久城ほか(編)(1989)による〔『日本の火成岩』(88-90p)から〕


4 デイサイト・流紋岩

§4.1 デイサイト・流紋岩とは
 構成鉱物の組成に基づく分類によれば、長石とシリカ鉱物を含み、石基の色指数が10以下(久野、1954)、または全岩の色指数が20以下(都城・久城、1975)の細粒火成岩(火山岩)をデイサイトおよび流紋岩とよぶ。An>Or(久野、1954,1967)または斜長石>カリ長石(都城・久城、1975)の場合はデイサイトとよび、An<Orまたは斜長石<カリ長石の場合は流紋岩とよぶ。この命名法によると、デイサイトと流紋岩はほぼ同じSiO2の含有量をもつことになる。しかし、珪長質の火山岩の石基は結晶度が低い場合が多く、構成鉱物の組成や色指数の決定が不可能なことが多い。そのような場合には、岩石(または石基)の化学組成からノルムを計算し、仮想的な色指数を求めて分類を行う必要がある。このような事情を反映したためか、最近では、岩石の総化学組成に基づく分類を採用する研究者が増えてきた。例えば、安山岩とデイサイトの境界はSiO2=63%(Gill, 1981; Ewart, 1982)、または62%(都城・久城、1975)、デイサイトと流紋岩の境界はSiO2=70%(都城・久城、1975;Gill, 1981;Ewart, 1982など)とするような場合である。
 日本の第四紀火山岩類中で、デイサイト・流紋岩とよばれている岩石は、上記の鉱物組成に基づく分類にだいたい合致するようである。実際にはAn<Orまたは斜長石<カリ長石の組成をもつ火成岩は少ないので、デイサイトの方が流紋岩よりはるかに多いことになる。しかし、SiO2の量に基づく分類を採用すれば、鉱物組成に基づく分類でデイサイトとよばれていた岩石の相当部分は流紋岩となり、その比率が増大すると考えられる。
 日本に産するデイサイトのほとんどすべてはNa>Kであるが、流紋岩はNa>Kのソーダ流紋岩とK>Naのカリ流紋岩に2分される。アルカリ岩系に属し、特にアルカリ含量の大きな流紋岩はアルカリ流紋岩とよばれることもある(第5章参考)。

§4.2 デイサイト・流紋岩の分布と産状
 §4.2.1 分布

 デイサイトおよび流紋岩は日本の第四紀火山岩類の体積で約35%を占めている(図4.1:略)(Aramaki & Ui, 1982)。この量は安山岩よりはるかに少ないが、玄武岩よりは多い。図4.1からわかるように、玄武岩や安山岩に比べてデイサイトや流紋岩質マグマは、そのかなりの部分(半分以上)が大規模な火砕噴火によって噴出することがわかる。デイサイトも流紋岩も安山岩と同様、東日本火山帯および西日本帯火山帯にそってほぼ均等に分布している。例外は伊豆諸島で、伊豆大島、および三宅島以南の諸島では、全体としては玄武岩が多いが、新島・神津島まどには流紋岩が際立って多く、安山岩が少なく、少量の玄武岩をともない、東伊豆単成火山群とともにバイモーダルな分布をしている。
 新第三紀におけるデイサイト・流紋岩の活動も、ほぼ第四紀の活動と同じで、東北日本弧、西南日本弧(特に山陰、九州)にそって玄武岩・安山岩質の火山活動にともなって広く大量に分布する。デイサイトや流紋岩にともなう、各種の非鉄金属鉱床の発達が顕著であり、例えば、黒鉱鉱床の母岩として海底に噴出したデイサイト質溶岩円頂丘群、足尾の銅鉱床の母岩としてロート型の火口を埋めた流紋岩質溶結凝灰岩などが挙げられる。
 西南日本外帯では約14Ma前(中田・高橋、1981ほか)に顕著なフェルシックマグマの活動がおこり、その一部は主としてデイサイトや流紋岩質の火山岩体を形成、残りは深成岩として浅所へ貫入固結した。多くの場合、両者はお互いに連続していて、いわゆる火山深成岩複合岩帯を形成している。
 §4.2.2 産状
 デイサイトや流紋岩のマグマは地表に噴出すると、溶岩流や溶岩円頂丘(または溶岩塔)を生じる場合が多い。マグマの粘性は、安山岩に比べて大きく、ふつう比較的少量しか噴出されないので、厚い溶岩流や急な側面をもつ溶岩円頂丘を生じる(有珠火山の昭和新山、大有珠;浅間火山小浅間山;大山など)。いっぽうH2Oに富むデイサイト・流紋岩質マグマが大規模な発泡作用により噴出すると、巨大な噴煙柱を生じ、風下の広い地域に降下火砕堆積物を生じたり、大規模火砕流を生じ、陥没カルデラを生成する。大規模火砕流をともなうカルデラは日本の第四紀火山地域に約30の例がある。』

§4.3 デイサイト・流紋岩の顕微鏡による特徴



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