久城ほか(編)(1989)による〔『日本の火成岩』(26-29p)から〕


2 玄武岩(basalt)

§2.1 玄武岩とは
 玄武岩は主としてCaに富む斜長石とオージャイトからなり、その他、かんらん石、斜方輝石、ピジョン輝石、ホルンブレンド、黒雲母、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、シリカ鉱物、アルカリ長石、りん灰石、沸石、ネフェリン、メリライトやリューサイトなどのうちの数種類を主成分あるいは副成分鉱物として含んでいる。なお例外的に、斜長石を含んでいないものもある(ネフェリナイト、メリリタイトやリューシタイトなど)。色指数は35〜90体積%(70%を越えることはきわめて少ない)である。組織は斑状であって、斑晶の量は稀に50%を越えることもあるが、通常5〜30%くらいである。また5%以下のときは無斑晶玄武岩とよぶことがある。石基は完晶質からガラス質までのいろいろの組織を示すが、地表に噴出した場合は一般には他の火山岩に比較して結晶度が高く粗粒であって、褐色ガラスの量は少ない。
 玄武岩の化学組成をみるとSiO2は多くの場合45〜52重量%(無斑晶岩では55%)、MgO、FeOやCaOに富みNa2OやK2Oに乏しい。また微量成分元素ではCo、Cr、Ni、Sc、SrやVなどが多く、Ba、F、Nb、Pb、Rb、Th、U、Zrや希土類元素などが少ない。

§2.2 玄武岩の種類
 海洋底、海洋島、大陸や島弧に分布する玄武岩はしばしば結晶分化作用の進んだ中間−フェルシック火山岩類をともない、それぞれの地域的な特性をもっており、それらは1つのマグマ系列あるいは火山岩系列を構成している。日本列島には島弧を特徴づけるような型のものが主として分布している。玄武岩類はそれらの鉱物組合せと化学組成から次の5種類に大別されている。
 1) 低アルカリソレアイト
 2) 高アルミナ玄武岩
 3) 高アルカリソレアイト
 4) アルカリ玄武岩
 5) カルクアルカリ玄武岩

 これらのうち日本列島の第四紀に出現し、重要視されているものは低アルカリソレアイト、高アルミナ玄武岩とアルカリ玄武岩である。低アルカリソレアイトは単にソレアイトとよばれることが多く、また高アルミナ玄武岩と高アルカリソレアイトはAl2O3含有量だけで区分し(前者は16.5%以上、後者は16.5%以下)、鉱物組合せやAl2O3以外の化学組成は同じである。(今後、特に断り書きがないときは、低アルカリソレアイトは単にソレアイトとし、また高アルミナ玄武岩は高アルカリソレアイトを含む)。久野(1950)は伊豆・箱根地方の火山岩類は石基輝石の組合せからそれらは2系列に大別されることを見出した。1つは石基輝石として単斜輝石(オージャイトとピジョン輝石)だけが存在するもの、他の1つは斜方輝石とオージャイトの共存するもの、または斜方輝石だけのものである。そして前者をピジョン輝石質系列、後者をハーパーシン質系列とよんだ。日本ではこれらの系列名は今日でも用いられている。ピジョン輝石質系列はソレアイト系列(厳密には高アルミナ玄武岩系列の一部を含む)、ハイパーシン質系列はカルクアルカリ系列に対応する。
 一般に玄武岩類はSiO2が増加するとNa2O+K2Oも増加し、また同じSiO2の場合、Na2O+K2Oは少ないものから多いものまで連続的に変化している(SiO2が47%のとき、Na2O+K2Oは1.5〜6%)。それに対応して長石の量比(斜長石:アルカリ長石)や斜長石の化学組成(An%)と有色鉱物の組合せや量比が変化する。そこで玄武岩の化学組成を図2.1(略)のSiO2が-(Na2O+K2O)関係図にプロットしてソレアイト、高アルミナ玄武岩、アルカリ玄武岩のいずれかを判断している。いっぽうカルクアルカリ玄武岩は有色鉱物組合せが他の玄武岩類とは異なるが、その化学組成は独自の領域をもっておらず、ソレアイトか高アルミナ玄武岩領域に点示される。図2.1に示した2本の境界線は久野(1966、1968a)により主として伊豆・箱根地方の比較的斑晶に乏しいソレアイトと高アルミナ玄武岩系列および日本海沿岸地域のアルカリ系列火山岩類の化学組成から経験的に求められたものである。Macdonald & Katsura(1964)はハワイのソレアイト系列(低アルカリソレアイト系列+高アルカリソレアイト系列)とアルカリ系列火山岩類の化学組成と鉱物組成の変化の対応から両系列の間に境界線を引いた(図2.1の破線)。日本のアルカリ系列と高アルミナ玄武岩系列およびハワイのアルカリ系列とソレアイト系列の間の境界線はほぼ一致しているので、現在これらは世界的にアルカリ系列とソレアイト系列あるいは非アルカリ系列の境界線の基準として用いられている。
 図2.1を用いて玄武岩がどの種類または系列に属するかを判断する場合、化学分析値の精度が高くかつ無斑晶〜斑晶に乏しい岩石のときには問題が生じない。しかし斑晶の多いもの(特に斜長石や輝石)はソレアイト領域側にずれてプロットされるので注意が必要である。
 Yoder & Tilley(1962)によると、玄武岩には珪酸不飽和から過飽和に移り変わるとき、次の3つの特徴的なノルム鉱物の組合せが認められる。(1)Ne+Ol、(2)Ol+Hyと(3)Hy+Q。それぞれをアルカリ玄武岩、かんらん石ソレアイトおよびソレアイトと命名した。この分類の概念は広く世界的に用いられている。そこで久野とYoder & Tilleyの分類を表2.1に対照して示した。これら両者の分類はだいたい対応し本質的なくい違いは認められない。しかし玄武岩類は一般に斑晶を含み、輝石や磁鉄鉱などは複雑な固溶体をつくり、また固結するとき一部のFe+2はFe+3に酸化するのでノルムとモード組成は必ずしも一致しない。一般に新鮮で酸化や変質を受けていない玄武岩ではノルム組成よりもモード組成は珪酸により飽和した組合せや量比になる。たとえば日本のアルカリ玄武岩と命名されているもののかなりのものは、ノルムOl+Hyが算出され、またノルムNeを含むものにもネフェリンは存在していない。またソレアイトでは、ノルムQが算出されてもかんらん石斑晶を含んでいるものはごく普通であり、その場合石基に出現するシリカ鉱物の量はノルムQよりも多い。
表2.1 玄武岩類の分類.

久野(1960,1968a,b)

Yoder & Tilley(1962)
低アルカリソレアイト ソレアイト
高アルミナ玄武岩
(Al2O3>16.5%)
かんらん石ソレアイト
高アルカリソレアイト
(Al2O3<16.5%)
アルカリ玄武岩 アルカリ玄武岩
カルクアルカリ玄武岩 ………

§2.3 玄武岩の斑晶・石基鉱物組合せ
§2.4 玄武岩の特徴

 §2.4.1 肉眼による観察
 §2.4.2 顕微鏡による観察
 §2.4.3 化学組成
§2.5 玄武岩帯
 §2.5.1 帯状配列


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