久城ほか(編)(1989)による〔『日本の火成岩』(56-57p)から〕


3 安山岩

『安山岩は日本列島のような沈み込みプレート境界に最も多量に出現する火山岩である。例えば、日本列島に産する第四紀火山岩の体積の約70%がいわゆる安山岩で占められている(Aramaki & Ui, 1978)。また、かつての造山帯にも多量の安山岩類が噴出していることが知られており、沈み込みプレート境界における火成活動を理解する上で多量の安山岩の成因は従来より多くの議論の的となってきた。この項では主に代表的な島弧安山岩である日本列島に産する第四紀安山岩の岩石学的特徴について述べ、その他にサヌカイトとボニナイトを取り上げる。

§3.1 安山岩とは
 ‘安山岩’は19世紀初めにLeopold von Buchにより、アンデス山脈に産する斜長石とホルンブレンドの斑晶を含む火山岩に対して用いられた。安山岩の定義には通常色指数が用いられており、色指数40〜20%あるいは35〜15%の非アルカリ岩(シリカ鉱物と長石を含む火山岩)を安山岩とよんできた(都城・久城、1975;久野、1976)。しかし有色鉱物の体積の決定を正確に行うには多くの労力を要し、また半晶質やガラス質の岩石ではこの方法は本質的に適用不可能である。したがって、近年は蛍光X線分析装置(XRF)やX線マイクロプローブ(EPMA)などによって全岩化学組成を比較的簡単に決定できるようになったことも相まって、全岩組成のSiO2重量%をもとにした分類が広く行なわれるようになってきた。都城・久城(1975)では53.5〜62%、Gill(1981)では53〜63%、またEwart(1982)では52〜63%のものを安山岩とよんでいる。本章でもほぼこの組成範囲に入るものを安山岩として取り扱う。ただし、アルカリ系列の安山岩についてはこのSiO2による定義は適用できない(ミュジアライト、粗面安山岩、粗面岩、アルカリ流紋岩の項参照)。
 サヌカイトは、Weinschenk(1891)により讃岐国にちなんで名づけられた安山岩またはデイサイトで、少量のブロンザイト斑晶を有し、石基はガラス質で、微細な斜方輝石、磁鉄鉱を含み、斜長石はほとんど含まれない。Koto(1916)はサヌカイトと近縁な性質を有する瀬戸内地域の中新世火山岩をサヌカイト類(またはサヌキトイド)とよんだ。いっぽうボニナイトは小笠原諸島の旧名、無人島にちなんで名づけられたもので、Petersen(1891)により次のように定義された。‘斜長石を欠き、斑晶として斜方輝石、単斜輝石、かんらん石を含むガラス質の安山岩’。その後、ボニナイトからは単斜エンスタタイト斑晶が発見され(Dallwitz et al., 1966; Shiraki et al., 1980; Komatsu, 1980)、これは地球上の火山岩斑晶としては他に例を見ず、ボニナイトの主要な特徴の1つとなっている。近年、ある種のボニナイトとサヌカイト類は上部マントルで生じた初生マグマを代表する可能性が示された(Tatsumi & Ishizaka, 1981)。』

§3.2 安山岩の化学組成による分類
§3.3 安山岩の石基輝石による分類
§3.4 安山岩の斑晶の鉱物組合せによる新しい分類
§3.5 結晶作用に伴う斑晶組合せ変化による安山岩の系列
§3.6 安山岩の特徴

 §3.6.1 肉眼による観察
 §3.6.2 顕微鏡による観察
  a.Nタイプ安山岩
  b.Rタイプ安山岩
  c.サヌカイト
  d.ボニナイト
§3.7 安山岩の化学組成
§3.8 日本列島における安山岩の分布 



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