生成順序と生成条件
@ 共生鉱物の生成順序(paragenesis)
(1)結晶形態と相互の粒界の関係(crystal morphology and mutual grainboundary
relationships)
- 一般に自形結晶は早期にしかも妨害されずに生成した場合に見られる。ただし、自形をとりやすい黄鉄鉱(pyrite)や硫砒鉄鉱(arsenopyrite)などはこの限りでない。
- 凸面(convex)をもつ鉱物粒子は凹面(concave)をもつものに比べて早期に生成した場合が多い。
(2)コロフォーム状縞状組織と成長累帯組織(colloform banding and growth zoning)
コロフォーム状縞状組織
- 開いた空間を充填した鉱石中に普通に見られる。
⇒鉄およびマンガン酸化鉱物〔マンガンノジュール、ウラン鉱物を含む〕、黄鉄鉱(pyrite)、閃亜鉛鉱(sphalerite)
- ゲル(gel)からの生成産物とされてきたが、最近では流体から直接晶出した細粒の繊維状結晶より形成される場合が多いと考えられている。
- 個々の縞は、層間に存在する異種鉱物、結晶の大きさ・形・方向の変化、および色の累帯模様などにより容易に識別できる。これらの変化は鉱液や沈殿条件の変動を反映している。
成長累帯組織
- 様々な型の鉱床に、また多くの鉱石鉱物によく見られる。
- マグマから生成したクロム鉄鉱(chromite)や磁鉄鉱(magnetite)は、マグマの変化を反映して組成および色の累帯変動を示す。
- 熱水から沈殿した鉱脈鉱物は明瞭な色の縞模様を示す。これは生成環境の変化が記録されたものである。また、同時に結晶中にとりこまれた流体や固相の包有物は生成順序についての情報を与える。
- 一連の鉱化作用で生成された鉱石について、広い範囲で縞状組織あるいは累帯組織のパターンの比較を行うことにより、層位学的に生成順序を検討できる。
- これらの組織の観察には、両面研磨薄片試料が最も適している。
(3)切り合い関係(cross-cutting relationships)
- 他の細脈あるいは鉱物を切る細脈は切られたものより生成時期は新しい。ただし古い方の鉱物が置換作用を受けている場合あるいは変成作用下での再移動で類似の組織が形成された場合は相当しない。
(4)置換(replacement)
- 置換している鉱物は置換されている鉱物より新しい。
- 置換は表面化学反応であるため、結晶の粒界から内部へあるいは破断面に沿って進行する。
- 置換の途中では、置換している鉱物は凸の境界面をもち、置換されている鉱物は凹の境界面をもつ。後者は前者の中に島状に残ることがある。
- 置換が完全に行われた場合でも、置換された鉱物が特有の形状をもっていた時は推定できる。普通、黄銅鉱(chalcopyrite)、銅藍(covelline)、あるいは針鉄鉱(goethite)が立方体の形を示していれば、黄鉄鉱(pyrite)の仮像とみなせる。
(5)双晶(twin)
- 成長双晶は温度・鉱液の過飽和度・カイネティクスに支配されるので、特定の鉱物の限られた粒子にのみ存在すれば、その鉱物についての生成時期の違いを区別するのに役立つ。
- 転移双晶の存在は最初に高温相が生成し、冷却の過程で少なくとも部分的な再平衡が達成されたことを示す。
- 変形双晶がどの鉱物に見られるかにより、鉱石の生成と変成作用の時期の前後関係が判断できる。
(6)離溶(exsolution)
- 離溶は合成実験により得られた相関係と比較することにより、生成順序ばかりでなく生成条件についても情報を与える。
- 早期(高温下)に離溶した鉱物は合体して母相の粒界に鎖状に集まり、晩期(低温下)のものは母相内にその結晶学的方向に沿いラメラや点滴(dots)として存在する傾向がある。
(7)不透明鉱物の産状とその生成順序
- 不透明鉱物の産状は主に次の4通りである。
【1】母岩(host rock)〔壁岩(wall rock)〕には、火成岩であれば初生の酸化鉱物が、堆積岩であれば砕屑(detrital)あるいは自生(authigenic)の不透明鉱物〔フランボイド黄鉄鉱(framboidal
pyrite)、チタン鉄鉱(titanium oxides)〕が含まれる。
【2】流体、揮発物、あるいはマグマの冷却に伴う主鉱化作用により形成された不透明鉱物の濃集体。いわゆる最も一般的な鉱石。
【3】被覆成長(overgrowths)および置換組織を示す、二次富化(secondary enrichment)〔浅成変質(supergene
alteration)帯中の〕相として形成された不透明鉱物。
【4】置換組織を示す、酸化および風化により形成された酸化物・水酸化物・硫酸塩・炭酸塩などの一員としての不透明鉱物。
- 通常の鉱物生成順序は【1】→【4】であるが、多くの場合の鉱床では【1】と【2】が主体である。
- 多くの鉱物では、その成因が異なれば晶相や化学組成なども異なる。
⇒黄鉄鉱(pyrite): 最早期のフランボイド→立方体→晩期のコロフォーム
A 生成条件(formation condition)
- 合成実験から得られた相図(phase diagrams)における相関係を天然産鉱物に応用することにより、温度・圧力〔全圧〕・酸素や硫黄の分圧などの生成条件を決定できる。
- 一般に相図を活用することは、以下の点の手助けとなる。
【1】出現する相の予想と認知、
【2】鉱石の化学性の傾向の認知〔鉱液の特性と時・空間での変動〕、
【3】反応およびある種の組織の特徴の理解〔例えば離溶〕、
【4】存在する相の間の相互関係の理解、
【5】平衡あるいは非平衡鉱物組合せの認知、
【6】鉱液の性質と鉱化作用時に働く機構の解釈、
【7】鉱石の形成あるいはその後の変成作用時の温度と圧力の概算。
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