安成(1999)による〔『水・物質循環系の変化』(1-2p)から〕


目次

1 地球の水循環と気候システム
………この章の要点………

[1] 水惑星地球は太陽系の中の非常にユニークな存在である。
 太陽からの距離と大きさ(質量)の微妙なちがいが、もともと起源と組成が同じとされる金星、地球、火星の大気を大きく変えてしまった。その中で、地球だけが水の3つの状態(氷、水、水蒸気)と大気と海の共存を可能にした。海がはぐくんだ生命は、地球の水物質の保存・維持にも一役買うかたちで進化した。地球の水は常に循環しており、これが地球の物質循環と生物圏の進化を保証してきた。この水循環は、地球が熱力学的に非平衡な開放系であるために維持されているが、同時に、その非平衡性の維持にも水循環は大きな役割を果たしている。
[2] 水循環は地球の気候システムの要である。
 緯度分布、海陸分布、地表面状態の分布は、地球に入射する太陽エネルギーを再配分し、地球表層系に時間的(季節的)、空間的な熱力学的非平衡を作り出している。この非平衡を常に解消しようとする非可逆過程が大気・海洋循環であり、その平均状態が気候である。これらの非平衡、非可逆な過程をすべてふくんだ地球表層の大気圏・水圏・生物圏系が気候システムである。気候システムのエネルギーの流れとフィードバック過程を基本的に担っているのは、状態変化をふくめた水循環である。気候の南北分布、海陸分布に伴うエネルギー過程において、潜熱エネルギーの重要性を指摘するとともに、アジアモンスーンが地球の大気・水循環系で占める大きな役割も指摘する。
[3] 気候システムの変動は、水循環過程の変動を通して行われる。
 ENSO(エルニーニョ/南方振動)とアジアモンスーンは密接にリンクしており、気候システムの年々変動を大きく支配している。この変動のしくみには、熱帯海洋における運動量・潜熱エネルギーの交換過程と、ユーラシア大陸での積雪・土壌水分を介したエネルギー交換過程への水循環のフィードバックが重要である。人間活動による温室効果ガスの増加は、高緯度の海氷・積雪を減少させ、温暖化をさらに促進するいっぽう、高緯度での降水・河川流出量を増加させる可能性がある。この海洋への淡水供給の増加は、北大西洋の深層水循環を弱め、温暖化の進行に予測できていない変化を起こさせる可能性もある。いずれにせよ、温室効果ガスの増加がグローバルな水循環過程にどう作用するかによって、「地球温暖化」をふくむ今後の気候変化は、大きな影響を受けることになろう。』



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