酒井・松久(1996)による〔『安定同位体地球化学』(5p)から〕


同位体比と同位体分別係数の表わし方
同位体比
 本書で扱われる5つの元素の安定同位体組成を表K-1に示した。僅かな同位体組成の変動をわかりやすく表わすためには同位体組成よりはある標準試料に対する同位体比の千分率偏差(‰、パーミル)を用いた方が便利である。水素の場合を例にとろう。水素化合物Aの同位体比は次式で定義されるδで表わされる。
     δD=[(RA/RS)−1]×1000‰     (K-1)
但し、RA、RSはそれぞれAと標準試料Sの同位体比D/Hである。同じ表現が他の元素についても用いられる。但し同位体が3種以上ある元素では最も存在度の高い同位体がRの分母となる。国際的な比較を可能にするためにはRSとしては国際的に認められた共通試料の同位体比が用いられる。表K-2にそれぞれの元素について一般的に用いられ、かつ本書でも特に断わらない限り使用される標準試料をまとめた。表K-1の同位体組成はこれらの標準試料に対するものである。酸素に対する標準試料としてはSMOWとPDBの2つが挙げられているが、本書では特に断わらない限りSMOWが採用されている。PDBとSMOWの関係については4-2節の海水の同位体比でより詳しく説明される。
表K-1 本書で扱う元素の同位体組成
H C N O S
1H 99.9844%
2D  0.0156
12C 98.89%
13C  1.11
14N 99.64%
15N  0.36
16O 99.763%
17O  0.0735
18O  0.1995
32S 95.02%
33S  0.75
34S  4.21
36S  0.02
表K-2 安定同位体地球化学のための国際標準試料
元素(記号) 標準試料 備考
H(δD*
C(δ13C)
N(δ15N)
O(δ18O)
S(δ34S)
SMOW
PDB
大気窒素
SMOW、PDB
CDT
標準平均海水(Standard Mean Ocean Water)
米国南カロライナ州ピーディー層産箭石化石(CaCO3
大気を精製して得たN2(Arを含む)
海水の同位体比の項を参照せよ
Can(注:nの頭に〜)on Diablo 隕鉄中のトロイライト(FeS)
*δ2Hと書くこともある。


同位体分別係数
 αB-A=RB/RAを物質AとBの間の同位体分別係数と呼ぶ。AとBの間に同位体交換平衡が成立している場合には特に同位体交換平衡定数と呼ぶこともある。同位体分別係数は一般に1に近い数値をとる。/1000を1より十分小さい数とすれば、同位体分別係数を、炭素を例として、次のように表わすことができる。
     lnαB-A=ln(1+B-A/1000)≒B-A/1000     (K-2)
 また式(K-1)からαB-A=(1+δ13CB/1000)/(1+δ13CA/1000)であるから、一般に次の近似式が成り立つ。
     1000 lnαB-AB-A(‰)≒δ13CB−δ13CA     (K-3)』



戻る