鉱物の形・組織
1 構造と形態
@ 結晶の形と晶相・晶癖(crystal
form and habit)
自形(euhedral) |
黄鉄鉱(pyrite)、硫砒鉄鉱(arsenopyrite)、磁鉄鉱(magnetite)、赤鉄鉱(hematite)、鉄満重石(wolframite) |
他形(anhedral) |
黄銅鉱(chalcopyrite)、斑銅鉱(bornite)、安四面銅鉱(tetrahedrite) |
形の表現例
立方体の(cubic)、八面体の(octahedral)、板状の(tabular)、針状の(acicular)、柱状の〔平行配列した〕(columnar)、葉片状の(bladed)、繊維状の(fibrous)、コロフォーム状の(colloform)、雲母状の(micaceous)、柱状の(prismatic) |
1 |
針状の(acicular) |
赤鉄鉱(hematite)、輝安鉱(stibnite)、毛鉱(jamesonite)、金紅石(rutile) |
2 |
短冊状の(lath shaped) |
チタン鉄鉱(ilmenite)、赤鉄鉱(hematite) |
3 |
板状の(tabular) |
銅藍(covelline)、輝水鉛鉱(molybdenite)、石墨(graphite)、赤鉄鉱(hematite) |
4 |
菱形の(rhombic) |
硫砒鉄鉱(arsenopyrite)、白鉄鉱(marcasite) |
5 |
骸晶状の(skeletal) |
磁鉄鉱(magnetite)〔急速な晶出による〕、方鉛鉱(galena) |
6 |
isometric
forms |
立方体(cube) |
方鉛鉱(galena)、黄鉄鉱(pyrite) |
八面体(octahedron) |
クロム鉄鉱(chromite)、尖晶石(spinel)、黄鉄鉱(pyrite)、磁鉄鉱(magnetite)、方鉛鉱(galena) |
五画十二面体
(pentagonal dodecahedron) |
黄鉄鉱(pyrite)、黄鉄ニッケル鉱(bravoite) |
A 劈開と裂開(cleavage and
parting)
三方向の劈開が存在すれば、三角形の穴(pit)が生じやすい。方鉛鉱(galena)に特徴的に見られるが、ほかに磁鉄鉱(magnetite)、ペントランド鉱(pentlandite)、硫砒ニッケル鉱(gersdorffite)などにも観察されることがある。
B 双晶(twinning)
1 |
成長双晶(growth) |
白鉄鉱(marcasite)〔矢じり状〕 |
2 |
転移双晶(inversion) |
黄錫鉱(stannite)、硫銀鉱(acanthite) |
3 |
変形双晶(deformation) |
赤鉄鉱(hematite)、黄銅鉱(chalcopyrite)〔ラメラ状〕 |
2 組織
@ 初生組織(primary
textures)
(1)メルト(melts)からの生成
- 自形(euhedral)ないし半自形(subhedral)をとりやすい。
⇒クロム鉄鉱(chromite)、磁鉄鉱(magnetite)、チタン鉄鉱(ilmenite)、白金(platinum)鉱物
- 急冷された場合は骸晶状(skeletal)あるいは球状小滴〔集合体〕となることがある。
(2)開いた空間(open-space)での沈殿〔生成〕
- 特徴的に成長累帯組織(growth-zoning textures)〔単結晶内〕あるいは成長縞状組織(growth-banding
textures)〔単一鉱物の集合体あるいはコロフォーム状(colloform)〕を示す。
⇒閃亜鉛鉱(sphalerite)、黄鉄鉱(pyrite)
- 熱水溶液からの沈殿の場合は、櫛形構造(comb structure)および母岩に対称的な帯状配列をとることが多い。
A 二次組織(secondary
textures)
(1)置換(replacement)〔交代〕によるもの〔風化(weathering)を含む〕
- 置換の生じる過程は、(a)溶解(dissolution)とその後の再沈殿(reprecipitation)、(b)酸化(oxidation)、および(c)固相拡散(solid
state diffusion)の3つが主である。
割れ目、劈開および粒界(fractures, cleavages and grain boundaries)
- 置換を起こす物質の通路。
- 初生鉱物が残っている場合は置換の認知は容易である。しかし置換が進み、初生鉱物が島状になり、最後には二次鉱物のみとなると困難である。ただし初生鉱物が特有の自形を持っていた時は推定できる〔仮像(pseudomorph)〕。
⇒立方体の黄鉄鉱(pyrite cubes)→針鉄鉱(goethite)
⇒短冊状の磁硫鉄鉱(pyrrhotite laths)→黄鉄鉱(pyrite)、白鉄鉱(marcasite)
- 割れ目充填(fracture-infilling)によるものとの区別: 置換の場合、割れ目の両側の結晶表面の形が一致しない。
- 離溶(exsolution)組織との区別: 置換の場合、交差部で肥大する。
結晶構造(crystal structures)
- 特定の結晶学的方向に沿い置換されやすい。
⇒磁鉄鉱(magnetite)(111)面→赤鉄鉱(hematite)
化学組成(chemical composition)
- 置換関係にある鉱物は共通の元素をもつ。
⇒磁鉄鉱(magnetite、Fe3O4)→赤鉄鉱(hematite、Fe2O3)
⇒ペントランド鉱(pentlandite、(Fe,Ni)9S8)→紫ニッケル鉱(violarite、FeNi2S4)
⇒黄鉄鉱(pyrite、FeS2)→赤鉄鉱(hematite、Fe2O3)
⇒方鉛鉱(galena、PbS)→硫酸鉛鉱(anglesite、PbSO4)
⇒黄銅鉱(chalcopyrite、CuFeS2)→銅藍(covelline、CuS)
⇒斑銅鉱(bornite、Cu5FeS4)→銅藍(covelline、CuS)
⇒黄鉄鉱(pyrite、FeS2)→黄銅鉱(chalcopyrite、CuFeS2)
- 累帯構造をもつ初生鉱物が特定組成の部分から置換されると、環(礁)状構造(atoll structure)を示す場合がある。
(2)冷却(cooling)に伴うもの
再結晶(recrystallization)
離溶と分解(exsolution and decomposition)
- 高温で安定な相が低温で不安定となった時に起こる。
離溶の主な例
母相(host phase) |
離溶相(exsolved phase) |
連晶(intergrowth)の性質 |
磁硫鉄鉱(pyrrhotite) |
ペントランド鉱(pentlandite) |
lamellae or flames |
黄銅鉱(chalcopyrite) |
キューバ鉱(cubanite) |
sharply bounded laths |
黄銅鉱(chalcopyrite) |
閃亜鉛鉱(sphalerite) |
stars, crosses |
黄銅鉱(chalcopyrite) |
マッキノー鉱(mackinawite、Fe1+xS) |
lamellae, irregular wisps |
黄銅鉱(chalcopyrite) |
斑銅鉱(bornite) |
basket weave |
閃亜鉛鉱(sphalerite)* |
黄銅鉱(chalcopyrite) |
rows of blebs |
閃亜鉛鉱(sphalerite) |
磁硫鉄鉱(pyrrhotite) |
rows of blebs |
斑銅鉱(bornite) |
黄銅鉱(chalcopyrite) |
basket weave |
斑銅鉱(bornite) |
輝銅鉱(chalcocite)-方輝銅鉱(digenite) |
roughly cubic network |
閃亜鉛鉱(sphalerite) |
黄錫鉱(stannite) |
dispersed blebs |
黄錫鉱(stannite) |
黄銅鉱(chalcopyrite) |
lamellae in triangular pattern |
方鉛鉱(galena) |
マチルダ鉱(matildite、AgBiS2) |
lamellae |
自然銀(native silver) |
安銀鉱(dyscrasite、Ag3Sb) |
lamellae |
カマサイト(kamacite、(Fe,Ni)) |
タエナイト(taenite、(Ni,Fe)) |
lamellae in triangular pattern |
自然砒素またはアンチモン
(native arsenic or antimony) |
stibarsen(SbAs) |
myrmekitic |
stibarsen(SbAs) |
native arsenic or antimony |
myrmekitic |
Pb-SbおよびPb-Bi硫塩鉱物
(sulfosalts) |
Pb-SbおよびPb-Bi硫塩鉱物
(sulfosalts) |
lamellae |
磁鉄鉱(magnetite) |
チタン鉄鉱(ilmenite) |
lamellae in triangular pattern |
磁鉄鉱(magnetite) |
ウルボスピネル(ulvospinel(oの頭に¨)、Fe2TiO4) |
lamellae in triangular pattern |
チタン鉄鉱(ilmenite) |
赤鉄鉱(hematite) |
lenslike lamellae |
赤鉄鉱(hematite) |
チタン鉄鉱(ilmenite) |
lenslike lamellae |
* 普通は離溶の結果ではない。 |
- 離溶現象が結晶学的にコントロールされる場合は、母相と離溶相間には一般に結晶構造と化学結合のしかたに類似性が生じる。
⇒磁硫鉄鉱(pyrrhotite)(001),(110),(100)面→ペントランド鉱(pentlandite)(111),(110),(112)面
⇒磁鉄鉱(magnetite)(111)面→ウルボスピネル(ulvospinel(oの頭に¨))
- 離溶はソルバス(solvus、溶解度曲線)に沿い、分解は共析反応(eutectoid reaction)など〔他に共晶(eutectic)や包晶(peritectic)反応〕に伴い生じる。
転移(inversion)
- 転移により特徴的な双晶ができることがあり、また低温型に転移しても高温型の相の外形が残ることがある。
- ある高温型の相は急速に低温型に転移してしまうため、室温では存在できない。
⇒単硫鉄鉱(troilite、FeS)
⇒輝銅鉱(chalcocite)
⇒硫銀鉱(acanthite、Ag2S)
酸化離溶と還元離溶(oxidation-exsolution and reduction-exsolution)
- 酸化のため離溶が起こる場合。
⇒磁鉄鉱-ウルボスピネル固溶体(111)面→Fe2O3に富むチタン鉄鉱
- 還元のため離溶が起こる場合。
⇒Fe2O3に富むチタン鉄鉱(0001)面→Ti-磁鉄鉱
熱応力(thermal stress)
- 熱膨張係数の大きな鉱物は、冷却の過程で収縮のため歪みを受け、破断することがある。
⇒ペントランド鉱(pentlandite)
(3)変形(deformation)によるもの
- 硬度の小さい鉱物ほど変形を受けやすい。しかし再結晶化もしやすいため、変形組織は消えやすい。
双晶、キンクバンド、圧力ラメラ(twinning, kinkbanding, pressure lamellae)
- 成因の異なる3種の双晶
成長(growth) |
不規則な幅のラメラ双晶。分布は不均一で、いくつかの鉱物粒子のみに、互いに織り混ざって存在する。 |
⇒鉄満重石(wolframite) |
転移(inversion) |
基本的には紡錘形を示すが、鉱物粒子全体にわたっては互いに平行でない連晶網状組織として普通に生じる。 |
⇒硫銀鉱(acanthite) |
変形(deformation) |
一様に厚いラメラとして生じる。普通、曲げ(bending)やカタクラシス(cataclasis)や初期の再結晶化に伴う。ラメラはしばしば隣合う鉱物粒子に連続する。 |
⇒磁硫鉄鉱(pyrrhotite)、自然蒼鉛(native bismuth) |
- 変形双晶はいくつかの鉱物粒子にわたることがあるが、成長あるいは転移双晶は個々の粒子内に限られる。
- 比較的低温での変形ではキンクバンドが優勢であるが、高温ではキンクバンドと双晶の両方とも普通に見られる。
- 中位の硬さの鉱物には圧力ラメラが見られることもある。
⇒磁硫鉄鉱(pyrrhotite)、輝安鉱(stibnite)、輝蒼鉛鉱(bismuthinite)
- 非常に軟らかい鉱物では、研磨片の作製の過程で局所的に圧力による変形双晶が生じることがある。
⇒自然蒼鉛(native bismuth)、硫銀鉱(acanthite)、輝水鉛鉱(molybdenite)
線状を示す構造の湾曲あるいは分岐(curvature or offset of linear features)
- 結晶面、劈開、破断、双晶、離溶ラメラなどの線状あるいは面状を示す部分が湾曲あるいは分岐している場合は、変形を受けた証拠である。
⇒方鉛鉱(galena)劈開穴(pits)の並びの湾曲、離溶体の並びの湾曲
- 延性(ductile)の大きい軟らかい鉱物は、脆性破断(brittle fracture)を起こした硬い鉱物の粒間を埋めやすい。
⇒黄銅鉱(chalcopyrite)、方鉛鉱(galena)、磁硫鉄鉱(pyrrhotite)/黄鉄鉱(pyrite)、硫砒鉄鉱(arsenopyrite)、磁鉄鉱(magnetite)
シュリーレン(Schlieren)
- 剪断の起こった特定の帯状部分では、鉱石はその動きの方向に平行に破砕される。
角礫化、カタクラシス、要素運動(brecciation、cataclasis〔脆性破断による変形〕、Durchbewegung)
- 硬くて脆い鉱物は変形により破断あるいは角礫化を起こす。
⇒黄鉄鉱(pyrite)、クロム鉄鉱(chromite)、磁鉄鉱(magnetite)
- 硬い鉱物が軟らかい鉱物と共存する場合は、歪は軟らかい鉱物に吸収される。
- 破砕および鉱物配置の乱れが増加すると複雑なカタクラシスの段階になり、最終的には要素運動の変形を起こす。
- 断層帯や高変成作用を受けた鉱石鉱物は、破片が回転円磨され球状構造(ball structure)を示すことがある。
(4)焼鈍(annealing;焼きなまし)
- 沈殿した鉱石が徐冷されたりあるいは変成作用下でゆっくり加熱を受けて焼鈍が行われると初生の組織は変えられる。
- 焼鈍の最大の特徴は、鉱物粒子の表面積および界面張力を最小にするように再結晶作用を起こすことであり、その結果三重接点での界面角はほぼ120゜になる。
- 焼鈍の過程で、小さい粒子は大きな粒子に吸収され等粒化するが、異なる鉱物であれば小さなレンズの形で大きな粒子の粒間に沿い残る。
- 再結晶作用は粒子の周りに新しい累帯成長相を作ることもあれば、逆に初生の成長累帯組織を均質化することもある。
- 焼鈍の過程で自形の斑状変晶(porphyroblast)が成長することもある。
⇒黄鉄鉱(pyrite)、硫砒鉄鉱(arsenopyrite)、磁鉄鉱(magnetite)、赤鉄鉱(hematite)
B 特有の組織
- フランボイド(framboids): 初生の沈殿〔堆積〕組織で、球状鉱物粒子の集合体。
⇒黄鉄鉱(pyrite)、閃ウラン鉱(uraninite、UO2)
- 魚卵状組織(oolitic textures): 初生の沈殿〔堆積〕組織。
⇒鉄およびマンガンの鉱石
- マータイト(martite)〔martitization〕: 磁鉄鉱(magnetite)の(111)劈開に沿い赤鉄鉱(hematite)が置換したもの。
- 鳥の目〔眼紋〕組織(birs eye texture): 磁硫鉄鉱(pyrrhotite)が細粒の黄鉄鉱(pyrite)と白鉄鉱(marcasite)の混合物に変質して球状を呈するもの。
- フレーム(flames)〔炎〕: 離溶組織で炎の形に見えるもの。
⇒磁硫鉄鉱(pyrrhotite)→ペントランド鉱(pentlandite)
- スター(stars)〔星〕: 離溶組織で星の形に見えるもの。
⇒黄銅鉱(chalcopyrite)→閃亜鉛鉱(sphalerite)
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