湊・小池(1985)による〔『地質調査法 新装版』(11-12p)から〕


目次

1.地質調査とは
 いかなる地質学上の理論も、それが正しい発展をとげたものは、少しの例外もなしに、野外における地質学上のいろいろな事実の忠実な観察から出発している。
 これに反して、どのような地質学上の理論も、それが不健全なものであり、正しい発展をとげえなかったものは、少しの例外もなしに、野外におけるいろいろの事実に根ざしていないものばかりであった。
 今日では、地質学は地史学・地層学・古生物学・岩石学・鉱床学・鉱物学などに分科し、おのおのがそれぞれの体系をもっている。しかし問題は少しも変わっていない。
 地史学・地層学において、野外で観察したいろいろな事実がどんなに重要なものであるかは、いまさらいうまでもないことであろう。古生物学もそのとおりで、この学問はいちおう地層学・岩石学などといった、広い意味での地質学から独立しているようにみえるが、それが正しい発展をとげるためには、やがり一つ一つの化石の産出する状態、すなわち化石の層序のうえでの位置、その化石を含んでいる地層の性状、化石の埋没している状態などについて、細心の吟味を行う態度がぜひとも必要なのである。
 岩石学・鉱床学の場合でも、岩石・鉱床の産状の究明はきわめて重要なことである。このことは、野外観察・野外調査を軽視する傾向の岩石学者や鉱床学徒が、今日どのような道をたどりつつあるかを反省すれば、だれの目にも明らかなことであろう。
 鉱物学は、地質学から最も離れてしまった分科ではあるが、それでも、鉱物の産状を無視しては成り立たないといわれている。
 また、鉱区の設定・採鉱方針の決定・堰堤の築造・トンネルの掘さくなどに当たって、当然まえもって行われなければならない地質調査を怠り、あるいはこれを軽視したりしたために間違いを犯し、莫大な経費をいたずらになくして、ときには企業をやめなければならないようにさえなった例も、これまでにしばしばあった。このようなことは、今後にくり返してはならない。
 したがって地質学では、どのような分野においても、まず野外のいろいろな事実の究明ということが、すべてにさきんじて行われなければならない。地質調査とは、要するにこうした目的を果たすために行われる*
* あとでも述べるとおり、地質学を研究する態度としては、野外での忠実な観察調査の必要を第一義のものとして主張してきたが、ここでその反面、室内の勉強をも強調しておきたい。
 歴史科学としての地質学を研究していくために必要なことがらについては、紙面の関係から、本書のなかにふれるところが少ないが、野外調査と室内の研究の両面が正しく行われてこそ、はじめて完全な地質調査・地質学的研究になることを、調査者は決して忘れてはならない。

2.地質調査の種類
 野外の地質学上のいろいろな事実を、明らかにするといっても、実際にはその内容は広くて、複雑なものをもっている。したがって、研究しようとする対象の性質、調査の主要な目的、許された日数・費用、調査地域の条件などの違いによって、地質調査にはいろいろな方法や手段があみだされるわけである。またそれらの方法はたえず改良されている。本書では主として地表地質調査がとり扱われているが、はじめに、現在行われているいろいろな地質調査法の種類をあげ、簡単に説明することにしたい。』