和田ほか(2003)による〔『物質循環と水資源−水系を中心として』(28p)から〕


1.はじめに
2.安定同位体(Stable Isotope)フィンガープリントとは?

 2.1 その測定法の特徴と得られる知見

『(前略)
 このような知見に基づいて、現在次のように研究を進めている。自然生態システムという複雑系の物質循環を降水から山岳域・河川・湖・河口にいたる水系を対象として安定同位体精密測定法(安定同位体フィンガープリント法)を駆使して水系全体の各生態系(森林、湖、河川、河口域)の安定同位体化学構造を描き、そのゆらぎ因子を解明し指標化する。さらに上記項目(2)(27ページ)としてGIS(Geographical Information System)を取り上げ、人間活動の要因(人口密度、土地利用、その変遷など)と得られた安定同位体指標との関係を数値化し、総合的な流域診断法の基盤を確立する。
 これまでの成果を要約すると安定同位体二次元グラフは、以下のような知見を与える。
(1)水系全体について(降水から河口まで)
  δ15N−δ13C(堆積物、有機物):人間活動における河川の汚濁
  δ15N−δ13C(住民の髪の毛):水系外からの食料の流入の程度(寄与率)
  δ18O−δD(河川水):流域内での水の蒸発量
(2)各種生態系
  δ15N−δ13C(動植物):食物網の構造、系内の脱窒の程度
  δ15N−δ13C(堆積物コア):近過去における汚濁の歴史
  δ15N−δ13C(蓄積された生物標本):近過去における汚濁の歴史
(3)プロセス
  δ13C−δD(CH4):酢酸開裂とCO2−H2系の識別
  δ18O−δ15N(N2O):硝化系と脱窒系の識別
  δ15N(NO3-)−[NO3-/Cl-]:森林における現場での脱窒の推定
 これらの安定同位体(SI)二次元グラフを組み合わせることによって流域の水循環・物質循環の共役システムに関する基盤情報が得られる。後述の展開で述べるようにこれに高層大気中で生起するO-17の質量非依存型同位体効果(Δ17O)や放射性同位体の計測(T、14C、210Pbなど)を組み込むことによって大気化学、大気物理学、陸水学、生態学、衛生工学の統合化に寄与する同位体トレーサビリティーの展開が期待できる。図2(略)にいくつかのSI二次元マップを水系に沿って模式的にまとめた。次節にはこれらのいくつかについて、事例的に紹介したい。』

3.具体的な事例
 3.1 水系の堆積有機物の「δ15N−δ13C」同位体マップ
 3.2 流域の上流から下流に沿った堆積有機物の同位体比の変化
 3.3 琵琶湖北湖における堆積有機物質とイサザの同位体の経年変化
 3.4 日本人の文化の変遷
 3.5 新しい環境指標としてのδ15N
4.展望
 4.1 集水域の「健康診断」に関する新しい方法
 4.2 安定同位体と放射性同位体を用いた「時間軸」を組み込んだ食物網
5.おわりに
参考文献


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