寺島ほか(2001)による〔『関東平野における土壌の化学組成と土壌地球化学図の作成に関する基礎的研究』(9-10p)から〕


Abstract

要旨
 関東地方における土壌地球化学図の作成に関する予察的研究として、関東各地の台地や丘陵地から採取した火山灰質土と、同一地域で採取した土壌と河川堆積物の主・微量成分を分析し、元素の分布特性や地球化学的挙動等について研究した。テフラ及びロームの化学組成には明らかな相違が認められるが、いずれも風化の進行に伴ってSiO2、CaO、MgO、Na2O、K2O、Ba、Srが溶脱・流失して濃度を減じ、Al2O3、Fe2O3、TiO2、H2O及び多くの微量重金属が応対的に高濃度となる。従来ローム層の最上位が風化し、これに腐植が付加されて黒土が生成するという考えがあったが、化学組成の上からはこの考えは否定される。黒土の母材は、ロームと同様に、火山噴火に伴う一次堆積物、近傍裸地からの風塵再移動堆積物、大陸起源の広域風成塵等であろう。関東の南部と北東部における火山灰質土の化学組成には明瞭な相違が認められ、その特徴は南部では富士山の、北東部では赤城山及び男体山起源の噴出物の化学組成のそれに類似する。同一地域で採取した表層土壌と河川堆積物の化学組成を比較した結果、基本的に類似点は見い出せなかった。これは、土壌の母材が主として火山灰であるのに対して、河川堆積物は基盤岩類の砕屑物が主体であるためと考えられた。火山灰質土が広く分布する地域では、土壌そのものを分析対象とする地球化学図の作成が重要である。

1.はじめに
 地表物質中(河川堆積物、土壌、岩石など)の元素の濃度分布を図化したものが地球化学図であり、環境科学、地球化学、地質学、鉱床学等多くの分野において重要な基礎資料である。諸外国における地球化学図の概要は、今井ほか(2000a)で紹介したのでここでは割愛する。日本では、椎川ほか(1984)が秋田県、菅・黒沢(1987、1996)が北海道北・中央部、Tanaka et al.(1994)、山本ほか(1998)が愛知県下の地球化学図を作成している。
 地質調査所では、北関東地域の約4000km2から採取した河川堆積物3850試料について主・微量成分を分析し、26元素の地球化学図を公表し(伊藤ほか、1991)、その後も仙台市、山形市周辺地域について研究している(今井ほか、1997;2000b)。しかし、これらの研究は対象地域が限定されているため、日本全土における元素濃度の分布の特徴を把握することは不可能である。そこで新しい研究プロジェクトとして、「地球化学図による全国的な有害元素のバックグラウンドと環境汚染評価手法の高度化に関する研究」を立ち上げ、環境庁一括計上の公害防止等試験研究費を使用し、1999年度を初年度とする5ヶ年計画で日本全土から約4000個の河川堆積物を採取し、有害微量元素(As、B、Be、Cd、Hg、Mo、Sb、Se等)をほじめとする約50元素の地球化学図を作成する作業を進めている。
 河川堆積物は、その試料を採取した地点の上流域に分布する基盤岩類や堆積物、土壌等を、河川水が削剥・混合したもので。その化学組成は集水域に分布するすべての地質試料を代表すると考えられる。従って河川堆積物を分析することにより、比較的少数の試料によって広い調査地域をカバーすることができ、日本全土を目的とした地球化学図の作成では最適な試料である。しかしながら、人間生活において最も身近な地質物質で、食料生産に必要不可欠な土壌は、河川堆積物とは異なる起源物質で構成される場合が多く、このことは有害元素のバックグラウンド値や環境中での挙動も異なることを示唆している。
 土壌地球化学図は、土壌そのものを分析対象として作成される地球化学図であり、土壌中の元素濃度が直接表示できる利点がある。その反面、火山灰質土が広く分布する地域では基盤岩類に由来する元素濃度はほとんど評価できない欠点を有している。本報告は、平野部における土壌地球化学図の作成に関する基礎的知見を得るために、関東平野の各地から採取した土壌柱状試料と、同一地域で採取した土壌と河川堆積物の化学分析を実施し、土壌の起源物質、火山灰質土における元素濃度の特徴と風化に伴う挙動、土壌と河川堆積物における元素分布の相違等について検討した結果をまとめたものである。』

2.地質の概要
3.試料及び分析方法
 3.1 試料の選定と採取方法
 3.2 試料の概要
 3.3 分析方法
4.結果と考察
 4.1 テフラの化学組成
 4.2 化学組成の鉛直変化の特徴
  1) Al2O3、Fe2O3、TiO2、MnO
  2) CaO、MgO、Na2O、K2O
  3) Ba、Sr
  4) その他の微量元素
 4.3 化学組成の時代差と地域差
 4.4 土壌と河川堆積物の化学組成の相違
 4.5 土壌地球化学図の作成における留意点
  1) 土壌母材の解明
  2) 試料の選定と採取
  3) 土壌中元素濃度のバックグラウンド値
  4) 土壌中での微量有害元素の挙動解明
5.まとめ
謝辞
文献
第A-1表 分析結果
第A-2表 ヒ素、全炭素、全硫黄の分析結果


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