木下亀城(1962)による〔『原色鉱石図鑑<増補改訂版>』(85-96p)から〕


T 概説
U 鉱物鑑定法
V 肉眼鑑定
W 顕微鏡による鑑定
X 鏡検分析法
Y 主要不透明鉱物の鉱石顕微鏡的性質
Z その他の鑑定法
[ 鉱物の成因と構造
\ 鉱物の組成と産出状態
] 鉱床の賦存個所
付録
 第1表 ミネラライトによる蛍光
 第2表 主要鉱石鉱物の顕微鏡的性質
 第3表 府県別鉱山一覧表
 第1図 非鉄金属鉱床分布図
 第2図 鉄・鉄合金鉱床分布図
 第3図 非金属鉱床分布図


V 肉眼鑑定

 鉱物を手にとって、その鉱物名を即座に且つ直感的に決定する方法で、鉱物入門の第一歩から終生まで経験を積んでも満足することができない。それなのに肉眼鑑定が重宝がられ利用されるのは、誰でも僅かな知識と簡単な実験で容易にできるのと、鑑定に要する時間が少いということ、何千種という鉱物の中で、普通に産するものは割に限られており、肉眼鑑定で十分鑑別ができることが多いからである。しかし肉眼鑑定は鉱物鑑定の最後のものでなく、若しこれで鑑別のつかね時は、他の精確な方法でこれを決定すべきである。
 肉眼鑑定にも、虫眼鏡やその他の簡単な器具類を用いることがあり、また極めて簡単な実験を行うこともあるが、器械や薬品に余り頼らないで主に五感の働きによる。五感のうちでも、鼻(臭い)、耳(音)、口(味)、肌(手ざわり)で分かるものもあるが、大抵は目を使うことが多いので、物理的、化学的な鑑定方法に対して肉眼鑑定というのである。肉眼鑑定では目による観察が主となるが、手触り、冷たさ、硬さ、比重、鎚(つち)でたたいた時の手ごたえ、噛(かじ)った時の歯ごたえなど、あらゆる特徴を掴(つか)むことが必要である。こういう特徴を直ちに頭の中で総合できる様に修練体得することが、肉眼鑑定には最も必要であり、修得した知識経験を自由に駆使することができるか否かによって、肉眼鑑定の巧拙を生ずる。この肉眼鑑定ができないと野外で困るし、鉱山などで恥しい思いをすることもある。

1.鉱物の形
 形を見ただけで犬と猫とが区別され、烏と雀とが区別できる様に、鉱物も固有の形をしておれば、その形を見ただけで鑑定できることがある。形には個々の結晶の形と集合体の形とがある。

 1)結晶の形
 殆んど総ての鉱物は結晶している。その結晶の形、特に結晶面の面角はそれぞれ鉱物によってきまっているので、測角器を使って精密に面角を測定すると、鉱物名を明らかにすることができる。しかしこの方法は肉眼鑑定には用いられない。
 鉱物が形によって6つの結晶系に分けられることは、鉱物の分類の所で述べたが、結晶系の特徴を掴(つか)み、どの結晶系に属するかを知ることは、肉眼鑑定でも必要である。初歩の人が結晶に対する時は、限りなく多様に見え、記憶に望みのない様に思うが、形の大体に着眼して細かい造作を度外視すれば、その中に多くの類似点を発見することができる。始めから多くの結晶形を学ぶ必要はない。博物館以外には殆んど出会わないものを取り去り、普通の形だけを見れば、結晶の要点を知ることは困難でない。
 また、どの結晶系に属しているかに拘らず、尖(とが)った形(錐状)をしているか、細長い形(柱状)をしているかという、結晶の癖(くせ)、すなわち晶癖 crystal habit も特徴になることがある。
 “名は体を表わす”と古くからいわれるが、鋭錐鉱、錐輝石などは錐面が発達して錐状 pyramidal を呈する。錐面というのは隣同士の面が平行せず、且つ結晶を直立させた時、同じ傾きをもつ面である。斧石は錐面が発達している訳でないが、その名の示す様に、その結晶は鋭く尖っている。
 平行する面が等しくある方向に伸びた結晶は柱状という。紅柱石、緑柱石、柱石などがその例である。柱状の結晶の細くなったもの、あるいは傾きの頗る急な錐面からなり、あたかも針の様になったものが針状である。針ニッケル鉱、針鉄鉱などはその名の通り針状である。電気石にもこの形をしているものがある。針状が一層細くなって毛髪の様になったものを毛状という。毛状を呈するため、毛鉱、毛赤銅鉱、毛塩鉱などと名のついた鉱物がある。
 一対の平面が他に比べてずっと大きくなると板の様になる。この様なものは板状で、板チタン石、板温石など何れも板状を呈する。板状の極く薄くなったものは葉片状、葉片状の小さいものを鱗片状という。葉片状をなすものに葉片状赤鉄鉱、葉片状滑石があり、鱗片状をなすものに鱗石英、鱗状黒鉛などがある。
 前後、左右、上下共にほぼ同じでコロコロした形のものを等方形といい、方沸石(ほうふっせき)、方鉛鉱、方曹達(そうだ)石などはその例であり、黄鉄鉱、磁鉄鉱、柘榴(ざくろ)石など等軸晶系の鉱物は皆これに属する。然し方解石は六方晶系で上下と、前後、左右とは形が異なる。

 2)集合体の形
 鉱物の外形を形容する言葉には次の様なものがあり、格別困難でない。また内部の構造の形容も簡単であるが、皆精密なものではない。
 集合体の外形のうち、主なものは、放射状(柱状、針状、葉片状などの結晶が一点を中心として、日光の様に四方に射出するもの。これに似た形で束状というのがある。藁(わら)を束ねた様な形で束沸石(そくふっせき)によく見られる)、樹枝状、苔(こけ)状、毛髪状(または線状)、球状、魚卵状、杏仁(きょうにん)状(やや扁平な球状で岩石中にポツンポツンと埋没しているもの、火山岩の気泡を充した玉髄や沸石(ふっせき)にその例が多い)、葡萄(ぶどう)状(球状の集合体で葡萄の房の様なもの)、腎臓(じんぞう)状(葡萄状より球が大きく扁平なもの)、乳房状、鍾乳状(球状、葡萄状、腎臓状、乳房状、鍾乳状は互に移り変わる)、豆状(球状の小さなもの、大体豌豆大)、球顆(きゅうか)状(火山岩中に含まれる球状体)。塊状、粒状、土状などで、その名称から連想できるものが多い。また鉱物の肌目の細かいものは緻密、きめの荒いものを粗鬆(そしょう)という。
 内部の組織に対しては、粒状、繊維状、並柱(へいちゅう)状(多くの柱状結晶が一方向に集合したもの。即ち繊維状の太くなったもの)、葉片状などがある。しかし集合体の形は鑑定(かんてい)には格別重要でない。

2.光に関係のある性質
 1)光沢
 光沢というのは艶(つや)のことである。肉眼鑑定には色と光沢が一番役立つことが多い。光沢は二つの基準によって分けられる。一は種類であり、今一つは強弱である。
 種類には金属光沢、亜金属光沢、非金属光沢の3種がある。鉱山で掘っている鉱石は、大抵金属光沢で不透明である。金、銀、銅の様な元素鉱物は金属光沢を持っており、それ等の酸化物および硫化物も金属光沢のものが多い。しかし鉄マンガン重石などは金属光沢より光輝が劣り、次の非金属光沢との中間の光沢を持っている。この様なものを亜金属光沢という。非金属光沢には、金剛光沢、玻璃(はり)光沢(または硝子光沢)、樹脂光沢、絹糸光沢、真珠光沢、脂肪光沢、蝋(ろう)光沢などが一括される。このうち金剛光沢は、金剛石、白鉛鉱、ジルコンなど、強く光を屈折する透明のものに見られ、玻璃(はり)光沢は石英の様に無色透明のものに多い。樹脂光沢は金剛光沢と玻璃光沢の中間の光沢で、鉱山で坑夫達がヤニと呼ぶ鉄に乏しい閃亜鉛鉱は、名の如く標式的の樹脂光沢をしている。脂肪光沢、蝋光沢も類似のもので、脂光石、蝋石(ろうせき)などに見られる。絹糸光沢は繊維状鉱物を繊維に平行に見た時に、また真珠光沢は劈開の著しい鉱物によく見る。繊維状鉱物をこれに直角に見た時は、ビロード光沢を呈する。細かい鱗片結晶の集合も同様の光沢を現わす。この外、土の様な鈍い光沢を土状光沢といい、全然光沢のないものを無艶(むえん)という。
 光沢の強さにも顔の写る様な強いものがあり、輝安鉱の劈開面に見られる。燦光(さんこう)というのがそれである。これに対して物の影がボンヤリ写るが、その形のよく見えないものを耀光(ようこう)、物の影は写らぬが何となくボンヤリした光のあるものを閃光、反射が不充分で光沢に乏しいものを微光、全然光沢のないものは無光沢(すなわち無艶(むえん))と区別する。といっても相互の間にハッキリした区別や標準がある訳ではない。一般に結晶したものは塊状のものよりも光沢が強い。尚同一の鉱物でも、外観を異にするに従って光沢を異にすることがある。例えば、赤鉄鉱はりっぱな結晶をなす時は金属光沢で燦光を放つが、鋼灰色塊状のものは亜金属光沢、赤色土状のものは無艶である。また一つの結晶でも面によって光沢を異にすることも多い。魚眼石の結晶を底面の方から見ると、青白く底光りがして魚の目の様な真珠様の光沢を放つので、この名が付けられた訳だが、錐面は玻璃光沢、柱面は樹脂光沢を有する。

 2)色
 光沢と同様に鉱物の色は鑑定に役立つ重要な性質である。というのは色は鉱物によって大抵きまっているからである。しかし不純物が混じるとかその他の影響で、自分自身の持ち前の色を呈しないことがあるから注意を要する。
 鉱物自身の本来の色を自色といい、金属鉱物や薄片にしても不透明のものに自色が多く、金、銀、銅や、方鉛鉱、黄銅鉱、硫黄、鶏冠石、孔雀石(くじゃくせき)などはいつも自色を呈する。それに引かえて、水晶、方解石、蛍石の如く無色または白色の鉱物が、微量の夾雑物その他の影響で別物のように色の変わるものは、他色または仮色という。非金属鉱物とくに透明度の高いものにその例が多い。石英(水晶)に紅、黒、紫、黄、褐、緑などいろいろの色のものがあり、鋼玉がルビー(紅)、サファイヤ(青)、東洋エメラルド(緑)、東洋トパーズ(黄)、東洋アメシスト(紫)など、名称の異なった宝石となったりするのもその例である。しかし他色の場合、色は異なっても物理性は全く同じである。
 鉱物の色を示すには、同じ黄色といっても金と硫黄とはまるで違うので、金属様の色には金属の名をつけて、金黄色とか、銀白色とか、銅赤色とか、鋼灰色などと呼び、同じ緑でも草緑色とかオリーブ緑色とか区別し、黄色はレモン黄色、酒黄色などと記す。白色でも雪白色、乳白色、真珠白色などと形容するが、この方がピッタリする。
 普通の金属鉱物の色を大別すると、白、灰、黒、黄、褐、紅の6色が数えられ、非金属鉱物にはこの外、青、緑および無色がある。色に濃淡のある時は、濃、淡、明、暗、深、浅などの字をつけて区別する。また二色の中間の色を示す場合は、主な色に付随した色を冠して、黄緑色、帯紅白色などという。
 鉱物には桃色、青、紫のものは甚だ少いので、若しこれ等の色のある時は鑑定の範囲が限られて、鑑定上大いに便利である。しかし鉱物の色を形容する言葉には、平常見ない合金の色や、外国の鳥の羽根の色などに譬(たと)えた難解なものがあり、まだ曖昧(あいまい)複雑なものも少くない。これは形容のできない色を表わそうとする為で、ある本には黄と書き、他の本には赤と書いてある類である。赤色の鉱物に赤銅鉱、紅柱石などの名のついたものがあるが、この赤と紅との区別には特別の意味はない。鉱物の色を区別するには、染物屋などで用いる限りなく多い色は、格別必要としないが、多色性などでは極く少しの差を論ずる必要がある。
 同じ鉱物でも濡れた時と乾いた時、粗面の時と磨かれた面の時、日光で見た時と電燈その他の燈下で見た時、結晶の時と集合体の時とではそれぞれ色が異なる。例えば緑簾(りょくれん)石の結晶は暗緑色を呈するが、集合体は黄緑色である。また他色の中には加熱したり、日光に曝(さら)したりすると色が褪(あ)せたり、色が無くなったりするものがある。黒水晶、紫水晶、有色の黄玉、ジルコンなどにその例がある。尚鉱物には太陽に直射されると変色するものがある。角銀鉱は白色から黒色に変わり、藍(らん)鉄鉱は白色から藍青色になり、緑マンガン鉱は緑色から黒変する。同じく色の名を冠した鉱物名でも、藍鉄鉱の藍は変色後の色であり、緑マンガン鉱の緑は変色以前の色である。
 なお単に分解、風化、脱水、変質などのより、表面またはヒビに沿って変色していることがある。鉄、ニッケル、コバルト、銅などを含む鉱物では、この分解による色が特徴となることがある。この他宝石などでは加熱したり人工的に着色したりして色を変えることもある。

 3)条痕
 鉱物を粉末にした時の色である。一つの鉱物でその色はいろいろに変化するが、条痕の色は大抵一定している。また鉱物の色と条痕色とは著しく異なっているものが多いので鑑定に多く利用される。
 条痕を調べるには条痕板か、茶碗や皿の破片の粗面、釉薬(うわぐすり)のかかっていないイトゾコを用いる。調べる鉱物はできるだけ純粋のものを選ばねばならない。他の鉱物が付着していると、その物の条痕と見誤り易い。また条痕を調べる時は、墨をする様に無暗に鉱物をすりつけず、短かい線を一本引けばよい。それも条痕板の端の方から少しずつ調べ、全部汚れたら塩酸か硝酸で洗い落すか、磨砂でこすって元通り白くする。細鱗状に剥げ易い鉱物では、真の条痕の見難いことがあるが、この時は之で磨いた条痕板を軽く拭きとり、後に残った微粉を注目する。粉状の鉱物の条痕を検するには、杉箸の先で磨りつけて条痕を作るがよい。
 昔から金の良否や真偽を試すには試金石を用いた。試金石というのは碁石(ごいし)に用いられる黒い硬い珪板岩(けいばんがん)で、俗に那智黒(なちぐろ)といわれるものである。この上に細い筋をつけ、それに硝酸をかけると、銀や銅が溶けて金だけが残る。この色合で金の純度をきめるのである。輝水鉛鉱と石墨とを区別する時には、白い釉薬(うわぐすり)のかかった陶磁器を用いることがある。その上につけた石墨の条痕は真黒なのに、輝水鉛鉱では稍緑色を帯びた灰色である。戦前満州土産に持ち帰った黒ダイヤ(鏡鉄鉱(きょうてっこう)を磨いたもの)の指輪やカウス釦(ぼたん)は、鋼灰色で強い金属光沢を放つが、その条痕色は赤鉄鉱のそれと同じく暗赤色である。この様に天然色と条痕色の著しく違う数種の実例を挙げると次の通りである。
  硫砒(ひ)鉄鉱 鏡鉄鉱 黄銅鉱 黄鉄鉱 クローム鉄鉱 硫マンガン鉱 鶏冠石 輝水鉛鉱
天然色 銀白色 鉄黒色 金黄色 金黄色 鉄黒色 黒色 鮮赤色 鉛灰色
条痕色 灰黒色 暗赤色 黒色 黒色 淡褐色 緑色 橙色 緑灰色

 第三紀の火山岩に伴なう石英質金銀鉱脈では、銀分の高い部分が石英中に黒い筋をなすことがある。俗にこれを銀黒(ぎんぐろ)(5図版1,2,3:略)という。この銀黒と外観酷似しながらも全く銀を含まぬものがある。ニタリといわれるのがそれで、極めて微粒状の黄鉄鉱などを含むためである。ニタリの黒色なのは黄鉄鉱などの条痕色である。またクロームの鉱山では、鉱石を探すのに鉄鎚で石を敲(たた)き回り、石に白い粉ができるものを駄目とし、褐色の粉が出ればサビといい、鉱石のある証拠だとしている。この褐色のサビはクローム鉄鉱の条痕色である。我々が白墨や鉛筆で書くのも、結局この条痕色の利用で、それを日常化したものである。

 4)透明度
 鉱物が光を透す程度を透明度という。これはその鉱物が光を吸収する量の多寡(たか)に関係し、その程度によって次の様に区別する。
 (1)「透明」 鉱物を通して向う側にあるものの輪郭がはっきり見えるもの。つまり透き通るもの。水晶、ガラスなどがそれで、無色または淡色のものに多く、濃色のものに少ない。また金属光沢のものには透明なものはない。
 (2)「半透明」または「亜透明」 鉱物を通して向こうにあるものが見えるが、その輪郭の明瞭でないもの。
 (3)「玲瓏(れいろう)」 光を透してこれを光にかざす時、内部がポーッと明るく見えるが、向う側にある物は全然見えないもの。例、軟玉。
 (4)「不透明」 全く光を透さないもの。金属光沢を放つものは殆んどこれに属する。しかし之等の区別は比較的のもので、ハッキリした区別はない。塊で不透明なものでも、これを薄くすると透き通る。クローム鉄鉱の塊は帯褐色または鉄黒色だが、薄い破片は時に黄赤色に見えることがある。普通岩石を構成している鉱物も不透明だが、0.02〜0.03mm位の薄片にして顕微鏡下で見ると、透き通って見える。これ位の厚さでも金属光沢を持つものは不透明である。しかし金属光沢を持った鉱石でも、うんと薄くすると、やはり光を通す。例えば金を敲き延して金箔(厚さ1/9000mm位)にすると、透き通って緑色になる。

 5)光彩
 いろいろの原因で美しい色を現わすものがある。これを光彩といい、次の様に分けられる。
 (1)「蛋白彩」「蛋白光」または「乳彩」 鉱物の内部から乳色若くは真珠色の反射をなすもので、蛋白石や猫目石(ねこめいし)にしばしば見られる。
 (2)「閃彩」 猫目石の様に丸く磨いた球の表面に、真ん中に一本白い光が出て左右に動かすとこの光も動くもの。これは石の内部に、石綿の様な細い繊維質の鉱物を含むために生ずる現象である。虎目石(とらめいし)も同様な黄褐色の縞目を現わすのが普通だが、時に緑、紫のものもある。
 (3)「星彩」 ある方向から見た時、星の様な光彩を認めるもの。すなわち1本の光でなく、3本の光が交叉して6本の光が出るもので、スターといって貴ばれる。ルビーやサファイヤなど、六角の結晶で内部に規則正しい隙き間がある時に、反射によってこの様に光る。
 (4)「遷彩」または「遷色」 朝鮮産の月長石の結晶を前の方から見ると、美しい青色に燦き、北米のラブラドル長石は、ある方向からは藍(あい)色の素晴しい光を出す。この変色は遷彩といわれ、内部の構造から出る色である。
 (5)「変彩」または「遊彩」 金剛石の光のことで、その研磨品は内部からの反射の光で目も眩むばかり。古来いつの時代にも一番貴ばれて来た。これは屈折率の高いことと、カットの形式とが相俟って得られる光輝で、宝石によっていろいろの磨き方がある訳である。古諺にも「玉磨かざれば光なし」という。
 (6)「暈色(うんしょく)」または「虹色(にじいろ)」 鉱物の内部または表面に於て虹色を呈することで、ある場合には結晶が微細な不純物を含むために起こるが、多くは劈開片が甚だ薄いために、それから反射する光線が干渉して起こるもので、透明な石膏の劈開片や雲母などに見られる。
 (7)「錆色(さびいろ)」 鉱物を大気中に永く放置すると、表面の色が変化して新しい破面の色と著しく異なることがある。この表面の変色を錆色という。斑銅鉱はこの錆色の著しいものである。

 6)発光性
 鉱物に光を当て、熱を加えまたは電気を通ずる時に、その鉱物がそれ自身の色とも、また当てた光の色とも異なる色を出すことがある。これを一般に発光性といい、光の時に「蛍光(けいこう)」または「燐(りん)光」という。蛍光は光をとり去ると同時に光の消えるもの、燐光は発光が尚しばらくの間続くものをいう。熱の時は熱発光という。蛍光はその代表的なもので、その粉末を炭火上に落すと、蛍の様な光を放つ。しかし熱発光性と硫黄を火中に投じた時に見られる燃焼とを混同してはならない。また蛍石や方解石では、これを熱すると爆跳して覗き込んでいる者の顔に跳ることがあるから、試料はなるべく粉末にするといい。
 発光性には、この外、摩擦、打撃、紫外線、陰極線によるものなどがある。また雲母や劈開面に沿って強く引き裂く時にも蛍光を発することがある。しかし最も応用範囲の広いのは紫外線によるもので、特に2500オングストローム以下の短波長が鉱物鑑定に有効であり、最近では鉱物探査用にも利用されている。これにはミネラライトという装置(写真頁・\-36:略)が用いられる。
 ミネラライトで発色する鉱物のうちには、固有の蛍光を放つものもあるが、またその中に含まれる少量の不純物によるものもある。例えば方解石には通常蛍光を認めないが、少量のマンガンを含むと赤色を呈し、珪酸(けいさん)亜鉛鉱の緑色に輝くのもマンガンの存在による。またウラニウムを含むものは緑色の蛍光を発するものが多い。ミネラライトによる蛍光の色については巻末の第1表を参照されたい。

3.凝集力に関係のある性質
 1)硬度
 鉱物は硬くて重いものにきまっている。もっとも、硬いといってもいろいろの種類の硬さがあるが、鉱物の硬度というのは鉱物の平たい面を引き掻いた時の抵抗のことである。これが鉱物によってそれぞれ異なるので、この硬さの相違が鉱物鑑定の重要な要素になる。
 この硬さを測るには、標準になる物差が必要である。普通次に掲げる10種の鉱物を硬さの順に並べ、それを標準にする。
 
1度 2度 3度 4度 5度 6度 7度 8度 9度 10度
滑石 石膏
(せっこう)
方解石 蛍石 燐灰石
(りんかいせき)
正長石 石英 黄玉 鋼玉
(こうぎょく)
金剛石
 これは1820年頃モースが決めた標準なので、一般にモース硬度計といい、現在広く用いられている。ここで1度とか2度とかいうのは、単に硬軟の順序を示すだけで、石膏は滑石より2倍硬いとか、方解石の硬さは鋼玉の1/3しか無いということではない。
 硬度を測るには先ず硬度計のうち適当なものを選び、その鋭い稜で測ろうとする鉱物の平な面を軽く引き掻いてみる。若し傷が付かなかったら、硬度計より測る鉱物の方が硬いのである。その時は一つ度の高い鉱物に取り換えて、更らに硬度を検する。かくて順々に試み、測られる鉱物が傷付けられ、同時にまた硬度計の鉱物が測られる鉱物から傷付けられると、この両者は硬度が等しい。しかし鉱物の硬度はいつも硬度計とキッチリ一致するとは限らない。或鉱物が蛍石には傷をつけるが蛍石からは傷つけられず、また燐灰石からは傷つけられるが燐灰石には傷をつけぬといった場合には、その鉱物は燐灰石よりは軟く蛍石よりは硬い。この様な時はその鉱物の硬度を4.5と書く。4.5というのは、この鉱物の硬さが4と5との丁度中間にあるというのではなく、単に4度より高く5度より低いというのに過ぎない。だから4.3だとか5.8という様な硬度はない。
 モース硬度計がなかったら代用品で間に合わせるがよい。代用品では爪が2.5度、銅板が3度、ガラスの破片が5.5度、小刀は6度である。普通の鉱物の硬度は6度までで、7度以上のものは数える程しかない。だから上記の代用硬度計と水晶のかけらを持っておれば、大抵間に合う。
 なお硬度を測る時には、次の様なことに注意せねばならない。
 (1)鉱物の硬度を調べる時は、硬度計の低いものから順次高いものに及ぼすのがよい。硬度の測定に限らず、鉱物の標本は何時でもできるだけそこなわない様に心掛けねばならない。硬度計の低い方から試みると、標本に細い短かい線を一本つけるだけで済むが、そうでないと標本に何本も傷がつく。
 (2)硬度計にする鉱物はできるだけ結晶で純粋なものを選ぶべきである。例えば石膏(せっこう)なら透明な結晶か劈開片を用い、雪花石膏や繊維石膏は避けた方がよい。
 (3)微粒状集合体のものは、しばしば粉末が分離し、その粉末が掻傷に似たあとを作るため、実際の硬度より低く見誤り易い。
 (4)傷をつける面は成るべく平面を選ぶこと。でこぼこのある面は傷が分かり難い。
 (5)傷をつける時は烈しく衝(つ)いたりせず、力を入れずに尖った部分で軽く引き掻き、必要以上の傷をつけないこと。
 (6)分解している部分は常に硬度が低下しているから、必ず新鮮なものを選ぶか内部の新鮮な部分で試みること。そうでないと正確なことは分からない。
 (7)軟い鉱物で硬い鉱物を掻く時は、軟い鉱物が粉末になってあたかも掻傷に似た筋(すじ)を作ることがある。それ故、一応は指で拭いて見て、真に傷がついているか否か確めること。
 (8)粉末状の鉱物の硬度を試みるには、2枚のガラス板の間にはさんでガラスを磨り合わせ、ガラスに傷がつくかどうかを注意する。
 (9)硬度計と試料の硬度とが著しく異なる時は、軟い鉱物につく傷は大きい。また硬い鉱物を軟い鉱物で引き掻いても、ツルツルして手応えがない。両者の硬度の差が著しくない時の傷は小さい。
 (10)同じ鉱物の同一結晶面内でも、方向によって硬度が異なることがある。藍晶(らんしょう)石ではc軸に平行だと4〜5度、これにほぼ直角の方向では6〜7度で甚しく異なるので、二硬石とも称される。しかし他の鉱物ではその差は極めて少い。
 硬度を鑑定に利用するには、鉱物を硬度の順に並べた表があると便利である。なお硬さすなわち硬度の大小と、堅さ(または固さ)、すなわち強靭(じん)さとを混同してはならない。金剛石はあらゆる鉱物に冠絶する硬さを持つが、急激に鉄鎚で敲(たた)くと容易に破片となって飛散する。バラ輝石の硬度は5.5に過ぎないが、大塊を鉄鎚で割る時の困難さは、マンガン鉱山で誰でも経験するところである。従って硬軟と強靭、脆弱とは全然別物である。

 2)劈開(へきかい)
 鉱物は凝集力、すなわち分子の結合力の弱い方向に垂直に割れ易い。この性質を劈開といい、その割れる面を劈開面という。劈開の方向は常にその鉱物の示す結晶面に平行かまたは密接な関係があり、鉱物の種類によって特有なものである。それ故劈開の程度と方向は鉱物鑑定上大切な手がかりとなる。
 劈開の方向を表わすには結晶面の名称または記号を用いる。例えば蛍石の劈開は八面体という。これは蛍石の劈開でできた形、すなわち劈開片が八面体になるということでなく、八面体に平行に劈開するということである。また劈開の程度には、(1)完全 例、方解石、方鉛鉱、雲母など、(2)明瞭 例、重晶石、角閃石など、(3)不完全 例、燐灰(りんかい)石などがある。この外石英や磁鉄鉱の様に全然劈開のないものもある。
 鑑定上最も大切なのは劈開の方向で、これによって鉱物を鑑定し得る例は甚だ多い。例えば、タングステンの鉱物の鉄マンガン重石とタンタルの鉱物であるコルンブ石は共に黒色板状で比重も重いが、前者は板に直角で且つ長い方向に完全な劈開があるのに、後者では全然劈開がないので容易に区別できる。
 また裂開(れっかい)parting といって劈開の様に平面で割れることがある。劈開と誤られ易いが、劈開の様に同じ鉱物なら必ず発達しているとは限らない。劈開や裂開で生じた面は滑かで光沢があり、天然の結晶面との区別は困難でない。

 3)断口
 劈開の完全でない鉱物を鉄鎚で敲(たた)くと、劈開(へきかい)以外の方向に割れる。この割れ口を断口といい外観によって次の様に分けている。
(1)貝殻状 conchoidal、貝殻に似た同心円の模様を示すもの。(2)平坦 even、(3)参差(しんし)または不平坦 uneven、(4)鍼(はり)状 hackly、鋳物を叩き割った時の割れ口の様に、多くの鋭い尖端を有するもの。(5)多片状 splintery 紙を重ねた様なもの、若くは繊維状のもの。(6)土状 earthy 粘土を割った時の割れ口。しかし同じ鉱物でも叩(たた)き方によっていろいろの割れ方をするので、断口は鑑定には余り重要でない。

 4)粘靭性
 外力を加えた時これに対する鉱物の動作を粘靭(じん)性 tenacity といい、いろいろある。
 1) 方解石や黄鉄鉱の様に鎚で叩(たた)けば、破片または粉末になるものが脆弱(ぜいじゃく) brittle、この反対に珪灰石、バラ輝石の様に堅くて鎚でなかなか割れないのが強靭(きょうじん) tough で、結晶の入り乱れたものに多い。
 (2) 銅や輝水鉛鉱の様に小刀で切れるものは柔軟あるいは可切性 sectile、脆弱と柔軟の中間のもの、すなわち小刀で切れるが鎚で叩いて粉末になるものをドイツでは mild(マイルド)という。日本語や英語にはこれに相当する言葉はない。
 (3) 金や銅の様に鎚で叩(たた)いて箔(はく)にすることができるものを展性 malleable という。
 (4) 金、銀、銅の様に引き伸ばして線にできるものを延性 ductile という。
 (5) 外力を加えると曲がるが、その力を除くと元に戻るのが弾性 elastic。例、雲母。
 (6) 輝水鉛鉱の様に弯(わん)曲後原状に復帰せぬものは弯曲性 flexible といわれる。

4.比重
 硬さと共に重いことは鉱物の特徴である。しかし重さは大きさにも関係するので、重さが特徴というのはおかしな話である。それにしても、地蝋(ろう)という鉱物はいくら大きく重くても水に浮ぶ。それは同容積の水より軽いからだ。この様に同容積の水の重さに比べた鉱物の重さが比重 specific gravity である。比重は時として重要な特徴になる。ウラニウムの鉱石の閃ウラン鉱は甚だ重く、琥珀(こはく)は驚くほど軽い。これを測るにはいろいろの方法がある。
(1)メートル・グラスを用いる方法
 アルキメデスの原理によると、液体中にある物体は同体積の液体の重さだけ重量を減ずるので、この理を応用して比重を測ることができる。すなわち、最初鉱物の目方を測り、次に水に入れたメートル・グラスの中にその鉱物を投入し、水の量がどれだけ増したかを測れば、
   比重=空気中での鉱物の目方(g)/水の増量(cc)
(2)比重秤を用いる方法
 比重秤は大体の値を簡単に測定する装置である。初め比重秤の杆(さお)を水平になる様に錘(おもり)を適当の位置に置き、次に上の皿に鉱物を乗せ錘を動かして杆が水平になった時の読みをnとし、さらにその次に鉱物を水中の皿に移し錘を移動して再び杆が水平になった時の読みをn'とすると、
   比重=n/(n−n')
(3)バネ秤(第1図:略)を用いる方法
 これも簡単に比重を知る装置である。バネの下に2枚の皿がついている。最初鉱物を乗せずに空の時の読みをa、上皿に鉱物を乗せた時の読みをn、下皿に鉱物を移し水を入れたビーカーに沈めた時の読みをn'とすると
   比重=(n−a)/(n−n')
(4)通常の天秤を用いる方法
 普通の通り鉱物の目方Wを測り、次に三角架を用いて皿に触れぬ様に杆の端の直下に水を入れた容器を置き、鉱物を細い糸で杆の端につるし水中での鉱物の目方W'を秤る。それから
   比重=W/(W−W')
(5)比重瓶(第2図:略)を用いる法
 比重瓶のみの重さaを秤り、次に鉱物を比重瓶に入れてその重さWを秤る。その次にその中に水を入れ、温めて気泡を全く除いてから冷し、全体の目方n'を秤り、さらに鉱物を取り出し水のみを充した時の目方nを秤量すると、
   比重=(W−a)/(n+W−a−n')
(6)重液を用いる方法
 鉱物が丁度重液の中に自由に懸垂できるまで重液を薄め、後にこの重液の比重を秤って間接に定める。水に溶けたり、化学変化を起こす鉱物はこの方法による。
 この中で器械など不要で一番簡単なのは(1)の方法で、写真の現像などに使うメートル・グラスだけあればよいので便利である。測定値は小数下1位でさえ怪しいことがあり粗雑なことは免れぬが、鉱物の鑑定には結構これで間に合う。
 なおこの方法で比重を測定する場合には、次の点を注意すること。
1.胆礬や岩塩の様な水に溶けるものは測定できない。また水と化学変化を起こさない鉱物でなければならない。 
2.氷や地蝋の様に水より軽いものも測れない。
3.鉱物をメートル・グラスに入れる時は、容器を傾けて辷り込ませ、けっしてドブンと投げ込まぬ様にすること。
4.測る鉱物が余り小さいと誤差が著しく大きくなるから、適当の大きさのものを用いること。
5.鉱物は純粋のものに限ること。
6.油などをつけぬ様に注意する。油をつけると重いものでも浮ぶ。
 このように鉱物の密度と、水の密度とを測って、その比から比重を決定することができるが、水の密度は温度によって異なることは誰でも知っている通りである。然し現在質量の単位は通常4℃に於ける水1ccによって定義されているので、鉱物の比重の場合も4℃の単位体積の水の質量を標準とする。だから、若し水の温度が4℃でなければ、これを4℃の水に対する値に補正せねばならない。鉱物が水より軽い場合には、鉱物を水中で秤量するために錘をつける。鉱物のみの空気中に於ける重さをμ、錘をつけて水中で秤った重さをx、錘のみの水中の重さをyとすれば、比重はμ/(μ+y−x)である。なお水に浮ぶからといって軽いものと思ってはならない、黄金でも水に浮ぶことがあるし、浮石は水に浮ぶが粉末にすると沈む。一般に金属鉱物は比重が高く非金属鉱物は比重が低い。外見に似ずに重い鉱物には、灰重石や重晶石などとその性質によって名のつけられたものもある。

5.その他の性質
 1)磁性
 馬蹄形磁石に吸い付けられ、また鉄粉や砂鉄を吸い付ける性質。磁性 magnetism の極めて弱いものまで入れると可なり多くの鉱物があるが、著しいのは磁鉄鉱、磁硫鉄鉱、白金位のもの。磁鉄鉱の鑑定には極めて重要である。

 2)味
 水に溶ける鉱物に限られるので味のあるものは少く、含水炭酸塩、含水硫酸塩、含水硝酸塩およびハロゲン化物などに限られる。鉱物の味は1.鹹味(かんみ)(例、岩塩)、2.アルカリ味(例、曹達)、3.酸味(例、アルノーゲン)、4.苦味(例、緑礬(りょくばん))、5.苦甘味(例、明礬(みょうばん))、6.冷味(例、硝石)。冷味というのを、水晶などを唇にあて冷たく感ずるのと混同してはならぬ。
 味は鑑定上大して重要視されないが、これで硫化物の分解の難易を知ることができる。多くの硫化物は分解すると硫酸塩ができて石に味がつく。この味のつく度は分解の難易に比例するから、外観上似た黄鉄鉱と白鉄鉱をなめて区別ができる。多くの場合白鉄鉱には渋味があり、黄鉄鉱には味がない。磁硫鉄鉱、硫砒(ひ)鉄鉱、硫砒ニッケル鉱、針ニッケル鉱、硫黄、鶏冠石なども分解し易く、そのためしばしば味がある。なお水に溶ける鉱物には有毒なものが多いから、味を見た後はすぐうがいすること。唾をのみ込んではならない。

 3)臭
 気化する鉱物でないと臭はない。従って天然に臭のあるのは石油位のもの。しかし熱したり、打撃を与えたり、摩擦したり、強く息を吹きかけたりすると臭を放つ。鉱物の臭には、1.砒(ひ)素を含んだ鉱物を火中に投じた時などに生ずる蒜臭(さんしゅう) garlic odor、2.硫黄を燃やす時に生ずる亜硫酸ガスの臭である硫黄臭 sulphurous odor、3.腐った大根の様な臭のするセレニウム臭 selenous odor、4.硫化水素に著しい腐卵臭 fetid odor、5.粘土に強く息を吹きかけた時に生ずる粘土臭 argillaceous odor、6.石油やアスファルトの放つ瀝青(れきせい)臭 bituminous odor などがある。

 4)熔融度
 硫黄(熔融度108℃)、輝蒼鉛鉱(同712〜720℃)、輝安鉱(同618〜555℃)などは蝋燭の火でも容易に熔けるが、古銅石(同1380℃)は吹管で長く熱して始めて熔ける。また石英(同1600℃)はいくら吹管で熱しても熔けない。こうした溶融度の違いも鑑定に使われることがある。
 鉱物の熱的の性質で今一つ鑑定に利用されるのは熱の伝導率 conductivity である。大理石の模造品には専門家さえ驚く程よくできたものがあるが、手に触れて冷やかに感じないので真物でないことが分かる。水晶とガラスとは外観が似ているが、唇に当ててみると水晶は冷たく感ずるが、ガラスにはその感じが少い。

 5)触感
 鉱物に手を触れた時の感じである。熱の伝導率もその一つだが、他にも次の様なのがある。
1.滑石や輝水鉛鉱などは脂肪または蝋の様につるつるするので、目をつぶっていても肌ざわりで或程度まで他の鉱物と区別できる。この様につるつるするのを脂感という。石墨を機械脂の代りに使ったり、滑石をタルカン・パウダーといって髭剃(ひげそり)のあとに用いるのは、この性質を利用したものである。
2.石灰華、珪華、褐鉄鉱の或種類の様に、ザラザラするものを粗雑感という。粗鬆(そしょう)なものに多い。

 6)放射能性
 ラジウムやトリウムを含む鉱物がもつ特殊の性質である。放射能性の強弱を詳しく測るのには、ガイガーカウンターかシンチレーションカウンターを使う。
 ガイガーカウンター(写真頁・\-33,34:略)の基礎部分は、ガラスまたは金属製の管に、ヘリウム、アルゴンまたはクリプトンを充して、その中央軸の金属条線と管壁との間に高電圧のかけてあるガイガー・ミュラー管である。これを放射能を発する鉱物の近くに置くと、放射線に感じて電流の脈動を起こす。この場合α粒子は管壁で止り、β粒子はそれより透過能が強いので、管壁を透して幾らか入り込む。γ粒子は一層よく透過し、その一部は封入されたガス分子に衝突して荷電粒子を生じ、残りの放射線は荷電された中央の条線に引かれて電気的脈動を生ずる。この脈動を増幅器で強めたものを、脈動とともに発光するネオン灯、カチカチという音を起こす聴取器、脈動の頻度を示す針のあるメーターなどで測るのである。
 シンチレーションカウンター(写真頁・\-35これ:略)はガイガーカウンターより一層敏感であるが、またそれだけ高価でもある。これもまた主にγ線を記録するもので、ガイガー管に於ける封入ガスの荷電効果の代りに沃化ナトリウム、沃化カリウムの様な結晶より発する閃光、すなわちシンチレーションを生ずる能力を測る様にしてある。シンチレーションカウンターでは、ガイガー管の代りに閃光を発する燐光体があり、これに取り付けた光電増倍管で電気的脈動に変え、増幅器で強めたものを記録計で測るのである。しかしネオン灯や聴取器はシンチレーションカウンターでは用いられない。
 ガイガーカウンターやシンチレーションカウンターを使わず、誰にでも手軽に放射能性の検出のできるのは写真乾板に感光させる方法である。黒い紙に包んだ乾板のい上に放射能をもつ疑いのある鉱物を載せたものを、かぶせ蓋のある箱に入れ、一週間位暗室内に放置した上で現像する。放射能があれば放射線の強弱に従って感光する。(写真頁・XI-41〜46:略)はこの様にして作った放射能写真 radiograph で、福岡県真崎産の標本では、ジルコンに比べて閃ウラン鉱の部分が著しく感光し、北投石でも白色の層と褐色の層とでは感光度が異なっている。また鳥取県人形峠産含ウラン砂岩(53図版7:略)では褐鉄鉱質部分が特によくガイガーカウンターに感じ、この部分にウランの含有の高いことを示すに拘らず、写真の乾板には余り著しく感光しなかった。これからも分かる様に放射能性の甚しく強力な場合以外はこの方法は有効でない。』

第1表 ミネラライトによる蛍光

蛍 光 色

鉱     物     名
紫・藤紫 電気石・ゴム石
曹微斜長石・(燐灰石)・霰石・(方解石)・〔天青石〕・蛍石亜鉛華・ナソン石・灰重石・重炭酸曹達石・銀星石
濃青 (紫水晶)・ベニト石・(方解石)
淡青 霰石・金剛石・〔瀉利塩〕・〔ハンクス石〕・〔水菱苦土石〕・〔透石膏〕
緑青 〔硼砂〕・〔透石膏〕
黄青 メタ銅ウラン石
瑪瑙・(緑柱石)・(方解石)・(玉髄)・コパル石・クラウフォード石・(カーチス石)・石膏・(岩塩)・蛋白石・玉滴石・木化蛋白石・曹珪灰石・シュロッキンゲル石・ウラン方トリウム石
輝緑 アダム石・珪酸亜鉛鉱
濃緑・暗緑 瑪瑙・(燐灰石)・(方解石)・(玉髄)・(石膏)
青緑 重晶石・(玉髄)・繻子石膏・ストロンシウム鉱・珪灰石
灰青・淡灰青 (天河石)・(方解石)・(白雲石)
淡緑・草緑 瑪瑙・(方解石)・(玉髄)・(金剛石)・(翠玉)・リシア雲母・(黄玉)・種々のウラニウム塩、ウラニウム鉱物
橄欖緑 (玉髄)
黄緑 瑪瑙・琥珀・燐灰ウラン鉱・(玉髄)・シュロッキンゲル石・βウラノピライト・銅ウラン鉱・ジョーン石・含ウラン玉滴石・ウラノフェーン・ウラノピライト・ジッペ石
(琥珀)・硫酸鉛鉱・(燐灰石)・魚眼石・(方解石)・斜晶石・銅重石・(白雲石)・(ハウ石)・クンツ石・曹珪灰石・パウエル鉱・プライス石・青玉・透石膏・テルリングア鉱・ジッペ石・毒重石
黄金黄 灰重石・透石膏・珪灰石
輝黄 カルシウムラーセナイトカーチス石・ウエルネル石
緑黄 (方解石)・銅重石
淡黄 ジアスポル・透石膏・シンプソン石
褐黄 (煙水晶)・地蝋
暗褐 紅鉛鉱
ハウ石
黄金褐・淡黄金褐 (曹長石)
赤黄 クンツ石
レモン黄 ウラニウム塩・ウラニウム鉱物
斜晶石・(金剛石)・弗素燐灰石・マンガン燐灰石・曹珪灰石・青玉・閃亜鉛鉱・風信子鉱
淡橙 (曹長石)・(方解石)
橙赤 方曹達石
黄金ブロンズ 沃銅鉱
褐赤 フオスゲン石
濃赤 (方解石)・黝輝石
輝赤 (方解石)
斧石・(方解石)・(金剛石)・岩塩・ヘキサゴナイト・天然ルビー・人工ルビー・青玉・赤色尖晶石・透閃石
ピンク (方解石)・ハックマン石・曹柱石・透閃石
(礬土石)
青白 〔白雲石〕・シンプソン石
灰白 明礬石
青灰 石灰芒硝
(燐灰石)・ジュモルチェル石
黄白 重晶石・アイエルホッフェル石
クリーム (方解石)・(カーチス石)・蛍石・異極鉱・亜鉛華
【註】 太字は顕著なもの。(  )は弱いもの、又は一定しないもの。〔  〕は燐光を発するもの。



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