋島玄武岩に類似)
プレート内
(リフト帯)
A-baが主
一部TH
海洋島に類似か、Srが高くNdは低い LREEにやや富む〜著しく富む LIL元素・HFS元素に富む〜著しく富む。著しく低いZr/Nb
活動的大陸縁
(陸弧)
THが主 0.7037-0.7045
0.5126-0.5130
LREEにやや富む LIL元素にやや富み、HFS元素にとぼしい。やや高いZr/Nb(10〜30)
島弧 THが主 0.7030-0.7055
0.5125-0.5130
LREEにややとぼしい〜やや富む*2 LIL元素にやや富み、HFS元素にとぼしい。やや高いZr/Nb(10〜30)
背弧海盆 THが主 0.7027-0.7043
0.5128-0.5132
LREEにややとぼしい〜やや富む*3 LIL元素・HFS元素にやや富む。低いZr/Nb
*1:HIMU玄武岩はほかの玄武岩に比べてμ値(238U/204Pb)やPb同位対比が高い;
*2:T-、E-MORBに類似;
*3:島弧玄武岩に類似;
同位体比:上が87Sr/86Sr、下が143Nd/144Nd;
TH:ソレアイト;
A-ba:アルカリ玄武岩



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